決算目前、「一生一緒にエヌビディア」は今後も通用するのか?<今中能夫の米国株ハイテク・ウォーズ>
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◆GAFAM決算で見えてきたもの 相変わらずトランプ政権の動きに左右される相場が続いているが、今回はまず、おおむね通過した米国ハイテク企業決算について触れていきたい。マイクロソフトの2025年6月期第3四半期決算は、売上高、営業利益とも市場予想を上回った。中でもクラウド・サービスの「Azure(アジュール)」が好調で、33%の増収となった。これはアルファベット の「グーグル・クラウド」の28%、アマゾン・ドット・コム の「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」の17%と比較しても高い成長率だ。 この決算を受け、同社の株価は上昇したが、果たしてそれほど眼を見張るものなのかというと、正直、疑問符を付けざるを得ない。同社は米オープンAIの生成AI(人工知能)「チャットGPT」を組み込んだ「Copilot(コパイロット)」をサービスの柱と位置付けている。「Copilot」を含むマイクロソフト製品の法人向け、個人向け事業はともに前年比で増収、増益が続いているが、増収率、増益率は傾向的に低下している。実は「アジュール」が含まれるインテリジェント・クラウド部門の増収率は21%だった。アジュール以外のクラウド・サービスの伸びが鈍化しているのだろう。アジュールの33%増がなければ、同社の業績はもっと鈍化していたと思われる。先日、同社は管理職を中心に約6000人の人員削減を発表したのだが、生成AIが社内のリストラ、つまり合理化の効果だけにとどまっているのだとしたら、少々寂しい結果ではないか。今後の成長余地が小さくなってきたのかもしれない。 一方、GAFAM の中で唯一、AI効果が事業に如実に表れているのがメタ・プラットフォームズだ。増収増益率は他社同様に低下傾向だが、25年12月期第1四半期決算でのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)の発言は昨年までのような生成AI一辺倒ではなく、半分程度が同社のSNS向けに提供されている広告AIへの言及だった。同社の広告AIは現時点で、世界最高水準と言ってもいい。SNS会員の行動からその人たちの嗜好を読み取り、購買意欲を掻き立てる広告を配信する「ターゲティング広告」を一層精密にするAIだ。ただし、あまりに精巧にできているので、EU(欧州連合)では法律に抵触するためこのAIは使えない。皮肉な話だが、このためメタの欧州での増収率は低下している。 アルファベットはクラウド部門が伸びているが、検索広告や「YouTube」広告の伸びが鈍い。このままのペースで行けば、25年12月期は20%前後の増益率を維持することができるだろうが、前期の30%超の増益率と比較すれば減速感は否めない。アマゾンは広告サービスが順調だが、EC(電子商取引)部門がトランプ関税の影響を免れないことに加えて、稼ぎ頭のAWSの成長が鈍化している。同社によるとAI半導体の供給不足が原因だというが、これはAWSの成長がAI用GPU(画像処理半導体)のレンタル・サービスに依存しているという現状を示したものだろう。残るアップル は、トランプ関税の影響をもろに受けるビジネスモデルで、政権の動き次第だから何も特筆すべきことはない。 ◆中東需要を開拓したエヌビディア決算の着眼点 こうしてGAFAM各社の決算を見ていくと、総じて言えるのは、ここ数年と比較すると確実に増収増益率が落ちてきているということだ。もちろん、各社ともそれなりの成長は続けていくだろうが、昨年までのような相場をリードする爆発力は失われている。では、26年1月期第1四半期決算の発表を5月28日(日本時間29日早朝)に控えるエヌビディア についてはどのように見ていけばいいのだろうか。 先日、ジェンスン・フアンCEOがトランプ大統領に同行して中東諸国を訪問した。同大統領はバイデン政権時代から続いた中東諸国などへのAI半導体の輸出規制の撤回を表明し、併せて中東諸国が建設するデータセンター向けにエヌビディアが大量の最先端AI半導体を供給することも発表された。果たしてこれが一体、どのような結果を生むのだろうか。 足もとの同社の株価上昇は、中東諸国向けの売上高が、従来予想されていた同社の業績にさらに上乗せされるのではないかという見方からきている。確かにトランプ大統領直々に外交交渉をしているのだから、数年で巨大なデータセンターが中東で稼働することになるだろう。そして、データセンター不足に陥っている米国内のハイテク各社がこれらを利用することになると思われる。 中東にエヌビディア製AI半導体が本格的に供給されるのは2026年からとなりそうだが、問題はそれ以降のデータセンター需要がどの程度増えるのか、まだ十分に分かっていないということだ。人間並みの知能を持つ汎用人工知能(AGI)、完全自動運転、自律歩行型ロボットなど、巨額の開発資金が必要で、大量の高性能GPUを消費するプロジェクトは多い。問題は、その資金が出てくるのかどうか、果たして巨額の資金を投じて開発したAIに開発資金の大きさを反映した価格での需要はあるのかということだ。 もちろん、今後の進展を見ないと正確な判断はできない。中東で大型商談がまとまったことも事実であり、AIの開発が相変わらず大きなスケールで進行していることは確かだろう。ただし、いまのAIムーブメントは、話が大きくなり過ぎている傾向もあるのではないか。今回の中東の件も然り、平気で1000億ドル単位の数字が躍っている。もし、これらがうまくいけば、社会的にも大きなイノベーションを生み出すことにつながるし、エヌビディアの業績も改めて拡大し、株価も再び上昇基調に転じることになろう。だが、こうした大きすぎる話はうまくいけば良いが、失敗すると大きなリスクを背負うこともある。ともあれ、現時点では様々な見方ができるが、来週のエヌビディアの決算発表を虚心坦懐に待ちたい。 ●トランプ関税が中国の底力発揮を促す結果に AI半導体の輸出規制撤回については、背景には中国がAI開発競争で優位になってしまうのではないかというトランプ政権側の危機感がある。「DeepSeek(ディープシーク)」登場以降、中国では次々に生成AIモデルが発表されている。筆者がいま抱いている問題意識は、エヌビディア製の高性能AI半導体が十分入手できず、AIインフラがアメリカに比べ貧弱で、しかも人口14億人超を有し、生成AIユーザーがアメリカ(人口3.3億人)に比べてはるかに多い中国で、「ディープシーク」やその他の生成AIは、なぜ開発できて実際に動いているのか、ということだ。 要するに、性能の低いAI半導体でも十分に生成AIの能力を発揮できる、効率的な開発(学習)、運用(推論)を行っているということだろう。アメリカの大手生成AI開発会社に比べ中国のAI開発企業の開発コスト、推論コストは半分以下と思われる。総合的に見ると、AIの開発力はすでに中国がアメリカを追い抜いているのではないか。 なぜ、中国の技術力がここまで向上したのか。その要因は第一次トランプ政権の時代に始まった中国へのハイテク規制にある。逆説的かもしれないが、技術開発とは、往々にして制約があればあるほど進んでいくという側面がある。制約があるからこそ、より効率的な技術開発を進めなければならないという技術者の意識が働く。しかもゼロから生み出すより先行技術をキャッチアップできる後発のほうが楽に開発を進めることができる。これは歴史が証明している真理なのだ。 さらに「ディープシーク」が「チャットGPT」などアメリカの主要なAIモデルと異なる点は、オープンソースであるという点だ。「ディープシーク」をどのように開発したのかという論文も公開されている。このため、コミュニティが形成されて世界中で開発者が技術を教え合って、技術革新が急速に進んでいると思われる。もちろん、そのコミュニティがすでにアメリカのスタートアップ企業にも広がりつつあるという。このまま規制をかけていたら、中国発のAI技術が世界のスタンダードになってしまいかねない、ということにトランプ政権がいまになって気づいたのだ。 ●汎用人工知能と特化型AI、多極化する開発競争の行方 ここで改めて今後のAI開発の流れについて俯瞰してみたい。昨年12月にオープンAIは「Sora(ソラ)」という動画生成AIを発表して話題を呼んだ。だが今年に入ってからむしろ、「Pika(ピカ)」という動画生成AIが動画クリエーターたちの注目を集めている。「Sora」以上の高いクオリティの動画生成能力を持つと言われるこの生成AIは、中国系アメリカ人が23年4月に設立したAIスタートアップ企業、ピカ・ラボが開発した。驚くのは同社が会社設立から調達した資金がわずか1億3500万ドルだったことだ。生成AIへの投資が最も盛んだった2023年のAIスタートアップへの投資は、数十億ドル規模が当たり前だったが、それより一ケタ低い資金で、こうした専門性の高い生成AIを開発したわけだ。これは刮目すべきことではないだろうか。 ほかに専門性の高いAIの成功例は、メタの手がけるSNS向けの広告AIや、先日、NATO(北大西洋条約機構)との大型契約を発表したパランティア・テクノロジーズ が手がける軍事用AIなどが挙げられる。メタのようにAIに対して多額の投資をいまも行っている企業もあるが、パランティアのように巨額資金を投じなくとも優秀な軍事用AIを開発している企業もある。 また、メタやパランティアの決算電話会議を聞くとこれまでに比べ「LLM(大規模言語モデル)」という言葉を聞かなくなったように思える。メタのAIに関するコメントは自社開発の広告AIの比重が高まり、パランティアも多少LLMについてコメントがあったが、主に自社開発のAIを使った戦闘用意思決定システムがいかに素晴らしいかという話が中心だった。要するに、LLMをベースにした生成AIはあくまでもAIの一部だということだろう。 メタやパランティアのような業種別や業務別に特化したAIはすでに需要がある。生成AIの本来の用途である文書生成だけではなく、ここから派生したプログラミングコード生成、画像生成、動画生成などの需要だ。例えば多くのプログラミングの現場で生成AIが使われている。画像生成、動画生成も同様で、そもそも仕事で使うツールとして真っ先に「チャットGPT」に飛びついたのは広告クリエーター達である。 これから導入が進むと思われる「AIエージェント」は企業の個別業務の完全自動化システムなので人手不足に悩む企業の需要は多いと思われる。ただし、これらのAIを個別に企業が導入して動かす場合は、インフラコストや電力消費量は少ないほうがいい。またこれらの個別用途に使うAIは参入企業も多く、動画生成AIに見られるように大手が優位とは限らない。GPUの効率的使用を後回しにした高性能一辺倒の生成AIだけでなく、今後はより一層、低コストで効率的な生成AIが求められることになるのではないか。 一方、これまでの生成AIの主流だった企業はどこに向かうのだろうか。例えば、オープンAIがこれまで調達した資金は数百億ドル規模に上り、今後もそれ以上の資金調達需要があると伝えられている。その資金需要に応えるのは、エヌビディア、大手クラウド・サービス会社、大手投資ファンドなどだ。うがった見方かもしれないが、エヌビディアや大手クラウド・サービス会社からすれば、AI開発の効率化が進み、高性能、高単価のAI半導体が売れなくなったり、貸せなくなったら困るからだろう。 結局、行きつくころは、中東案件のような、数百億ドル、数千億ドル規模の大規模プロジェクトを進め、AGIの実現を目指す道しかない。だがAGIが具体的にどのような姿となって現れるかはまだ見えていない。場合によっては、開発の効率化を進める中国がこの分野でも逆転するかもしれない。AIの国際競争がどうなるのか、投資する側は注視する必要があろう。 いずれにせよ、AI開発競争は、莫大な投資をしてAGIを目指す方向と、効率的な特化型AIを企業に導入していく方向の間で多極化していく。ただし、この1年のパフォーマンスを比較すれば、エヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ 、ブロードコム などのAI半導体セクターにGAFAM5社を加えた大型投資企業と、特化型AIのパランティアや、生成AIを事業に取り入れて成果を挙げているスポティファイ・テクノロジー 、ネットフリックス 、生成AIとはいま一つ縁がなさそうだが実際にはゲーム、音楽、映画の各所でAIが使われ始めているソニーグループ<6758> などを比較すれば、後者の方が断然、良いパフォーマンスを出している。要するに、これまでのような"生成AIど真ん中"ではなくとも、パフォーマンスの良い銘柄はあるのだ。 この結果は株式需給の関係も影響している。前者が昨年までに高値で購入した投資家が多いのに比べ、後者は注目が薄かった分、高値で購入した投資家が少ない。つまり上値にしこりがないために、株価の上昇余地も大きいのだ。昨年の相場では「一生一緒にエヌビディア」などという標語が持てはやされたことがあった。アメリカ人の多くの投資家たちはいまでもそう信じているかもしれないが、長年、成長株専門のアナリストとして活動してきた立場としては、もはやそうした楽観的なシナリオを描くことはできない。 ◆自由を失いつつあるアメリカでどう投資をしていくべきか? 最後に「ディープシーク」やトランプ関税によってその底力が改めて再認識されつつある中国企業への投資についても簡単に触れてみたい。中国への輸出規制は、トランプ政権次第なのだが、少なくとも規制の有無にかかわらず、中国のAI開発は今後も急速に進んでいくことは間違いない。したがって新たな投資対象として、中国企業を検討してもいいのだが、問題なのは、成長企業の情報を得る手段が少ないことだ。 そこでお勧めしたいのは、中国のAI関連の主要企業をポートフォリオに組み込んだETF(上場投資信託)だ。「グローバルX ハンセン・テック ETF」や「グローバル・X・チャイナ・クラウドコンピューティングETF」といったインデックスETFなら、百度(バイドゥ) 、阿里巴巴集団(アリババ・グループ) 、テンセント、中芯国際集成電路製造(SMIC)といった中国の代表的なハイテク企業が必ずポートフォリオに組み込まれているし、中国のAI関連の成長企業にも投資をすることができるだろう。 中国のAI需要拡大を念頭に置くなら、今期予想PER(株価収益率)が20倍を切るという割安水準にある東京エレクトロン <8035> にも投資妙味がありそうだ。26年3月期のガイダンス(業績予想)では、対中輸出規制の影響もあって、中国への輸出は減少するとしているが、いまの中国の勢いを考えれば、これは控えめな見方なのではないだろうか。最先端製品は輸出できなくても、それ以外の製品の需要が増加する可能性が高いからだ。 いずれにせよ、トランプ政権になってアメリカは大きく変わりつつある。トランプ関税は「アメリカを偉大にする」どころか、国民を苦しめる結果になることが明らかになってきた。何と言っても、人の移動の自由を制限しようしているところが愚の骨頂だ。不法移民だけならまだしも、合法移民や留学生まで制限しようとさえしている。アメリカの経済成長は、世界最高の頭脳がGAFAMなどのハイテク大手企業に集まったからこそもたらされたものだ。その流れを遮断してしまったら、アメリカがこれまで同様の成長を続けていくことができないことは自明の理のはずなのだ。 2000年代以降続いた米国株の上昇サイクルが終わったのかどうかはまだ分からない。だが、トランプ的な価値観が支配するアメリカを見ると、少なくとも、ひたすら主力銘柄を保有していればいい、という時代ではなくなったのではないかと感じる。昔の日本の証券業界では、「株は売らなければ儲からない」と言われた。株は買い場を探すことも重要だが、同時に売り場を探すことも大切という意味であり、投資におけるマネタイズ(現金化)の重要性を指摘したものでもある。10年、20年の長期投資を否定するつもりはないが、今後は「安いところで買って、ある程度上がったら売る」という投資も考えてみてもいいのではないか。米国株もひょっとしたら、そうした相場に突入したのかもしれない。 【著者】 今中能夫(いまなか・やすお) 楽天証券経済研究所チーフアナリスト 1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998-2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。 株探ニュース