実は成長産業の「漁業・水産」関連、養殖市場の急拡大で見直し機運 <株探トップ特集>
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―資源管理の徹底で漁獲量は回復基調、スマート漁業の普及で割安評価の修正なるか― 漁業・水産業は成長産業である。ただし「日本を除く世界では」という注釈が必要だ。なぜ海外では水産業が成長しているのだろうか? 大きな要因は、 水産資源の管理と 養殖の拡大にある。特に養殖領域は技術革新の進展を背景に更なる成長が期待されており、海外での事業基盤の構築に取り組んできた日本の水産大手をはじめ、関連銘柄の評価を急拡大させるためのポテンシャルを持っている。 ●海外で顕著な養殖の生産拡大スピード 水産資源管理とは、資源量を正確に予測、持続可能な漁獲量を設定し、それに合わせた漁獲量管理を徹底することである。国際的な圧力によって資源管理が徹底されたマグロを見ると、着実に資源量は回復し、実際にマグロの漁獲枠は拡大された。欧米はもとよりアジア各国でも水産資源管理の制度が整備され、日本のように漁獲量が大きく減少している国は多くはない。しかしわが国では、魚が獲れないというニュースには事欠かない状況だ。実質的に資源管理がなされていない魚種は多く、漁業者は獲れるだけ獲るといった、文字通り「一網打尽」という行動に陥りがちである。 水産庁の「令和6年度水産白書」によると、わが国の漁業・養殖業の国内生産量は、1984年の1282万トンをピークに、2023年には383万トンと約70%の減少となった。遠洋・沖合漁業の制限、沿岸漁業の不振などが主な要因とされている。一方、世界の漁業・養殖業の23年の生産量は2億2697万トンとなり、同期間で2倍以上に拡大している。また、世界の生産量に占める養殖業の割合をみると23年は約60%と、実に養殖業が水産生産高の過半を占める状況まで急拡大した。日本は約23%となっている。 日本国内の海上で養殖を行うためには漁業権の交渉が必要となるなど、参入障壁が存在する。それゆえ新規参入企業は、主に海外での養殖事業を展開することとなる。半面、技術進歩によって、漁業権のない陸上養殖が普及段階に入りつつある。今後、わが国でも水産資源管理が有効に機能することになれば、中長期的に漁獲量が回復する可能性はあるかもしれない。逆に言うと、養殖業の拡大余地があることから、日本の漁業・水産業には大きなポテンシャルがあるということもできる。 ●水産大手は漁業から加工・養殖に事業シフト 水産大手各社は、沖合漁業から遠洋漁業へと事業展開したものの、200カイリ問題など世界各地で漁獲量制限が広まると、貿易、養殖、加工、食品などへと事業をシフトしてきた。ニッスイ <1332> [東証P]は冷凍食品などの食品事業が主力だが、今期からスタートした3カ年中期経営計画では、再び水産事業にも注力する方針だ。南米サーモン養殖を3万トンから30年に5万トンへ拡大する体制を構築。国内ではブリ、サーモン、マグロなどの養殖を拡大する計画だ。総還元性向40%以上の目標とともに、政策保有株式縮減と成長投資などの財務戦略も掲げている。 マルハニチロ <1333> [東証P]は今期からの新中期3カ年経営計画で、養殖領域において新魚種の生産やコスト競争力強化などに取り組む構え。配当性向30%以上を前提とした累進配当を目指す。極洋 <1301> [東証P]は、前期売上高の約56%を水産事業、約22%を生鮮事業が占め、食品事業を含めて水産業のピュアプレイヤーと言えるだろう。26年3月期の経常利益は6期連続で過去最高益の更新を計画する。これら水産大手各社のROE(自己資本利益率)は約9~10%と市場平均よりも高いが、PBR(株価純資産倍率)はニッスイが約1倍で、マルハニチロと極洋が1倍を下回っている。市況変動の影響が比較的マイルドな養殖その他の事業部門のウエートが高まれば、評価が引き上がる可能性もあろう。 養殖に関しては、連結業績に占めるウエートは小さいものの、総合商社大手の三菱商事 <8058> [東証P]が、南米や北欧における鮭鱒養殖で世界トップクラスの年間約20万トンという生産量を誇っている。今年7月にノルウェーの養殖会社大手の買収を発表するなど、更なる事業拡大を図っている。 ●飼料で進む技術革新 自然界において小魚を捕食している大型魚類を養殖するには大量のエサが必要になる。魚種にもよるが、総支出のうちエサなど生産資材が占める割合は60~70%を占めるとされる。魚類養殖用配合飼料の主原料である魚粉の輸入価格は、世界的な需要の増加と為替相場の円安推移によって上昇している。相対的に高価な魚由来の成分を減らし、安価な植物由来の成分を増やすなどの配合比率の調整も進められており、環境負荷の少ない成分や栄養補助成分の採用など技術開発も進んでいる。今後、養殖業が拡大するのであれば、餌飼料メーカーの業績にも大きな恩恵がもたらされるだろう。 林兼産業 <2286> [東証S]は、食肉加工とともに飼料事業で養魚用飼料を展開。自社グループ内で養殖・養鰻を手掛けるとともに研究所(アクアメディカル・ラボ)を持ち、飼育試験や疾病診断の実績をもとに、養魚用飼料の研究開発を進めている。魚病対策、低魚粉飼料など養殖業者の生産性向上につながる製品を拡充するとともに海外向け販売も拡大している。 フィード・ワン <2060> [東証P]は、水産飼料事業の前期売上高構成比は9%にとどまるが、需要拡大を見据えて新工場の建設を決定した。中部飼料 <2053> [東証P]は、水産飼料のトン数ベースでの販売数量は畜産飼料の1割強にとどまるものの、低魚粉飼料や環境配慮型飼料の拡販を進め飼料事業全体の規模拡大につなげる。 福岡単独上場で株式流動性には難があるが、ヒガシマル <2058> [福証]は、水産飼料類と養殖魚類からなる水産事業を主力としている。クルマエビ用配合固形飼料では首位を占める。ヨンキュウ <9955> [東証S]は、養殖魚用飼料の製造販売から鮮魚販売、養殖へと事業を拡大。愛媛県を中心にブリ、マグロ、ウナギなどを養殖、稚魚を育成・開発する人工孵化も手掛けている。 ●漁業資材関連も要マーク 漁業資材関連の企業も従来型漁業から養殖業へと舵を切っている。ニチモウ <8091> [東証P]は魚網から船具、水産加工機械、水産加工、養殖、魚餌料にも事業展開し、今期からスタートした新中期経営計画では、成長領域として陸上用養殖設備の内製化・拡販、養殖コンサルティングの積極拡大などが挙げられている。老舗漁網会社の日東製網 <3524> [東証S]は、環境配慮型製品の開発や漁業のスマート化、養殖事業のサポートなども手掛けている。 OUGホールディングス <8041> [東証S]は、大阪魚市場が発祥。水産物荷受から卸売、仲卸、小売、食品加工、物流、養殖にも事業展開している。主に九州の沿岸部でブリの養殖を手掛けており、ブランド魚として海外を含む市場で流通させている。 養殖事業で急成長を目論んでいる小型株としてはオカムラ食品工業 <2938> [東証S]の名が挙がる。水産加工会社として青森で創業。05年に取引先であったデンマークのサーモントラウト養殖会社を買収し、17年には地元青森でサーモン大規模養殖に進出した。30年6月期には養殖事業の売上高を180億円へ倍増させる計画。同社の特徴は、地方自治体や漁協と連携し、区画漁業権を取得している点で、北海道でも試験養殖を行っている。更に海外では、デンマーク子会社がラトビアでの養殖事業を開始する計画だ。稼働は26年の予定だが、海外調達の拡大という点でもプラス要因となろう。 陸上養殖については、海上養殖とは異なって巨額の初期投資が掛かるほか、水質・温度管理、排水管理など電気代や運営コストも必要になる。この分野では、水処理やプラント会社の多くが参入を計画している。試験・実証実験段階ではあるが、日揮ホールディングス <1963> [東証P]、カナデビア <7004> [東証P]、エア・ウォーター <4088> [東証P]を挙げておこう。独立系システム構築会社であるCAC Holdings <4725> [東証P]は、「ながさきBLUEエコノミー」という産官学共同の取り組みの一環として養殖DXとスマート養殖の新会社を立ち上げ、実証実験を開始した。 株探ニュース