逆走事故頻発で政府が対策本腰、「スマート道路」技術で注目の銘柄群 <株探トップ特集>

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コラム

―高齢化進展で社会問題化、画像認識AI活用の新たなインフラ整備に期待膨らむ―

 自動車の逆走事故が後を絶たない。高齢者に対する運転免許の自主返納に向けた啓発活動や、外国の運転免許の切り替え試験の厳格化などの対策が講じられるなか、逆走防止につながる技術を道路インフラに導入しようとする取り組みが動き出している。路車間通信といったICTを活用し、次世代の道路網を整備しようとの機運も高まっており、関連企業に新たなビジネスチャンスをもたらしている。

●繰り返される悲劇

 逆走車両による悲劇は今年に入ってから相次いでおり、国内メディアでも事故が発生するたびに大きく取り上げられるようになった。4月26日深夜には、東北自動車道の那須インターと黒磯板室インターの間で関係車両10台の逆走事故が発生。逆走車の運転手1人を含む3人が死亡した。5月18日には新名神高速道路の亀山西ジャンクション付近で、関係車両6台の逆走事故が発生。尊い命が奪われることはなかったが、逆走車両を運転したペルー国籍の男性については、危険運転致傷とともに酒気帯び運転の容疑でも送検されている。

 国土交通省などのまとめによると、2024年の逆走事案は220件で、前の年の224件とほぼ横ばいで推移した。しかしながら、事故件数は50件と前の年から11件増加している。ドライバーに占める高齢者の割合が年々上昇し、外国人ドライバーも増えつつある。重大事故につながる逆走事故の発生リスクに対し、社会課題として国を挙げた対策が急務となっている。

 テスラのロボタクシーに代表されるような自動運転車が普及すれば、ヒューマンエラーによる逆走事故の抑制につながるとの期待は高い。常時のシステム監視による完全自動運転の水準となる「レベル5」クラスの実現となると、乗り越えるべき技術課題は多く、公道での本格的な導入はまだ先の話となるものの、特定条件下で自動運転をする「レベル4」に関しては、新東名高速道路の静岡県内の区間において実証実験が行われている。道路行政を統括する国交省は今年度に入り、無人で貨物を運ぶ自動物流道路の実装に向けたコンソーシアムを立ち上げた。同コンソーシアムには物流や自動車、建設や情報通信といった幅広い業種の民間企業が参画している。

●国土強靱化と同時並行で対策進む公算

 自動運転社会の到来を見据えた道路のICT化や、安全・安心につながる技術の導入は、国土強靱化 の一環として行われる道路インフラの維持・強化と同時並行で進む公算が大きい。その流れのなかで、逆走対策につながるシステムや設備の整備が進められるとみるのが自然だろう。

 国交省は6月25日、過去に重大な事故が発生した場所や、平面交差構造を持つインターチェンジなど189ヵ所について、逆走を防止するための「重点対策箇所」に選定した。またNEXCO東日本、中日本、西日本の高速道路3社は同日、公募を実施した逆走対策技術について、19件を現場検証対象技術として選定したと発表している。25年秋より順次検証を進め、来年度末頃の実用化を目指すという。

 高速道路3社が選定した技術を提案した企業は、大手では富士通 <6702> [東証P]をはじめ、住友電気工業 <5802> [東証P]やパナソニック ホールディングス <6752> [東証P]のグループ企業、沖電気工業 <6703> [東証P]などが名を連ねている。中国の浙江大華技術の日本法人もAI画像解析を活用した逆走検知システム技術を提案し選定された。今後、重点対策が必要な場所において、企業側が提案した技術の適用が進むと期待される。もちろん、新たな商機が広がっているのはこれらの企業ばかりではない。

●道路関連資材の積水樹などをマーク

 積水樹脂 <4212> [東証P]は高速道路の騒音対策製品や標識・路面標示材、防護柵など道路関連資材を主力事業とする。逆走対策として錯視効果を応用し、正しい進行方向をドライバーに知らせる路面標示用のソリッドシートを開発。逆走防止仕様のポールコーンなどを製品群に持つ。株価は昨年4月に上場来高値をつけて以降、調整を続けたが、今年4月の安値を底に下げは一服した。PBR(株価純資産倍率)は1倍割れの水準。26年3月期は経常利益2割増と4期ぶりの増益を計画している。

 オーディオ・映像機器やカーナビを手掛けるJVCケンウッド <6632> [東証P]の26年3月期は減益予想だが、株式市場ではトランプ関税によるマイナスを強めに見込んだ保守的な計画とみる向きもあるようだ。ドライブレコーダーの画像認識AIなどを用いて逆走した状態にある際、ドライバーに注意喚起・警告をもたらす技術を、前述の逆走対策技術の公募に提案し、選定企業の1社となった。株価は年初来で30%を超す下げと出遅れ感が強い。

 車載アンテナを主力とするヨコオ <6800> [東証P]は、半導体検査用プローブカードを手掛け、半導体関連株への資金回帰の流れのなか、株価は出直り局面に入っている。自動車関連では逆走防止対策に有効と考えられている路車間の協調通信技術において強みを発揮できる企業であり、自動運転やSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)の実用化も同社に恩恵をもたらすとみられている。今期業績予想は米国の関税政策の影響など不確実性の存在を踏まえて未定。PBRは0.6倍近辺だ。

 高精度3次元地図データを手掛けるダイナミックマッププラットフォーム <336A> [東証G]も候補に加わってくる。3月27日に東証グロース市場に新規上場したニューフェースで、6月26日に三菱総合研究所 <3636> [東証P]やインターネットイニシアティブ <3774> [東証P]、ソフトバンク <9434> [東証P]などと連名で、自動運転走行に向けて携帯電話通信網を用いた車両とネットワーク間の通信方式「V2N通信」の評価・実証実験を推進すると発表した。筆頭株主のINCJ(旧産業革新機構)や海外交通・都市開発事業支援機構、三菱HCキャピタル <8593> [東証P]、三井物産 <8031> [東証P]などのロックアップ期間は6月24日をもって終了。三菱電機 <6503> [東証P]やゼンリン <9474> [東証P]、アイサンテクノロジー <4667> [東証S]、完成車メーカー各社のロックアップ期間は9月22日まで続く。需給懸念もあって公開価格1200円を下回っているが、「国策銘柄」の色合いは濃く、下押し局面では買い向かいたい。

●日精機は首都高向け提案が採択

 日本精機 <7287> [東証S]は車両用計器類とともに、フロントガラスに速度やナビゲーション情報などを表示する「ヘッドアップディスプレイ」を展開。新規の商材として開発を進める交通・社会インフラ向けLEDプロジェクターは、路面に「逆走止まれ」などの文字を視認性の高い状態で投影できるものであり、交通事故の削減に向けた技術・アイデアを募集する「首都高 オープンイノベーションチャレンジ2024」に、このプロジェクターに関する提案が採択された。配当利回りは5.6%台と高水準だ。

 日清紡ホールディングス <3105> [東証P]傘下の国際電気(旧日立国際電気)は、AIによる画像解析を通じて逆走車両を検知する技術を提案し、前述の現場検証技術として選定された。同じく傘下の日本無線によるスマートフォンアプリへの注意喚起・警告技術も選定されている。古くから日本の防衛力を担ってきた日本無線を巡っては、構造改革の一環として早期退職優遇制度の実施に踏み切った。車載通信関連での総合力を発揮し、次世代道路インフラの需要捕捉を期待したい。PBRは0.5倍台だ。

 アンリツ <6754> [東証P]やキヤノンマーケティングジャパン <8060> [東証P]、丸紅 <8002> [東証P]傘下の丸紅ネットワークソリューションズも、高速道路3社による逆走防止対策技術の公募に選定された企業となっている。このほか、大成建設 <1801> [東証P]はグループ会社の大成ロテックが逆走した車両に振動と音でドライバーに警告する「ウェッジハンプ」をNEXCO東日本東北支社と共同で開発した実績を持つ。

 道路インフラの表示システムにおいては名古屋電機工業 <6797> [東証S]が有力プレーヤーで、6月23日に同社とサン電子 <6736> [東証S]はスマート交通情報システムに関する共同検討を始めると発表。株式の流動性は乏しいが、アトミクス <4625> [東証S]が手掛ける道路用塗料はインターチェンジの平面Y型交差点において、走行レーンを色分けしてドライバーに正しい進行方向を示すといった目的で活用が見込まれる。セフテック <7464> [東証S]は、センサーで逆走車両を検知しLEDサインライトで警告するシステムを手掛けている。

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