日銀利上げ路線で熱視線、新春相場へ底力発動の「金融・バリュー株」 <株探トップ特集>

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コラム

―日本株取り巻く環境に20年前との類似点、米ドル供給量増加で金価格に上昇圧力も―

 日本銀行は18~19日の金融政策決定会合で、0.25%の利上げに踏み切る公算が大きい。並行して、金融市場では日銀がターミナルレート(利上げの最終到達点)の引き上げを模索しているとの観測が広がっており、今月の決定会合で利上げが決まった後も、追加利上げの時期を市場は模索することとなりそうだ。一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)は3会合連続の利下げに踏み切り、非QE(量的緩和)とはいえ短期国債の買い入れに踏み切った。日米の金融政策と直近までの通貨供給量を見据えると、2026年の注目セクターが浮かび上がることとなる。

●FOMC後にNYダウ最高値

 注目された年内最後の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、大方の予想通り3会合連続の0.25%利下げとなった。パウエルFRB議長はFOMC後の記者会見において、「追加利下げも排除しない」と述べるなど、ハト派的な印象を市場参加者にもたらした。

 更にFRBは、今月12日から月額400億ドル(約6.2兆円)の財務省短期証券(Tビル)の購入を開始すると発表した。この措置は市場の流動性と金利誘導目標システムの管理を確実に維持することが目的だという。納税期限によって流動性の需要が高まる来年4月に準備預金が急速に減少するリスクに備える。数カ月間は高水準の買い入れを進め、その後は月間200~250億ドルと購入額を減らす見通しだ。

 今回の措置に対してパウエル議長は「十分な準備金供給を維持し、政策金利の効果的な管理を支えることのみを目的としている」と述べ、「これらの問題は金融政策スタンスとは別であり、いかなる影響も及ぼさない」と強調した。しかし市場では、暗に景気を押し上げるステルスQEの実施だと捉える向きがある。FOMC後、ハイテク株は頭打ちとなってはいるものの、NYダウとS&P500指数は過去最高値を更新した。

 FRBはコロナ禍対応で金融緩和に踏み切った後は利上げに転じ、22年6月以降はQT(量的引き締め)に動いた。結果として9兆ドルにまで膨らませたバランスシートを6.6兆ドルまで縮小させたが、その過程で短期金融市場にひずみが生じることとなった。短期国債の買い入れはあくまでこうした問題に対するテクニカルな対応とされるが、ドル供給量を増加させる効果をもたらすものでもある。

 ドル供給量はQTの実施に伴って一時的に減少したが、24年以降は増加に転じており、FRBによる利下げによる効果が表れるようになった。米国の民間部門が保有する資金量(M2)をみると、25年4月に過去最高額を更新。その後も増加を続け、最新の統計である10月は22兆2981億ドルと19年末比で45%増。過去20年間では約3.3倍に膨らんだ。M2は通貨供給量を示す指標の一つとされる。

 日銀に関しては金融政策決定会合を前にして、0.25%の利上げを市場は織り込み済みとのことだが、投資家の視線はその後の利上げペースに向かっている。植田総裁は1日の名古屋市内での講演後の記者会見で、現在の金利水準と、景気を冷やすことも熱することもない中立金利との距離について、「次回利上げをすることがあればその時にその時点の考えをもう少しはっきり明示させていただければと思う」と述べた。これを受け、決定会合後の記者会見で中立金利に関してどのような発言をするのかに市場参加者の関心が向かっている。現行は1~2.5%の間とされている推計値を日銀が引き上げ、追加利上げの余地を広げるのではないか、といった思惑もマーケットを席巻するようになった。

●小泉相場と類似なら来年5月に6万2000円の公算

 日経平均株価は11月の調整分を少しずつ回復させてはいる。26年の干支が午(うま)であることを踏まえ「辰巳天井、午尻下がり」という相場格言にならえば、年末の足もとの局面はこの先の相場の調整リスクが意識されるところでもある。ただし直近5回の午年相場は、02年と90年は年間ベースで下落。それ以外の年は上昇している。

 単年ではなく複数年のスパンで考えると、今回の株高は23年春を起点としている。25年にアベノミクス後継者とされる高市早苗首相による新内閣が発足し、積極財政による景気押し上げ効果の期待も加わって、一段と株高に弾みがつく格好となった。ただアベノミクス相場と23年春以降のマーケットを比較すると、金利の動きは大きく異なる。その意味で、20年前のマーケット環境のほうが類似点は多い。

 当時は03年春から「不良債権問題終結相場」が本格化し、05年に小泉純一郎首相のもと郵政民営化法案が成立。構造改革の評価を追い風に株価水準は切り上がった。こうしたなかで日銀は06年3月に量的緩和政策を、7月にはゼロ金利政策を解除している。小泉相場では国内の長期金利は上昇し、メガバンクが好パフォーマンスをみせている。政治面での変革期待と金利の上昇、銀行株物色は、23年以降のマーケット環境と相似形をなすと考えられるだろう。

 リスク要因としては、米長期金利の動向が挙げられる。FRBは今年11月に公表した金融安定報告書のなかで、市場参加者に対し懸念されるショックについてヒアリングした結果をまとめており、このうち長期金利の上昇を選んだ回答者の割合が43%と25年春調査の9%から著しく上昇している。Tビルの買い入れ額の減額のペース次第では、来春以降の米金利に上昇圧力を掛けるリスクがある。「セル・イン・メイ」のシナリオに基づき、日本株が20年前と同じような軌跡を辿るとすれば、来年の日経平均は5月に6万2000円を突破したところで高値となり、7月には5万1000円近くまで下落し、その後に回復するものの、5万8000円辺りで年末を迎えることになる。

 こうした予想を踏まえ有望セクターを選定していくと、金利上昇の恩恵を受ける銀行セクターと、円高の恩恵が受けられる内需系のバリューセクターが考えられる。銀行セクターは国内金利上昇に伴う長短金利差の拡大から収益増が引き続き期待される。今月17日にSBI新生銀行 <8303> [東証P]が新規上場する予定であることから目先的にも関心が集まっている。このほか、非鉄セクターのうち電線株はバリュエーションが切り上がったが、ドル供給量の増加で相対的に金価格が上昇することを踏まえれば、物色人気化が期待できる銘柄もある。

●あおぞら銀や日本精鉱などをマーク

 あおぞら銀行 <8304> [東証P]は26年3月期第2四半期累計(4~9月)の連結純利益が、前年同期比14.2%増の136億1300万円に拡大。年間配当予想は前期比9円増配の88円だ。目先の株価はSBI新生銀の上場に伴って換金売りに押されている可能性がある。これが一巡すれば再び好業績を評価することが考えられる。

 MS&ADインシュアランスグループホールディングス <8725> [東証P]は26年3月期第2四半期累計(4~9月)の連結決算発表にあわせ、通期の純利益予想を従来の5790億円から5900億円(前期比14.7%減)に引き上げた。取得総数7500万株(自己株式を除く発行済み株式総数の5.0%)、取得総額1350億円を上限とする自社株買いを実施するという。これを受けて足もとで株価は年初来の高値圏で推移している。

 住友金属鉱山 <5713> [東証P]は鹿児島県に菱刈鉱山を持ち、株式市場では金関連銘柄と位置付けられている。全固体電池ではトヨタ自動車 <7203> [東証P]と正極材の量産に向けた協業を展開。生成AIの普及により、積層セラミックコンデンサーや通信デバイス用の材料などの需要拡大も期待されている。PBR(株価純資産倍率)は足もと1倍を下回っている。

 アンチモン製造会社の日本精鉱 <5729> [東証S]の26年3月期第2四半期累計(4~9月)の連結経常利益は前年同期比5.4倍と急拡大。通期計画の52億円に対する進捗率は91%に達し、業績の上振れが期待される水準だ。中国当局による輸出管理の強化を背景にアンチモン地金価格が高値で推移し、収益を大きく押し上げている。今期は年間340円配当を計画。増額修正が相次いだ前期の年間配当から更に140円積み増す方針だ。

 内需関連セクターでは廃棄物処理・リサイクルが主力のTREホールディングス <9247> [東証P]が注目される。26年3月期第2四半期累計(4~9月)の連結経常利益は前年同期比94.3%増の130億6400万円と、従来予想の107億5000万円を上回って着地した。PBRは足もとで1倍割れ。中期経営計画の総還元性向の上限を40%とし、取得上限20億円の自社株買いを実施しているが、一段の株主還元強化を期待したい。

 内需系のバリュー株として賑わいが期待できそうなのがムサシ <7521> [東証S]である。投票用紙分類・計数機器でシェア断トツ。高市政権が高支持率を背景に総選挙に踏み切るとなれば、思惑的な資金が流入しそうだ。26年3月期第2四半期累計(4~9月)の連結決算は東京都議選や参院選向けの機器・システム販売が順調で2割増収となり、営業利益は前年同期比3.9倍と急拡大。中間期時点で営業利益の通期計画26億8700万円に対する進捗率は約88%に上った。



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