揺れ動く国家安全保障、「防衛関連株」に新たなるビッグウェーブ <株探トップ特集>

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コラム

―相次ぐ地政学リスク表面化、トランプ米大統領の政策スタンスも全世界に影響及ぼす―

 防衛省が4回目となる「インダストリーデー」を9月下旬に開催した。これは、国内防衛産業と米軍及び米国防衛関連企業との間のマッチングの機会を提供する展示会である。関税問題で混乱に巻き込まれたとはいえ、米国は日本と協力していく同盟国にほかならない。

 米国だけでなく、世界が今まで以上に手を取り合わなければならない不安定な状況となりつつある今、誰が次期自民党総裁に選出されても防衛というテーマは外せない。トランプ米政権による日本の防衛力強化への要請も背景に、株式市場で防衛関連株は重要セクターとして引き続き注目されていく可能性が高い。

●米ロ関係の悪化が新たな懸念要因に

 米国のトランプ大統領は就任当初、ロシア寄りとみられる発言が多かった。実際、発言だけでなく、その後もウクライナへの軍事支援を一時停止するなど、停戦実現のためとはいえウクライナ側の領土割譲もやむを得ないとするスタンスを示していた。しかし、自信を持っていたはずのロシアとウクライナの停戦実現に関して、自らの思い通りに進まない状況に業を煮やし、対ロシア政策の転換姿勢を足もとで示している。具体的には、「(ウクライナは)ウクライナ全土を元の姿に取り戻す立場にある」とSNSに投稿したほか、ロシアへの牽制として「NATO(北大西洋条約機構)が望むやり方で活用できるように武器供与を継続する」とも発信している。米国の対ロ方針がにわかに厳しくなってきたことは明らかだ。

 ロシア・ウクライナ問題にまだ解決の道筋が見えないなかで、世界は次なる懸案にも頭を悩ませなければならなくなっている。国際連合の対イラン制裁が9月28日の午前から再開している。これは、2015年に実現したイランの核関連の活動制限と引き換えの経済制裁解除という合意構造が本格的に崩壊したことを示す。第1次トランプ政権の単独行動(経済制裁)によって、そもそもこの合意は破綻しかけていた経緯があるが、米国だけでなく制裁の正式な再開によって欧州主要国とも亀裂が深まったことになる。イラン国内の強硬派からは、核拡散防止条約からの脱退を求める声も上がっているとの報道もあり、状況次第では同国が核武装を目指して突き進んでいく危険性も拭えなくなっている。

●台湾有事への備えは避けられない課題

 更に、足もとできな臭さが漂っているのはロシア・ウクライナ、そしてイランだけにとどまらない。前述した大きな動きの陰に隠れてあまり注目されていないが、軍事の領域では非常に重要なニュースが流されている。中国海軍が9月22日、新型国産空母「福建」において、次世代装置と呼ばれる「電磁カタパルト」を使用した発着訓練に初めて成功したという。

 カタパルトとは、地上のように十分な滑走路が確保できない海上に存在する空母から、垂直離陸ができない戦闘機(固定翼機)を飛ばすための装置である。技術・知見の蓄積度合いやコストなどの面から現在の主流は「蒸気式」となっている。中国が現在所有する空母「遼寧」「山東」では、このカタパルトではなく、艦首を使った簡易な「スキージャンプ式」を採用していたが、福建では一気に電磁カタパルトまで技術水準を引き上げたことで、米国に追随するレベルに至ったことを意味する。安定した運用にはまだまだ時間がかかりそうだが、同国の作戦能力が高まっていることは疑いようがない。今回の電磁カタパルトに関するニュースフローは氷山の一角である。台湾の安全保障が国際間でも注目されるなか、台湾を支配下におきたい中国の動向は、政治的に今後も注視が怠れない問題となっている。

●防衛関連の中小型株に活躍チャンスも

 世界が複数の荒波に直面しつつあるなか、台湾有事が警戒される日本にとって対岸の火事ではない。米国からの予算拡大に向けた圧力も意識されるなか、株式市場でも改めて「防衛」関連が注目されそうだ。銘柄としては防衛省への納入額が大きい三菱重工業 <7011> [東証P]を筆頭に、川崎重工業 <7012> [東証P]、IHI <7013> [東証P]が“防衛関連三羽烏”として注目度が高い。そのほかSUBARU <7270> [東証P]やNEC <6701> [東証P]、日立製作所 <6501> [東証P]といった企業がテーマの中心軸となっている。そして、防衛関連株の裾野は広い。中小型株に人気化する銘柄も相次いでおり、新たな出世株の輩出を予感させる。

 日本アビオニクス <6946> [東証S]は自衛隊向け防衛装備品の提供を行い、陸上防衛では対空戦闘指揮システム、指揮統制表示装置、信号処理装置などを開発している。海上防衛では護衛艦、潜水艦、掃海艦艇搭載用の情報表示システム。航空防衛では警戒管制・航空管制レーダシステム、戦闘機搭載レーダシステム。地上射撃管制システムにも信号処理装置、表示装置、運用ソフトを提供している。

 東陽テクニカ <8151> [東証P]は各種計測に関連する製品・ソリューションを提供するが、中期経営計画「TY2027」で注力すべき事業分野の一つに防衛ビジネスを掲げている。海洋調査、水産、防衛など海を守る幅広いソリューションを提案しており、第5世代のマルチビーム測深機として開発された、小型かつ高性能マルチビームソーナー「Sonic」シリーズや船舶搭載型光学/赤外線カメラ「VIGY4」、小型自律無人潜水機「YUCO」シリーズなどを手掛ける。

 IMV <7760> [東証S]は振動試験装置を手掛けており、「日本高度信頼性評価試験センター(e-TCJ)」のEMC(電磁両立性)試験設備を増強し、6月より本格稼働を開始している。設備拡充により、航空宇宙・防衛・自動車業界向けのEMC試験における対応力が飛躍的に向上しており、幅広い製品・規格への試験受託が可能となっている。

 放電精密加工研究所 <6469> [東証S]は防衛関連需要の増加により防衛装備品の受注が伸びており、航空・宇宙分野の受注拡大の内訳では、防衛装備品の割合が高まっている。防衛装備品を含む航空・宇宙分野の売上高は26年2月期に24年2月期の1.5倍を見込んでいる。

 Synspective <290A> [東証G]は小型SAR衛星の開発・運用からSARデータの販売とソリューションの提供を行っているが、8月下旬には日本スタートアップ大賞の「防衛大臣賞(防衛スタートアップ賞)」を受賞している。防衛分野に大きな将来性や技術的貢献が期待される企業に授与されるものであり、防衛(警戒監視、情報収集)やインテリジェンス分野において重要な役割を果たすと評価された。コンステレーション構築を更に推進するとともに、官公庁をはじめとした関係各所との連携を強化していく構えだ。

 エブレン <6599> [東証S]は産業用電子機器や工業用コンピューターの設計・製造を手掛ける。情報、通信、計測、制御、映像、交通、FA、メディカル、防衛と、極めて広範な分野にわたって対応しており、防衛においては軍用車両・船舶・航空機等搭載装置、監視カメラシステム、組立機械・装置などを手掛けている。

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