アマゾンCEO発言で「霧晴れる」、AIサマートルネード相場始動!<村松一之・米国株投資の羅針盤>

投稿:

コラム

◆7月の調整は複合的な要因が重なった一過性のもの

 7月の米国株式市場では、AI(人工知能)・半導体株を中心に大幅な調整が起きた。韓国株式市場における個人投資家主導による過熱相場の逆回転に加え、中国のAI新興、月之暗面(ムーンショットAI)による低価格・高性能モデル「Kimi K3」の発表、同じく中国・CXMT親会社の上場に伴うメモリー価格のコモディティ化懸念、中国政府系企業によるDUV(深紫外線)露光装置の開発などがその大きな要因となった。さらに中東情勢悪化による原油高、米長期金利上昇など、複数の不安材料も重なった。

 もっとも、これらの要因によるAI・半導体相場の調整(下落)は、すでに終わったと見ている。まず中国勢は中長期的には脅威となるが、半導体市場は家電のように短期間で全面的にコモディティ化する産業ではない。旧世代DRAMや成熟プロセスでは価格競争が激しくなっても、HBM(広帯域メモリー)、先端ロジック、先端パッケージ、次世代GPU(画像処理半導体)、AI向けASIC(カスタム半導体)では、微細化、歩留まり、熱処理、顧客認証など長年かけて確立された製造ノウハウが競争力を左右する。

 中国製DUVも重要な前進だが、現在の最先端半導体製造で使用されるEUV(極端紫外線)とは波長、工程数、コスト、歩留まりに大きな差がある。DUVでも多重露光によって微細化は可能だが、工程が複雑になり、最先端半導体を経済合理性のある歩留まりで量産するハードルは高い。中国勢が脅威になるのは、まだ先の話であろう。

 「Kimi K3」のような高効率モデルの登場も、GPU需要の減少を直接意味しない。推論単価が下がれば、利用企業、ユーザー、AIエージェント、処理データ量が増える。モデル価格の低下はAI利用の裾野を広げ、総計算需要をむしろ押し上げる可能性がある。7月の急落は、ファンダメンタルズの崩壊というより、過熱したポジションに金利高、原油高、中国リスクという外的要因が重なったことによる一過性の調整と見るべきである。

◆投資額増加、キャッシュフロー悪化でもアマゾンが評価された理由

 現在、米主要企業の2026年第2四半期(4-6月期)決算がピークを迎えているが、足もとで最も大きく変化したのは、ハイパースケーラーの巨額設備投資に対する市場の評価である。これまで投資家は、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、アルファベット、メタ・プラットフォームズなどのAIデータセンター投資について、支出が先行しすぎている、減価償却費が利益を圧迫する、あまりに巨額であり、投資回収に失敗するのではないかと警戒してきた。

 この不安を大きく後退させたのが、7月30日(現地時間)、26年第2四半期決算発表後に行われたアマゾンのアンディー・ジャシーCEO(最高経営責任者)による説明である。そこで重要だったのは、AIインフラ投資を一つの巨大な支出として語るのではなく、「データセンター」と「サーバー・ネットワーク機器」という性質の異なる二つの投資対象に区別し、それぞれの支出時期、耐用期間、資本回収の時間軸を明確にしたことである。

 データセンターについては、稼働開始のおよそ2年前から、土地、電力、建物などへの支出が始まる。この建設期間中は多額の現金が流出する一方、まだ顧客に計算能力を提供できないため、売上高や利益は発生しない。現在のフリーキャッシュフロー(FCF)悪化には、この支出と収益の時間差が表れている。

 しかし、データセンターが完成してサーバーを設置すれば、比較的速やかに顧客利用が始まり、売上高と利益を生み出す。さらに、データセンターの建物や電力インフラは30年以上利用でき、その中で5~6年程度のサイクルでサーバーを更新しながら、複数世代にわたって収益を生み続けられる。

 一方、サーバーやネットワーク機器は、建物ほど早い段階から購入する必要はない。稼働開始に近い時点で、実際の顧客需要や契約状況を確認しながら導入できる。このため、需要が想定を下回れば購入量を調整でき、データセンター全体が過剰設備になるリスクを一定程度抑えられる。

 つまり、アマゾンのAI投資は、巨額の資金を一度に固定する構造ではない。約2年前から必要となる長寿命のデータセンター投資と、需要を確認しながら投入できる比較的短い回収期間のサーバー投資を組み合わせている。ジャシーCEOは、この二つを区別することで、現在のキャッシュ流出と将来の収益回収がどのようにつながるのかを市場に示したのである。

◆世界最大のクラウド事業・AWS育ての親だからこその説得力


 アマゾンは26年の設備投資計画を従来の約2000億ドルから約2200億ドル(前期比7割増)へ引き上げた。過去12カ月のFCFは、前四半期決算時点の12億ドルの黒字から76億ドルの赤字へ悪化し、前年同期の182億ドルの黒字と比べても大幅に減少した。通常であれば、設備投資計画の上方修正とFCFの赤字転落は株価の悪材料となる。それにもかかわらず、決算発表後の同社株は大きく上昇し、時価総額が初めて3兆ドルを超えた。市場が評価したのは、目先のキャッシュ流出ではなく、その先にある投資回収の確度である。

 ジャシーCEOは、設備投資を増やしてもなお26年の需要を十分に満たせず、27年も供給制約が続く可能性があり、28年分についてもすでに強い需要が見えていると説明した。つまり同社はデータセンターを完成させてから顧客を探すわけではない。すでに見えている需要を満たすために、約2年前から設備を建設しているのである。

 さらに、今回のAI投資は、初期のAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)投資より収益化が速い点も重要である。AWSは今でこそ、世界最大のクラウド・サービスとして、アマゾンをビッグテックの一角に躍進させた同社の主軸事業と認識されているが、AWS立ち上げ期には、企業がクラウドの価値を理解し、オンプレミス(自社運用)からAWSに移行するまで長い時間を要した。その点、現在のAIは需要がすでに顕在化しており、新しい処理能力が稼働すると比較的早く顧客利用が始まる。

 アマゾンには、AWSへの巨額先行投資を世界最大級の収益事業へ育てた実績がある。まさに、それを実現したのが、現在のCEOであるジャシー氏である。今回は、その成功モデルを、より大きな需要と短い収益化期間で再現できる可能性がある。投資家はFCFの赤字を「損失」ではなく、27年から28年の売上高に先行する「時間差」として理解したのである。

◆AI時代は企業の「説明責任」が市場の評価を決める

 今回の決算が示したのは、AI時代には売上高、EPS(1株当たり純利益)、ガイダンスだけでは投資家への説明として不十分だということである。巨額のAI設備投資を行う企業には、投資の時間軸、需要の可視性、契約期間、設備の耐用年数、損益分岐点、FCFへの影響を具体的に説明する責任があるということだ。

 同じ設備投資額でも、それをマーケットが「成長投資」と見るか「過剰投資」と見るかは、経営者の説明によって大きく変わる。アマゾン株の急騰は、ジャシーCEOが投資の構造と回収経路を分解し、市場を納得させた結果である。これは今後、すべてのハイパースケーラーに求められる基準となる。AI投資の規模だけでなく、いつ、どのように、どの程度の利益とキャッシュフローへ転換されるのかを説明できる企業ほど、高い評価を得る。

 ジャシー氏の的確な説明によって、市場はAI投資の構造をようやく理解し、これまでの過剰投資懸念の「霧が晴れてきた」かのように見える。他社からはそうした説得力のある説明がなかったが、足もとでは結果としてジャシー氏の説明効果により、他のハイパースケーラーの株価も上昇するという副産物も生んでいる。今後は他社もジャシー氏同様、市場が求める論理的な説明を行おうとするだろう。AI時代の決算では、企業のAI投資の説明力そのものが新たなバリュエーション要因になるのだ。

◆好循環が始まるAI関連、王者・エヌビディアにも再評価が

 一方、パランティア・テクノロジーズやサービスナウの26年第2四半期決算では、AIを活用するソフトウエア企業も大きく成長できることが確認された。AIは既存SaaSのビジネスモデルを単純に破壊するだけのものではない。企業データ、業務フロー、認証、意思決定にAIを組み込める企業は、契約単価と利用範囲を拡大できる。AI半導体とソフトウエアはゼロサムではない。今回の決算シーズンを境に、これまで見られた「ソフトウエア株が買われると半導体株が売られる」という逆相関は弱まりつつある。ハイパースケーラー、AIソフトウエア、半導体・製造装置、データセンター関連は、競合関係ではなく補完関係にあることが再認識され始めたのだ。

 ハイパースケーラーがデータセンターを建設しクラウド事業を強化する。そのために半導体企業がGPU、HBM、ネットワーク部品を供給、製造装置企業がそれら部品の増産を支える。こうして高まったAIの供給力をもとに、パランティアやサービスナウといったソフトウエア企業がAIを活用し、収益へ変える。さらにAIの利用拡大が、再びクラウドと半導体の需要を押し上げる。8月相場は、こうした「ウィン・ウィン」のセクターローテーションが、相場の牽引役になりそうだ。ハイパースケーラー、AIソフトウエア、半導体・製造装置、データセンター関連が、竜巻のように回転しながら市場全体を上へ巻き上げる。「AIサマーラリー」ならぬ「AIサマートルネード」である。

 こうした流れを踏まえれば、足もとで株価の上値が重かったエヌビディアにも、再び上昇余地があると考えられる。エヌビディアは単なるGPUメーカーではない。半導体、ネットワーク、サーバー、ソフトウエアを統合し、AIデータセンター全体の設計思想と投資サイクルを主導する存在である。AI時代のチャンピオンとして、エヌビディアは今後も業界全体を束ねる「オーケストラの指揮者」の役割を果たすだろう。AI投資の継続が確認されるほど、その中心に位置するエヌビディアの成長力と戦略的価値は、改めて評価される可能性が高い。

 もちろん、7月の半導体株の調整によって「過熱相場のリスク」と「集中投資のリスク」を市場は痛感している。半導体相場の回復には少し時間を要する可能性があるほか、何でもかんでもトルネードで上昇するわけではなく、企業業績やバリュエーションで選別はされるだろう。それでも、全体として米国株式市場は、力強く上昇する準備は整っていると考える。


【著者】
村松一之(むらまつ・かずゆき)
和キャピタル取締役運用本部部長/フォーライクス代表

1973年生まれ、慶應義塾大学卒業後、1996年静岡銀行入行。支店勤務を経て、資金証券部に配属。その後、米ニューヨーク支店勤務など主に市場関連業務に従事。2017年8月、和キャピタルに入社、21年3月より現職。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」でレギュラーコメンテーターを務めるほか、各メディアで市場分析のプロとしてのオピニオンを展開中。

株探ニュース

オンラインで簡単。
まずは無料で口座開設

松井証券ならオンラインで申し込みが完結します。
署名・捺印・書類の郵送は不要です。