市場が待望するマグニフィセント7の新たなカタリスト<大山季之の米国株マーケット・ビュー>
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◆将来の経済効果が市場価値を決定! サッカー選手と株価の共通点 熱戦が続くサッカーW杯・北中米大会。わが日本代表は惜しくもブラジル代表の壁を乗り越えることができなかったが、大学までこの競技に打ち込んできた筆者が改めて考えたのは、サッカー選手の市場価値の見出し方だ。現在、サッカー選手ではクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)やリオネル・メッシ(アルゼンチン)といった世界的スーパースターたちが年俸とスポンサー収入を合わせて年間1億ドル以上を稼いでいる。そして今大会での活躍によって、ノルウェーのアーリング・ハーランドや、スペインのラミン・ヤマルなど若いスターたちの市場価値が大きく伸びている。ハーランドは25歳、ヤマルに至ってはようやく19歳の誕生日を迎えるのだが、大会後には、ロナウドやメッシ並みに市場価値が跳ね上がるのではないかと言われている。 なぜ、このような話をするのかと言えば、根本的にはサッカー選手も、株式市場に上場する企業も、市場価値の算出の根拠は同じだからだ。これらの市場価値は、現時点での経済効果を反映したものだけではない。5年後、10年後といった将来にもたらされる経済効果も加味して、弾き出されるものなのだ。そして、市場価値が上昇するのは、明確なカタリスト(変動のきっかけ)が生じた場合。サッカー選手ならそれがW杯のピッチであり、上場企業なら決算で示される業績とそれを取り巻く市況の変化だ。 2026年前半戦を終えた米国株市場を振り返って感じるのは、カタリストの出現によって、脇役が主役へと躍り出た半年間だったということだ。マグニフィセント・セブン(M7)の株価が低迷する半面、マイクロン・テクノロジー、SKハイニックス 、サムスン電子(韓国上場)、サンディスク などのメモリー半導体企業やアプライド・マテリアルズ 、ラム・リサーチ などの半導体製造装置企業、コーニング などのガラス・光ファイバー関連企業の株価が急上昇した。いずれもAI(人工知能)のツルハシやシャベルを提供する企業だが、ここまでの決算で、AI需要の大きさと今後の成長予測が具体化し、市場価値が跳ね上がったのだ。 メモリー半導体を例に取ると、直近3カ月でマイクロンの株価は約3倍、サンディスクは約2.5倍、フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)も2倍弱の水準にまで上昇した。年初の時点でもHBM(広帯域メモリー)の需要拡大は伝えられていたが、多くの市場関係者はこれまでのメモリー半導体市況と同様、「どうせシクリカル(景気循環的)」だと軽視しているところがあった。ところがこの半年の間で、実際にEPS(1株当たり純利益)が市場予測を上回る伸びを見せ、ガイダンスでも中長期的な需要拡大傾向が示された。いくらエヌビディア のGPU(画像処理半導体)の性能が優れていても、メモリーがなければAI半導体は動かない。考えてみれば当たり前のことにようやく皆が気づいたわけだ。 ◆SKハイニックスは米国市場上場でコリアン・ディスカウントの解消も サッカーに話を戻せば、おそらく格段のレベルアップを世界に示した多くの日本人選手の市場価値は、W杯というカタリストによって今後、跳ね上がっていくだろう。では、すでに市場価値が大きく上がった"AIツルハシ企業"群の今後はどう見ればいいのだろうか。新たなカタリストが出現する可能性はあるのだろうか。そこで俄然、関心が高まるのが7月10日(現地時間)に迫ったSKハイニックスのナスダックADR市場への上場だ。 先日、英HSBCのアナリストが非常に興味深いレポートを発表していた。それによると、これまでマイクロン株は、同業のSKハイニックス株と比べて約35%のプレミアム価格で取引されていたという。これは、SKハイニックス株に対する米国投資家のアクセスの悪さや、韓国企業特有のガバナンス意識の低さ、消極的な株主還元に起因したいわゆる"コリアン・ディスカウント"があるためだ。仮に米国市場での上場を機に、これらが解消されるなら、SKハイニックスのバリュエーションは大きく変わる可能性がある。 このレポートでは、上場だけで約40%の株価上昇もあり得るという見解だ。それをそのまま受け入れるかどうかは別問題として、SKハイニックスの米国市場上場は、米国の投資家にとってこのセクターの注目度をさらに高める契機となるはずだ。 一方、同じSKがらみでは、先日、韓国政府から発表された同社とサムスン電子などによる巨額のAI投資計画を市場がネガティブ視し、SOX指数を始めとした主要株価指数が急落する局面もあった。韓国大手企業のこれまでの"お家芸"でもある、過剰投資の懸念が意識されたのだろうが、これは杞憂ではないか。確かに製造能力をひたすら増強していけば、長期的に見れば、供給が需要に追いつくタイミングが訪れる。だが、果てしないトークン(AIが処理するデータ量)の拡大という、これまでの設備投資とは次元が異なるAI投資の目的地を考えれば、そう簡単に供給過剰となることはないはずだ。少なくとも2030年頃までは、メモリー市況の好調は続くと見ていい。SKハイニックスの米国市場上場は、降って湧いたようなイベントではあるが、一つのカタリストとして素直に受け入れるべきだろう。 ◆「余剰AI資源を外販」、メタの発表への相反する二つの見方 では、脇役に主役の座を奪われたM7の今後はどのように見ていくべきなのか。マイクロンの株価パフォーマンスが年初来、3.5倍近くに達するのに対してM7の平均は10%超の下落。M7はこのままAI相場の主役の座を降りたままでいるのだろうか。特に多くの投資家が感じる疑問は、AI相場のけん引役でもあり、本来、ツルハシ銘柄の代表格だったはずのエヌビディアの上値がなぜ重いのか、ということではないか。 この点に関しては、多くのマーケット関係者が二つの要因を指摘している。一つは3年以上続くAI相場の中で、すでに多くの投資家がエヌビディア株を保有していること。そして本来ならツルハシ銘柄であるはずのエヌビディアが、過剰投資が懸念されるM7各社と同一視されていることだ。だが、次の四半期決算では相変わらずの好調持続が濃厚だし、その前のハイパースケーラー各社の決算でも、同社のAI半導体需要の旺盛さを示す決算が相次いで発表されるはずだ。「エヌビディアは買い場が近い」。そう感じている。 さらにエヌビディア以外のM7各社にも、新たなカタリスト出現への期待が高まっている。例えば、メモリー半導体の調達競争で他社の後塵を拝し、「iPhone」の値上げが懸念されたことで株価が下落していたアップル だ。7月2日に米国防省のブラックリストに載っている中国企業からメモリー半導体を調達する方向で協議中と報じられると、一気に株価が反騰している。アップルが本当にこうした企業と取引できるかは不透明だが、現在のマーケットがM7各社に対して、いかにポジティブなカタリスト出現を待望しているかを示す株価の反応だ。 7月1日に米ブルームバーグによって、余剰となったAI処理能力の外販計画が報じられたメタ・プラットフォームズも同様だ。この報道によって同社の株価も急騰したが、これは極めて自然な反応だった。なぜなら、広告依存の同社は、アマゾン・ドット・コム 、マイクロソフト 、アルファベット などAIへの巨額投資を競う他のハイパースケーラーと比べて、収益回収の機会が限られると見なされていたからだ。それがクラウド事業進出の道筋が示されたことで、ROI(投資収益率)向上の期待が一気に高まったのだ。 半面、同社の発表はAI銘柄全体にとってはネガティブなカタリストとなった。「あのメタでさえ、これまでのAIへの投資は過剰だったのか」という、言ってみれば近年、事あるごとに取り沙汰されていたAIバブル論を刺激する受け止められ方をしたからだ。AIバブル論については、国際決済銀行(BIS)が6月28日に公表した年次報告書でも示されている。「AIへの支出急増が逆回転のリスクを高めている」という趣旨のもので、同報告書では、家計に占める株式の割合が著しく高くなっているとして、2008年の金融危機前の状況との類似性も指摘している。 確かに、AIバブルの兆候は随所に見て取れる。例えば年初来、倍化した韓国KOSPIのパフォーマンスは、サムスンやSKハイニックスの株価にレバレッジを掛けたシングルストックETF(上場投資信託)の影響が大きいと言われている。韓国の規制当局が、認可しているのを後悔しているといった趣旨の発言をしているが、これなどはバブル的な状態だと言わざるを得ない。日本でもAIツルハシ銘柄への一極集中が話題になっているが、銘柄が集中すると上昇するのも早いが、崩れる時には一気に崩れる。今の状況を俯瞰して見れば、そうした怖さを感じることは確かだ。 そしてもう一つ気になるのは、やはり金利の動向だ。足もとで "AIツルハシ企業"の上値が重くなっているが、これはやはり、ウォーシュFRB(米連邦準備制度理事会)新議長の金融政策への警戒感があるはずだ。タカ派かハト派かはともかくとして、長年続いたFRBの開示方式を抜本的に見直すというのだから、マーケットとしては不透明感を抱かざるを得ない。 それとともに、AI相場の持続性に関しても、マーケットでは見方が真っ二つに分かれている。現在のAI銘柄の株価上昇について、バブル否定派はバリュエーション面で割高ではないという。だが、米10年債の利回りが4%台半ばまで上昇する中で、すでに相対的に株式の投資妙味は薄まっている。つまり、現在の上昇相場が継続するためには、金利が下がることが前提条件となるのだ。 翻ってウォーシュ体制下でのFRBでは、利下げに積極的な見方と消極的な見方がせめぎ合っている。利下げ積極派は、AIがもたらす生産性向上によってインフレが抑制され、景気循環がAI企業以外にも拡大しているという。一方、利下げ消極派はAI需要の拡大に供給が追い付かず、インフレが進行しているという。やはり金利の高止まりが、AIバブル崩壊の引き金を引くというシナリオも打ち消すことはできず、今後のFRBの動きは注意深く見守るしかないだろう。 ◆これから買うべき銘柄、そしてスペースXへの投資判断は? FRBの金融政策とAI相場の持続性。二つの大きな不透明要因が併存する年後半の米国株市場だが、当面の焦点となるのは7月中旬から本格化する各社の26年4-6月期決算の内容だ。ここで投資家の皆さんにお勧めしたいのは、過去3年間の決算資料を比較し、業績面のみならず、マネジメント層のコメントなど記載事項を確認することだ。例えば、新たなAIツルハシ銘柄を発掘するなら、AIやデータセンター向けの収益にどのような変化があるのか。英語の決算資料であっても、生成AIを使えばポイントをつかめるはずだ。 個別銘柄を挙げるなら、再評価の期待が高まるエヌビディアに加え、キャタピラー やGEベルノバ などのデータセンター絡みのインフラ企業も手堅い選択だろう。効果的なスピンオフ戦略を進める多国籍コングロマリット、ハネウェル・インターナショナル も面白い。株価チャートで見ると、航空宇宙部門(ハネウェル・エアロスペース )のスピンオフによって株価が急落しているように見えるが、事業分割によるテクニカルな株価変動がきっかけとなっているので、むしろ買い場を提供していると捉えている。 最後に、6月12日に上場したスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX) についても簡単に触れておきたい。上場後の値動きは想定どおり、極めてボラティリティ(株価変動率)の高い展開となり、公募価格の135ドルに対して現時点での株価は160ドル前後の水準で推移している。PSR(株価売上高倍率)が依然として130倍前後と、バリュエーション面では評価のしようがない水準にあるものの、結果だけ見れば今回のIPO(新規株式公開)は大成功だったと言っていい。 ここで特に感じたのは、同社に対する二つの市場の見方の違いだ。同社は上場10日後に約250億ドルの起債を発表したが、その際に機関投資家にアナウンスしたのは、将来の新株発行の可能性についてだったという。新株発行は、言うまでもなく株式市場の投資家にとっては歓迎すべきことではない。だが、債券市場の投資家にとっては、資金ショートへの懸念を払拭することにつながる。前回のコラムでスペースXの上場は、株式投資家にとって「夢」に投資することだと述べたが、債券市場は夢ではなく「現実」に投資するものだからだ。 示唆深いのは、同社の起債への応募状況だ。5年債から30年債まで用意された5本のうち、最も人気が高かったのは5年債と7年債だという。同社の目論見書では、すでに一定の収益を上げている通信事業から、宇宙データセンター、はては火星への移住計画までの壮大なビジョンが記されている。時系列で考えれば、通信事業や場合によっては宇宙データセンターぐらいまでの業績は信じられるが、その先の火星移住計画までは面倒を見切れない、というのが債券市場の判断ではないか。 対する株式市場は、現時点でのバリュエーションを見れば、火星移住計画を含めた「夢」を追っている段階だ。そんな同社への今後の投資アドバイスを敢えて述べてみたい。株式投資の本質として、イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)の壮大な「夢」に賭けるのも決して悪い選択ではない。だがその場合、まず言えるのは株価の乱高下には付き合わないことだ。そのうえで、同社の成長ストーリーの進展と、四半期決算ごとに提示されるバリュエーションの変化や相場状況に応じた需給の変化、そしてイーロン・マスク体制のガバナンス面のリスクなどを考慮して、冷静に判断していくこと。要は「夢」と「現実」の双方を直視することだが、そのためにも前述した二つの市場の異なる視点を参考にしてほしい。 【著者】 大山季之(おおやま・のりゆき) 松井証券マーケットアナリスト 1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。 株探ニュース