ベッセント発言で急展開、金利上昇追い風の「地銀」好業績6銘柄精選 <株探トップ特集>

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コラム

―日銀の利上げ観測が台頭、SBIグループの出資再開で再編の思惑―

 日銀が「外圧」を受けている。ベッセント米財務長官が米メディアのインタビューで日銀の金融政策について、インフレ抑制で「後手に回っている」とし、「利上げを実施するだろう」と発言。これを受けて日銀の利上げ観測が強まり、長期金利に上昇圧力を掛けている。金利上昇メリットセクターの代表格は銀行となるが、地方銀行はほとんどがPBR(株価純資産倍率)で1倍を下回っている。26年3月期第1四半期(4~6月)では好決算を発表したところも相次いでおり、再評価の余地が広がっている。

●「早ければ年内に利上げ」との意見も

 総務省が発表する消費者物価指数(全国)をみると、6月は生鮮食品を除く総合が前年同月比で3.3%上昇。上昇率は5月の3.7%から低下したとはいえ、昨年12月から7カ月連続の3%台となっている。東京都区部の7月のコアCPIは同2.9%上昇と4カ月ぶりに3%を下回ったものの、インフレ目標の2%を上回った状況が続いている。社会的に関心事となったコメ価格は高騰が一服したようにみえた後、記録的な猛暑と水不足により新米の収穫量に影響が出る恐れが指摘されており、備蓄米効果が薄れるなかで足もとで再び上昇基調をみせている。

 こうしたなか、トランプ米政権は貿易対象国・地域への関税率を引き上げた。関税問題という不確実性が後退した後で、経済への実体悪がどの程度のものとなるか注視されることになるが、仮に米国経済がトランプ減税による効果で底堅く推移すれば、日銀にとっては利上げを躊躇する要因がはく落することとなる。実際に8月8日に公開された7月30~31日開催分の日銀の金融政策決定会合の「主な意見」では、金融政策に関して米国経済が想像以上に持ちこたえるようであれば、「早ければ年内にも現状の様子見モードが解除できるかもしれない」との見解が示された。

 ベッセント発言によって日銀の利上げ観測が広がる形となったが、改めて金利上昇メリットセクターの決算をみると、金利ある世界のなかで貸出残高を着実に積み増して、コア業務純益を拡大した地銀が相次いでいる。地銀の再編を巡る思惑もくすぶった状況が続いており、7月1日には千葉銀行 <8331> [東証P]が千葉興業銀行 <8337> [東証P]の完全子会社化を含め経営統合する方向で調整が進んでいると一部で報じられた。

 地銀との連携を進めてきたSBIホールディングス <8473> [東証P]を巡る動向も目を離すことができない状況となっている。傘下のSBI新生銀行が旧日本長期信用銀行時代の公的資金を完済したと7月31日に発表。SBIグループが地銀業界の再編に向けて新たな一石をいつ投じるのか注目が集まっていたなかで、8月21日の取引終了後にSBIは、子会社のSBI地銀ホールディングスを通じ、東北銀行 <8349> [東証S]の発行済み株式総数(自己株式を除く)の2.95%を上限として株式を取得する予定だと発表した。SBIによる地銀への出資は22年に実施した新潟県の大光銀行 <8537> [東証S]以来となる。

 もっとも金利の上昇(債券価格の下落)が続いた場合、「第二地銀などで円債の含み損が一段と拡大し、財務の健全性が大きく低下するところが出ることが懸念される」(中堅証券ストラテジスト)との声がある。投資対象としては、金利上昇による債券の含み損をある程度コントロールでき、かつ貸出金利を拡大させて利ザヤによる収益を着実に稼ぐことのできる第一地銀に重きを置くことが求められそうだ。営業圏の経済情勢や、他行との連携による効果を引き出しているかどうかも、物色候補を絞るうえでのポイントになっていく。以下に注目すべき地銀株を6銘柄、提示していく。

●本業堅調・利上げ局面で脚光の地銀6銘柄

 ひろぎんホールディングス <7337> [東証P]は広島銀行を傘下に持つ。26年3月期第1四半期(4~6月)の純利益は前年同期比9.7%増の116億7100万円。通期計画に対する進捗率は29%と順調だ。債券関係の評価損は時価評価対象分で702億円と3月末比で13億円増加した半面、事業性貸出残高や個人ローン残高は拡大し、貸出金利回りは全店ベースで1.20%と前年同期比0.10ポイント上昇した。預金等残高も増加し、プラス金利局面での預金獲得競争で健闘している。マツダ <7261> [東証P]の本拠である広島は自動車産業の影響を受けやすいが、営業圏内では造船関連企業や半導体向けの材料メーカーが数多く立地。呉市では防衛装備品の複合拠点の整備構想もあり、資金需要は堅調に推移すると期待される。株価は15年以来の高値圏に浮上したものの、配当利回りは4%近辺にある。

 第四北越フィナンシャルグループ <7327> [東証P]は新潟県地盤の第四銀行と北越銀行が統合して誕生した第四北越銀行を傘下に置く。25年4~6月期の純利益は前年同期比18.9%増の127億8600万円。通期計画に対する進捗率は39%に上る。債券関連では、金利スワップによるヘッジ考慮後ベースで評価損を抱えた状態ながらも、県外事業性貸出残高については大企業向けの貸出やストラクチャードファイナンスの増加で拡大させた。群馬銀行 <8334> [東証P]と基本合意した経営統合による効果も注視されている。総資産が10兆円を超える両者の一体化は、相乗効果にとどまらず、海外長期マネーの投資対象たりうる規模となることから、需給妙味が強まるとの期待が広がっているもよう。株価は青天井圏で推移し、4000円の大台乗せが目前となっている。

 いよぎんホールディングス <5830> [東証P]は愛媛県を地盤とする伊予銀行を抱える金融持ち株会社。シップファイナンスを得意とする。営業圏内にある国内造船最大手、今治造船(愛媛県今治市)は同業のジャパン マリンユナイテッド(横浜市西区)への出資比率を高め子会社化する方針で、事業拡大を図っている。いよぎんHDは8月8日に25年4~9月期の業績予想を修正し、純利益の見通しを295億円から395億円(前年同期比31.9%増)に引き上げた。相場状況を踏まえた機動的な有価証券の売買が奏功。かねてから定評のあった巧みな運用力を今回も発揮した格好だ。6月末の預金等残高と貸出金残高はともに3月末比で増加。株式を含めた有価証券の評価損益はプラス2480億円と地銀トップクラスを維持している。株価は上場来高値圏で推移している。

 山梨中央銀行 <8360> [東証P]は富士山や八ヶ岳周辺などの観光地や、半導体・FA関連の工場を抱える山梨県を地盤として、優良先が豊富な東京・多摩地域にも営業基盤を構築。25年4~6月期の純利益は前年同期比4.0%増の32億100万円と伸び率は控えめだが、進捗率は中間期計画に対し82%、通期計画に対し38%となっている。総預金残高と貸出金残高はともに3月末比で積み上げ、時価評価対象の債券での評価損は339億円と3月末比でやや改善。東京・多摩における中小企業の資金需要の捕捉と、政策保有株式の圧縮による利益押し上げ効果を想定すれば、株式市場の評価はなお上昇の余地があると言えそうだ。しずおかフィナンシャルグループ <5831> [東証P]傘下の静岡銀行と、長野県地盤の八十二銀行 <8359> [東証P]との間で締結した包括業務提携の次なる展開にも注目が集まっている。地銀を中心に投資するありあけキャピタル(東京都中央区)の保有銘柄である。

 滋賀銀行 <8366> [東証P]は政策保有株式を多く抱えることで知られる。25年4~6月期の純利益は前年同期比18.1%増の67億3900万円。通期計画に対する進捗率は34%と高水準だ。時価評価対象の有価証券では債券が631億円の評価損と3月末からわずかに改善。粗利益に対する経費の割合を指すOHRが25年3月期時点で76.48%と地銀全体の平均レベルを上回っているが、基幹系システム関連の費用を除いたベースでは60.39%とまずまずの水準といえる。ありあけキャピタルが5%超を保有。関西地銀のなかでは、池田泉州ホールディングス <8714> [東証P]に対してもありあけキャピタルは大株主に浮上しており、今後の動向が注視される。

 秋田銀行 <8343> [東証P]が地盤とする秋田県は人口減少が顕著となっている。洋上風力発電が盛んな地域とあって、関連産業の支援体制を強化するとともに、森林資源が豊富な地域ゆえ、県内で創出された森林クレジットについて、カーボンニュートラル化を目指す企業への販売を支援するなど、独自の取り組みを進めている。25年4~6月期の純利益は前年同期比41.5%増の23億8800万円。通期計画に対する進捗率は37%に上った。総預金は法人で減少しながらも個人は増加。貸出金を積み上げ、貸出金利回りは1.12%と前年同期比0.24ポイント上昇し、コア業務純益は2ケタの増加と健闘している。21年に岩手銀行 <8345> [東証P]との包括業務提携に乗り出し、連携効果を着実に引き出してきた。配当利回りは4%超と高水準だ。

株探ニュース

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