安田秀樹【世界に飛躍する日本のエンタメ産業、今後の投資のヒントは?】

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コラム

●東アジア圏のインバウンドに異変? 7月に訪日客が大幅減少

 今月は私がウォッチしている各社の動向について、筆者が感じたことを述べていきたい。26年3月期第1四半期(4-6月期)と比べて明確に変化が出たのは、インバウンドである。JNTO(日本政府観光局)の7月の統計速報を見ると、訪日外国人客数は前年同期比で香港36.9%減、韓国10.4%減、シンガポール13.6%減と大きく落ち込んでいる。これはSNSで7月に津波が来ると書かれた本が話題になったことで、来日を控える動きが相次いだことが影響したようである。

 8月の統計速報では、香港は減少率が大幅に低下し、韓国は増加に転じているので影響は一過性のものだったようだが、ホテルや観光業などの第2四半期(7-9月期)の業績には影響が出たと考えている。東アジア圏の観光客の訪問先は北海道や九州が多いため、夏場は影響が鉄道会社のホテル部門を中心に出そうだ。

 ただ、筆者は今後について悲観的には見ていない。風評が自然に収まることで行動は短期間で元に戻るだろうと考えているためだ。実際、8月は回復傾向にあるし、気象庁の予報では12月に向けて気温が低下する見込みとなっているので、今年は年末にかけて活況となりそうだ。

●阪急阪神は「星のカービィ」などIP戦略が大きな成果

 25年上期の観光産業は大阪・関西万博が牽引役だったが、下期はさまざまなイベント効果が期待できそうだ。8月下旬から、阪急阪神ホールディングス <9042> 傘下の阪急電鉄が、任天堂 <7974> の人気キャラクター、「星のカービィ」のラッピングカーを走らせている。9月10日にはコラボグッズが販売されたものの、数日で多くの店頭で売り切れてしまったようだ。任天堂のIP(知的財産)は広く浸透しているため、SNSで可視化できる以上に大人気になったと認識している。

 これ以前にJR九州 <9142> は、「スプラトゥーン」や「ピクミン」を活用したラッピングカーを走らせていた。同社に対しては、グッズ販売を含めたPRをうまく展開すれば、もっと集客できるだろうと筆者は見ていたのだが、阪急電鉄の結果から考えると推測は正しかったように見える。これを受けたJR九州の奮起に期待したい。

 また11月には近鉄グループホールディングス <9041> 傘下の志摩スペイン村で、ANYCOLOR(エニーカラー) <5032> が運営するVチューバーグループ、「にじさんじ」所属の周央サンゴさんのイベントを開催することが決まった。近鉄は以前のイベントや万博の物販でも、積極的な在庫投資で収益を上げてきた。今回もうまくエニーカラーと協業することで、さらに伊勢志摩地区の魅力を高めて欲しいものである。鉄道は長らく移動手段として安心・安全の運行が絶対的命題だったが、今後はIPを活用して「乗ることが楽しい」乗り物へと移行していくだろう。

 また、通勤でも着席サービスが充実しつつある。関東では東武鉄道 <9001> の「TJライナー」、「THライナー」やJR東日本 <9020> の「湘南」に代表される通勤特急があるが、関西でも以前からの近鉄特急に加え、京阪電鉄(京阪ホールディングス <9045> 傘下)の「プレミアムカー」(10月から一部増結予定)や阪急電鉄の「プライベース」などの座席指定車両が登場している。少子高齢化や労働環境の変化が鉄道のあり方も変えていくだろう。その時には、より多様な運賃が設定できるようになっていてもらいたいものである。

●「iPhone17」が好調、今後は薄型スマホも

 9月の大きな話題と言えば、アップルの最新スマートフォン、「iPhone 17」シリーズと「iPhone Air」であろう。「iPhone Pro」、「iPhone Pro Max」は相変わらずの人気だが、ロイターなどの報道では今回はさらに「iPhone 17」が好調のようである。

 「iPhone Air」は薄くなったことで大いに人気になるだろうと予測していたが、現状はほぼアップルの想定内の動きのようだ。前世代機の「iPhone 16」の時は、「iPhone Pro」シリーズのみが人気を集めていたことを考えると、今年のモデルは全般的に強いと考えて良さそうだ。eSIM(埋め込み型加入者識別モジュール)オンリーになったことがどう影響するかを、筆者は個人的に注目していたのだが、ユーザーにはデメリットが少ないと受け止められたようで、大きな影響はなかった印象だ。

 一方でサムスン電子の新しい折りたたみ式スマートフォンは非常に薄くなっている。筆者は薄いものほどユーザーの購買意欲を刺激するだろうとの立場なので、ここまで実用的な製品が出てきたとなると、アップルでも同様の製品が登場するのではないかという期待が高まっていると認識している。今後、実際に製品が発売されれば、市場は大いに盛り上がるだろう。

 こうなってくると関連銘柄が気になる方も多いだろう。「iPhone」限定ではないが、汎用セラミックコンデンサを手がける村田製作所 <6981> 、太陽誘電 <6976> 、電池のTDK <6762> 、CMOSセンサーのソニーグループ <6758> などが、スマートフォンの関連銘柄となってこよう。

●様々な発表が話題を呼んだ「東京ゲームショウ」

 最後に9月下旬に開催された「東京ゲームショウ2025」に関連する話題である。同月にゲーム情報番組、任天堂の「ニンテンドーダイレクト」やソニーグループの「ステートオブプレイ」が放映され、ユーザーの期待を高める形になった。

 「ニンテンドーダイレクト」では、コーエーテクモホールディングス <3635> が開発に参加したポケモン社の「ぽこ あ ポケモン」や任天堂(国内の販売はコーエーテクモ)の「ゼルダ無双 封印戦記」を中心に、「ファイヤーエムブレム」(任天堂)の新作や、「バイオハザード」(カプコン <9697> )の直近3作品の「Switch2」版発売発表などで大いに盛り上がった。

 特に最新作の「バイオハザード レクイエム」は、「プレイステーション(PS)5」版や「Xbox」版の発売が告知済みだったのだが、ダイレクトで初めて公表されたことを知ったユーザーもいたようである。それだけ日本では任天堂系のシェアが高くなっているということであろう。

 東京ゲームショウ全体では来場者は減少となったものの、ビジネスデーを中心に盛り上がった。また今回も現場に行って感じたのは、コロナ禍明け以降の東京ゲームショウはアニメ系の展示が圧倒的に増えていることである。

 「Wii U」が低迷し、「PS4」も日本では販売が伸び悩んでいた2015年頃は、フォトリアルなゲームとスマホ向けゲームばかりだったことからすると、東京ゲームショウは様変わりした印象である。ユーザーの関心は任天堂の得意とするデフォルメされたアニメ系に移っていると強く感じた。今後、この傾向はもっと強くなるだろう。

 ソニーグループも決算説明会で触れているように、傘下のクランチロールやアニプレックスの効果で、欧米でもアニメ市場が伸びているようだ。現状では圧倒的にZ世代以下の若い人たちがユーザーの中心なのだが、若い人達はいずれ社会の主流になってくる。日本の文化発信力は非常に強力で、この傾向が揺らいだ感触はない。この先にあるのはアニメ・ゲームのマス(一般)化である。実際、エンターテインメント産業は時価総額が自動車関連を上回ったと、日本経済新聞などが報道し、政府もコンテンツ産業の輸出を増やすと発表するほど、大きなマス産業になりつつある。

 この四半期に各社と議論しても、市場が拡大していることを実感するようなことが多かった。ハピネット <7552> は9月に26年3月期上半期の業績を上方修正しているが、ビデオゲームやアミューズメント事業の成長率は非常に高い。その先導役は日本である。日本で起こったことが今後、世界に波及することを考えると、将来が非常に楽しみである。

 と書き進めていた9月30日に、米国のゲーム大手、エレクトロニック・アーツがサウジアラビアのPIF(公的投資基金)を含む3社のコンソーシアムに買収されることが発表された。この見方はいろいろあるかと思うが、コンテンツ産業の将来性を高く評価しているからだと思う。コンテンツが人種や文化の垣根を越えて広がり、若い世代から中年世代まで広く"推し活"が広がることで、市場はますます巨大になるだろう。筆者は10年後に大きくなる会社をリサーチしているので、やはりこのセクターの将来は、非常に楽しみである。

●"マス化"の価値を見極めることが、今後の投資のキーワード 

 先にも述べた鉄道や東京ゲームショウにも絡むのだが、9月に発表されたエニーカラーの決算が非常に高い成長率だったことを見ると、わずか数年の間でVチューバービジネスが大きく成長したことを実感する。10年ほど前にグリーホールディングス <3632> の決算説明会で初めてVチューバーを見たときは、リップシンク(音声と唇の動きを合わせること)など問題が多い印象を持ったのだが、その後の技術改良で、若い世代の心をつかんだ感がある。ゲームの配信や志摩スペイン村のコラボという形で、Vチューバーが活躍する場面が広がっているという実感が強くある。

 今後の投資のキーワードは"マス化"という価値を認識できるかだと思う。つまり、次に流行るものの価値を、いち早く見極められるかどうかが重要なのである。


【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト 

1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。

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