安田秀樹【電子部品に拡大したAI投資と株高生んだソニーGの慎重姿勢】

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コラム

●アナリスト向け説明会後に株価上昇が加速した電子部品セクター

 まず電子部品株の急騰について触れておきたい。5月下旬に電子部品大手の投資家向け説明会が相次いで開催された。その直後から太陽誘電 <6976> を筆頭に、村田製作所 <6981> 、TDK <6762> の騰勢に拍車が掛かった。この背景には、エヌビディアを頂点とするAI(人工知能)インフラ投資への認知拡大、決算発表を経た将来性に対する確信の深化、アナリストに対する将来についての経営陣による強気な発言の3点があったと見ている。

 投資家の間でエヌビディアの存在は周知のとおりで、米オープンAIの「チャットGPT」登場以降、AIの潜在能力に対する評価が急拡大し、多くの企業が機械学習用データセンターへの投資を強化してきた。当初は投資額も限定的だったため、株価への恩恵はエヌビディアなど一部の企業に限られていたが、2025年秋以降はインテルなどのCPU(中央演算処理装置)メーカーや、マイクロン・テクノロジー、SKハイニックス(韓国上場)、サムスン電子(同)のDRAMメーカー、韓国2社に加えてキオクシアホールディングス <285A> 、サンディスクなどのフラッシュメモリーメーカーを経て電子部品メーカーへと裾野が広がっている。

 そしてここに来て、積層セラミックコンデンサー(MLCC)もこの物色人気の輪に加わる形で恩恵を受けるとの見方が強まり、関連大手3社の株価を大きく押し上げた格好だ。先月のコラムで筆者は、「現在はAIが生み出す『成果』が『リスク』よりも強調されているため、投資資金が集まりやすい。集まった資金がさらなる投資需要を生む循環にあり、設備投資の活況は当面続くだろう」と指摘したが、そのとおりになっているようだ。

●株価急騰の太陽誘電、AIへの高い期待が裏切られれば変調も

 次に電子部品メーカーの動きを代表して、太陽誘電の決算動向について述べていきたい。同社の26年3月期決算は増収増益で着地し、今期(27年3月期)も50%の営業増益と大きな成長を見込む。足もとのAIデータセンター投資には各国政府から多額の補助金が投じられており、活発な設備投資需要が発生している。これがMLCCの販売増加を通じて、同社の業績拡大に大きく寄与している格好だ。同社では今後のAIデータセンター向けMLCCのCAGR(年平均成長率)を30%以上と見込んでおり、株価も数年先の成長性を織り込む形で急上昇したと考えている。

 足もとで調整をしているとはいえ、ここまでの短期的な株価の勢いには凄まじいものがあり、今後の予測は容易ではない。ただ株価は投資家の心理を反映したものでもあるので、現状のようにAIに期待がかかる状況では騰勢が続いてもおかしくないだろう。

 そのうえで注意しておくべき点を挙げておく。データセンターなどへの巨額投資に見合うだけの社会変化は、すぐには起こりにくいということだ。AIサービスを展開している各社は巨額な投資を早く回収したいと考えていると思う。今後、米オープンAIや米アンソロピック、アルファベットなどのAI開発企業がどのように投資を回収していくのか。現在のAIに対する高い期待が裏切られるような事態になったときには、現実とのギャップを埋めるような株価の動きが現れてもおかしくはないと考えている。

●9年連続過去最高益、カプコン好決算を生んだ女性キャラクター人気

 ゲーム関連では、カプコン <9697> とバンダイナムコホールディングス <7832> について触れておきたい。カプコンの26年3月期決算は9年連続で営業利益、経常利益、純利益がともに過去最高を更新する好決算となった。昨年発売された『モンスターハンターワイルズ』のリセール(再販)の伸び悩みが懸念されていたが、『バイオハザード レクイエム』のヒットがその不安を払拭した。テレビ通販企業、夢グループとコラボした限定商品「恐怖の悪夢セット」などが海外でも話題を呼んだほか、「Switch2」での発売効果もあり、前作を超える691万本の大ヒットを記録している。

 また、一般的に新規IP(知的財産)での大ヒットは容易ではない中で、カプコンの新規タイトル『プラグマタ』が200万本を超えるヒットとなった。昨今の東アジア圏では女性キャラクターを主体にすることでユーザーの支持を集めるタイトルが増えており、『プラグマタ』もアンドロイドの少女キャラクター「ディアナ」の人気が好感されたため、と考えている。

 このようなヒットが生まれる背景には、日本のアニメの普及が深く関わっていると考える。2010年代末からアニメが世界的に若い世代の間でトレンドとなった影響は見逃せない。筆者は以前から「30年代には日本のアニメが世界を席巻する」と予測してきたが、現状はまさにそのとおりの状況になりつつある。これが『プラグマタ』のヒットの根底にあると考えている。

 ガンホー・オンライン・エンターテイメント <3765> に対するアクティビスト(物言う株主)の主張を聞いていても痛感するが、ゲームのヒットには再現性がなく、開発はどうしても手探りにならざるを得ない。だからこそ、今回の『プラグマタ』のヒットは重要なヒントになるはずだ。ゲーム各社には、次のヒット創出に向けた戦略を深く見極めてほしいと感じている。

 一方、バンダイナムコホールディングスも、「機動戦士ガンダム」関連の売上高が、万博や『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』のヒットによって2500億円規模に達したこともあり、結果として過去最高益を更新した。今期はこの反動減は避けられないとは見ているのだが、トイホビー事業では、プリキュアの最新作がキャラクターの魅力でヒットしていることや、さまざまな施策が今期も検討されているので、堅調に推移するだろう。

 それでもゲームはタイトルごとの販売にバラツキがあるといった問題がある。とはいうものの、これまでしっかりとした経営戦略のもと、事業をけん引してきた同社の経営陣のこと、業績的には反動減以外の問題は出にくいだろうとは見ている。

●経営陣の慎重姿勢が株価上昇を後押ししたソニーグループ決算

 ソニーグループ <6758> の決算は、大規模M&A(企業合併・統合)で買収した有力ゲーム企業、米バンジーの減損損失が発生したことで計画未達に終わったものの、この要因を除けば堅調な推移であった。また、ゲーム事業を統括するSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の西野秀明CEO(最高経営責任者)がAIの活用について説明したことも、投資家から好感された要素だったように思う。

 そのうえで今期の計画は、さまざまな面で腐心した跡がうかがえる。「プレイステーション(PS)5」の販売台数は前期比600万台以上の減少となる1000万台未満を想定しているようだ。しかしながら、ハードウエアの営業損益は横ばいとしている。同社があえて「損益」という表現を使ったことからも分かるように、依然として販売価格が製造コストを下回る逆ざやの状態が続いているようだ。

 本来、この規模の販売台数の減少は、逆ざやの抑制となり、営業増益要因になるはずだ。だが、今期見通しを「横ばい」としている背景には、今後見込まれるDRAM価格の高騰が影響を及ぼしていそうだ。その他の要因も含めれば、数百億円単位のネガティブインパクトがあったとしてもおかしくはないだろう。また、こうした経営陣の慎重な見方が、開発費の抑制や投資案件のコントロールなどにつながり、逆に同グループの増益要因(開発費や投資のコントロール)となっている側面もある。その結果が、決算直後の株価上昇であろう。

 なお、今回の決算では、「PS6」を念頭に置いたと思われる「次世代プラットフォーム」という表現が初めて登場した。報道では専用の携帯ゲーム機を同時展開するのではとの噂も出ているが、現在のAIブームの状況などを勘案すると、2027年までの発売はなさそうに見える。すぐに発売されないということは、ゲームハードの立ち上げコストがゆっくりと計上されることを意味しているので、投資家目線では決して悪いニュースではないと思う。

●「AIによる破壊的なイノベーション」は本当に起こるのか

 ところで、エンターテインメント業界全般の株価は冴えない状況が続いている。電子部品の項目でも述べたが、海外の投資家の間で「AIによる破壊的イノベーションが起こる」との見方が広がっているため、と筆者は考えている。

 しかし筆者が強調したいのは、いかにAIが指数関数的な変化をもたらすとしても、破壊的イノベーションが一夜にして世界を一変させるわけではないという点だ。AIの実用化には対応端末の普及が前提であり、生成物のチェックをはじめとする人的リソースの介在も不可欠である。つまり、AI単体による効率化だけで、劇的な成果を期待するのは早計と言わざるを得ないのだ。

 今回の決算説明会でも、コロプラ <3668>、グリーホールディングス <3632>、カプコン、バンダイナムコの経営陣に対し、「AIによる生産性の向上は一部の工程に過ぎず、全体の効果はわずかではないか」と質問してみたが、ほぼ全社からそのとおりだという回答を得た。アンソロピックなどを巡る報道に接して、多くの投資家は劇的な変化が起きていると感じているかもしれないが、現場でAIを活用できる工程は現時点では限定的だ。チェック作業やゲームアイデアの創造、アセット(素材)制作など、まだまだ人間にしかできない領域は多い。

 さらに、ここで筆者の持論を述べるとすれば、「革新的な技術やアイテムの普及には10年はかかる」ということだ。アップルのiPhoneをはじめとするスマートフォンが一般的になるまでには約10年を要したし、固定電話から携帯電話への移行も同様であった。人間は変化を嫌う傾向があるため、新しい技術をすぐには積極的には取り入れない。投資家は短期的な成果を好むため、AIのような革新的な技術が世界を一変させることを期待しがちだが、世の中の大多数の人々は少しずつの変化しか受け入れないのである。


【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋リサーチアドバイス シニアアナリスト 

1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、2026年4月からは東洋リサーチアドバイスのアナリストとして活動している。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。

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