時価総額1兆円達成は投資家への“公約” Aiロボティクス 龍川誠社長に聞く <トップインタビュー>
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─AIを駆使したマーケティング力とこだわりの商品企画力で業績拡大─ 「上場ゴール」。年間100社前後の企業がIPO(新規株式公開)をしながら、その多くが上場後に低迷する日本のグロース市場の現実を揶揄する言葉だ。そんな状況をよそに、業績の急拡大とともに株価を1年間で3倍化させ、注目を集めているIPO企業がある。2024年9月に上場したAiロボティクス <247A> だ。今回の「株探」トップインタビューでは、AI(人工知能)を活用したプロモーション手法でヒット商品を連発している同社の龍川誠社長に話を聞く。1年で2倍の増収増益を続けるという大胆な事業計画の裏にある自信の根拠とは。(聞き手・樫原史朗) ●上場1年、計画通りの四半期決算で株価が急騰 ──前年比2倍の増収増益を達成した25年3月期に続き、注目された26年3月期第1四半期決算でしたが、発表翌日の株価が急騰しました。この決算について、龍川社長はどんな感触を得ていますか。 今四半期決算については、まさしく計画通りに着地しました。売上高もほぼ計画通りで、営業利益、純利益は期初に計画していた先行投資を実行した結果、損益がほぼトントンと、これもまた計算通りの結果になりました。当然、今期(26年3月期)の予算達成には強い自信を持っていますし、来期(27年3月期)の目標に向けても、順調な進捗となっています。来期の売上高は、スキンケアの「Yunth(ユンス)」で200億円、美容家電の「Brighte(ブライト)」で160億~170億円、ヘアケアの「Straine(ストレイン)」は100億円程度を見込んでおり、その他、新ブランドのローンチを含め、今期の2倍の560億円程度と概算しています。 投資家の皆さんが誤解しないよう今一度改めてお伝えしたいのは、この26年3月期上期の先行投資は、今期の売り上げのためではなく、来期の予算達成に向けた戦略的な投資になります。 ──御社の事業計画では、27年3月期はおろか、29年3月期まで毎年2倍の増収増益を続け、現在(前期、25年3月期)の売上高142億円を2200億円に、純利益を17億円から280億円へと成長させるという目標を掲げられています。この計画は順調に進んでいるのでしょうか。 そうですね。既存ブランドの販売は引き続き好調ですし、毎年新ブランドを発表していく計画です。ここにM&Aなどを加え、さらに今後は海外展開にも力を入れ、現在の海外売上高比率2.7%から29年3月期までには20%以上に高めていく計画です。 ●ビル・ゲイツを夢見た少年が異色のベンチャー企業を立ち上げるまで ──では次に、龍川社長のこれまでのキャリアから伺っていきます。幼少期から起業家になることを夢見て、20代の頃には立ち上げたベンチャー企業を6億円で売却した経験があるとのことですが。 子供の頃は図書館に通い詰め、米「Forbes(フォーブス)」誌に載っているビル・ゲイツさん(マイクロソフト創業者)など億万長者たちの記事を「凄いなあ」と感心しながら夢中で読んでいるような男の子でした。その頃から考えていたのは、「普通に働いていたら、絶対にこんな風にはなれないのだろうな」ということです。ゲイツさんのようになるには、自分で起業して、株式の価値を高めていくしかないと考えていました。1990年代後半は、IT革命が始まったばかりで、ゲイツさんや孫正義さん(ソフトバンクグループ <9984> 会長兼社長)など、日米で大成功する起業家が次々に現れてきた頃でした。 大学卒業後、女性向けキュレーションメディアを運営する企業、ロケットベンチャーを立ち上げ、短期間にPV(ページビュー)を爆発的に伸ばし、エニグモ <3665> から会社の買収の申し出をいただき、サービスローンチからわずか8ヵ月で売却に至りました。 その後、エニグモの傘下で子会社として事業を成長させるのが責務だと考え、実際しばらくは、同社グループで同事業の成長に向けて取り組んでいました。ですがその頃、私が尊敬し、父のように慕っている有名な経営者にこんなことを言われたのです。「男なら一度は上場を目指せ」と。現在も当社の株主として応援していただいているNEXYZ.Group(ネクシィーズグループ) <4346> 社長の近藤太香巳さんです。 その言葉にも後押しされて、徐々に私の中でも「もう一度会社を起業し、上場させたい」という気持ちが大きくなっていきました。そこで、エニグモ社長の須田将啓さんに思い切って相談し、Aiロボティクスの前身であるHowTwo(ハウトゥー)を創業したのです。 ●メタとの協業が生んだ自社開発AIシステム「SELL(セル)」 ──今度の会社では設立当初、どのような事業を手がけられたのですか。 2016年4月に会社を立ち上げた当時は、社名の通り、美容系ハウツー動画のメディアを立ち上げて勝負をしようと考えました。ですが、今度はなかなか結果が出ませんでした。というのも、ハウツー動画自体のニーズはあっても、その頃にはこうした動画はInstagram(インスタグラム)やTikTok(ティックトック)などSNSに投稿されるようになっていて、ウェブメディアはほとんど見られない時代になってきていたからです。そうこうするうちに、「今月には資金がショートするかもしれない」というぎりぎりの局面を迎えたのです。 今月、会社が潰れるかもしれない。今から考えてもつくづく思うのは、そうした極限の苦境で人はどう動くのかということです。その時、私が思い浮かべたのは、会社を設立する時に株主になってくれた投資家の方々の顔でした。近藤社長や須田社長はもちろん、株主になっていただいた北尾吉孝さん(SBIホールディングス <8473> 会長兼社長)、見城徹さん(幻冬舎社長)、音楽プロデューサーの秋元康さんなど、著名な方々です。 会社の仲間にも同じことが言えますが、おそらくあの時、自分一人のことだと考えていたら、あきらめていたかもしれません。結局、極限の状態に陥った時、人を動かすのは「自分のため」ではなく「誰かのため」というモチベーションだと思うのです。私たちがここまで成長できたのは、資金面以上に、精神的な面で株主の方々の存在が大きかったと思っています。 ──その後、御社独自のAI、「SELL」を中心としたビジネスへと転換されているようですが、なぜ、こうした事業転換をしたのでしょうか。 業績を立て直すためには、まずは売り上げを急激に上げなければならない。だが手元資金はない。極力、原価をかけずに売り上げを伸ばす方法は何か、と考えているうちに頭に浮かんだのが、「マーケティング支援のビジネス」だったのです。これは非常にシンプルで、顧客企業を支援して、儲けさせることができれば当社も儲けることができる、というビジネスモデルです。 ただ、社員数が少ない当社では、広告代理店のように人手をかけて広告の運用をする手法は現実的ではありません。少人数でも効率的に広告の運用を行うにはどうすればいいか。結論は「マーケティング向けのAIを独自に開発するしかない」ということでした。 ──今でこそ世の中、AI一色ですが、当時はそこまでAIが具体的なものだとは思われていませんでしたよね。 当時からイーロン・マスクさん(テスラ CEO)はAIについて盛んに発信していましたし、私自身、海外の最先端IT技術の動向は常にウォッチしていたので、AIを使えば必ず広告配信の効果・効率を上げることができると考えていました。ネット広告の運用とはどのようなものなのかを実践とともに研究し、そのノウハウをAIに採り入れていったのです。 ここで私たちが優位だったのは、ウェブメディア運営の経験があったことです。商品を売るために最適な広告クリエイティブやテキストは何か、といった様々な知見は、女性向けキュレーションメディアの運営やマーケティング支援の事業を通して予め蓄積していました。そもそもAIは人間ができることを学習していくものです。ですから、使う側にノウハウや知見がなければ機能しないのです。 ──AIに学習させるということですね。生成AIブーム以降、この考え方はかなり広く認識されるようになりました。広告運用でもメタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)が大きな成功例となっていますが、当時としてはあまりこうした手法は成功例がなかったのではないですか。 はい、実は「SELL」の開発に当たっては、メタとのパートナーシップが大きな力になっています。同社との関係は長く、非常に濃い付き合いをさせてもらっています。というのも、私たちが扱っている女性向けの商材は、同社が運営するインスタグラムと非常に相性がいいからです。今、同社のAIによる広告運用は、世界でも最高の成果を上げていると言われています。そのメタと密に取り組んできたことが、「SELL」の性能向上に役立っているのです。 ●メーカーに進出した理由は「自分たちでつくって売ったほうがいい」から ──なるほど、なぜ御社のAIが高性能なのか、その一因が理解できた気がします。さらに2021年からはスキンケアブランドをローンチし、メーカーとしての顔も持つことになります。 AIマーケティング支援のビジネスを4年ほど続け、膨大なマーケティングデータと知見がたまる中で、確信したのは「自分たちで商品をつくって売る」こともできるということでした。根底にあるのは、私自身のモノづくりへの思いの強さです。世の中には一流と言われる企業が数多く存在しますが、モノづくりがうまくてマーケティングがうまい会社というのはあまり多くありません。その数少ない代表例は、スティーブ・ジョブズさんが率いた頃のアップル だと思います。 なぜ、同社のブランド価値が高いのか。それはジョブズさんの製品への理解度、解像度が誰よりも極めて高いからです。同じような製品をつくる企業はいくらでもありますが、ジョブズさんほどの思想を持った経営者は存在しません。製品は「iPhone」や「Mac」、「iPad」など、数少ないSKU(最小管理単位)ですが、死後10年以上経った今でも、ジョブズさんの思想が同社のブランドを支えています。テスラのイーロン・マスクさんにも同じことが言えるかもしれませんが、このような突き抜けたヒット商品を生み出すには何が必要なのか。それは“たった一人の熱狂”だと思うのです。 いまのモノづくりの主流となっているのは、「マーケット・イン」の考え方です。市場に聞いて、売れそうなものをつくっていく。でもそれではiPhoneは生まれなかったと思います。「画面の上で指を滑らせてなめらかに動く携帯電話が欲しい」といった声は、当時はどこを探してもなかったと思いますから。つまり、今ある市場に向けて開発した製品ではなく、自らの思いを製品に結実させた結果、これまで存在しなかった新しい市場を開拓したわけです。 当社が現段階で発売している3つのブランドも、こうした思想で開発したものです。スキンケアブランドの「ユンス」では、導入美容液というカテゴリーの製品が最も売れています。これはスキンケアの前に使用する美容液なのですが、このカテゴリーの市場はそれまで大きくはありませんでした。美容家電ブランドの「ブライト」の主力は、風とともにミストを噴射させるヘアドライヤーで、これまでどこにもなかったカテゴリーの製品です。そして今年の6月にローンチしたばかりのヘアケアブランドの「ストレイン」も、“縮毛補修発想”という新たなアプローチの商品です。 ──いずれの商品もECサイトで評価も高く、大ヒットしているのは、単に“良い商品”というだけではないということですね。そうして昨年(24年)9月には念願の上場を果たしました。 短期の目標はまず、時価総額1兆円を達成することです。今日(25年9月17日)時点で、日本企業の中で時価総額1兆円を超えているのは195社です。少々極端に聞こえるかもしれませんが、私自身は最低限、このラインを目指さなければ上場する意味がないのではないかと考えています。 では時価総額1兆円を達成するにはどうすればいいか。売上高2200億円、営業利益400億円、純利益280億円でPER(株価収益率)が35倍になれば、現在の株式数で1兆円になります。この業績を達成するには、26年3月期から4期連続で2倍の増収増益を達成すればいい。PERは基本的には投資家の期待の表れですから、当社ではコントロールできませんが、今、進めている事業プランを着々と有言実行していけば、投資家の皆さんにも伝わっていくのではないかと思っています。 ●時価総額1兆円は通過点、「上場ゴール」企業との違いは経営のモチベーション ──毎年2倍の増収増益というと、普通の考えではかなりハードルが高いと感じてしまいます。特に「上場ゴール」という言葉があるとおり、投資家が期待するような持続的な成長を続ける企業がなかなか現れない日本のグロース市場の現状を考えれば、御社のスタンスはかなり異色です。 「上場ゴール」に関しては、確かにそうした経営者が少なくないことは事実だと思います。上場すれば生活を一変させるような巨額の資金を得るのが一般的ですから。ただ、私が上場したのは、お金のためではない。なぜ、そうしたことが言えるのかと考えれば、上場前に一度、企業を売却した経験があるからでしょうか。再び起業をしたのは、お金を得ること以上に、高い志を持ち、挑み続けることこそ価値があると気付いたからなのです。 私が尊敬する孫正義さんは、人々があきれるような高い目標を掲げて、わき目も振らずにそこに向かって邁進しています。紆余曲折はありましたが、インターネットの世界でナンバーワンになるという志は決してぶれない。私にとっては、まずは少しでも孫さんに近づくことが目標なのです。時価総額1兆円と言っていますが、もちろん、これは通過点に過ぎません。 ──では最後に、「株探」の読者でもある全国の個人投資家にメッセージをお願いします。 私はこの会社を創業するかなり以前から、上場企業の株価チャートを徹底的に分析し続けてきました。自分の会社が上場した後、どうやったら株価を上げることができるのか、つまりどうやったら投資家にリターンを返すことができるかということを考え続けてきたのです。 29年3月期の時価総額1兆円という目標は、高すぎると考える方も少なくないと思いますが、個人的には、現実的な目標を打ち出しているつもりで、“公約”と言えるものです。なぜなら既存製品の市場拡充や新商品の開発、M&Aや海外展開など、すでに着々と進行中の事業を進めていけば、自然に達成する目標だと考えているからです。 そう言えるのは、私たちが発売した3つの商品ブランドに対する絶対の自信があるからです。1回でも使っていただいた方には、絶対に愛用していただける。この商品に対する自信が、すべての土台になっています。事業計画に関しては、社内に最高レベルのプロフェッショナル人材を揃えていますし、やはり性能には絶対の自信を持っているAIをフル活用していますから、キッチリと達成していけるはずです。投資家の皆さんは、どうかご安心いただきたいと思います。 最後に伝えたいのは、今、当社の可能性を信じ、株主になっていただいている多くの投資家の皆さんへの感謝の気持ちです。私は投資サイトの掲示板などもよくチェックしているのですが、何よりも励みになるのが、私たちを応援する書き込みをいただいた時です。最近では街中で当社の株主の方に、声をかけていただくことも増えてきました。これまでも触れましたが、経営で最も重要なのは、実はメンタルの部分なのです。創業時に応援してくれた先輩経営者たちもそうですが、いまの当社を応援してくれる個人投資家の皆さんには感謝の念しかありません。私自身、何としてでもその恩を返したいという強い気持ちが、経営者としての最大のモチベーションになっているのです。 ◇龍川誠(たつかわ・まこと) Aiロボティクス株式会社代表取締役社長。1985年生まれ。幼少期から起業を夢に描き、大学在学中からウェブメディアの立ち上げやEC(電子商取引)サイトの運営など様々な事業を展開。2013年12月、大学時代の仲間とともにロケットベンチャーを創業、女性向けキュレーションメディアを短期間で1億PVのメディアに育てる。15年2月、6億円でエニグモに買収され同社の子会社となる。16年4月、Aiロボティクス(旧社名・HowTwo)を創業し、代表取締役社長に就任。24年9月、東証グロース市場に上場、公募価格1760円(分割反映後352円)に対して2514円(分割反映後502円)の初値を付ける。 株探ニュース