"AIバブル論"の読み解き方と今後の投資戦略<今中能夫の米国株ハイテク・ウォーズ>

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コラム

◆AI相場再燃、株価上昇はどこまで続くのか

 ボラティリティ(株価変動率)の高い展開ながらも、足もとでダウ工業株30種平均、S&P500種指数、ナスダック総合指数、さらにフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)など、米国の主要株式指数が軒並み最高値を更新し続けている。背景には、9月以降、ひと際活発になってきたハイテク各社の巨額投資計画の発表を受けて、AI(人工知能)関連銘柄に投資マネーが再び流入していることがある。一方、それと並行してここに来て、改めて株式市場で目立ち始めたのが、AI関連企業の成長への懐疑を指摘する声、いわゆる"AIバブル論"だ。

 そもそもこうした見方は、年初の段階から市場関係者の間でちらほらと話題に上っていた。あるアメリカの大手証券会社のストラテジストは、現在の上昇相場の中核であるマグニフィセント・セブンの株価上昇率が、これまでのバブル時の中核銘柄群の上昇率に近くなっていると指摘しているが、株価はまだ上昇するとしている。これはバブルだ、あるいはバブルではないかという人たちも、その多くが株価はまだ上昇するという立場だ。

 もちろん、バブル懸念を完全に否定する声も少なくない。エヌビディアのジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)は度々、そうしたコメントを発しているし、それを信じる機関投資家、個人投資家も数多く存在する。米国株については、バブルの萌芽を感じながらも、AI相場はまだまだ続き、株価もさらに上昇する、という見方が現時点では大勢を占めていると言っていいだろう。

 だが、歴史を振り返ると分かることがある。それはこれまで、「破裂しなかったバブルはない」という事実だ。古くは1630年代のオランダのチューリップ・バブルから1980年代の平成バブル、そして1990年代後半から2000年にかけてのドットコム・バブルと、膨らんだバブルは必ず破裂する。いずれにも共通するのは、バブル相場では破裂するまでバブルに気付く者は少数派であるということだ。そして、破裂する直前まで株価は上昇し、最終局面では大相場になることもある。ちなみに、その時期がバブルだと認定されるのは大抵バブルが破裂した後なのだ。

 ドットコム・バブル時には日本でも、ヤフー(現LINEヤフー <4689> )や富士通 <6702> のPER(株価収益率)が100倍以上という異常値を付けていたが、株価急騰時にそれを指摘する声は少なかった。対して現在のAI相場では、エヌビディアのPERは来期以降の業績予想を考慮すれば40倍程度と、極端に高い水準にはなっていない。したがってバブルではない、という意見にも一理ある。だが、足もとの動きで気になるのが、エヌビディアのAI半導体を巡る各社との取引手法だ。

◆懸念すべきはバブル的なAIインフラへの投資計画

 9月以降、AIインフラに関するハイテク各社間の大型投資計画が次々に報道されている。エヌビディアがオープンAIに最大1000億円を投資するというが、当然のことながらその資金のうち、一定の割合はエヌビディア製のAI半導体の購入代金に充てられるだろう。この手法で思い浮かべざるを得ないのは、ドットコム・バブル時のシスコ・システムズの取引手法だ。

 通信インフラ市場の拡大を見越して、自社の通信機器を販売するために新興企業に多額のファイナンスを実行したが、その多くが焦げ付き、資金を回収することができずに同社はその後、長期にわたる業績低迷に苦しんだ。今回の投資計画が同様の結果を招くとは現時点で言えないが、少なくともファイナンスの手法がバブル的になってきているという危惧は感じる。

 同じくアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)は、直接投資ではないが、同社のAI半導体購入を条件に、同社の発行済み株式の約10%にあたる新株予約権をオープンAIに付与するという。エヌビディアにせよ、AMDにせよ、こうしたファイナンスが、果たしてそれに見合う収益を生むかどうかは現時点では不明だ。しかもオープンAIは未上場企業だから業績は詳しく開示されておらず、財務状況を外から検証することは難しい。

 台湾積体電路製造(TSMC)によれば、2024~29年のAI半導体市場の年平均成長率は40%台半ばだという。これは株式市場のコンセンサスとなって、AI半導体関連株の株価にも織り込まれていると思われる。もちろんエヌビディアにもこの水準の売り上げ成長が求められていると考えてよいだろう。

 ところが、足もとの各社の動きを見ていると、オープンAIはエヌビディアの資金供給を受けながらも、AMDやブロードコムからもAI半導体を購入するという。最高品質のエヌビディア製半導体だけではなく、より廉価な半導体を調達し、コストダウンも図るようになってきているのだ。そんな中でエヌビディアがこれまで同様の"一人勝ち"を続けることができるのだろうか。いずれにせよ、バブルの可能性を完全に否定できない現状では、今後のAI関連企業への投資戦略を考えるためには、各社の四半期ごとの決算を綿密に点検していくほかないだろう。

◆メモリー市況回復で躍進するマイクロンと復調の兆しが見えるインテル

 次に佳境を迎えつつある米国企業決算の中で、いくつか注目決算を振り返ってみたい。まずは半導体市場の指針ともなるTSMCの25年7-9月期決算だが、売上高、営業利益とも市場予想を大きく上回る結果となった。今回の決算ではAI半導体の構成比率を開示していないが、おそらく年初に発表した20%台の半ばよりは構成比率が高まっているだろう。

 先述したように同社では、24年から29年にかけて、AI半導体の需要が40%台半ばのペースで伸びると予測している。そんな中、現在、主力のアップルやエヌビディアに加え、ブロードコムやAMDのAI半導体もTSMCの製造ラインに入ってくる。AI半導体市場が同社の見立て通りに拡大するなら、同社の成長余地もさらに拡大していくと見ていいだろう。ただし、現在の株価水準を見ると、少し買われ過ぎてしまっているかもしれない。巨大になり過ぎたAI半導体市場の成長鈍化の可能性も考えれば、ややリスクが高まっていることも考慮すべきだろう。

 AI半導体セクターでTSMC以上に投資妙味があると感じるのが、マイクロン・テクノロジーだ。同社の25年6-8月期の売上高は前年同期比46%増、営業利益は同2.4倍となり、25年8月通期としても売上高が同49%増、営業利益は同7.5倍という好決算となった。株価もここに来て急伸しているが、同社の業績好調の背景には、国際的なDRAMメモリー価格の急上昇がある。

 なぜ、DRAM価格が上昇しているのだろうか。ここが今回の決算の注目ポイントだ。現在、DRAMは普及版のDDR4という規格が量産され、さらに性能を向上させたDDR5の量産も始まっている。これらの両規格を韓国のサムスン電子、SKハイニックス、マイクロンのメモリー大手を始めとした各社が製造しているのだが、その中に中国のメモリー最大手企業、CXMT(未上場)も含まれている。今年の5月から報じられているのは、同社が26年半ばまでにDDR4の生産を段階的に縮小、撤退し、DDR5とHBM(広帯域メモリー)に集中するというニュースだ。

 CXMTとしては、先端製品の生産に特化して、急速に拡大している中国国内のAI半導体需要に応えようとする狙いがあると思われる。だが同社がDDR4の生産から撤退すれば、世界的なDDR4の供給不足が生じる。AI半導体に必須のHBMの量産にDDR5のウェハーが大量に必要になるため、すでにメモリー大手3社はDDR4の生産を縮小しDDR5に重点を移しているからだ。これが足もとでDDR4の市況が上昇している要因だ。

 さらに来年になると最新規格のHBM4の量産が始まるという状況から、DDR5も需要が供給を上回る状態が生まれている。これらの流れを受けて7月から8月にかけてDRAM価格は2倍以上に上昇している。今後の需給関係から言っても、この状態は少なくとも26年中は続くと見ていいだろう。

 さらに半導体メーカーで注目したいのは、インテルの動きだ。ここ数年の同社はライバルのAMDにシェアを奪われ、身の丈に合わない設備投資を進めて巨額の赤字を計上するなど、やることなすことすべてがうまくいかなかった。ところが今年に入って、米政府からの89億ドル、ソフトバンクグループ <9984> からの20億ドル、エヌビディアからの50億ドルなど、大型の出資話が次々に決まった。さらにAMDやTSMCからの出資も交渉中と報じられており、少なくとも当面の経営危機は回避された。新CEOのリップブー・タン氏の見事な手腕と言っていいだろう。

 インテルは今年3月にタンCEOが就任して以来、思い切った設備投資の縮小と人員削減を行っている。古い10nm(ナノメートル)ラインへの投資を止め、7nm以降の先端ラインへの投資に集中しているのだ。それが奏功して、25年7-9月期の業績は営業黒字に転換した。このまま先端半導体の設備増強が進み、需要が伸びているサーバー向けCPU(中央演算処理装置)の新製品が売れるようになれば、来年後半にも設備投資が増加に転じるかもしれない。

 また、インテルのファウンドリー(半導体受託生産)部門が外部の大口顧客、例えばインテルが交渉していると報道されているAMDと契約をするような流れになれば、これまでTSMC頼りだった半導体生産の世界的な構図も大きく変わってくる。同社の経営再建にはもう少し時間がかかるだろうが、ここ数年のAI相場でただ1社、蚊帳の外だっただけに、中長期的な株価上昇の余地は、ライバル各社以上にあると考えていい。

◆いよいよ自立に向けて動き出した中国AI産業

 最後に今年になってこのコラムで度々取り上げている中国株についても触れておきたい。足もとで再び不透明感を増している米中関係だが、ここで注目すべきなのは、そんな中でも、中国が本気でAI産業の自立に向けた試みを始めていることだ。テンセント(香港上場)、バイドゥ(百度)、アリババ・グループといったAIデータセンター大手は現時点ではエヌビディア製チップへの依存度が高いが、深センに巨額の資金を投じて半導体製造工場を建設しているファーウェイ(華為技術:未上場)と、アリババ、バイドゥがAI半導体の自社開発を着々と進めている。

 こうした動きを受け、中国のハイテク各社の年初からの株価は米国のハイテク大手を上回るパフォーマンスを続け、特に9月に入ってから、アリババとバイドゥの株価は30%超急騰した。中国最大のファウンドリー企業、SMIC(中芯国際集成電路製造:香港上場)に至っては、6月から9月にかけて株価が倍増している。足もとで株価が調整しているのは、短期的な株価上昇の反動と、中国政府がエヌビディア製のAI半導体の購入規制に乗り出したことが大きいと思われる。

 では具体的に、これら中国のAI関連企業への投資判断をどう考えればいいのだろうか。まずテンセント、アリババ、バイドゥなどのハイテク大手各社は、米国企業と比べてPERも低く、現時点でも中長期的な投資妙味を感じる。SMICだけはPERが高く、買われ過ぎている感があるが、中国のAI産業の成長が続くと考えるならまだ上値余地はある。さらに個別銘柄だけではなく、幅広い企業を投資対象としたETF(上場投資信託)を物色対象に加えるのも一策だ。

 ETFなら、これから成長期待が持てる銘柄が組み入れられている新しいETFを選びたい。一つ選ぶとするなら、6月に東証に上場した「グローバルX チャイナテック ETF」 <380A> を挙げたい。香港市場に上場するハイテク企業の中で、売上高成長率の高い30銘柄を組み入れたETFだ。中国のハイテク株は、米国株、日本株に比べ市場参加者がまだ少ないと思われる。そのために値動きが荒いのが難点だが、中長期では大きな株価上昇が期待できよう。

 もちろん、中国株には政治リスクもあり、今後も情勢は二転三転するかもしれない。だが、あくまで分散投資の対象としてなら、これらの銘柄やETFには、米国株にはない魅力を感じる。現在の相場状況を俯瞰すると、冒頭に述べた"AIバブル"の懸念もあり、国際分散投資を進めることの重要性はますます高まっているからだ。

 ではなぜ、中国株なのか。国際分散投資といっても、日米欧のハイテク企業はすでに不可分の関係にあり、もし米国株が暴落すれば欧州株や日本株も一連托生の運命になってしまう。その点、中国のAI産業が米国依存を脱して自立することに成功すれば、バブル崩壊局面でも米国株とは違った展開になることも期待できるはずだ。


【著者】
今中能夫(いまなか・やすお)
楽天証券経済研究所チーフアナリスト 

1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998~2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。

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