揺らぐ日本の「安心」「安全」、体感治安悪化で防犯関連が活躍の舞台へ <株探トップ特集>
投稿:
―防犯カメラに自治体の補助の追い風、ホームセキュリティやアクセスコントロールも商機拡大へ― 日本の「安心」「安全」に対する信頼が近年、かつてないほどに揺らいでいる。SNSなどで実行犯を募集する匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)による犯罪が後を絶たない。高齢者や女性を狙った犯罪が増えていることもこれに拍車をかけている。 高市早苗首相も自由民主党の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会長であった2024年12月、当時の石破茂首相に対して闇バイト対策に関する党の緊急提言を提出している。24年度補正予算では、防犯体制の強化として約19億円を計上するなど、治安対策はこれまで以上に国を挙げて取り組むべき課題の一つとなっている。 株式市場でも 防犯関連は息の長いテーマの一つである。今回、改めて防犯関連に注目してみたい。 ●刑法犯認知件数は3年連続で増加傾向 警察庁が今年2月に発表した「令和6年の犯罪情勢」によると、刑法犯認知件数は、03年から21年まで一貫して減少していたものの、24年は73万7679件(前年比4.9%増)と戦後最少となった21年から3年連続で前年を上回った。窃盗犯が50万1507件(同3.7%増)と全体の増加に大きく影響したほか、凶悪犯も7034件(同22.3%増)と増加した。同調査では近年、組織的・広域的に金属盗や自動車盗、万引きが行われ、盗品が海外へ不正に輸出されるなどの組織的な窃盗・盗品流通事犯が発生していると指摘。SNSなどで実行犯を募集する手口による強盗などが関東を中心に相次いで発生しており、トクリュウの関与が認められるともしている。 また、24年10月に警察庁が行った「治安に関するアンケート調査」によると、日本の治安について「よいと思う」と回答した人は、全体の56.4%を占めたものの、ここ10年間での日本の治安に関し、「悪くなったと思う」と回答した人は全体の76.6%を占めている。指標からは捉えられない「体感治安」は悪化しているといえよう。 ●防犯カメラ設置に関する補助金制度も こうした体感治安の悪化に対して、国や自治体も治安対策に手をこまねいていたわけではない。前述の24年度補正予算のほかにも、多くの都道府県では防犯対策として防犯カメラや防犯設備の導入を支援する補助金制度を設けている。 例えば東京都では、「令和7年度東京都防犯機器等購入緊急補助事業」として、都民に対する直接の補助ではないものの、都内区市町村が行う個人宅向け防犯機器などの購入助成額に対して2万円を上限に補助を行っている。これを受けて港区では、区内に居住し住民登録をしている世帯を対象に4万円を上限に防犯カメラ、防犯フィルム・補助錠・面格子などの購入額の4分の3を補助している。 横浜市では、個人向けではないものの、地域の防犯活動を支援するために自治会町内会が設置する防犯カメラの費用の一部を補助する「地域防犯カメラ設置補助金」(今年度の受け付けは終了)を実施。同様に地域に設置する防犯カメラに対する補助金制度は多くの自治体が実施している。 ●市場規模は1兆円を超え当面堅調に推移へ 体感治安の悪化による防犯意識の高まりに加えて、こうした自治体による補助もあって防犯関連機器やサービスの市場も拡大傾向にある。 市場調査会社の富士経済(東京都中央区)がまとめた「DXを実現するセキュリティ関連システム・ソリューション市場の将来展望2025」によると、セキュリティ関連(機器・システム・サービス21品目)の24年の国内市場規模は1兆720億円となった。強盗事件や闇バイトによる犯罪の増加を受けてホームセキュリティサービスが堅調だったほか、半導体など部材供給の回復や企業の設備投資の増加、23年ごろからの各ベンダーの値上げと高付加価値製品の販売注力により、 監視カメラシステム分野も大幅に伸長した。更に、部材不足やサプライチェーンの混乱が収束したことにより、アクセスコントロール分野も拡大した。 同社では、28年ごろからの再開発が一段落することによるビル新築件数の減少に伴う需要減などで伸びは鈍化するとしているものの、当面は堅調な市場拡大が続くと見込む。市場規模は、29年に1兆2294億円(24年比14.7%増)に拡大すると予測している。 ●防犯関連の注目銘柄 防犯関連銘柄は、警備サービスから防犯カメラシステム、防犯センサー、アクセスコントロールなど多岐にわたる。そのなかから、注目銘柄を直近の業績動向などを交えて紹介したい。 セコム <9735> [東証P]は、警備業界国内最大手で、ホームセキュリティサービスや監視カメラの販売を手掛ける関連銘柄の代表格で、「セコム・ホームセキュリティ」は家庭向けセキュリティ契約実績業界トップ。11月11日に発表した26年3月期上期連結決算は、売上高が5935億4700万円(前年同期比6.0%増)と上期として過去最高を更新し、営業利益は674億6400万円(同14.2%増)と2ケタ増益で着地した。大阪・関西万博では共同企業体の一社として来場者ゲートや会場内全域の警戒などの人的警備を担当したほか、パビリオンなどへのオンライン・セキュリティシステムなども提供しこれらが寄与。また、事業所・家庭向けのオンライン・セキュリティシステムの販売が堅調だったほか、価格改定効果も貢献した。通期では営業利益1500億円(前期比4.0%増)と3期連続増益で最高益更新を見込む。 ALSOK <2331> [東証P]は警備業界国内2位で、個人宅向けのホームセキュリティから、企業向けの機械警備、常駐警備、警備輸送、更には小売業や金融機関といった特定の業界に特化したサービスまで、多岐にわたるソリューションを提供しているのが特徴。11月5日に発表した26年3月期上期連結決算は、営業利益が225億2000万円(前年同期比47.6%増)と大幅増益で着地。これを受けて通期予想の営業利益も439億円から485億円(前期比20.6%増)に上方修正し、配当予想も年27円20銭から29円20銭へ引き上げた。「HOME ALSOK Connect」を中心にホームセキュリティの受注が伸長したことなどが牽引役となっており、4期ぶり最高益更新を見込む。 セントラル警備保障 <9740> [東証P]は、セコム、ALSOKに次ぐ警備業界大手で、家庭向けには「ファミリーガードアイ+」を展開。10月9日に発表した26年2月期上期連結決算で、営業利益は25億3300万円(前年同期比13.2%増)と従来予想を上回る2ケタ増益で着地。常駐警備の料金見直しや大阪・関西万博の追加臨時警備などが寄与した。 ●防犯カメラ関連にも注目 あい ホールディングス <3076> [東証P]は、監視カメラやレコーダーなどのセキュリティシステム機器を手掛けており、単なる開発・販売にとどまらず、導入からアフターフォローまで一貫したサービスを提供しているのが特徴で、国内のマンション向けでは4万件を超える導入実績を誇る。11月14日に発表した26年6月期第1四半期連結決算でもマンション向けセキュリティ機器が分譲の新規、リプレース需要が好調で業績を牽引。営業利益は20億3900万円(前年同期比14.7%増)と2ケタ増益となった。通期でも営業利益107億円(前期比20.4%増)と2ケタ増益を見込んでおり、引き続きセキュリティ機器事業の堅調を見込む。 セキュア <4264> [東証G]は、監視カメラシステムや入退室管理システムなどを提供しており、単なる監視カメラの販売にとどまらず、AI技術を組み合わせることで革新的なソリューションを提供しているのが特徴。オフィスや商業施設などのセキュリティ強化に貢献するほか、マンションなどへの導入実績も多い。11月13日に発表した25年12月期第3四半期累計連結決算は、営業利益2億400万円(前年同期比29.3%減)と大幅減益で着地したが、大型案件の進捗が想定を下回ったことや人件費関連の先行投資などが利益を圧迫。通期では営業利益4億円(前期比30.8%増)と大幅増益を見込む。 セーフィー <4375> [東証G]は、クラウド録画型監視カメラサービスを提供しており、AI技術とクラウドを活用することで防犯だけではなく、業務改善やマーケティングなどさまざまなシーンで活用されているのが特徴。今年1月には、映像とAIを駆使した防犯・警備ソリューションを提供する新会社「セーフィーセキュリティ」を設立し、更に11月には新会社がCSPと資本・業務提携するなど次世代のセキュリティ対応システムの構築に力を入れている。通期では、営業利益に株式報酬費用やM&Aにより生じた無形資産の償却費用、その他一過性費用を加えた調整後営業利益で5000万~3億円を見込む。 Photosynth <4379> [東証G]は、後付け型のスマートロックとしてクラウド型入退室管理システム「Akerun」を展開。ハードウェアとソフトウェアの継続的なアップグレードによる強固なセキュリティが強みで、オフィスや施設における入退室を管理している。11月12日に発表した25年12月期第3四半期累計連結決算では、営業利益が2億1500万円(前年同期比97.4%増)と大幅増益となり、通期予想の営業利益1億6000万円(前期比2.1倍)を上回って着地した。 オプテックスグループ <6914> [東証P]は、防犯関連として住宅、事業所、大型重要施設向けの侵入検知センサーや監視カメラ用投光器などを手掛けており、25年12月期第3四半期累計連結決算では、防犯関連で大型重要施設向け売り上げが好調に推移し業績を牽引。特に国内インフラ関連施設の更新需要を獲得したほか、海外ではデータセンター向けレーザースキャンセンサーの販売が堅調だった。営業利益は62億1400万円(前年同期比13.9%増)と2ケタ増益で着地。通期では営業利益74億円(前期比3.9%増)を見込む。 このほか、防犯カメラ世界大手の中国ハイクビジョンの国内正規代理店であるディーズセキュリティを傘下に有するダイワ通信 <7116> [東証S]や、防犯意識の高まりを背景にテレビドアホンへのニーズが高まっているアイホン <6718> [東証P]などにも注目したい。 株探ニュース
