人材採用の最強ツールとして脚光、「社宅関連」が大復活トレンドへ<株探トップ特集>
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―福利厚生で重視、エンゲージメント向上にも効果で30年ぶりに増加― 今月初め、多くの大手企業では内定式が行われた。企業によって内定式の内容はさまざまだが、懇親会などで交流を図り、内定者のつなぎとめに必死だ。 労働人口が減少するなか、企業の人材確保競争は年々激しさを増しているが、優秀な人材を採用・定着させるために近年、重要視されているのが福利厚生の充実だ。特に新卒採用では、休暇制度や働き方と並んで「住宅」に関する学生の関心が高く、企業もその充実に力を入れ始めている。これに伴い社宅や社員寮を取り巻くビジネスも活発化しており、関連企業の商機も拡大中だ。 ●一時はピーク時の半分に落ち込む 社宅や社員寮に関する関心が高まっている。かつては終身雇用制度のもと、社宅や社員寮を備える企業は多かったが、バブル期を経て価値観の変化に伴う利用率の低下やコスト削減、企業資産の有効活用などの面からその数は年々減り続けていた。総務省統計局の「住宅・土地統計調査結果」によると、社宅・社員寮や官舎など会社や官公庁が給与の一部として従業員や職員に提供する住宅である「給与住宅」は、1993年に205万1000戸を数えたのをピークに減少傾向が続き、2018年には110万戸とピーク時の半数程度まで落ち込んだ。 しかし、23年の同調査では、給与住宅数は130万2000戸と前回調査に比べて18.4%増を記録。93年以降、30年ぶりの増加となった。バブル崩壊後、時代遅れの福利厚生とされていた社宅や社員寮だが、その存在が見直されている。 ●コスパ、タイパで選ばれる社宅や社員寮 この背景には、少子高齢化が進むなかの企業の人材採用の必死さがある。より優秀な人材を確保するためには、企業は福利厚生の充実を図る必要があり、社宅や社員寮は重要な差別化ツールとなっているという。 大和ハウス工業 <1925> [東証P]グループの大和ライフネクストが昨年9月に発表した25年3月に卒業、4月から新規就職する(調査当時)学生400人を対象に行った就職に関する調査によると、学生が企業選びにおいて重視していることの1位は「福利厚生が整っている」で44.3%に及んだ。また、企業の福利厚生について魅力を感じるものでは、1位が「休暇制度(病気休暇、リフレッシュ休暇、ボランティア休暇など)」で53.8%、次いで「働き方(フレックスタイム制度、テレワークなど)」が50.8%、「住宅(社宅、住宅手当など)」が37.5%と続いた。 コスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)が重視されるなか、社宅や社員寮を整備することで、企業は学生に対して家賃負担や通勤時間が大幅に軽減できることをアピールすることが可能となる。足もとの物価高にあっては、これらのメリットは一層際立つことになろう。 ●エンゲージメント向上にも貢献か 社宅や社員寮は、採用面への貢献以外でも注目されている。近年の社宅や社員寮は、従来のシンプルな集合住宅タイプから、ラウンジや食堂、トレーニングルームなどの共有スペースを充実させた施設が増えているが、こうした施設の充実は、単なる住居提供を超えた付加価値を創出し、従業員のエンゲージメントの向上にもつながるとされ、人材戦略の面から注目されている。住宅手当の支給に比べて社会保険料負担の軽減など企業側のメリットも多いことから、社宅や社員寮の復調は当面続きそうだ。 そこで今回は、社宅や社員寮の運営を行う企業のほか、賃貸物件を借り上げて従業員に提供する「借り上げ社宅(社員寮)」や社宅管理に関する企業など、社宅に関連するさまざまなビジネスを展開する企業に注目してみたい。 ●社宅ビジネスの関連銘柄 共立メンテナンス <9616> [東証P]は、売上高の約24%(25年3月期)を占める寮事業の一環として社員寮「ドーミー」を展開しており、26年3月期の期初時点で1万2154室(前期比4.8%増)を稼働させている。企業が自社で社員寮を所有することなく、必要な期間・室数を寮として利用できるサービスで、寮長・寮母夫妻が常駐し、管理栄養士監修の朝夕2食付きなどで、特に単身赴任者や新入社員の生活基盤をサポートしている。 リログループ <8876> [東証P]は、転貸方式を活用した借り上げ社宅管理事業を展開しており、子会社リロケーション・ジャパンが企業の住宅制度構築からコスト削減までの社宅・社員寮の総合コンサルティングや、戸別賃貸管理を中心とした留守宅管理サービスの提供を行うほか、リロエステートが社宅や社員寮の総合仲介を行っている。25年3月期時点で27万8701戸(前の期比7.2%増)の社宅と9951戸(同3.4%増)の留守宅を管理し、ストック基盤を順調に拡大させている。 サンネクスタグループ <8945> [東証S]は、企業から社宅管理事務代行を受託する日本社宅サービスとして1998年に創業。借り上げ社宅の事務管理代行サービス「しゃたくさん」を中心とする社宅マネジメント事業のほか、社有施設の管理運営代行なども手掛けており、社宅マネジメント事業の売上高は全体の約半分(25年6月期)を占めている。足もとで転勤者数の増加やアウトソーシング需要の高まりなどを背景に社宅マネジメント事業の受託件数は25年6月期時点で31万3126件(前の期比6.9%増)と順調に積み上がっており、それに伴いストック売り上げも増加している。 スターツコーポレーション <8850> [東証P]は、子会社スターツコーポレートサービスが社宅関連業務のアウトソーシングから、一括賃貸寮の物件探し、社宅・社有寮の有効活用から売却までをワンストップで提供している。主力の社宅代行は、代理形式と転貸形式を組み合わせた柔軟な契約プランの提供や全国に3000店舗超のネットワーク(ピタットハウスなど)を生かした物件紹介のスピード感、独自開発の社宅管理システムによるペーパーレス化などが強み。25年3月期時点で11万7025戸(前の期比9.8%増)の社宅管理代行を行っている。 レオパレス21 <8848> [東証P]は、全国に約55万戸の単身者向けアパートを展開しており、企業の社宅・社員寮としても活用。同社によると、上場企業の約73%に利用されているという。子会社レオパレス・リーシングが借り上げ社宅の物件探しから新規・更新・解約などの各種契約などを手掛けており、法人顧客向けのトップ営業により法人利用戸数を増やしている。 大東建託 <1878> [東証P]は、子会社の大東建託リーシングが社宅探しから新規・更新・退去などさまざまな契約手続き、賃料支払い、契約データの管理など社宅管理にまつわる業務を代行する社宅管理業務代行サービスを提供している。120万戸以上の管理物件を有し、全国約240店舗(直営店)と不動産会社のネットワークでスピーディーな物件紹介が可能な点が特徴で、特に自社管理物件を利用する場合、敷金ゼロ、更新事務手数料無料など独自のコストメリットを企業に提供することで、年間法人契約件数は5万件以上に上るという。 LIXIL <5938> [東証P]は、グループ唯一の不動産事業会社であるLIXILリアルティが社宅管理代行サービスを提供している。LIXILグループの社宅業務で得たノウハウを原点としているため、「企業側の立場にたった社宅代行」がコンセプトであり、業務の効率化やコストダウン、特に原状回復費用の削減などに強みを持っている。 このほか、東急不動産ホールディングス <3289> [東証P]、三井不動産 <8801> [東証P]、東京建物 <8804> [東証P]など不動産大手も社宅管理代行サービスを手掛けており注目したい。 株探ニュース