武者陵司「Mr.マーケットが正当化するトランプの破天荒作戦」

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コラム

―戸惑うメディア・専門家・コメンテイター―

(1)メディア・専門家のトランプ批判大合唱と堅調な市場との極端なギャップ

●破天荒なトランプについていけないメディア・専門家

 トランプ批判大合唱の中で、2月28日のイラン空爆により8%下落した米国株式(S&P500指数)は4月13日に全値戻しを達成し、史上最高値更新まであと1%のところまで回復している。原油先物価格も期近物は1バレル=90~110ドルと高値圏に張り付いているが、6カ月先物は70ドル台で落ち着いている。市場はホルムズ海峡の長期封鎖や第三次石油ショックなどというセンセーションは全く想定していないのである。有事のドル高とはいえ、この間のドルインデックスは98~100ポイントの狭い範囲内の推移で終始し、インフレ懸念による米国長期金利も4%から4.5%まで上昇したものの、4月15日には4.2%台と過去一年間の中心値に戻っている。

●市場はトランプ作戦に勝機を見出している

 この市場の安定性と、メディアや専門家の間で喧伝される悲観論の大合唱とのギャップを、どのように整理すればいいのだろうか。敢えていえば、トランプ政権のあまりにも破天荒な政策の連発にメディアや専門家がついていけていない、ということだろう。

 しかし、リアリズムに基づく金融市場は、トランプ政権の一連の政策はビジネス環境を阻害せず、むしろ明るい近未来があり得る、と見ている。専門家やメディアの悲観論、トランプ政策非難は改めて説明するまでもないだろう。いま説明されるべきは、市場が見ているリアリズムとはどのようなものかであろう。敢えて自らをMr.マーケットに擬して市場論理を正当化してみよう。

(2)ホルムズ海峡封鎖は続かない、原油価格はいずれ反落へ

●ホルムズ封鎖は、“窮鼠猫をかむ”如くの悪手

 まず第一に、ホルムズ海峡の封鎖は長期化せず、原油価格は半年から1年後にはイラン攻撃前の60~70ドル台に戻るのではないだろうか。原油先物市場では完全なバックワーデーション(現先逆ザヤ)となり、先安観が形成されている。

 そもそも主要国の一次エネルギーに占める原油の依存率は、過去50年間で半減しているうえ、2010年代中頃からの米国のシェール革命により米国が世界最大の産油国になった。米国はいまや鉱物燃料の純輸出国(年間貿易黒字1000億ドル程度)であり、エネルギーの中東依存度は大きく低下している。ちなみに、日本のエネルギーに占める石油依存度も、1973年の第一次石油ショック時の76%から2010年は40%、2024年には35%と低下している。

 原油供給の2割が通るというホルムズ海峡の世界経済に対する重要度は、だいぶ低下しているのである。サウジ東西パイプライン、アラブ首長国連邦(UAE)からアラビア海へのパイプラインなど、ホルムズ海峡を迂回するルートもあり、長期封鎖されたところで世界不況を引き起こすほどのインパクトはないだろう。

●ホルムズの米国管理はイラン・中国にとって悪夢

 より重要なことは、ホルムズ海峡の封鎖がだれの利益にもならないことである。サウジ、カタール、UAEなどの湾岸諸国のみならず、イランにとっても海峡は生命線である。特に、経済制裁下にあるイランにとって、ホルムズ海峡を経由した対中貿易は命綱である。原油輸出の9割が中国に輸出され、自由主義国が禁輸している製造業製品(軍事装備品、エネルギー関連設備、デュアルユース[軍民両用]技術製品)もホルムズ海峡を経由して中国から調達していると推測されている。

 米国のイラン攻撃が熾烈化し、ホルムズ海峡の支配権が米国に移れば、イランにとっては命綱を絶たれることになる。また、ベネズエラ、イランという中国が影響下に収めていた諸国の離反は、中国の国際プレゼンスの低下に結びつく。

 イランのホルムズ海峡を人質にとった政策は、長くは続くはずのない「窮鼠猫をかむ如くの悪手である」ことは明らかである。5月14日のトランプ訪中前に、ホルムズ海峡開放の朗報が聞かれる可能性は大きいだろう。

(3)トランプ訪中から始まる米中共存時代

●TACOの屈辱

 第二に来るべきイラン停戦とホルムズ開放の後、世界の地政学環境が一変することが予想される。

 背景に米中のパワーバランスの変化がある。2025年末のバランスは中国が優勢を強めていた。トランプ政権による145%関税引き上げは、中国の レアアース禁輸の脅しに遭い、腰砕けになった。トランプ氏はTACO(Trump Always Chickens Out:トランプ氏はいつも尻込みする)となり、弱腰化し、米中を「G2」と称して、中国を米国とともに世界をリードする特別の国と持ち上げた。4月に予定されていたトランプの訪中は、米国農産物などの輸入拡大、1年に限定されているレアアース供給の期間延長など、物乞い訪中になる、と見られた。カードは完全に中国に握られていたのである。

●対中優位性を取り戻したトランプ政権

 しかし、年初以降の鮮やかな対ベネズエラ侵攻とマドゥロ大統領の拉致、イラン空爆と指導者殺害などにより、米国は軍事力と機動力の高さを見せつけた。また、中国が影響下に置いていたベネズエラ、イランなどの経済的に破綻している独裁国家を米国側に引き寄せた。昨年末発表されたNSS(国家安全保障戦略)では、米国は相手国のレジーム変更は求めないものの、これ以上の中国の力による現状変更は絶対認めない、という決意も表明した。

●米国の生命線に躍り出た台湾

 注目するべきは、台湾の米国にとっての重要性の高まりである。米国貿易赤字の相手国別推移を年次ベースで見ると、対中赤字が急減し、代わって中国が工場移転を進めている対メキシコと対ベトナム向け赤字が急増していることがわかる。しかし、四半期ベースで見ると、米国の対台湾赤字が急増し、今年に入ってからは台湾が米国にとっての最大の貿易赤字国になっていることが伺われる。理由は台湾積体電路製造(TSMC)を中心とした、台湾のAI(人工知能)関連製品の対米輸出の急増である。

 いまや米国のハイテク、特にAI関連のハードウェアは完全に台湾に供給を依存しており、このトレンドはさらに強まるとみられる。台湾は、米国経済の生命線を握るまでに成長した。米国は台湾を絶対手放すことができなくなった。

 ベネズエラ、イランで米国の好戦性を見せつけられた中国は、米中全面戦争の覚悟をしない限り、台湾侵攻は不可能という事態である。

 5月14日からのトランプ訪中は、一転して米国優位の下で交渉が展開されるだろう。米中は相手に銃口を向けつつ、表面的な協調共存を謳う時代に入っていくのではないだろうか。共に天を戴くことはないが、打倒することもできない相手として、経済共存を追求していくだろう。トランプ政権にとっては11月の中間選挙に向けて経済環境の改善が必須であり、中国はバブル崩壊とデフレ進行、脆弱内需の下で、経済立て直しは急務である。

●米中経済協力は株価にとって好材料

 バブル崩壊が未だに道半ばの中国は、今後長期にわたって経済低迷を余儀なくされるだろう。2022年以降、中国の名目経済成長率は米国を下回り続けている。これから米中の経済格差は拡大していく一方だろう。トランプ政権は米中共存の下での持久戦によって、中国の覇権獲得を抑えていくだろう。

 この表面的ではあれ米中共存体制が確認されることは、当面の世界経済と市場にとってポジティブであろう。年後半の株高を推し進める追い風になる。

(4)トランプ政権の対中政策大転換(「ストラテジーブレティン376号 2025.4.1」より)

●レジームチェンジから平和共存へ

 21世紀に入ってからの米国の対中国関与政策(Engagement Policy)は、『需要不在の工業力という巨大な不均衡(=中国という怪物)』をつくってしまった。

 この中国とどう向き合うべきか。中国に圧力をかけ共産党独裁体制を転換するなどという、ネオコン的アブローチはもはや不可能である。第一次トランプ政権で外交・安全保障を担ったジョン・ボルトン氏やマイク・ポンペオ氏などのネオコン系指導者が採用されなかったことから、第二次トランプ政権はリアリストサイドに舵を切ったと見られる。

●対中抑止と共存のリアリズム

 中国との共存時代が続くことを前提に、長期的に中国を抑制していく戦略は、ジョージ・ケナン(George F Kennan)の対ソ封じ込め政策のような、中国封じ込めが必要になってくるだろう。ケナンはソ連は、(A)自国の安定のためには、米国社会の調和を破壊し、生き方を押しつぶし、権威を引きずり下ろすことが望ましいと狂信的に信じている勢力、とこき下ろす一方、(B)ナチスと違って危険を冒さない、と共存の可能性も主張した。では、いまの中国は?

 現代のケナンと評されるエルブリッジ・コルビー氏が、国防次官として米国軍事戦略の中枢に座った。コルビー氏は著書「アジア・ファースト 新・アメリカの軍事戦略」(文藝春秋)の中で、(a)中国が最大の脅威であり、全資源をアジアに振り向けること、(b)中国の台湾侵攻などの現状変更、武力行使を思い止まらせる必要、(c)中国のレジームチェンジは求めない、と主張している。習近平国家主席に武力行使のコストが大きいことを思い知らせて、事前にアクションを止めること、ただし中国を追い込まず共存を続けること、となるのだろう。

 破天荒に見えるベネズエラ、イランに対する武力行使も、このコルビー戦略の新展開と考えられる。

(2026年4月16日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン398号」を転載)

株探ニュース

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