【緊急特集】日経平均5万円突破、FRBへの政治介入が誘発したマネーの暴走

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 日経平均株価が5万円を突破した。8月以降の急騰劇は異次元の域にあり、暴走する投資マネーを前に畏怖(いふ)の念すら覚えるほどである。AI関連株のバブル的な上昇の反動を警戒する声も上がってはいるものの、踏み上げ的な上昇を繰り返した日本株は売り方不在の様相を呈している。オプション市場では更なるアップサイドに備えようとする姿勢も垣間見える。 

●「サナエノミクス」と米中対立の懸念後退 

 日経平均は前週末比1212円67銭高の5万512円32銭で終了した。取引時間中の高値は5万549円60銭。7月の米雇用統計を受け下押しした8月4日の安値を底に、3カ月弱で1万699円も上昇した計算になる。27日のドル円相場は1ドル=153円台前半でやや上値を重くし、債券市場で長期金利は1.665%に上昇。為替・債券と見比べると、日本株の動きの激しさが際立っている。 

 10月25~26日の米中貿易協議を経て、米国側が中国に対する100%の追加関税を取り下げる意向を示唆したことで、米株価指数先物が時間外で水準を切り上げた。この影響が週明けの東京市場において先物買いを誘発する格好となった。折しも27日はトランプ米大統領が2019年以来、およそ6年ぶりに来日をする日であり、28日には高市早苗首相との会談がセットされている。アベノミクスの継承者とみなされている高市内閣の誕生を前に、積極的な財政政策への期待が広がったことも直近の株高の原動力となった。 

 サイバーセキュリティーや量子コンピューターといった「サナエノミクス」関連株に思惑的な資金が流入することとなったが、パフォーマンス面で投資家に強い印象を与えたのはやはり、ソフトバンクグループ<9984.T>やアドバンテスト<6857.T>といった日経平均のウエートの高いAI・半導体関連株である。 

●利下げ期待がAI株ブームに拍車 

 オラクル<ORCL>が9月9日の決算発表で、受注残高の急増を明らかにし、AIデータセンター関連市場の先行きに対する強気な見方が広がると、AI関連株に対する投資家の選好姿勢が改めて強まる結果となった。だが、そこに至るまでの素地として忘れてはならないのが米連邦準備制度理事会(FRB)の「変調」である。8月1日に発表された7月の米雇用統計は労働市場の減速を示す結果となった。トランプ大統領は労働統計局長を解任。 FRBはその日に、クグラー理事の任期途中の辞任を発表している。これにトランプ大統領は「とても嬉しい」と反応。自らの意向に沿ったFRBを形づくろうと、躍起になったのか、FRB理事には大統領経済諮問委員会(CEA)のミラン委員長が送り込まれる結果となった。8月25日にはクック理事の解任をトランプ大統領が発表した。連邦最高裁は即時解任を認めないとする判断を示したものの、26年5月に到来するパウエル議長の議長としての任期の期限を前に、トランプ政権による政治介入が顕著となっている。 

 FRBの中央銀行としての独立性が危ぶまれる事態にもかかわらず、マーケットはパウエル議長の後任には、低金利志向のトランプ氏の意向に沿った人物が就任するとのシナリオを組み立てている。年内2回の利下げ観測も手伝って、米長期金利は一時4%を下回る水準まで低下した。金利低下は一般にグロース株への資金流入をもたらすものとなる。 

●実質金利マイナスの日本 

 日本国内では長期金利は緩やかに上昇しているが、名目金利とインフレ率を差し引いた実質金利はマイナスが続いている。現金の価値が目減りする世界ゆえ、リスク資産としての株に資金が流入しやすい環境が恒常的に続いている。加えて、取引所主導で企業による資本効率の改善活動が進んでいるマーケットでもある。世界の株式市場のなかで日本株が有望なアセットとして位置づけられることになること自体、何ら不思議なことではない。 

 日経平均の予想PER(株価収益率)は前週末時点で19倍弱。過去のレンジからみてかなりの高水準に位置している。米国株のPERは22倍台だ。日本企業のROE(自己資本利益率)の改善効果を加味すれば、日経平均のPERが一段と切り上がるという展望を描くことも可能である。立花証券の鎌田重俊参与は「日経平均は予想PERとして20倍、水準として6~7万円台が今後、許容される可能性がある」と話す。 

 もちろん「山高ければ谷深し」との相場格言が示すように、急騰一服後の調整リスクを無視する訳にはいかないだろう。投資家の多くが「売れない」相場となっているなかで、ショートを振るには大きな勇気がいる。しかしながら、株高を支えてきた前提が崩れる場合は、話が変わってくる。三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは「5万円は通過点となる可能性が高い」としながらも、「生成AI市場の先行きに対する懐疑的な見方や過剰投資に関する懸念を強める材料があれば、そこで天井となることが考えられる」と指摘。「高市政権が国会運営をスムーズにできるのかも注目点となる」との見方を示す。 

 米国に話を戻すと、来年の今頃は中間選挙の時期となる。トランプ大統領が世界的な株高を演出した中心人物であるならば、来年以降は「アフタートランプ」の米国に対する関心が次第に高まっていくに違いない。トランプノミクスが永続的なものとなるという保証など、どこにもないという点にも留意が必要だ。 

 27日の東京市場では日経平均の11月限コール・オプション(買う権利)で権利行使価格5万2000円が活発に取引され、オプション価格は上昇。更なる株価指数の上昇に備えようとする投資家の姿勢が浮かび上がってくる。上げ相場に追従しながらも、変調の兆候に対しいかに機敏に反応できるか、個々の投資家の腕が試されている。 

出所:MINKABU PRESS

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