【伊賀大記のクロマなマクロ展望】注目の6月日米中銀会合、市場の視線は「その次」

投稿:

材料

 日米中銀会合が来週開催される。政策変更が予想される日銀金融政策決定会合(15~16日)。ウォーシュ新体制での初会合となるFOMC(米連邦公開市場委員会、16~17日)。どちらも要注目なのだが、実はマーケットの焦点は「その次」にある。株、為替、債券など金融市場を横断的に俯瞰する「クロスマーケット(クロマ)」な視点から展開を予想してみた。

●植田日銀総裁、利上げ継続姿勢を示せるか

 植田和男日銀総裁の3日の講演で、6月の利上げはほぼ織り込まれた。すでにタカ派の意見を表明している日銀審議委員5人だけでも可決は可能だったが、これで執行部の3人と合わせ8対1(全員一致のシナリオも)で利上げが可決される可能性が高まった。

 植田総裁の講演は、これまでの景気減速と物価上昇の2つのリスクに対してバランスをとった内容から、インフレ警戒に軸足を置く姿勢に転換。かなりタカ派的な内容だったのだが、それにもかかわらず、円高効果は限定的でドル円はすぐに160円を回復した。6月の利上げは市場で相当程度、すでに織り込まれており、それだけでは円安抑制効果が乏しいことが示されたと言える。

 もはやマーケットがみる来週の日銀会合でのポイントは、利上げそのものにはない。利上げを決定しても、0.5%でもなければ効果は限定的で、すでに織り込み済みという市場反応になるのは目に見えている。タカ派度合いが弱い場合、ドル円が160円を超えて更に上昇する可能性は小さくないだろう。

 焦点は、決定内容や総裁会見で、いかに利上げを継続する姿勢を示すことができるかだ。政策金利が1.0%に引き上げられれば、日銀が算出する中立金利1.1~2.5%の下限に限りなく近づくが、ターミナルレート(利上げの最終地点)はまだ先であるということを強調する必要がある。

 円安や長期金利の上昇を止めるには、市場が抱く「日銀の利上げはゆっくりでしか進まず上限も低い」というイメージを崩さなければならない。それには、半年に1度というこれまでの利上げペースを必要とあれば速めるといった発言も有効になろう。利上げに慎重とみられている高市早苗政権からの独立性を強調すれば市場へのインパクトも大きい。

 更に国債買い入れ減額をどうするかについても慎重な答弁が求められる。2026度補正予算でのカレンダーベース市中発行額の国債増額は前年度の税収上振れで免れたが、赤字国債を出すことには変わりない。減額ペースの鈍化や減額停止があっても来年4月以降とみられるので、すぐには影響しないだろうが、財政ファイナンスという印象を持たれれば円売り材料とされかねない。

●FOMCには分断のおそれも

 FOMCも「次」が焦点となる。今回は政策据え置きの公算が大きいが、新議長に就任したウォーシュ新体制での初会合であり、利下げと利上げのどちらにバイアスがかかるのか、コミュニケーション方法に変更はあるのかなど、次回会合に向けた焦点が目白押しだ。

 ウォーシュ氏には利下げを主張するのではないかという疑念が晴れない。同氏のこれまでの見解をみると、物価を捉える指標として刈り込み指数の採用を重視しているほか、AIによる生産性向上を訴えている。もう1つの主張である米連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシートの縮小は金融引き締め方向の施策だが、刈り込み指数は通常の物価指標よりも低く出ることが多いほか、生産性向上は物価抑制要因であり、これらは利下げを主張する材料となる可能性がある。

 一方、FRB内では米国内で進むインフレに警戒感を示すメンバーが増えている。物価上昇率が5年以上もFRBの目標である2%を上回る水準で推移⁠しているだけでなく、最近はガソリン価格の上昇で予想インフレ率が上昇。景気も順調で、3日に発表された地区連銀経済報告(ベージュブック)でも12地区のうち10地区で経済活動が拡大したことが示されたほか、物価についても大半の地区で前回よりもインフレ率が高まったと報告された。

 更に5日に発表された5月米雇用統計では、非農業部門雇用者数が市場予想を上回っただけでなく、3月・4月分も上方修正され、一気に年内の米利上げ観測が強まった。ハイテク株を中心に米株が大幅安となったが、利上げに向けた「外堀」は徐々に埋められている。

 半面、トランプ大統領は一時棚上げしていた利下げ要求を再び持ち出してきている。新議長は、インフレ警戒もしくは利上げ方向で議論をまとめることができるのか。今回のFOMCでは、利下げを強く支持してきたミラン理事に代わって、前議長のパウエル氏が理事として出席する。パウエル議長は「影の議長」になることを否定しているが、理事になったからといって元議長の存在感が薄れるものではない。

 もしウォーシュ氏が利下げを強く主張するような場合は、FRB内で孤立するか、もしくはパウエル氏がウォーシュ氏との対立軸になり内部が分裂する恐れも強まる。そうなればドルは急落し米金利も急上昇するかもしれない。

 なおこれまでのFRB議長は、FOMCの会見で、次回の政策を匂わせるのが「お作法」だった。しかしウォーシュ氏は、そうしたコミュニケーション方法を変えることを示唆している。6月はFOMC参加者の経済・物価見通しであるドット・チャートが公表される月だが、次回のヒントもないまま、ドット・チャートの公表も見送られれば、暗中模索の状態となり、マーケットは非常にボラタイルな展開になる可能性もある。

●市場見通し、4つのシナリオ

 このように非常に不透明要素が多くなりそうな来週の日米中銀会合であり、市場の反応を一方向で予想するのは難しい。そこで日銀とFRBの政策方向性(次の政策)の組み合わせとして、以下の4つのパターンを考えてみた。便宜的に次回以降の利上げを示唆することを「タカ派」、据え置きもしくは利下げを示唆することを「ハト派」と表記した。そのうえで為替のドル円がどう動くかを予想してみた。

1)	日銀タカ派(円高)+FRBタカ派(円安)=ドル円膠着
2)	日銀タカ派(円高)+FRBハト派(円高)=円高
3)	日銀ハト派(円安)+FRBタカ派(円安)=円安
4)	日銀ハト派(円安)+FRBハト派(円高)=ドル円膠着

 日本として一番気を付けなければならないのは、3)の日銀ハト派(円安)+FRBタカ派(円安)の組み合わせだ。この場合、どちらも円安方向の材料となり、円安が進む可能性がある。その際は、日本当局が果たして円買い介入を再び実施するかが焦点となるが、「流れ」に逆らうような介入の効果は小さくならざるを得ない。160円台前半で介入したとしても、150円台後半に戻すのがせいぜいで、一巡後は再び円安が進むだろう。

 一方、2)の日銀タカ派(円高)+FRBハト派(円高)の場合、円高に振れる可能性がある。投機筋の円売り越しも高水準であり、ショートの巻き戻しも発生しそうだ。ただ、外国証券投資や貿易赤字など構造的な円売りは変わらずであり、よほど日銀がタカ派姿勢を強めない限りドル円の下値は限定的になるとみられる。せいぜい150円前半ではないか。

 日本株市場への影響は、ドル円と異なり、1)の日米両方でタカ派的であれば調整含みとなろう。4)の両方がハト派であれば一段高が予想される。2)の日銀タカ派(円高)+FRBハト派(円高)=円高であれば、当初は日本株が調整するかもしれないが、グローバルマーケットがFRBのハト派姿勢をポジティブに受け取るであろうから徐々に戻すとみられる。3)はその逆となる。

 日本株市場での物色方向としては、素直に金利上昇局面では銀行株にポジティブ、不動産株などにはネガティブに働くだろう。成長期待が強いAIなどハイテク株は0.25%程度の利上げでは長期的な成長期待に水を差すことはない。しかし、インフレが止まらず連続的な利上げが必要になる場合は、ハイテク株に限らず大幅な調整局面が到来するかもしれないので注意が必要だ。

 なお次々回の日米中銀会合は7月28~29日にFOMC、30~31日に日銀決定会合が開かれる。FOMCの後に日銀会合という順番も興味深い。

◇伊賀大記(いが・だいき)
金融経済ジャーナリスト。株式専門誌やロイター通信での記者を経て現在フリー。金融市場やマクロ経済に関するトピックをブログ(東京クロマ通信)で毎営業日配信中。

出所:MINKABU PRESS

オンラインで簡単。
まずは無料で口座開設

松井証券ならオンラインで申し込みが完結します。
署名・捺印・書類の郵送は不要です。