買い場は訪れたのか、これだけある反転期待の銘柄群<大山季之の米国株マーケット・ビュー>
投稿:
◆インデックスの足を引っ張るマグニフィセント7の株価低迷 パキスタンの仲介で、米国とイランが即時停戦で合意したと報じられている。早速、「TACOトレード再開」とばかりに、時間外で米国株市場は急反発しているが、これで万事解決と判断するのは時期尚早だろう。今回の合意は一時しのぎの面が強く、事態の完全収束にはほど遠い。1カ月の混乱に伴うサプライチェーンの毀損が世界経済に及ぼす影響も、現段階では見通せていない。やはり、3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)後の会見で、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が「誰にも分からない」と吐露したとおり、不透明感が漂う状況は続いていると見るべきだろう。 そんな状況だからこそ、ここで一度、イラン情勢から一歩視線を外し、主要株価指数や個別銘柄の年初来パフォーマンスを改めて精査してみたい。年初来から4月3日までの騰落を見ると、S&P500種指数は約4%下落、ナスダック総合指数は約6%の下落を記録している。同時期、日経平均株価が約4%上昇し、韓国のKOSPIに至っては約24%もの急騰を見せていることと比較すれば、米国株市場全体がいかに低迷しているかが分かる(株価指数はいずれも現地通貨ベース)。 この米国株低迷の主因は、端的に言えば「マグニフィセント・セブン(M7)」の不振に集約される。M7全体の年初来パフォーマンスは約12%の下落。エヌビディア、アルファベット 、アップル は約5%前後の下落と指数並みの下げにとどまっているが、アマゾン・ドット・コム は約9%、メタ・プラットフォームズは約13%、そしてテスラ が約15%、マイクロソフト は約23%という大幅な下落を演じている。 しかし、指数が沈んでいるからといって、米国株のすべてが不振なわけではない。セクター別で見れば、エネルギー関連は30%超、素材関連は10%超の上昇を示しており、S&P500構成銘柄の中から高配当銘柄を厳選したETF(ステート・ストリート・スパイダーポートフォリオS&P 500高配当株式ETF )も約5%の上昇を記録している。 個別銘柄に目を向ければ、株価が年初来で約3倍の水準に達しているメモリー半導体大手のサンディスク を筆頭に、化学薬品大手のライオンデルバセル・インダストリーズ 、化学製品世界最大手のダウ 、通信インフラのシエナ 、データ・ストレージ大手のウエスタン・デジタル などはいずれも70%以上、メタとの光ファイバーの大型契約が話題を呼んだコーニング も70%近い株価上昇を達成している。 これらの株価推移は何を意味しているのだろうか。イラン情勢が相場全体の下押し圧力になっているのは事実だが、それだけでは説明がつかない。マーケットの深部では、地政学リスクとは別の、より巨大な力学が働いているのではないか。こうした視点で市場を読み解くことが、これからの投資戦略を練る上で極めて重要になる。 ◆マイクロソフトは10年ぶりの割安水準、企業価値は本当に下がったのか 現在の市場環境において、一つの指針となるのが「米国の富裕層がどのようなポジションを取っているか」を探ることだ。先日、米CNBCが興味深いニュースを報じていた。それによると、資産1億ドルを超える超富裕層向け投資グループとして知られる「R360」メンバーの資産配分では、現在、保有銘柄をエネルギーや防衛セクターへシフトさせる一方、短期国債を含めた「現金比率」を30%まで高めているという。 エネルギー関連については、天然ガスの供給などを国内で完結できる"地産地消"型の米国企業特有の強みがあり、また世界的な地政学リスクが増大する中では、防衛関連の需要増は明白だ。超富裕層のポートフォリオらしい、極めて冷静で、状況に応じたポートフォリオのバランスと言える。しかし、注目すべきは積み増しされた「待機資金(現金・短期国債)」の行方だ。報道によれば、このキャッシュはただの避難ではなく、来るべき「買い向かう局面」に向けて、満を持して準備されているものだという。 では、彼らは何をターゲットにしているのか。同グループが挙げているのは「ハイテク株」と「金融株」だ。金融株については、バランスシートの強固さを背景に、相場が反転すれば自然と資金が戻るという見立てだ。そしてハイテク株に関しては、現在の下落局面を絶好の「買い場」として虎視眈々と狙っているのだ。ここに我々が取るべき戦略のヒントが隠されているのではないだろうか。 そもそも、M7をはじめとするハイテク大手の株価が、なぜこれほどまでに売り込まれているのか。戦争の長期化に伴う金利の高止まりも一因ではあるだろう。だが根底にあるのは、昨年来のAI(人工知能)データセンターへの過剰投資懸念や、今年に入ってからのソフトウエア企業に対する成長鈍化の懸念が払拭できていないことだ。しかし、はたして実態として、そこまで売られる必要があったのだろうか。 例えばメタを考えてみてほしい。彼らは地政学リスクとは無縁の「SNS」という強力なビジネス・資本を保有している。インスタグラムの動画再生数は急増しており、AI投資の効果で広告のエンゲージメントも飛躍的に高まっている。それにもかかわらず、現在の株価は26年12月期の予想PERで20倍を切る水準まで売り込まれている。バリュエーションの観点で見れば、マイクロソフトも16年以来、実に10年ぶりと言われるほどの割安な水準にまで沈んでいる。これはどう考えても「売られ過ぎ」ではないだろうか。 ここまでは私感だが、マーケットの専門家による客観的な評価も同様だ。現時点のメタの株価、約570ドル水準に対し、アナリスト・コンセンサスの目標株価は858ドル、一部では1000ドル超との声もある。マイクロソフトは現時点の370ドル水準に対しての目標株価は587ドル、アマゾンは210ドルに対して283ドル、エヌビディアも175ドル水準に対し270ドルとなっている。もしこれらの見方が妥当であれば、アマゾンで30%超、エヌビディアで50%超、マイクロソフトに至っては60%近いリターンが期待できる計算になる。いずれも歴史的に見て極めて割安な水準にあるのだ。 マイクロソフトに関しては、米バロンズ誌が興味深いアナリストの見解を紹介している。同社は26年中にAIインフラへ1600億ドルの投資を予定しているが、そのアナリストによれば、これらの投資額を回収できるクラウド契約はすでに確保済みであり、「現在の過剰投資論には根拠がない」と断言している。市場全体のムードは依然として疑心暗鬼だが、企業の内部数値を精査するアナリストがこれほど強気の予測を出すからには、相応の確証があるはずだ。リスクオフの局面がいつ終わるかを現時点で特定するのは難しいが、この事実は頭に入れておくべきだろう。 一方、M7の中で異彩を放つのがアップルだ。同社のバリュエーションは比較的安定している。これは、現在の過熱するAI投資の主流から一定の距離を置き、独自の経済圏を維持している同社が、皮肉にもハイテク投資資金の「一時的な逃げ場」になっているためだろう。ただし、その安定感ゆえに、相場が反転しリスクオンに転じた際には、上昇の勢いに置いて行かれる可能性が高いことも覚悟しておく必要がある。 ◆第1四半期決算の注目点は「コストプッシュへの耐性」 そんな不透明な相場環境が続く中、米国企業の26年1-3月期決算発表が始まる。今回の決算における注目点は大きく二つある。 一つは、各企業の経営陣が現在の局面をどう捉え、どのような先行きの展望を持っているかだ。コロナ禍の初期と同様に、不透明感を理由にガイダンス(業績予想)を出さない企業も現れるかもしれない。このような相場だからこそ、経営陣から発せられる一言一句にマーケットは敏感に反応するだろう。 もう一つは、企業の「耐性」を推し量る場になるという点だ。ホルムズ海峡封鎖の実体経済への悪影響が本格化するのはこれからだが、原材料価格の高騰などにより、製造部門がコストプッシュの圧力にさらされるのは自明の理だ。この状況下で、企業がいかに利益率を維持できるか。その鍵を握るのは「在庫量(原材料の在庫・完成在庫)」だと私は見ている。現時点で在庫を十分に確保できているか否かで利益率は大きく変化し、今後の業績見通しには大きな差が生まれるだろう。 具体的な事例を挙げれば、ファッション業界の対比が分かりやすい。ラルフ・ローレン はすでに半年分以上の完成在庫を確保し、供給網の混乱に備えている。対照的に、同業のルルレモン・アスレティカ は45日程度の完成在庫しかないと報じられている。スポーツ用品大手のナイキ も状況は深刻だ。不運にも在庫調整を進めていた最中に今回の地政学リスクに直面してしまった。業界平均が200日程度とされる中で、同社の完成在庫はわずか45日分。3月31日に発表された26年5月期第3四半期(12-2月期)決算で弱気のガイダンスを出したことで株価は急落したが、これは市場が同社の「耐性の欠如」を見抜いた結果ではないだろうか。 M7をはじめとするAI関連企業については、先に述べたとおりバリュエーション面ではすでに十分な調整が進んでいる。地政学リスクは制御不能であり、予測は不可能だが、それ以外のカタリストがあれば、再び相場に火が点く可能性は高い。では、そのカタリストとは何か。それは、マーケットが渇望している「具体的なAIの収益化事例」に尽きる。AIを導入することでどのような新サービスが生まれ、それが実際にどれほどのキャッシュをもたらしているのか。次の決算で、この問いに明確な回答を提示できる企業が現れるかどうかが、相場全体の分水嶺となるかもしれない。 ◆エネルギー、防衛、インフラ、売られ過ぎ銘柄に投資妙味 では次に、今後の具体的な個別銘柄への投資戦略について、改めて整理してみたい。核心は「戦争以外の好材料を持つ企業を探せ」という点に集約される。それはマイクロソフトやメタをはじめとした、M7の中にも存在するだろう。テスラやアップルを除外すれば、実態と株価の乖離は大きく、反転時の上値余地は極めて魅力的だ。 また、以前から指摘している通り、売られ過ぎているソフトウエア銘柄には非常に強い投資妙味を感じる。クラウドストライク・ホールディングス 、パロ・アルト・ネットワークス 、クラウドフレア 、パランティア・テクノロジーズ 、そしてセールスフォース などがその代表格だ。各社とも今年1月の「クロード・ショック」から現在のイラン情勢に至る流れの中で大きく値を下げているが、その成長ポテンシャルを冷静に評価すれば、相場の潮流が変わった瞬間に大きなリバウンドが期待できる銘柄群である。 一方で、戦局がどのように推移しても揺るがないセクターも存在する。ウォルマート やコストコ・ホールセール といった生活必需品セクターだ。ウォルマートは先日、傘下の会員制量販店サムズクラブの値上げを断行したが、顧客ロイヤルティーが非常に高いため、客足が鈍る懸念は少ない。インフレやコスト増を価格転嫁で吸収できる企業の強さは、こうした局面でこそ真価を発揮する。 さらにAI関連の周辺領域として、コーニングやシエナなどの通信・電力インフラ企業も本命と言えるだろう。全米でデータセンターの建設ラッシュが加速しているが、最大のボトルネックは米国内の送電網の老朽化だ。JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー の試算によれば、この送電網を最新設備へ更新するためには1兆ドルもの巨額投資が必要だという。両社は年初来で株価が急騰しているが、このインフラ需要の巨大さを考えれば、現在の株価は依然として通過点に過ぎない可能性がある。 エネルギー関連では前述のとおり、中東リスクに左右されない"地産地消型"のビジネスに勝機がある。カナダを拠点とする北米最大級のエネルギーインフラ企業エンブリッジ 、メキシコ湾等で採掘を行うウイリアムズ・カンパニーズ 、広大なパイプライン網を持つキンダー・モーガン などだ。エネルギー供給体制が簡単には平時に戻らないとされる中で、これらの企業への期待は高まる一方なのだ。 ただし、エネルギーセクターは銘柄数が多く、選別が難しい側面もある。その場合は、米国のエネルギー・インフラに投資するMLP(マスター・リミテッド・パートナーシップ)を対象としたグローバルX・MLP ETF や、スマートグリッド関連のファースト・トラスト・ナスダック・クリーンエッジ・スマートグリッド・インフラ指数ファンド といったETFを活用するのも賢明な選択だ。 ◆スペースX、オープンAI、アンソロピック上場に高まる期待 最後に、不安が渦巻く現在の市場における"希望"についても触れておきたい。4月1日、ついにイーロン・マスク率いるスペースXの上場申請が発表された。人類が半世紀ぶりに月を目指す「アルテミス2計画」の進展という歴史的なニュースとも重なり、もしスペースXの上場が実現すれば、米国株マーケットにとって、計り知れないポジティブな刺激となるはずだ。 さらに、オープンAIやアンソロピックの年内上場も見込まれている。これら3社の上場によって、現在の「マグニフィセント・セブン」は「マグニフィセント・テン」へと進化を遂げる可能性があるのだ。市場では「既存銘柄から資金が流出するだけではないか」との懸念もあるが、3月末に報じられたオープンAIによる1220億ドルの新たな資金調達成功というニュースを見る限り、AI革命への期待は新たな巨額資金を市場に呼び込むエネルギーを十分に持っている。 確かに現在の相場がイラン情勢に支配されてしまうのは避けがたいことだろう。しかし、この苦境を乗り越えた先には、かつてない明るい話題が控えているのも事実だ。トランプ発言に必要以上に一喜一憂する必要はない。むしろ、来るべき"ビッグチャンス"に向けて、今は冷静に銘柄を吟味し、キャッシュ・ポジションを積み上げておくべき時なのだ。富裕層がそうしているように、個人投資家もまた、次の上昇気流に乗るための準備を怠たるべきではないだろう。 【著者】 大山季之(おおやま・のりゆき) 松井証券マーケットアナリスト 1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。 株探ニュース