ESG最前線レポート ─「どのような未来に投資をするのか」

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市況

第49回 「どのような未来に投資をするのか」

●世界の軍事費が過去最高

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が公表した2024年の世界の軍事支出調査によると、世界の軍事費は前年から9.4%増加し、過去最高の2兆7180億ドル(約391兆円)に達しました。

 その中で、日本は前年比21%増の553億ドル(約8兆3700億円)と大幅に増加しましたが、国別の軍事費ランキングは前年と同じ10位です。イスラエルは12位で日本よりも下位ですが、イスラム組織ハマスとの武力紛争により軍事費は65%増と急増しています。

 一方、ロシアは世界3位で、38%増加したとされています。ウクライナは2.9%増の8位ですが、軍事費のGDP(国内総生産)比は34%と、主要国が1~3%規模にとどまる中で突出した数値となっています(同国の軍事費は、ロシアによる軍事侵攻前の2020年と比較して、侵攻翌年の2023年には実に9.4倍に膨張しています)。長期化する戦争が軍事費を押し上げていることは明らかです。SIPRIは、この傾向が続けば、世界の軍事費は2035年に6.6兆ドルへ達する可能性があると予測しています。

●持続可能な開発に必要な資金は不足

 今年9月、国連は『The Security We Need: Rebalancing Military Spending for a Sustainable and Peaceful Future(私たちが必要とする安全保障:持続可能で平和な未来のために世界の軍事支出の再調整を)』と題する報告書を発表しました。

 同報告書は、貧困対策などの持続可能な開発に必要な資金が深刻に不足していると指摘。そのうえで、世界の軍事費のわずか4%に満たない930億ドルがあれば、2030年までに世界の飢餓を終わらせることができるとして、加盟国に対し安全保障と開発の優先順位を見直すよう呼びかけています。

 国連のアントニオ・グテレス事務総長も記者会見で「軍事支出のほんのわずかな部分を振り向けるだけで、格差を是正し、子どもたちを学校に通わせ、医療体制を強化し、最も弱い立場の人々を守ることができる」と訴えました。

●中長期的な未来を見据えた投資を行う

 いくつかの試算によれば、軍事目的に1ドル支出した場合、民間セクターに1ドルを投じた場合と比べて、温室効果ガスの排出量が2倍になると言われています。前回の本欄で、国連が2030年を目標とするSDGs(持続可能な開発目標)の進捗状況について、このままでは17のゴールが達成困難であることを紹介しましたが、軍事費の増加はSDGsの達成と逆行すると考えられます。言い換えれば、軍事費の増加と地球温暖化の進行は正の相関にある可能性があります。

 ESG投資の歴史を振り返ると、現在はアメリカでESGに対する批判的な見方が強まっていますが、1960年代にはベトナム戦争への反戦運動を背景に、軍需産業への投資をボイコットする動きがありました。しかし、近年はトランプ政権の誕生やロシアによるウクライナ侵攻などを経て、エネルギーの安定供給や安全保障の重要性が高まり、ESG投資の基準や評価軸も変化しつつあります。

 私たちはどのような未来を望み、そのためにどのような企業に資本を託すのか──。多くの企業が2030年や2050年をターゲットにESG目標を掲げていますが、投資家としてもまた、より長期的な視点から未来を見据えた投資行動が求められているのではないでしょうか。

情報提供:株式会社グッドバンカー

(2025年10月22日 記/次回は11月29日配信予定)

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