株式市場がエヌビディア好決算を素直に喜べない理由<今中能夫の米国株ハイテク・ウォーズ>

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コラム

◆市場予想を上回る好決算も株価が低迷したのはなぜか

 9月以降のAI(人工知能)相場の中で、世界中の投資家の視線が注がれた11月19日(現地時間)のエヌビディアの2025年8-10月期決算発表。結論から言えば、好調な決算だった。四半期の売上高570億ドル、最終利益319億ドルはともに市場予想を上回り、次の四半期(25年11月-26年1月期)のガイダンス(業績予想)も売上高650億ドルと、市場予想を上回る見込みを示した。

 この半年、水準を大きく切り上げてきた同社の株価には割高感も出ていたが、この結果を見るとそうとは言えなくなっている。決算内容を受け、「AIバブルの懸念が薄らいだ」と多くのメディアは速報を伝え、決算発表後の時間外取引や翌日の寄り付き後の株価は上昇したもののそれも長くは続かなかった。これは何を意味しているのだろうか。

 今回の好決算の要因は、これまでの主力で生成AIブームに乗って一世を風靡した「H100」から「GB200」(「Blackwell(ブラックウェル)」GPU(画像処理半導体)2基と「Grace(グレース)」CPU(中央演算処理装置)を組み合わせた製品)、「GB300」(「ブラックウェル」の上位機種2基と「グレース」CPUを組み合わせた製品)へ売り上げの中心が移り、単純にAI半導体の販売単価が上昇したためだ。

 26年後半には次世代AI半導体の「Rubin(ルービン)」の出荷も予定されている。会社側のコメントでは、26年1月期、27年1月期は「ブラックウェル」と合わせて5000億ドルの受注が見えているという。同社の業績とPER(株価収益率)を見比べると株価は割安と言ってよい水準で、現時点の決算を見る限り、株式市場で懸念されているバブルの兆候はない。ただし、この決算からは同社の問題点も見えてくる。

◆決算から見えるエヌビディアの問題点

 まず、台湾積体電路製造(TSMC)の値上げである。エヌビディアがAI半導体の生産を委託しているTSMCは26年に先端分野である5nm(ナノメートル)未満のウェハー価格を5~10%値上げする模様だ。エヌビディアは25年8-10月期に73.4%だった売上総利益率を27年1月期には70%台半ばにすることを目指しているが、「ルービン」は従来の4nmから3nmへ生産ラインの微細化が進む模様なので、TSMCの値上げを含めて考えると、売上総利益率引き上げのハードルは高いと思われる。

 次に「ルービン」の価格だ。「H100」の価格は日本では500万円台前半(税込み、以下同)になる。「GB300」の価格は不明だが、「ブラックウェル」で最もベーシックな「B200」が日本では700万円台後半なので、構成から考えて900~1000万円になるのではないかと思われる。「H100」と「GB300」の価格差は推定で2倍弱になる。一方、「ルービン」の価格も不明だが、「ブラックウェル」との性能差が「H100」よりも小さいため、価格差もより小さいものになると思われる。この場合、27年1月期後半からエヌビディアの増収増益率が鈍化する可能性があるのだ。

 エヌビディア製AI半導体のユーザーの問題もある。今回の同社決算で会社側が伝えたところによると、現在のAIユーザーには2つの流れがあるという。1つはアマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、アルファベット、オラクルなどの大手クラウドサービス事業者であり、もう1つはオープンAI、アンソロピックなどのAI開発企業だ。このうち、クラウドサービス事業者のAI分野の主要顧客はAI開発企業になるので、実質的にはオープンAIを始めとしたAI開発企業のニーズが、半導体、サーバー、データセンターなどのAI市場のカギを握ることになる。

 オープンAIを筆頭に、AI開発企業の売上高は足もとで急増している。だがそれを上回る巨額の設備投資、開発投資を行っているため、大赤字の状態が続いていることも事実だ。エヌビディアのコメントによれば、こうしたAI開発企業は、AIの用途が拡大するに従ってやがて自力で投資資金を賄えるとしている。だが、現時点ではエヌビディアやクラウドサービス企業など、AI開発企業を顧客とする大手企業からの資金調達に頼る以外にない。実際、エヌビディアはオープンAIに対して最大1000億ドルにも及ぶ巨額の投資を発表している。こうした状態が持続可能なのだろうかという疑念がある。

 さらに、エヌビディアとオープンAIに対する株式市場の評価を揺るがしかねないニュースも報じられた。アルファベットの内製AI半導体「TPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)」が外販されることになったのだ。すでに大型契約を獲得していると報道されており、メタ・プラットフォームズとも商談に入っている模様だ。また、アルファベットの最新型生成AI「Gemini(ジェミニ)3」の評価も高い。アルファベットは生成AIでは出遅れたが、ようやく高性能の生成AIが実現したようだ。アルファベットの検索広告、ユーチューブ広告の収益力は高い。この高収益力を背景に、AI半導体と生成AIでも存在感が高まれば、エヌビディアとオープンAIに対する株式市場の評価は揺らぐことになろう。

 文句のつけようがない好業績であったにもかかわらず、エヌビディアの株価が決算発表後上昇しなかったのは、このような要因があると思われる。それとともに時価総額が4兆ドルを超えるほどの規模になった同社は、FRB(米連邦準備制度理事会)の金利政策や株式市場全体のセンチメントなど外部環境に株価が左右され、事業の成長性だけでは必ずしも市場の評価を得ることが難しくなっているのかもしれない。

◆世界的なメモリー半導体需要拡大の恩恵を受ける銘柄は

 エヌビディアの話題はさておき、足もとの半導体セクターでより注目すべきは、メモリー半導体の市況動向だろう。前回のコラムでも触れたが、中国のDRAM最大手企業、CXMT(未上場)が26年夏までに現在普及しているDRAM規格、DDR4の生産を停止し、最新規格のDDR5とAI半導体に不可欠な特殊メモリー、HBM(広帯域メモリー)の生産に集中すると報じられたことによって、DRAM価格が高騰しているからだ。

 もともと、サムスン電子(韓国上場)、SKハイニックス(同)、マイクロン・テクノロジーのDRAM大手3社とも、DDR4の生産を縮小し、DDR5とHBMに集中している。これはHBMの生産には大量のDDR5ウェハーが必要になるためだ。現在主力となっているHBMではDDR5ウェハーを8枚または16枚積層してつくる。HBMの需要が増えるに従って、多くのDDR5が必要になるのだ。一方、スマートフォンやパソコンでもメインメモリーの容量が拡大しているため、すでにDDR4などの通常型DRAMの生産は手薄になっていた。そうした状況下で流されたCXMTの報道のインパクトは大きく、これがDRAM市況を大きく押し上げたと思われる。

 また中国では、トランプ米政権による相互関税の影響で海外製品のシェアが下落し、中国メーカーのシェアが上昇しているため、半導体全般の需要が強い。そこにDRAM不足という状況が訪れたのだが、中国国内では相互関税やメモリー不足という不確実性に備えるためにメモリーを含めた半導体在庫を積み増す動きがある。もう一段、DRAM価格が上昇することも十分にあり得る。したがって、メモリー大手3社には、永続的ではないが当面は追い風が吹くと見ていい。半導体製造装置なら、東京エレクトロン <8035> やアドバンテスト <6857> といった企業にも、こうしたDRAM需要拡大の恩恵が及ぶと思われる。

◆半導体製造装置は、再び「前工程」にも注目せよ

 ところで、AIブームによるHBMの需要増により、半導体製造工程の「後工程」の重要性が増していたのだが、ここに来て「前工程」も動き始めている。「後工程」の重要性が高まっていたのは、これまで主力だったAI半導体は、4nmのラインで製造されており、最先端の微細化技術がそれほど必要なかったからだ。だが来年以降は、エヌビディアやブロードコムのAI半導体でも3nmのラインが採用される可能性が高い。また、TSMCは25年後半から2nmの半導体の量産(ウェハー投入)を開始し、26年秋に発売予定のアップルの次世代iPhone向けに出荷される見込みだ。その後、時間を置かずに、パソコンやスマートフォンにも2nmの半導体が搭載されるだろう。

 これまで長年、半導体の進化イコール微細化という時代が続いていた。それがAIブームによって一時的に、微細化ではなくHBMなどを組み合わせる技術に焦点が当たっていた。だが一方で、微細化の取り組みは途切れることなく続いている。そして、AI半導体の微細化に伴い、ここ数年、需要が低迷していた「前工程」の需要拡大も見込めるようになってきたということだ。恩恵を受けるのは、ASMLホールディング、東京エレクトロン、レーザーテック <6920> といった企業だ。もちろん、アドバンテストやディスコ <6146> などの「後工程」の製造装置メーカーも引き続き、業績は拡大していくだろう。

 ともあれ、今回のエヌビディアの決算と足もとの相場の流れを見て感じるのは、AI投資は引き続き拡大しているものの、現時点での業績には表れないブーム鈍化のリスクもあるということだ。そんな中で、どのような投資戦略を取るべきなのか。1つは、長期的ではないにせよ、恐らく来年いっぱいは続くDRAM価格の上昇を踏まえて、メモリー半導体メーカーに着目すること。AI関連株のバリュエーションに対してメモリー株は相対的に割安感がある。

 もう1つは、オープンAIやエヌビディア、そしてこれらの会社と密接なマイクロソフトを避けて、新たなスターになるかもしれないアルファベットやメタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コム、アップルに投資するという考え方である。いずれにせよ、従来とは異なる視点を考慮すべき時期に転換しているのかもしれない。


【著者】
今中能夫(いまなか・やすお)
楽天証券経済研究所チーフアナリスト 

1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998?2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。

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