【伊賀大記のクロマなマクロ展望】イラン紛争後のマーケット中間総括~「瞬足の現金化」と「再投資」 <GW特集>
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イランを巡る紛争が終わったわけではないが、マーケットの動揺はひとまず収まったようだ。次にリスクオフが到来した時の参考に、株、為替、債券など金融市場を横断的に俯瞰する「クロスマーケット(クロマ)」な視点から中間総括をしてみた。危機の内容次第だが、「震度」が同程度であれば、今回と同じような市場反応を見せる可能性は大きい。ポイントは短期間での現金化と再投資だ。 1)キャッシュ・イズ・キング 2月28日に米国とイスラエルがイランに攻撃を開始した。その後の金融市場で起きた動きを一言で表すなら「現金化」だ。株式やコモディティなどのリスク性資産だけでなく、「安全資産」とされる金や国債も一斉に売られた。 日本取引所によると、海外勢は日本株の現物を3月第2~4週で計2兆5188億円売り越した。財務省によると、日本国債の中長期債も3月第4週に2兆6461億円の大幅売り越し。年初からは取引所のデータで3月第1週までに日本株現物は計5兆4356億円、中長期債は財務省のデータで3月第3週までに8兆739億円買い越しており、全部ではないが一部を現金化したとみられる。 現物は長期的投資家が主体とされるが、年度末の配当や利子の付け替えの影響を考慮しても、リスクオフ局面では現金化の嵐から逃れられないことがわかる。有事のドル買いで円安が進んだが、こうしたときは円安も日本株の支えにはならない。 現金化の目的はさまざまだ。保有の金融商品の損失をカバーするためや、証拠金を差し入れるため、もしくは価格が上昇した原油や原油関連商品を調達するためであったかもしれない。トルコ中央銀行は為替介入のための外貨調達に外貨準備の金を取り崩したとみられている。 原油や関連商品を除けば、買われたのは米ドルなどごく一部。株と債券など各金融資産の間にあった逆相関性はほぼ失われ、リスクオンとリスクオフで、ほぼ全部の資産が買われたり売られたりする展開となった。これまでもみられた動きだが、逆相関性のある資産でヘッジするという投資手法は難しくなったことが改めて示された。 日本株や金など、2月まで上昇率が高かった資産ほど、現金化の動きが激しかった。原油高騰でインフレ懸念が強まったが、金や株式などインフレ耐性がある資産も一斉に売られた。リスクオフ局面ではキャッシュ・イズ・キング(現金が王様)。米金融市場で一時的なマネーを置いておくMMF(マネー・マーケット・ファンド)の残高が急増したのが、その証拠だ。 ここでの「教訓」は、昨今のリスクオフ局面ではマネーの逃げ場は極めて少ないということ。買い材料が豊富で将来性が高い金融商品であっても、それまでのパフォーマンスが良ければ良いほど現金化の波にさらされやすい。 2)戦争終結待たずに再投資 ただ、現金化の波が終われば、再びマネーが金融資産にすぐに向かう様子も確認できた。株価が底値を打ったのは3月末。2月末に始まったリスクオフはほぼ1ヵ月で収束したことになる。 その後もホルムズ海峡や核開発などにおいて米国とイランの隔たりは大きく、停戦・終戦の交渉も合意に至るか不透明な状態が続いた。にもかかわらずマーケットの悲観論は後退、投資家はリスク回避の動きを反転させ、一気に買い戻しに走った。「FOMO(Fear Of Missing Out、取り残される恐怖)」が加わることで、反転上昇のスピードは加速する様子もみられた。 マーケットでは変化の起点となった出来事が根本的な解決をみせなくとも、やがて反応が鈍くなったり、次の材料を探すようになったりすることがしばしばある。コロナ禍は2020年1月ごろから中国を中心に本格的に広がり3年以上、世界の経済を圧迫した。株価が大きく下落し始めたのは20年2月下旬からだったが、日経平均株価が底を打ったのは約1ヵ月後の3月19日だった。 その理由はやや陳腐だが、材料をある程度、株価に織り込んだということ。「最悪」を織り込んだとも言える。今後状況が更に悪化する可能性もあるが、もしそうなればその時に織り込めばいい、というわけだ。すべてが解決してからでは遅いという投資家のギャンブル的な心理もそこにある。 底を打ってからのマネー回帰のスピードは現金化の時よりも速かったことも特筆すべき点だ。米ナスダック総合株価指数は4月15日、日経平均は翌16日に過去最高値を更新。1ヵ月のリスクオフが2週間強のリスクオンで完全に取り戻された格好だ。それ以降も、リスクオフ材料はしばしば出ているが、以前ほどは反応せず抵抗力が強くなっている。 ここでの「教訓」は、マーケットの底打ちは意外なほど早く、また回復のスピードもリスクオフ時よりも速い場合があるということだ。問題の完全な解決を待っていては遅い。ある程度、織り込んでしまえば、株価は反発する。ゆっくり構えている時間はない。 3)危機の後に発生しやすいバブル 危機の後にバブルは起きやすい。ブラックマンデー後の日本のバブル、ITバブル崩壊後、リーマン・ショックに至るまでの上昇局面がそれだ。 理由の一つは危機対応のために財政出動や金融緩和などマクロ政策が過度になりやすく、危機が去ったあとも急激には引き締め政策に転じることが政治的に難しいため、マネーがマーケットに残りやすいこと。もう一つは危機を脱した「解放感」から、投機的な動きが加速しやすいことだ。 コロナ禍の後に日米株価が最高値を更新したのも、その例の一つと言えるかもしれない。ロシアによるウクライナ侵攻も加わって供給要因によるインフレが加速したことから金融政策は、日本を除き、すぐに引き締め政策に転じたが、各国とも財政支出を拡大させ続けたことで、現在も政府債務残高や中銀のバランスシートは高水準のままになっている。 いまのAIや半導体の関連企業は業績を上げていることがITバブルとの違いだ。エヌビディアのPER(株価収益率)は足もとで40倍近辺と依然高水準だが、バブルと言えるほどではない。過去10年間の平均で60%を超える純利益成長率をみせた同社が、このまま収益が伸びていくなら、2~3年で正当化できる水準である。 直近のAIブームがバブルなのかどうかは市場の争点の一つだが、対象企業の業績面などをみると、マーケット的にはバブルの「におい」はまだ薄い。市場性、不確実性、ナラティブ、成功例、溢れるマネーなどバブル発生に必要な条件はそろっている。各中銀が本格的なインフレ対応、つまり積極利上げに転じるかがバブル発生のカギを握るが、日米など利上げに慎重な国も多い。ポピュリズム的な政権が世界で増えてきたことが背景だ。バブル発生はこれからなのかもしれない。 日米が積極利上げに転じなければドル高円安傾向は継続。これもハイテク株を中心に日本株を押し上げる要因になる。インフレ傾向が続くことから金も底堅いだろう。ただし、「ビハインド・ザ・カーブ」の懸念が強まらず、金利が急上昇しないことが条件だ。 ◇伊賀大記(いが・だいき) 金融経済ジャーナリスト。株式専門誌やロイター通信での記者を経て現在フリー。金融市場やマクロ経済に関するトピックをブログ(東京クロマ通信)で毎営業日配信中。 株探ニュース