防衛力強化の枢軸、成長軌道に乗る「衛星コンステレーション」関連株<株探トップ特集>

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コラム

―日本とEUが大規模衛星網の構築で協力、安全保障分野などでの利用拡大へ―

 世界の主要国が軍備拡張や国防費増を加速させており、日本も防衛力の強化が急務となっている。レーダーや各種ミサイルの性能が向上していることを考えれば、海や空から侵攻するドローンや極超音速兵器など経空脅威への対応は待ったなし。そこでカギを握るのが、複数の 人工衛星を連携させて一体的に運用する「衛星コンステレーション」だ。7月下旬に行われた日本と欧州連合(EU)との首脳会談では、共同声明に衛星コンステレーション構築で協力することが盛り込まれており、関連銘柄に注目してみたい。

●多様な分野で活用可能

 防衛省は7月28日、 宇宙領域における防衛能力強化を目的とする「宇宙領域防衛指針」と次世代情報通信技術の活用推進の方向性を示す「防衛省次世代情報通信戦略」を策定した。宇宙領域防衛指針では、侵攻してくる艦艇や上陸部隊などに対して脅威圏外から対処するスタンド・オフ防衛能力の実効性確保のために、宇宙空間から移動目標をリアルタイムに探知・追尾する能力を構築することが必要だと強調。広域かつ高精度で観測可能な従来の大型地球観測衛星に加えて、高頻度で観測可能な衛星コンステレーションを組み合わせることで、リアルタイムかつ効率的な情報収集を可能にしていくと明記した。

 防衛省次世代情報通信戦略では、防衛上必要な7つの機能・能力(スタンド・オフ防衛能力、統合防空ミサイル防衛能力、無人アセット防衛能力、領域横断作戦能力、指揮統制・情報関連機能、機動展開能力・国民保護、持続性・強靱性)を強化するため、進展する次世代情報通信技術を効果的に取り込んでいくことが重要になると指摘。膨大なデータ通信及び処理を可能にするため、新たな防衛情報通信基盤(仮称)を整備するとしている。

 衛星コンステレーションは、通信の遅延時間が短い中・低軌道を周回する非静止衛星を用いるため、世界全域を対象として緊急時・平時を問わず、陸上・海上・航空機上で、高速大容量通信など多様なサービスの提供ができ、さまざまな分野での活用が期待されている。また、安全保障上でも重要な意味を持っており、複数の衛星を活用して遠方の目標の識別や位置情報を取得できれば、脅威となる対象を迅速かつ的確に捕捉することが可能だ。衛星コンステレーションは今後の安全保障や経済社会の基盤となり得るゲームチェンジャーと位置付けられており、関連企業から目が離せない。

●構築に取り組む企業群

 QPS研究所 <5595> [東証G]は、SAR(Synthetic Aperture Radar:人工衛星や航空機などに搭載したアンテナから電波を地表に向けて照射し、地表からの反射波を捉えることで、地表の形状や性質についての画像情報を取得する手法)衛星を地球低軌道に展開する地球観測衛星コンステレーションの構築と運用を目指している。同社は2028年5月末までに24機、最終的には36機の衛星コンステレーションで平均10分毎という準リアルタイム観測データの提供サービスを目指しており、8月5日には小型SAR衛星QPS-SAR12号機「クシナダ-I」を打ち上げた。

 スカパーJSATホールディングス <9412> [東証P]は高度な宇宙用レーザー技術を活用し、小型ライダー衛星コンステレーションによる地表の面的な高度計測や、スペースデブリ(宇宙ごみ)除去の事業化に取り組んでいる。7月31日には政府機関向けのSARデータ提供に関わる業務を受注したことを明らかにしているほか、8月20日には宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙戦略基金事業「衛星量子暗号通信技術の開発・実証」に参画すると発表。この事業で同社は衛星管制システムの設計検討や打ち上げ候補機の検討などを担当する。

 アストロスケールホールディングス <186A> [東証G]は、衛星運用終了時の デブリ化防止のための除去、既存デブリの除去、衛星の寿命延長、故障機や物体の観測・点検など、多様で革新的な軌道上サービスソリューションを提供している。8月5日には、英子会社が米ゾナ・スペース・システムズに次世代ドッキングプレートを提供し、ゾナの低軌道衛星コンステレーションに搭載されると発表。堅牢な測位、航法、計時(PNT)インフラの構築と、地球の軌道の安全と持続可能性の維持という2つの重要な目標達成をサポートするという。

 Synspective <290A> [東証G]は24年に自社による量産施設を新設し、段階的にコンステレーション構築を進め、20年代後半には30機による運用を計画している。7月9日には打ち上げミッションマネジメントや衛星統合、衛星展開技術のグローバルリーダーであるドイツのエグゾローンチとマルチローンチアグリーメント(MLA)を締結したと発表。SynsのSAR衛星「StriX」シリーズ10機に関し、エグゾローンチは打ち上げミッションの管理から衛星の軌道投入までの一貫したサービスを提供する。

 アクセルスペースホールディングス <402A> [東証G]の地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」は、自社運用する衛星コンステレーションによる観測データをもとに、さまざまな産業分野におけるビジネス課題の解決と、新たな価値や市場の創造に貢献している。同社は次世代地球観測衛星「GRUS-3(グルーススリー)」7機を26年に打ち上げ、自社で運用する衛星コンステレーションを10機以上の体制に増強する計画だ。

 セーレン <3569> [東証P]は今年1月、福井テレビジョン放送(福井市)、福井大学、福井工業大学と共同開発したキューブサット「FUSION―1(フュージョンワン)」を打ち上げている。この衛星は、福井県内における衛星運用体制の構築を目指す「FUSIONプロジェクト」の一環として運用技術を習得するためのもの。今後は、将来的な衛星コンステレーションを想定した運用技術の高度化などに取り組む構えだ。

 IHI <7013> [東証P]は今年5月、フィンランドの人工衛星大手アイサイと最大24基のSAR衛星のコンステレーション構築に向けて協力していくことで合意したと発表。最終的に光学センサー、VHFデータ交換システム(自動船舶識別システムなど)、電波収集(RF)、赤外線(IR)、ハイパースペクトル(高い波長分解能)を含む複数種類の衛星を追加する構想で、陸上や海上での作戦活動に必要な目標検出及び追跡能力を提供することを目指している。

●湖北工業などにも注目

 このほかでは、超小型衛星コンステレーションの企画・設計から量産化、運用まで総合的なソリューションを提供するアークエッジ・スペース(東京都江東区)に出資している清水建設 <1803> [東証P]、ヒューリック <3003> [東証P]、スパークス・グループ <8739> [東証P]などにも注目。

 加えて、衛星間光通信による中継ネットワークの構築を目指すワープスペース(茨城県つくば市)と資本・業務提携している湖北工業 <6524> [東証S]も見逃せない。これを機に同社は放射線や激しい温度変化、熱真空などの過酷な使用条件にさらされる宇宙空間での製品開発と、関係機関における認証手続きを進め、海底ケーブル用で実績を持つ高信頼性光パッシブデバイスの衛星通信への応用展開を加速。7月31日には海底ケーブルに使われる高信頼性の光アイソレータの宇宙の利用について環境試験を実施して良好な結果を得られたと発表している。

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