通貨信用力の低下に備えよ、「インフレトレード」で真価発揮の銘柄群 <株探トップ特集>

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コラム

―日経平均5万円突破の原動力に財政政策期待、コモディティ価格にも上昇圧力―

 日経平均株価が5万円を突破した。背景には米国の金融緩和政策と、日本国内の財政拡張政策に対する期待がある。また、ドルの信用力が低下し、金を中心とするコモディティにマネーが流入した結果、インフレが加速する可能性も高まっている。マーケットにおいてインフレトレードに対する注目度が増すなか、投資妙味のある関連銘柄をピックアップしていく。

●米金融政策と日本の財政政策がインフレを増幅へ

 米労働省が24日に発表した9月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比3.0%の上昇だった。伸びは8月の2.9%から加速したものの、市場予想の3.1%を下回っており、米株式市場では追加利下げへの期待が膨らんだ。日本の総務省が24日に発表した9月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は、前年同月比で2.9%上昇。市場予想とは一致したとはいえ、8月の2.7%から加速した。

 米国の利下げは将来のインフレを予見させるものとなる。日本ではアベノミクスを継承すると考えられている高市早苗自民党総裁が、内閣総理大臣に選出された。しかも憲政史上初の女性首相ということで、従来とは異なるアプローチの財政出動が期待されている。高市首相は既に新たな経済対策の策定に着手するよう指示を出したという。これも将来のインフレを予見させる政策である。

 欧州では欧州中央銀行(ECB)が6月まで7回連続の利下げを実施しているほか、ドイツでは3月に大幅な財政拡張に舵を切った。中国でも9月に、中央銀行である中国人民銀行が金融政策の調整力を高めるとともに、財政政策との連携を強化する方針を発表している。世界的に金融緩和政策や財政政策が講じられるなか、世界景気の見立ては上方修正されている。国際通貨基金(IMF)は14日に公表した世界経済見通しにおいて、今年の世界経済成長率見通しを3.2%と予測し、7月時点の3.0%を引き上げた。

●ドルと円の信用力は低下

 今年に入ってマーケットを揺るがせた米国の相互関税は、「トリフィンのジレンマ」が理論的な支柱になっている。ドルが世界の基軸通貨であることから、米国以外の国は貿易決済用のドルを、米国との貿易を通じて得ようとする。そのため米国は恒常的に貿易赤字が増え続けることになる。ドルの需要は常に高く、恒常的に割高状態となる。通貨高は米国の輸出産業を不利な立場に追い込み、これも米国の貿易赤字を増やす要因となる。貿易赤字を穴埋めするために米国は相互関税を実施することにしたが、これを米国の「懐具合」の厳しさの証左と考えれば、ドルは信用力の低下を余儀なくされることとなる。

 一方、日本では普通国債残高が2025年度末には1129兆円に上ると見込まれている。債務残高の対国内総生産(GDP)比は240%と、G7(主要7カ国)のみならず、その他の諸外国と比べても突出した水準となっている。この状態で財政拡張を加えるということは、日本が発行する円の信用力懸念という火に油を注ぐようなものである。

 高市首相は所信表明演説で、戦略的な財政出動を実施し、景気を良くすることで税率を上げずとも税収を増加させることを目指し、債務残高の伸び率を成長率の範囲内に抑えて、財政の持続可能性を実現するとした。しかし元大蔵官僚である片山さつき財務相は報道機関のインタビューで、補正予算の財源に関して税収の上振れや歳出の不用などで対応する考えを示しつつ、「それで足りなければ国債増発になる」と述べている。これも日本の懐具合を厳しくする材料と考えれば、円の信用力低下が警戒されることにつながる。

●人気化した純金信託

 世界的な金融緩和政策や財政拡張政策、またドルや円の信用力低下といった観測は、インフレトレードを誘発し、コモディティ価格を上昇させる。代表的なのが金価格である。24年春から急騰し、NY金先物は同年3月末の1トロイオンス=2217ドルから25年10月の高値4398ドルまで、およそ2倍となった。銀やプラチナなど他の貴金属価格も上昇し、金と似た金融特性を持つ暗号資産も大きく値上がりしている。これらインフレトレードはその背景が大きく転換しない限り、今後も続くことが予想される。

 こうした投資環境からまず、コモディティ価格上昇の恩恵を受ける業種の中から、インフレトレードの物色対象を厳選したい。商品価格の上昇ということであれば、それらに直接投資するのがセオリーである。株式市場においても商品価格に連動するETF(上場投資信託)やETN(上場投資証券)が多数上場している。金ならばiシェアーズ ゴールド ETF <314A> [東証E]、SPDRゴールド・シェア <1326> [東証E]、NEXT FUNDS 金価格連動型上場投信 <1328> [東証E]などであるが、なかでも直近で一番人気となったのが純金上場信託(現物国内保管型) <1540> [東証E]である。原油であればNEXT NOTES ドバイ原油先物 ダブル・ブル ETN <2038> [東証EN]やWTI原油価格連動型上場投信 <1671> [東証E]などが存在する。ただし流動性が乏しいため多額の資金を頻繁に売買するのに向いていないETF・ETNがあることには注意したい。インフレトレード人気を反映して現物価格よりも割高に取引されているものもある。

●コモディティ価格上昇・関連政策の恩恵を受ける物色対象

 原油相場の上昇に敏感に反応する個別銘柄には、資源開発大手の石油資源開発 <1662> [東証P]がある。8月に発表した26年3月期第1四半期(4~6月)の連結経常利益は前年同期比26%増。あわせて通期の業績予想を見直し、減益幅が縮小する見通しを示した。低迷していた原油価格の上昇に伴い、更なる通期利益見通しの上方修正が打ち出されるかどうか、注目される。

 日鉄鉱業 <1515> [東証P]も通期業績予想の上振れ有望銘柄だ。鉄鋼向け石灰石が主力で、26年3月期第1四半期(4~6月)の連結経常利益は、通期計画に対する進捗率が約49%に上る。8月下旬に1対5の株式分割を発表。株価は9月末に一時的に急騰し、直近では落ち着きを取り戻している。中間決算の開示は11月7日を予定。好決算の発表を受け再度騰勢を強められるか期待したい。

 インフレ要因となる各国政策に関し、その恩恵を受ける業種としては機械メーカーが挙げられる。設備投資需要の増加が期待されるためだ。特に競争優位性を持つメーカーの場合、値上げが受容されやすい環境にあると言えるだろう。10月3日に中間決算を発表した安川電機 <6506> [東証P]は26年2月期の業績予想を引き上げ、株価に上昇圧力が掛かった。中国やアジアが堅調だったほか、受注面では半導体やデータセンター向け需要が追い風となったようだ。

 機械関連で注目をすべき銘柄として、豊和工業 <6203> [東証S]を取り上げたい。産業用機械の老舗で、防衛省向け小銃を手掛ける防衛関連銘柄でもある。26年3月期第1四半期(4~6月)の連結経常利益は前年同期比9割増に拡大し、通期計画に対する進捗率は約36%。安川電と同様に通期見通しの上方修正が有望な銘柄と考えられる。加えて、コンクリートプラントとともに工作機器向け製品を取り扱う北川鉄工所 <6317> [東証S]の26年3月期第1四半期(4~6月)連結経常利益は、中間期の計画に対して進捗率が約92%に達する。

 政策に絡むところでは 農業関連もマークしておきたい。世界全体では人口が増加し食料需要が拡大している。インフレは農業経営にとってコスト高というネガティブな影響をもたらすが、価格転嫁自体は比較的容易であるという点で、農業はインフレに強い産業であると言える。高市首相は所信表明演説で「地域を活性化させ、食料安全保障を確保する観点から、農林水産業の振興が重要」であるとの見解を示し、5年間の農業構造転換集中対策期間において別枠予算を確保する意向を表明した。

 直近の業績が通期計画に対し高進捗率となっている農業関連銘柄には種苗大手のサカタのタネ <1377> [東証P]がある。26年5月期第1四半期(6~8月)の連結経常利益は前年同期比9割増。中間期の計画に対し約97%と肉薄している。北海道の鶏卵最大手であるホクリヨウ <1384> [東証S]は足もとでは道内での鳥インフルエンザ感染確認という懸念材料を抱えるが、株価は右肩上がりを続けてきた。26年3月期の単独営業利益は5割増で過去最高益の更新を計画している。

株探ニュース

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