日本IPの魅力を武器に目指すは“エンタメ世界一” GENDA 片岡尚社長に聞く <トップインタビュー>

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コラム

─エンタメ特化のM&A戦略でグローバル事業を本格化─

 かつて「不良のたまり場」と揶揄されたゲームセンター。だがいまや、その風景は大きく様変わりしている。家族連れや若い女性が気軽に訪れる、明るい雰囲気の体験型のアミューズメント 施設へと姿を変えているのだ。この変化を読み切り、日本発IP(知的財産)を武器にアミューズメント施設を日本から世界へ広げているのがGENDA(ジェンダ) <9166> [東証G]だ。2018年の創業からエンタメ特化のM&A(企業合併・買収)を矢継ぎ早に実行し、わずか7年で売上高1000億円超の急成長を実現。国内トップのシェアを獲得するとともに、北米を中心に約1万カ所の店舗網を築いている。「2040年に世界一のエンターテイメント企業へ」という高い目標を掲げて事業を推進している同社の片岡尚社長に、その成長ストーリーと今後の事業戦略について聞いた。(聞き手・樫原史朗)

●原体験は「自分が考えた遊びで、みなが熱狂した」小学生時代

──創業7年で売上高1000億円を超える企業に育て上げ、現在は「2040年に世界一のエンタメ企業になる」という大志を掲げています。そもそも、なぜそこまでエンタメにこだわるようになったのでしょうか。

 私の思いの原点は、実は小学生の頃の体験にあります。当時、子どもたちの間で、あるお菓子に付いてくるキャラクターカードを集めるのが大ブームになりました。カードには「攻撃力」「防御力」といった数値が書かれていて、子どもたちは強いカードが当たると大喜びする。その様子を見て、「この数字を使えば、もっと面白い遊び方ができるのでは」と考え、友達同士で対戦ルールを作ったのです。

 お互いのカードのステータスを比べて勝敗を決め、勝ったら相手のカードを1枚もらえる。そんなシンプルなゲームでしたが、これが想像以上にウケました。下級生や上級生、学校中に広がり、みながカード欲しさにお菓子を買い求め、近所のお菓子売り場から商品が消えてしまうほどの熱狂が生まれたのです。自分が考えた遊びで、人が夢中になって楽しんでくれる。そのときの高揚感がとても大きかったです。

 そこから「人を楽しませる仕事をしたい」という思いをずっと抱き続けてきました。学生時代はかなりの時間、「どうすれば人をもっと楽しませることができるか」を考えることに注いでいたように思います。

──そんなエンタメ志向の青年がなぜ、就職先にイオン <8267> [東証P]を選んだのでしょうか。

 就職活動では、映画館、スキー場、ボウリング場など「人を楽しませる場」を提供している会社を片っ端から調べました。その中で目に留まったのがイオンです。当時のイオンは、ショッピングセンター(SC、以下同)にゲームセンターを併設する取り組みをいち早く始めていました。

 それ以前のゲームセンターは暗いイメージも強かったのですが、イオンの施設は家族連れでも安心して遊べる明るい空間だった。これを見て、「このスタイルなら日本中に広がるし、いずれアジアや欧米にも展開できる」と直感しました。世界を舞台にエンタメを届けるなら、イオンの中でチャレンジするのが一番だと考えたのです。

●「このままでは世界一になれない」、上場企業社長の地位を捨て、起業を決意

──2013年にはイオンファンタジー <4343> [東証P]の社長に就任し、グループ最年少の上場企業社長となりましたが、その地位を捨ててまで、2018年に起業しています。この決断の背景を教えてください。

 40歳で社長に就任してからの5年間は、幸いにも増収増益が続き、2018年2月期には過去最高益を達成、時価総額も就任時の5倍ほどまで増やすことができました。数字だけ見れば順調そのものでしたが、一方で「このまま続けていて、本当に世界一のエンタメ企業になれるのか」という疑問も膨らんでいました。

 ウォルト・ディズニーのような世界的企業に肩を並べるには、既存事業をオーガニックに伸ばすだけでは足りません。エンタメに特化したM&Aを積極的に仕掛けていく必要があるのです。ところが、イオングループの資本配分の優先順位を考えれば、エンタメ事業だけに大規模な投資を振り向けることは難しい。

 残りの職業人生を考えたとき、自分の夢を本気で追うには、いったん一人になるけれども、起業するしかない。そう覚悟を決めて当社を創業したのです。創業当初は私一人でしたが、いまやホールディングス単体で150人超、グループ全体で1万5000人超の組織に育ちました。

●「ロールアップM&A」でアミューズメント業界トップに躍進

──では改めて現在のGENDAの事業戦略をご説明ください。

 当社の売り上げの7割がアミューズメント施設、カラオケが2割を占めています。その他が1割ですが、この中には2023年11月にグループ入りした映画配給会社のギャガ(GAGA)も含まれています。

 私たちはエンタメ事業を「コンテンツと、そのコンテンツを人々に届けるプラットフォーム」のビジネスだと考えています。動画配信、コミック雑誌、映画館、そしてアミューズメント施設やカラオケもプラットフォームです。現在の当社グループは、エンタメ全域を事業領域と考えておりますが、まずは私たちが得意とする領域に重点を置いて投資を続けている段階です。「世界一のエンタメ企業」になるためには、これらプラットフォームを世界中へと拡大していく必要があります。そのための主な手法が、「ロールアップM&A」(小規模同業者への連続的なM&A)です。

 M&A対象はエンタメ領域に限定し、かつ「現状の事業価値に見合う価格であること」、「シナジーが出なくても元本は回収できること」をポリシーにしています。そのうえで、社内の投資委員会がPMI(買収後の統合プロセス)の実行可能性も含めて厳しく審査していきます。これまで7年間で実行したM&Aは60件ほどになりますが、その中で明確に「失敗だった」と言えるのは2件だけです。このポリシーを守っているからこそ、高い確率でM&Aを成功させてこられたと考えています。

──足もとの国内のアミューズメント施設の市場はどのように推移しているのでしょうか。

 アミューズメント施設の市場は2006年をピークに、2014年には最盛期の6割ほどの規模にまで縮小しました。スマートフォンやパソコンが普及し、ゲームをする場が置き換えられていったのです。ですが2014年以降は一転してV字回復を続け、コロナ禍での一時的な落ち込みはありましたが、今でも市場は拡大し続けています。クレーンゲームなど体験型のプライズ(景品)ゲームが新たな市場を生み出したのです。

 この背景には、アニメ人気の拡大があります。動画配信サイトの普及とともに人々のアニメ視聴時間が大きく伸び、世界中の多くの人が楽しむ一般的な娯楽になりました。アニメ市場の成長とともに、プライズゲーム市場も成長したのです。

──M&Aの対象企業については、後継者難による中小企業の事業承継が社会問題ともなっていますが、アミューズメント業界でも同じ状況でしょうか。

 それは核心の一つです。ゲームセンターが急成長したのは1970~80年代、カラオケは1980~90年代ですから、その当時に創業したオーナー企業は今まさに事業承継のタイミングを迎えています。当社は国内アミューズメント施設のトップシェアになりましたが、それでもシェアは10%強。まだ多くのプレーヤーが残っており、業界全体として事業承継の受け皿が必要な状況です。

●セガのゲームセンター買収から、全米展開まで

──貴社のM&A案件と言えば、2020年の旧セガ エンタテインメントが象徴的ですね。

 新型コロナウイルスの緊急事態宣言が明けた頃、セガサミーホールディングス <6460> [東証P]さんから「ゲームセンター事業子会社の売却を検討している」とお声がけをいただきました。当時199店舗(2020年12月時点)を展開しており、不採算店の整理も一巡していたので、私たちから見ると非常にポテンシャルの高い会社でした。

 譲渡後に取り組んだのは大きく三つ。一つ目が物流改革で、倉庫の在庫管理から配送方法まで徹底的に見直し、コスト構造を最適化しました。二つ目が店舗賃料の適正化で、オーナーの皆さまと粘り強く交渉しながら、適正水準に調整していきました。三つ目が店舗運営の改善で、特にSC型店舗については、私自身のイオン時代の経験も生かしながら収益性を大きく高めることができました。

 さらに当社のテックチーム主導でDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推し進め、アプリを活用したマーケティングにも注力しました。こうした取り組みと、その後の「ロールアップM&A」の積み上げにより、現在では400店規模のネットワークへと成長し、中でも「GiGO」ブランドは国内アミューズメント施設業でナンバーワンとなっています。

──アメリカを始め、海外展開にも力を入れていますね。

 創業2年目の2019年にはすでにアメリカと中国にグループ会社を設立し、ビジネスをスタートしています。アメリカではSC内などに小型のゲームコーナー、いわゆる「ミニロケ」を展開し、まず自力で500ヵ所ほどまで拡大しました。ここで"勝ち筋"が見えたので一気に市場を獲得したいと考え、2024年11月に全米で約8000店舗を展開しているこの分野の最大手企業をグループに迎え入れたのです。その後もアメリカでは4件のM&Aを実行し、現在は約1万3000店舗にまで拡大することができています。

 一方、中国ではOEMでゲーム機や日本発のキャラクターIP(知的財産)を含めた様々なプライズの製造を行い、それを各国に輸出しています。日本発のIPを世界に届けるうえで、非常に強い武器になっていると感じます。

──日本IPの海外輸出は、政府の成長戦略でも重要テーマになっています。

 数年前と比べても、日本のアニメやゲーム、キャラクターなどのIPが世界中で"当たり前の存在"になってきたと実感しています。多くの日本アニメが各種ランキングの上位を占めるようになっていますし、もちろん、サンリオ <8136> ・キャラクターや「ポケモン」、「ゴジラ」など、従来から人気の高いIPもあります。日本人が考える以上に、日本のIPはアメリカでも集客力の高い商品となっているのです。

 ただ、「好きなキャラクターにお金を使いたい」と思った時に、その体験ができる"場"はまだ十分ではありません。そこで私たちが展開している1万カ所超の「アミューズメント施設」や「ミニロケ」が、ファンとキャラクターの接点の役割を果たしているわけです。一方で、日本のIPホルダーにとっても、GENDAのネットワークを通じて自社IPをグローバルに届けられることへの期待は非常に大きく、国内の有力IPホルダーの多くと取引させていただいています。

●2030年1月期にはいまの5倍のEBITDA750億円へ

──2040年に「世界一のエンタメ企業」を目指すなかで、中期的な事業目標はどこに置いているのでしょうか。

 創業当初から「2040年に世界一」という大志を掲げてきましたが、足もとの感覚としては、当初の想定より2~3年ほど前倒しで進捗していると感じています。中期経営計画はあえて公表していませんが、株主や従業員に対しては「2030年1月期にEBITDA750億円を達成する」という指針を示しています。現在(2025年1月期)の水準は150億円程度ですので、5年間で5倍という目標です。

 この数字は、役職員に付与しているストックオプションの行使条件にも組み込まれており、単なるスローガンではなく、経営陣と従業員が一体でコミットしている"必達目標"です。当然、それに見合う株価水準を実現しなければなりません。

 達成に向けたドライバーは二つ。一つは、アミューズメント施設など、私たちが最も得意とする領域での「ロールアップM&A」をさらに推進し、圧倒的なナンバーワンの地位を確立すること。もう一つは、アメリカで成功させたビジネスモデルを欧州やアジアなど、世界中にも広げていくことです。

──ところで現時点での株式市場の評価をどのように受け止めていますか。年初来、やや下落基調が続いていますが。

 私たちが行っている全てのM&Aは、最終的にはEPS(1株当たり利益)を伸ばすための施策です。短期的には増資やのれんの償却などで利益が圧迫される局面もありますが、中長期で見れば、必ずEPSの成長に結びつくと判断した案件だけを実行しています。

 決算発表では、投資家の皆さんの不安を少しでも和らげられるよう、M&Aがどのように利益貢献しているのかをできるかぎり丁寧に説明しているつもりです。ですが、それでも、現在の市場評価と私たちの実感とのあいだにギャップがあるとすれば、最終的には事業の成果で埋めていくしかない。そう考えて、日々の積み重ねを続けています。

 創業から7年が経ち、ありがたいことに想定を上回るスピードで事業が拡大してきました。ですが、もちろんまだ道半ばです。いまの事業戦略を続けて、「世界一のエンタメ企業」という大志の実現に向けて着実に歩みを進めていけば、必ず投資家の皆さんの期待に応えることができると考えています。ぜひ長い視点でGENDAを見て、応援していただければと思います。

◇片岡尚(かたおか・なお)
株式会社GENDA代表取締役社長CEO、ギャガ株式会社代表取締役会長。1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1995年4月ジャスコ(現イオン)入社。1997年にアミューズメント部門に合流し、2004年にイオンファンタジーに転籍。2008年取締役、2013年代表取締役社長に就任。2018年5月に同社社長を退任し、GENDAを創業。2019年9月より代表取締役会長、2023年7月に東証グロース市場に上場。2025年4月より現職。


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