安田秀樹【鉄道会社の最大課題は"脱中国"、注目されるプレステ次世代機】

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コラム

●イランへの攻撃はサプライチェーンに深刻な打撃

 今回の本題に入る前に、2月28日に開始された米国・イスラエルによるイランへの攻撃について触れておく必要があるだろう。

 米国側から詳細な軍事目的が発表されていない現状、この紛争が経済に与える影響を正確に予測することは困難だ。しかし、トランプ大統領が主張するように「4週間から5週間程度」で事態が収束しなければ、株価にはネガティブな影響が及ぶ可能性が高い。すでにベトナムでは燃料不足による混乱が報じられており、今後ペルシャ湾の通航が困難になれば、世界のサプライチェーン全体に深刻な打撃を与えることになる。

 また、欧州への物流という観点では、ロシアと中東という二つの重要地域が紛争当事国となったことで、空路・海路ともに大幅な制限が避けられない情勢だ。特にスエズ運河が利用不能となり、喜望峰経由への迂回を余儀なくされれば、欧州への輸送は2カ月程度の遅延が見込まれる。これに伴う輸送コストの上昇も不可避だ。

 こうした状況が長期化すれば、ゲーム機やスマートフォンといった主力製品の供給が滞り、年末商戦の大きな重荷となる恐れがある。アナリストとしては、今後の展開を予測することは極めて困難であり、引き続き注視が必要だ。

●万博特需がなくなったはずの鉄道各社の決算が良かったわけ

 本題に移ろう。今月も前月に続き、筆者がウォッチしている企業の決算動向を分析していく。まずは、JR各社を中心とした鉄道業界の状況について述べる。

 2026年3月期第3四半期累計(25年4-12月期)期間の業績は総じて各社とも堅調であったが、決算発表後の株価の反応は明暗が分かれた。JR東日本 <9020> は、鉄道利用の回復や不動産事業が堅調な一方、年明けから首都圏の在来線で輸送トラブルが頻発したことが嫌気された。首都圏は通勤需要が膨大なため、わずかな問題が全体に広がりやすいことが懸念されている。

 対照的にJR東海 <9022> は、2025年10月の「大阪・関西万博」閉幕に伴う輸送需要の反動減が懸念されていたが、結果として杞憂に終わった。東海道新幹線はビジネス・観光双方の移動の活発化を受け、輸送力の増強を迫られるほどの活況を呈している。これに対応するため、同社は3月14日のダイヤ改正より、特定の時間帯で「のぞみ」を毎時、現在の12本から最大13本に増発する方針だ。輸送力のさらなる強化により、強固な収益基盤を維持する姿勢を鮮明にしている。

 昨年10月にはリニア中央新幹線の工事費増加も発表されたが、リニアの運賃が当初の想定より高く設定されるとの見方が強まったため、投資家はこれをさほど危惧していないようだ。旺盛なインバウンド需要に加え、リニア完成後に「東京―大阪間の航空需要」がほぼ駆逐される可能性を考慮すれば、建設費の増加以上に収益拡大への期待が勝るのである。1964年の開業から60年超の歴史を持つ東海道新幹線だが、輸送人員は今なお伸び続けている。

 JR九州 <9142> も第3四半期累計の決算は増収増益となった。任天堂 <7974> の決算説明会でも言及があったとおり、「JR博多シティ アミュプラザ博多」内の直営店「Nintendo FUKUOKA(ニンテンドーフクオカ)」の好調が寄与している。筆者が繰り返し主張しているとおり、「IP(知的財産)と鉄道輸送」は極めて相性が良い。JR九州も地域的な枠を越えてIPを積極的に活用することで、さらなる業績拡大が可能だろう。

 近鉄グループホールディングス <9041> もJR東海と同様に反動減が懸念されていたが、第3四半期(10-12月期)も堅調であった。同社の説明によれば、伊勢神宮への参拝が正月三が日だけでなく年末にも拡大していることや、志摩スペイン村での「七次元生徒会」(周央サンゴさんなど「にじさんじ」所属のVチューバー・ユニット)のイベント効果により、伊勢志摩方面への輸送が好調を維持している。年末に参拝するという新たな習慣が定着しつつある点は興味深い。2033年には、飛鳥時代から続いている20年に一度の神事「式年遷宮」の開催が予定されており、今後も中長期的な乗客増が見込まれる。

 今後の課題はインバウンド需要の変質だ。日中関係の悪化はすでに今年の春節のインバウンド動向に影を落としており、来期は「脱中国戦略」の成否が各社の注目点となるだろう。さらに、中東情勢が悪化すると航空機料金が跳ね上がるリスクがある。そのことも留意する必要があるだろう。

●突然の値上げ報道で村田製に業績改善期待、ソニーGは決算好調

 決算とは別に、電子部品業界でも大きな動きがあった。米ブルームバーグが村田製作所 <6981> の中島規巨社長へのインタビューを行い、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の値上げについて真剣な議論を開始したと報じたのである。MLCCは過去に値上げが実施された例がほとんどない製品であり、実施されれば市場へのインパクトは絶大だろう。

 現在は第4四半期(26年1-3月期)の情勢を見極めて、実施を検討している段階とのことだが、前述したイラン戦争による物流への影響などが長期化しなければ、今後の業績における大きな好材料となるはずだ。

 ソニーグループ <6758> の26年3月期第3四半期累計決算は、営業利益が前年同期比21%増の1兆2800億円と大幅な増益となった。前年同期比での円安進行に加え、グループ会社のアニプレックスが手掛ける映画『「鬼滅の刃」 無限城編 第一章 猗窩座(あかざ)再来』の記録的な大ヒット、およびスマートフォン向けイメージセンサーなど、イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)事業の販売伸長が大きく寄与した形だ。

 一方、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)事業については「減収増益」となった。「プレイステーション(PS)5」の第3四半期(25年10-12月期)販売台数が800万台と、前年同期から大幅に減少したことが減収の主因だが、収益性の低いハードウェアの販売減を、ネットワークサービスなどの高採算事業の安定収益が補った形だ。市場の評価もおおむね「ハードの端境期において健闘した」というものである。しかし株価は任天堂と同様に、昨年末から冴えない状況が続いている。背景にはDRAM価格の高騰によるコスト圧迫や、AI(人工知能)技術の急激な進歩が影響していると考えられる。

 現在のゲーム業界におけるAI技術の活用は明暗が分かれている。成功例はエヌビディアの「DLSS(ディープ・ラーニング・スーパー・サンプリング)」に代表される超解像技術だ。これはAIの推論を用いて低解像度の映像を高品質に補完するもので、任天堂の最新機種「Switch2」が「PS5」に迫る映像表現を可能にしているのも、この技術の恩恵によるところが大きい。

 一方で、グーグル(アルファベット傘下)のワールド生成AI「Genie(ジーニー)3」のように、無からコンテンツを生成する技術は権利関係の問題から批判も多く、各メーカーも慎重な姿勢を崩していない。しかし投資家の間では、「アンソロピックの『Claude(クロード)』などに代表されるAIによってゲーム制作がコモディティ化し、既存メーカーの優位性が揺らぐ」との懸念が根強く、それがソニーグループやゲーム会社の株価を抑制する一因となっている。

●販売延期も? プレイステーション次世代機はどう展開するのか

 過去最速ペースの販売台数を記録している任天堂の「Switch2」の歴史的な成功を受け、次世代プレイステーション「PS6」への関心は一段と高まっている。そんな中、米ブルームバーグは「PS6」の発売が28年または29年に延期される可能性を報じた。やはりここでも、主な懸念材料はDRAM価格の上昇と供給量である。ソニーグループ内部では30GB(ギガバイト)程度の大容量メモリを搭載する方向で検討されているようだ。

 ゲームソフトの開発費は現在、膨張の一途を辿っており、単なるスペック向上による差別化は限界を迎えている。「PS5」は前機種「PS4」を圧倒する性能を誇っていたが、販売対象国の拡大という追い風がありながらも、現時点では「PS4」の累計販売記録を上回る勢いには至っていない。

 一方で「Switch2」は突出した性能を持たず、価格も決して安価ではないにも関わらず、過去最速の販売ペースを記録した。これは「スペック至上主義」がもはや通用しなくなったことを象徴している。現在の市場において勝敗を分けるのは、ハードの「デザイン」と「プレイスタイル」である。

 据え置きというプレイスタイルに制約され、かつ高価なメモリを大量に積む「PS6」は、ビジネス上のリスクも大きい。「Switch2」が発売から半年で1700万台以上を供給した実績を鑑みれば、DRAMの安定供給に目処が立つまで発売を遅らせるという判断は、極めて合理的だ。中途半端な初期普及台数では、プラットフォームビジネスは成立しない。その点において、私は今回の延期報道をむしろ前向きに評価している。ソニーグループがどのような戦略を打ち出し、次世代の成功を狙うのか、今後の動向を注視したい。

 各社の決算はそれほど問題がなかった印象だが、やはり中東情勢が影を落としている。日々の情勢の変化に一喜一憂することになるだろう。

 なお、原稿校正の段階でコーエーテクモホールディングス <3635> が開発に参画した「Switch2」専用ソフト「ぽこ あ ポケモン」が220万本の大ヒットとなったと発表された。来月はこのあたりの話をしたい。

【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト 

1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開。

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