安田秀樹【IPコラボと空港新線、新たな展開で期待高まるJR2社】

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コラム

●イラン停戦合意もサプライチェーンには深刻な影響か

 今回もどうしてもイラン情勢には触れておかねばならないだろう。4月7日、ようやく米国とイランの間で停戦合意となったが、残念ながら事態が完全に収束したとは言えない状況のようだ。こうなってくると、2026年度の企業業績への影響は避けられないと言えるだろう。

 日本は石油の備蓄が多いため、当面の影響は軽微と思われる。だが東アジア全体への波及については不透明な部分が多い。現時点での報道は生産面への直接的な影響は限定的なものにとどまっているが、ゲーム機の多くはベトナム、マレーシア、カンボジアなどで生産されている。事態が長期化し、物流網への攻撃やエネルギー価格の高騰が続けば、サプライチェーンへの深刻な影響が懸念される。

 電子部品の調達から最終製品の組み立てに至るまで、サプライチェーンは綿密に構築されており、ドミノ倒しのように影響が広がる可能性もあるため、先行きは見通しづらい。この点については今後もリサーチを継続し、続報をお伝えしたい。それでは今月は、筆者がカバレッジしている各社を回る中で、印象に残ったトピックについて触れていきたい。

●JR九州が任天堂とのコラボに力を入れる理由

 先月も言及したとおり、JR九州 <9142> が任天堂 <7974> とコラボレーションを行っている。印象に残ったのは、JR九州と任天堂の双方が決算説明会で、このコラボに言及していた点である。

 以前、任天堂の代表取締役フェローでもある伝説的なゲームプロデューサー、宮本茂氏が、「任天堂をキャラクターのマネジメント会社と捉えている」と話していた。JR九州とのコラボで中心となっている「スーパーマリオ(以下、マリオ)」は任天堂の中でも特別なキャラクターと言えるので、今回は任天堂側がJR九州を高く評価していることが窺える。また鉄道事業者側にとっても、IP(知的財産)が「移動の動機付け」として相性が良いことが徐々に認知されてきたように思う。

 さらにあまり知られていないが、2016年の熊本地震で被災した日田彦山線をBRT(バス高速輸送システム)として復旧させた「BRTひこぼしライン」では、現在、マリオのラッピングバスが運行されている。任天堂が乗客の少ないBRTに最有力IPであるマリオの使用を許可している点は、非常に興味深い。筆者も実際に乗車したが、美しい景観の中をマリオのバスが走る姿は非常にインパクトがある。機会があればぜひ乗車していただきたい。

 任天堂がグローバル展開している一方、JR九州は九州地域が中心であるため、一見アンバランスな印象を持つ方も多いだろう。しかし任天堂の視点で見れば、福岡・博多は韓国や東アジア諸国に近く、高いインバウンド需要がある。さらに博多・福岡は九州地区のハブであり、整備された高速道路網を生かした西日本鉄道 <9031> などの高速バス、南北を貫く九州新幹線、大分方面からの在来線など、交通の結節点として非常に高い集客力を誇る。この地理的特性こそが、任天堂がJR九州を評価している背景にあるのではないだろうか。

 JR九州に限らず、鉄道の地方ローカル線は現在、苦戦している路線が多い。鉄道の規格が古く速達性に欠けるところに、東日本大震災以降、無料の自動車専用道路の整備が加速されたこと。さらに、九州の鉄道が元々人流目的ではなく、石炭輸送(運炭)を目的に敷設されたため、現在の需要と乖離していることなどが要因だ。

 地方のローカル線は残念ながら役割を終えているところも多く、日本各地の高速道路網同様に、新しい投資スキームを構築する一方、IPの活用を含め、新しいビジネスモデルに活路を見出す必要があるだろう。

●JR東日本の新線、羽田空港線は意外な競争力の強さを発揮か

 もう一つ鉄道の話題がある。JR東日本 <9020> が昨年度末に行った羽田空港アクセス線(仮称)の説明会である。筆者が興味深く見たのが、羽田空港新駅(仮称)の位置である。この駅は、現在ある京浜急行電鉄(以下、京急) <9006> や東京モノレールのホームよりも浅い位置に建設されるという。この計画を筆者が知った時は驚かされた。これまで、後発の路線の駅が既存路線の駅の上部に建設される事例はあまり見たことがなかったからだ。

 しかもJR東日本の新駅はホームと改札が同一階層になり、第1・第2ターミナルの連絡通路にダイレクトに接続される予定だという。当初は第2ターミナル近接の相当深い位置に駅ができると予想されており、JR東日本の方が不利だと見ていた筆者にとって、この計画は非常に利便性が高いと感じられた。京急やリムジンバス、タクシーに対しても十分な優位性があると思われる。

 ただし課題もある。改札が便利な位置にある駅の構造上、ターミナル改札に近い車両に乗客が集中する可能性が高い。15両編成は約300メートルもあるため、数字上の輸送力はあっても実際の利用状況とミスマッチが起きそうだ。さらに、単線区間の存在や東京駅付近の線路容量(運行本数の限界)も懸念材料である。実際、朝の時間帯は厳しいとのコメントがあった。

 また、羽田空港アクセス線(仮称)の終端部の先には連絡通路や首都高を跨ぐ陸橋の基礎構造があるため、横浜・川崎方面や第3ターミナルへの延伸は難しいようである。それでも羽田空港の利用客は継続して伸びており、東京方面からの延伸のメリットは依然として大きい。開業初日から賑わうことになるだろう。

 また、正式決定ではないが、東京臨海高速鉄道のりんかい線経由での乗り入れ計画もある。羽田空港から東京ビッグサイトへ行きやすくなれば、オリエンタルランド <4661> が運営する東京ディズニーリゾートへの輸送効率や、カプコン <9697> 、コナミグループ <9766> 、コーエーテクモホールディングス <3635> 、バンダイナムコホールディングス <7832> といったゲーム会社が出展する「東京ゲームショウ」をはじめとしたイベントの利便性も大幅に向上するだろう。

●インフレの影響を逃れることができないゲーム機市場

 ゲーム市場を巡るニュースでは、「任天堂が1~3月期に『Switch2』を減産する」とブルームバーグが報じた。市場には驚きが広がったが、筆者はこれを「想定の範囲内」の動きであると捉えている。

 その理由は、任天堂の26年3月期における販売目標1900万台に対し、第3四半期(25年10-12月期)までの累計販売実績が1737万台に達しており、目標達成がすでに見えている一方で、年末商戦期の欧米市場が計画未達に終わっていることだ。

 米国関税の影響を見越した需要の前倒しや、一部タイトルの不振に伴う在庫調整を考慮すれば、第4四半期(26年1-3月期)の減産は季節要因を含んだ適切な判断と言える。筆者も同期の販売予想を2200万台から2050万台へ引き下げていたが、今回の報道にある200万台の減産はこの修正幅に極めて近い。新作「ぽこ あ ポケモン」のヒットに至るまでの欧米での苦戦を鑑みれば、今回の減産は妥当な帰結と言えるだろう。

 加えて言及しておきたいのが、「Switch2」の日本市場における採算性である。現状、「Switch2」の国内販売価格は「多言語版」が6万9980円、「日本語専用版」が4万9980円(ともに税込)と設定されている。米国の449ドル(約7万2000円弱)と比較すれば、日本市場がいかに割安な設定であるかは明白だろう。

 部材コストの高騰や円安の影響を考慮すれば、1台あたり2万~2万5000円程度の"逆ザヤ(製造原価が販売価格を上回る状態)"が発生していると推測される。以前に筆者がこの見解を示した際、SNS等では懐疑的な見方もあった。しかし、第3四半期の決算説明会における筆者の質問に対し、同社の古川俊太郎社長は、「(国内販売の好調が)売上総利益の押し下げ要因になっている」と回答している。これは、売れば売るほど利益が削られる、つまり製造原価が販売価格を上回っているという回答だと理解でき、多少のズレはあるかもしれないが、日本での採算が悪化しているのは確かである。

 競合であるソニーグループ <6758> も「プレイステーション(PS)5」は、26年4月から各モデルで最大1万8000円の大幅値上げに踏み切っている。この現状を見れば、業界全体へのコスト上昇圧力が極めて高いことは疑いようがない。

 それでも日本語専用版の「PS5デジタル・エディション」(5万5000円)が値上げ対象外となったのは、明らかに4万9980円の「Switch2」を強く意識した対抗策だろう。任天堂との"我慢比べ"の様相を呈しているが、昨今のインフレや地政学リスク(ペルシャ湾や紅海周辺の物流網への攻撃)によるコスト増を考えれば、今年度も原価低減は容易ではないだろう。

 収益を度外視したハード普及が続くことは、プラットフォーマーである両社にとって極めて重い課題となっている。今後は、中東情勢の影響も含め、インフレへの対応が企業収益改善のカギとなるだろう。まずは5月に本格化する各社の決算発表がポイントになるはずだ。

【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト 

1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、26年4月からは東洋リサーチアドバイスのアナリストとして活動している。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。

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