安田秀樹【アクティビスト襲来の鉄道業界とAI猛威論直面のゲーム業界】

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コラム

●鉄道業界のコングロマリットはディスカウントかプレミアムか

 2026年3月期決算の発表後、アクティビスト(会社に積極的に提案を行う「物言う株主」)による近鉄グループホールディングス <9041> 、京阪ホールディングス <9045> 、名古屋鉄道 <9048> などへの投資が相次いで明らかになった。これらの報に接し、にわかに鉄道業界に対する注目が投資家たちの間で高まってきたように思う。彼らの具体的な主張をここで取り上げてしまうと単なる宣伝になるうえ、「10年後に大きく成長している会社に投資する」という筆者の考えとは合わないので、ここでは触れない。

 だが、彼らが鉄道会社に着目する背景を知るためにも、5月から6月にかけて、主に西日本の鉄道会社を中心に話を聞いたところ、大きく分けて2つの課題があるように感じた。一つは国のルール(規制運賃)により自由な運賃の値上げができない一方、運営コストが上昇傾向にあること。もう一つは多様な事業を展開し過ぎた結果、「コングロマリット・ディスカウント(複数の事業を行っていることにより、かえって会社全体の評価が下がってしまう現象)」が働きやすい、ということである。

 まず一つ目の運賃問題は、国による規制のため即座に対応するのは難しいのが現状だ。それでも近鉄が導入を予定している「フランス料理が楽しめる列車」や、JR東海 <9022> とJR西日本 <9021> が発表した「東海道・山陽新幹線の完全個室」のように、特別な体験を用意して高い料金を設定する列車の導入も一策である。

 二つ目の問題に関しては、鉄道会社が手掛けている事業が多様なことに起因している。ほぼすべての上場鉄道会社は百貨店などの小売業を展開しているし、わずかしか不動産を保有していないJR東海を除くと、ほとんどの鉄道会社は不動産事業も積極的に展開している。また今は減少したものの、かつては遊園地を運営する会社も多かった。

 何の会社かパッと見で分からないと投資しにくい。つまり投資家の視点で見ると「どんな事業を行っているか」が分かりにくいのはマイナスなのである。もちろん各社もそのことを理解しているので、投資家に向けて会社の魅力を分かりやすくアピールする「IR活動」も活発になってきている印象だ。

 一例を挙げると、近鉄は様々な事業を展開しているからこそ価値が高まる「コングロマリット・プレミアム」の実現を標榜しており、すべての事業での拡大を目指している。いち早く運賃の値上げを断行し、竣工当時は日本一の高さを誇った超高層複合ビル「あべのハルカス」の建設や、国際物流会社(近鉄エクスプレス)の買収など、批判を受けながらも巨額の投資を行っている。

 筆者もこのコラムでたびたび指摘しているように、SNSで話題になった「志摩スペイン村」の再活性化や、2033年の伊勢神宮の式年遷宮(20年に1度、社殿などを移す大祭)に向けた旅客流動の強化などもある。NANKAI(旧・南海電気鉄道) <9044> も「GRAN 天空」など、新列車のアピールに積極的である。

 ソニーグループ <6758> も一時期、「色々な事業をやりすぎていて分かりにくい」とコングロマリット・ディスカウントが叫ばれたが、業績が大幅に拡大した今日、そうした指摘はほぼ聞かれなくなった。結局のところ一番大切なのは、業績を拡大できるかどうかである。

 人間はよく分からないものを敬遠する傾向があるのは、行動経済学でも知られた事実だ。鉄道会社の経営陣には、目先のアクティビストの意見に惑わされない経営を進めてもらいたいものである。

●新作ゲームディスクの製造終了を発表したソニーグループ

 7月1日、ソニーグループ子会社のソニーインタラクティブエンタテインメント(SIE)は新作ゲーム用ブルーレイディスクの製造を、2028年1月をめどに終了すると発表した。これにより、「プレイステーション(PS)5」の後継機となる次世代ゲーム機(仮称:「PS6」)には、ディスクドライブが搭載されないことが確実になったともいえる。

 かつて、初代「プレイステーション」に多くのゲームが供給されるようになった一因には、コンパクトディスク(CD)の採用があった。それまでの主流だったROMカセットは容量が少ないうえに製造コストが高く、最低発注数量も多いため、サードパーティのソフトメーカーにとって大きな負担だった。それに対して、「プレイステーション」が採用したCD-ROMは当時としては容量が大きく、コストも安く、少量から発注できたため、ソフトメーカーには非常にありがたい存在であったのだ。

 欧米では同社のディスク製造終了の発表に対して、強い懸念が生じているようである。筆者としては、この反発は当然のことだと考えている。人間は何かを失うことに敏感であり、これまで買ったものが将来的に使えなくなる、見られなくなる、遊べなくなるというのは、途方もない損失に感じてしまうからだ。「あって当たり前」のものがなくなることに対して、反発の声が大きくなるのは仕方がないだろう。

 ただビジネスの視点から見ると、事情は異なる。現在、半導体価格の高騰などによってゲーム機の価格は値上げが続いているため、ディスクドライブをなくすことで数千円(数十ドル)のコストダウンができることは、メーカーにとって非常に魅力的である。もし「PS6」のスペック発表に合わせてこのことが明らかになれば、新機種の評価に水を差しかねない。同社はそう考えたからこそ、今のタイミングでこの方針を打ち出したのだと思う。筆者としてはこれまで長年、ゲームに不可欠だったディスクドライブがなくなるという事実に対し、一つの時代が終わったという感慨を覚えることも確かだが、ソニーグループにはユーザーからの短期的な批判にひるむことなく、この決断を実行してほしいと考えている。

●PER100倍超えも、AI関連で株価急騰の電子部品業界

 ここからは、最近筆者が取材などで回った業界の話を進めていこう。先月も触れたように、現在、電子部品業界は株価が急騰している。株価の割安・割高を測る指標である「今期予想PER(株価収益率)」を見ると、太陽誘電 <6976> は100倍を優に超え(7月8日現在)、村田製作所 <6981> も50倍を超える状況になっている。

 一般的にPERは15倍程度が目安とされていることを考えると、かなりの高水準である。企業の決算説明会でも、AI(人工知能)の凄さを前提とした質問が投資家から次々と出ており、期待の高さは十分に理解できる。

 「現在はAIが生み出す『成果』が『リスク』よりも強調されているため、投資資金が集まりやすい。集まった資金がさらなる投資需要を生む循環になっており、この活況は当面続くだろう」と以前から筆者が指摘しているように、今のところその傾向に大きな変化は見られない。ただ、さすがに実力以上に株価が高いという「割高感」があるのは否めないため、短期的には投資家の間に警戒感が出てくる局面もあるだろう。

●AIと逆相関? 株価が冴えないゲーム業界の現状

 逆にゲーム業界は株価が冴えないままである。任天堂 <7974> は「Switch2」の値上げを実施したが、値上げ前に買おうとする「駆け込み需要」が日本では大量に発生した(筆者の推計では国内で60万~65万台)。SNSでの反応や筆者の周囲での購入事例を見ていると、多くの購入者は「値上げ前に買えたから1万円得をした」と感じているようである。

 実際には5万円近い出費をしているのだから、奇妙な話と言えなくもない。それでもユーザーの感覚としては「得をした」と確実に捉えているのである。これは、消費者が「いつかは欲しい」と思っている場合、「値上げ前の今なら安い」という明確な買う理由を提供されると、比較的高額な商品でも思い切って買ってしまうという心理を示している。「ゲーム機は、遊びたいソフトがあるから買うものだ」という固定観念があるが、実際の購入理由はもっと多様であり、何より重要なのは「まず本体を欲しいと思わせること」なのである。

 ハード(本体)の普及に関しては、「Switch2」の販売ペースはここまで想定どおりに伸びている。しかし筆者が「ストレージコスト」と呼んでいる「本体のデータ空き容量の不足」がネックとなり、ゲームソフトの販売ペースは伸び悩んでいる。

 このことに対し任天堂も動画などで「不要なデータは簡単に消去できる」とアピールし始めた。だがユーザーは基本的に面倒な作業を嫌うため、すぐに効果が表れるとは考えにくい。それでも任天堂がこうした自社の課題を認めてユーザーに働きかけるようになったことは、ライバルのソニー・インタラクティブエンタテインメントの姿勢とは対照的であり、非常に良い傾向だと言えるだろう。

●「AIはゲーム業界の脅威」という見方は正しいのか

 もう一つゲーム業界で株価の下落要因として挙げられるのが、AIによって誰もが動画を生成しやすくなることに対する懸念である。AI生成の低品質動画がネット上にあふれるようになれば、ユーザーはこうしたAI動画に多くの時間を費やすようになり、結果としてゲーム市場が飽和、縮小から崩壊へ向かう可能性があるとの考えだ。

 これは任天堂の中興の祖である故・山内溥氏の「アタリショックはゲームソフトの粗製乱造が生み出した」という言説がもとになっている。アタリショックとは、1980年代前半の米国で起こったとされる市場崩壊で、米国のゲーム業界の先駆企業だったアタリが、ゲーム開発を他社に開放したことで品質の低い製品が市場にあふれかえり、ユーザーのゲーム離れが一気に進んだとされる現象である。

 ただこの考えは問題が多いと筆者は考えていて、そもそも低品質のゲームとは何かを定義することが難しい。さらに現在は、1980年代と比べてゲームが大量に投入されていて、インディーゲーム(個人・少人数による自主制作ゲーム)も多数投入されるようになったが、それに嫌気してゲーム市場が崩壊するなどという現象は起こっていない。実際には1980年代の販売不振は、当時のゲーム機ハードが、世代サイクルの後半になって落ち込むという現象だった可能性が高いと見ている。

 2010年前後にスマートフォンゲームが急速に普及した時にも、コンシューマゲームはなくなると言われたものだが、15年近い時間が経ってもなくなっていない。むしろそれ以後、カプコン <9697> や任天堂のAAAタイトル(超大作ゲームタイトル)の販売は増えており、因果性が成立していないのである。

 投資家の視点ではあたかも粗製乱造論が事実らしく見えるようであるが、そもそも動画であれば、ゲームをしながら楽しむことが可能だ。確かに睡眠時間との兼ね合いもあるが、一概にAI動画がゲームを楽しむ時間を奪うとは断言できないのではないか。

 要するに現時点ではAIに対する期待が高すぎて、必ずしも現実を踏まえていない予測が横行しているのではないかと感じる。そして、実社会へAIが普及していくペースは、期待するよりもはるかにゆっくり進むと筆者は見ている。

 つまり「株式市場の熱狂」と「実際の普及スピード」のギャップは、どこかで表面化するはずなのだ。このギャップがいつ解消されるかの予想は難しいが、このことはしっかりと心に留めておく必要がある。足もとではAI関連企業に高値警戒感が強まっている。筆者の感覚としては、その時は意外と近いかもしれないと思う今日この頃である。


【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋リサーチアドバイス シニアアナリスト 

1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、2026年4月からは東洋リサーチアドバイスのアナリストとして活動している。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。

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