トランプ大統領の政策大転換に脅える株式市場 (1) 【シルバーブラットの「S&P500」月例レポート】

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市況

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

●THE S&P 500 MARKET:2025年3月
個人的見解:米国市場は調整局面入り、海外市場の出遅れ感は解消、厄介な友人

 株式市場では引き続き不透明感が根強く、不安定な地合いに終始したものの、活発な取引が続きました。市場関係者の間では経済やインフレ、さらには企業利益に影響を及ぼす関税問題が依然として重大な懸念材料となっています。第2弾となる関税発動の詳細は4月2日と3日に発表されることになっています。

 年初来のS&P500指数 は4.59%の下落となりました(配当込みのトータルリターンはマイナス4.27%)。終値での最高値を記録した2025年2月19日からは8.66%下落しました(同マイナス8.51%)。この最後の最高値更新は営業日ベースでみると28日前のことでした(今年に入ってからの最高値更新回数は3回、2024年11月5日の米大統領選挙以降では13回)。

 3月末時点で、年初来のパフォーマンスが最低となったのは一般消費財で13.97%下落しました。関税による売り上げや利益へのマイナスの影響は避けられないと判断されたからです。情報技術は同12.79%の下落となりましたが、家計部門や企業、そして米国政府のこの分野への支出が手控えられるとの見通しが背景にありました。年初来で上昇したセクターを見ていくと、エネルギーが同9.30%と最も大きく上昇(コロナ禍にあった2020年3月23日の最安値からは295%上昇)しましたが、「どんどん掘れ」という政策が業界内であまねく歓迎されてきたわけではありません。ヘルスケアも同6.08%上昇しました。しかし、順調な上昇を見せてきたわけではなく、2023年と2024年を合わせた上昇率は僅か1.21%にとどまりました(同期間にS&P500指数は53.19%上昇)。

 マグニフィセント・セブン銘柄は全て、年初来のリターンがマイナスとなりました(平均でマイナス15.80%)。S&P500指数の年初来のトータルリターンはマイナス4.27%でしたが、マグニフィセント・セブン銘柄を除くとプラス0.50%となるはずでした。3月のリターンも全体ではマイナス5.63%でしたが、7銘柄を除くとマイナス2.59%となります。とはいえ、2022年末比でのリターンに占めるマグニフィセント・セブン銘柄の割合は54%となっています(2023年の年初から2025年3月末までのS&P500指数のリターンは51.14%ですが、マグニフィセント・セブン銘柄を除くと23.7%でした)。

 世界に目を向けると、海外市場は引き続き米国市場をアウトパフォームしています。S&Pグローバル総合指数の米国を除いた年初来リターンはプラス3.58%となりました。新興国市場がプラス0.44%、米国を除く先進国市場はプラス4.84%でした。一方で米国の年初来リターンはマイナス6.04%となり、48ヵ国中の40位となっています(2025年3月のリターンは48ヵ国中の45位)。

 2025年3月のS&P500指数は5.75%下落し(配当込みのトータルリターンはマイナス5.63%)、2022年9月の9.34%に次ぐ下落率となりました。2月は1.42%下落(同マイナス1.30%)、1月は2.70%の大幅上昇(同プラス2.78%)でした。年初来の2025年第1四半期のS&P500指数は4.59%下落(同マイナス4.27%)となりました。対して、2024年第1四半期は全面高の展開を見せて10.16%上昇、2023年第1四半期は7.03%上昇で、2022年第1四半期は4.95%の下落でした。2024年通年では23.31%上昇(配当込みのトータルリターンはプラス25.02%)、2023年は24.23%上昇(同プラス26.29%)、2022年は19.44%下落(同マイナス18.11%)しました。

 3月は11セクターのうち2セクターしか上昇しませんでした。2月は11セクターのうち6セクターが上昇、1月は10セクターが上昇しました。3月のパフォーマンスが最高となったのはエネルギーで3.75%上昇しました(年初来では9.30%上昇、2023年末比では11.83%上昇)。パフォーマンスが最低だったのは一般消費財で9.02%下落しました(同13.97%下落、同11.09%上昇)。

 3月は値下がり銘柄数が増加し、値上がり銘柄数を大きく上回りました。2月は値上がり銘柄数が248銘柄(平均上昇率は6.06%)だったのに対し、3月は154銘柄(同4.32%)となりました。3月に10%以上上昇した銘柄数は13銘柄(同12.74%)で、2月は40銘柄(同14.18%)でした。25%以上上昇した銘柄は、3月はゼロでしたが、2月は1銘柄でした。値下がり銘柄数は349銘柄(平均下落率は7.09%)で、2月は255銘柄(同7.45%)でした。3月は、85銘柄が10%以上下落しました(同14.54%)。2月は72銘柄(同15.69%)でした。25%下落した銘柄数は3月が2銘柄、2月は5銘柄でした。2024年通年では値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を大幅に上回り、値上がり銘柄数が332銘柄(平均上昇率は28.17%)、値下がり銘柄数は169銘柄(平均下落率は16.07%)でした。

 トランプ政権が「米国解放の日」と呼ぶ4月2日と翌3日は、これまでに言及されてきた関税と相互関税が発動される可能性があるため、株式市場にとって極めて重要となるでしょう。これまでのところ、市場は繰り返される関税政策の変更にそのつど反応してきましたが、同時に市場関係者はこうした変更の大半を交渉過程の一場面と捉えています。しかし、少なくとも現時点では、当日になれば関税が実際に発動され、その影響が顕在化し始めるため、一部の産業では在庫状況の確認に着手することになるでしょう。しかしながら、市場がなお考えているように今後も交渉は続けられていくとみられます。

 関税の導入直後の影響と予想される大々的なマスコミ報道によって不透明感は増幅されるでしょうが、たとえ詳細が明らかにされなくても、より具体的な関税率(と政策)が6月までに確認できることを市場は期待しています。そうなれば企業は行動計画(生産量や雇用水準、設備投資の見直しやサプライチェーンの調整)の策定に取り掛かることができます。その時まで、市場ではパズルのピースにひとつひとつ反応していくような動きが続き、現状の活発な取引と高ボラティリティにも変化はみられないでしょう。

●インデックスの動き

 ○3月に入っても大統領令や政策転換が次々と発表されました。関税(とそれに伴う経済への潜在的な影響)、インフレ、雇用、個人消費が市場にとっては重大な懸念材料となり、売りが売りを呼ぶ展開から値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を大幅に上回る中、相場は下落しました。新たな懸念材料として浮上したのは、イーロン・マスク氏が率いる政府効率化省(DOGE)による政府職員の削減計画であり、同様に米国企業の間でも(小売企業による業績の警告とともに)レイオフが増加しています。市場はこうした弱気材料に反応し(3月は5.75%下落)、年初来の騰落率はマイナスに転じ(4.59%の下落)、一時的に調整局面入りしました(3月13日の終値は5521.52で、2月19日に付けた終値での最高値6144.15から10.13%下落)。

  ⇒3月のS&P500指数は全面安の展開となり5.75%下落し(配当込みのトータルリターンはマイナス5.63%)、月の大半の期間で下落基調が続きました。2月は1.42%下落(同マイナス1.30%)、1月は全面高で2.70%上昇(同プラス2.78%)でした。

  ⇒年初来では4.59%下落(同マイナス4.27%)となりました。

  ⇒2025年3月末までの1年間では6.80%上昇(同プラス8.25%)となりました。

   →2024年通年では23.31%上昇(同プラス25.02%)、2023年は24.23%上昇(同プラス26.29%)、2022年は19.44%下落(同マイナス18.11%)でした。

  ⇒3月は値下がり銘柄が増加し、値上がり銘柄を大幅に上回りました。154銘柄が値上がりしたのに対し、349銘柄が値下がりしました(2月は248銘柄が値上がりして、255銘柄が値下がり、1月は355銘柄が値上がりして、147銘柄が値下がりしました。また、2024年通年では332銘柄が値上がりし、169銘柄が値下がりしました)。

  ⇒3月は21営業日のうち10営業日で上昇しました(2月は19営業日のうち10営業日で上昇)。また、12営業日で1%以上変動(4営業日が上昇、8営業日が下落)しました。対して、2月は1%以上変動したのは4営業日(2営業日が上昇、2営業日が下落)でした。年初来では21営業日で1%以上変動(8営業日が上昇、13営業日が下落)しました。2024年通年では50営業日で1%以上変動しました(31営業日が上昇、19営業日が下落)。

  ⇒3月は11セクターのうち、2セクターが上昇しました(2月は11セクターのうち、6セクターが上昇)。

 ○S&P500指数の時価総額は3月に2兆8890億ドル減少して47兆5540億ドルとなりました(2月は7110億ドル減少)。年初来では2兆2510億ドル減少しました。2024年通年で時価総額は9兆7660億ドル増加、2023年は7兆9060億ドル増加、2022年は8兆2240億ドル減少でした。

 ○ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は、3月に4.20%下落して(配当込みのトータルリターンはマイナス4.06%)4万1583.90ドルで月を終えました。2月は1.58%下落して(同マイナス1.39%)4万3840.91ドル、1月は4.70%上昇して(同プラス4.78%)4万4544.66ドルで月を終えました。年初来の第1四半期は1.28%下落(同マイナス0.87%)、過去1年間では5.51%上昇(同プラス7.40%)しました。2024年通年では12.88%上昇(同プラス14.99%)、2023年は13.70%上昇(同プラス16.18%)、2022年は8.78%下落(同マイナス6.86%)でした。

 ○3月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は、1.71%と2月の1.09%から上昇しました(1月は0.91%)。年初来では1.29%でした。2024年通年は0.91%、2023年は1.04%、2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした(長期平均は1.41%)。

 ○3月の出来高は、2月に前月比10%増加少した後に、同9%増加し(営業日数調整後)、前年同月比では23%増加となりました。2025年3月までの12ヵ月間では前年比5%増加しました。2024年通年では前年比2%減少しています。2023年は同1%減で、2022年は同6%増でした。

 ○3月は1%以上変動した日数は21営業日中12日(上昇が4日、下落が8日)、2%以上変動した日数は2日(上昇が1日、下落が1日)ありました。2月は1%以上変動した日数は19営業日中5日(上昇が2日、下落が3日)、2%以上変動した日はありませんでした。年初来では、1%以上変動した日数が60営業日中21日(上昇が8日、下落が13日)、2%以上変動した日数は2日(上昇が1日、下落が1日)ありました。2024年通年では、1%以上変動した日数は50日(上昇が31日、下落が19日)で、2%以上変動した日数は7日(上昇が3日、下落が4日)でした。

 3月は21営業日中19日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上となった日が7日、3%以上となった日が1日ありました。対して2月は1%以上の変動が19営業日中9日、2%以上の変動が2日ありました。年初来では1%以上の変動が37日、2%以上の変動が9日、3%以上の変動が1日でした。2024年通年では1%以上の変動が83日、2%以上の変動が11日でした。2023年は1%以上の変動が113日、2%以上の変動が13日でした。

 過去の実績を見ると、3月は61.9%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.34%、下落した月の平均下落率は3.85%、全体の平均騰落率は0.60%の下落となっています。2025年3月のS&P500指数は5.75%の下落で、COVID-19の影響を受けた2020年3月の12.51%の下落以来、3月としては最大の下落幅となりました。

 4月は63.9%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.30%、下落した月の平均下落率は3.98%、全体の平均騰落率は1.31%の上昇(これは7月の平均上昇率1.69%に次ぐ水準)となっています。

 今後の米連邦公開市場委員会FOMCのスケジュールは、2025年は5月6日-7日、6月17日-18日、7月29日-30日、9月16日-17日、10月28日-29日、12月9日-10日となっています。

※「トランプ大統領の政策大転換に脅える株式市場 (2)」へ続く

株探ニュース

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