2025年「ノーベル賞」発表間近、動兆エネルギー蓄積中の銘柄群 <株探トップ特集>

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コラム

―10月6日の生理学・医学賞からスタート、候補者の研究内容から物色候補を探る―

 ノーベル賞の発表シーズンが間近に迫っている。日本人候補者の受賞の成否に社会的な関心が向かうのは毎年恒例といえるが、株式市場では受賞者に関連するテーマや個別銘柄に対する物色意欲が高まることとなり、短期収益を獲得するためのチャンスとして位置づけられている。今年の狙い目はどんな銘柄になるのか、掘り下げていく。

●「グレリン」で引用栄誉賞

 2025年のノーベル賞の発表は10月6日の生理学・医学賞から始まり、7日に物理学賞、8日に化学賞と続き、科学技術系の後は9日に文学賞、10日に平和賞、13日に経済学賞が予定されている。英調査会社クラリベイトは9月25日、論文引用回数などからノーベル賞級の業績を持つ研究者を表彰する「クラリベイト引用栄誉賞」を公表した。受賞者として発表された研究者は、ノーベル賞を受賞する有力候補として注目を集めることとなる。

 今年の引用栄誉賞の受賞者は22人で、日本からは生理学・医学において寒川賢治・国立循環器病研究センター元研究所長と児島将康・久留米大学名誉教授が名を連ねた。両氏の研究により発見された「グレリン」は食欲やエネルギー、代謝を調節するホルモンで、心不全の治療や拒食症などへの臨床応用が期待されている。

 上場会社では小野薬品工業 <4528> [東証P]が、がん悪液質患者向けに食欲を増加させる経口グレリン様作用薬「エドルミズ(一般名アナモレリン塩酸塩)」を、スイス企業とのライセンス契約に基づき国内で販売する。ラクオリア創薬 <4579> [東証G]が便秘や悪液質による食欲不振を対象とするグレリン受容体作動薬の開発は前臨床段階にあるが、ペット用はすでに国内外で販売している。

●生理学・医学では免疫や白血病治療関連にも脚光

 日本人以外の表彰者に目を向けると生理学・医学ではまず、自然免疫の基本的なメカニズムの「cGAS-STING経路」の解明を理由に欧米の研究者3人が表彰された。cGAS-STING経路での過剰なシグナル伝達は、自己免疫疾患などを引き起こす要因となると指摘されており、STINGシグナルを阻害する薬剤(アンタゴニスト)の開発が期待されている。タンパク質であるSTINGを活性化させることで抗腫瘍効果を引き出すSTINGアゴニストの研究開発も活発化している。

 アステラス製薬 <4503> [東証P]は原発性シェーグレン症候群を対象とするSTING阻害剤「ASP5502」の第1相臨床試験を進めている。カルナバイオサイエンス <4572> [東証G]は免疫・炎症疾患を対象とする新規STINGアンタゴニストに関するライセンスを22年に米フレッシュ・トラックス・セラピューティクス社(旧ブリッケル・バイオテック社、23年9月に清算・解散計画を発表)に導出した実績を持つ。エーザイ <4523> [東証P]が開発パイプラインとして持つ「E7766」はSTINGアゴニストだ。

 生理学・医学ではカナダのトロント大学教授、ジョン・E・ディック氏も表彰された。がん幹細胞と白血病幹細胞の同定で実績を挙げた科学者である。白血病の治療に絡むところでは、Chordia Therapeutics <190A> [東証G]が、再発難治性の急性骨髄性白血病(AML)向け治療薬候補「rogocekib」を米食品医薬品局(FDA)からのオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)指定のもとで開発中。協和キリン <4151> [東証P]は今年3月、AML向け治療薬の新薬承認申請を米社とともにFDAに提出した。日本新薬 <4516> [東証P]は高リスクAML治療剤「ビキセオス」の販売が拡大している。

●物理学では量子コンピューター関連にも注目

 クラリベイト引用栄誉賞の物理学部門では3つのテーマで表彰が行われた。まず、フーリエ解析の限界を補い、時間とともに減衰する小さな波の和としてデータを表現・解析する「ウェーブレット理論」をもとに、画像処理など実用的な面に貢献した功績を理由に、米デューク大学教授のイングリッド・ドブシー氏らが表彰を受けた。画像圧縮方式の国際規格「JPEG 2000」にも関わる理論とされている。画像処理ソフトのモルフォ <3653> [東証G]や産業用組み込みカメラとJPEG IPコアで国内トップのシキノハイテック <6614> [東証S]、独自アルゴリズムによる画像・音声処理を行うソフトウェアIPをライセンス提供するテクノマセマティカル <3787> [東証S]などが物色候補に挙がりそうだ。

 電子スピンを量子ビットとして用いた量子コンピューティングのためのモデルの提案に関する研究成果では欧州の研究者2人が表彰された。仮にノーベル賞の受賞となった場合はそのまま、フィックスターズ <3687> [東証P]をはじめとする 量子コンピューター関連銘柄が脚光を浴びることとなるだろう。この分野では「量子テレポーテーション」で成果を挙げた東京大学教授の古澤明氏、「量子アニーリング理論」の東京科学大学特任教授の西森秀稔氏に加え、量子コンピューターの応用材料として期待される「六方晶窒化ホウ素(hBN)結晶」の製造技術で功績を残した物質・材料研究機構理事の谷口尚氏、特命研究員の渡辺賢司氏らの受賞の成否も注目されている。

 更に、星間分子雲の解明に関する研究で表彰されたオランダのライデン大学教授、エヴィン・ファン・ディショック氏は、南米チリの高地にあるアルマ望遠鏡プロジェクトに長年携わってきた人物である。その巨大望遠鏡において、アンテナ群で三菱電機 <6503> [東証P]、レンズ素材で三井化学 <4183> [東証P]の子会社の作新工業、データ処理のスーパーコンピューターで富士通 <6702> [東証P]などが貢献した。

●化学部門では蓄電池も要マーク

 クラリベイトは化学分野において3テーマで表彰を行った。「生体分子コンデンセート(凝縮体)」の役割に関する発見で表彰された米プリンストン大学教授のクリフォード・ポール・ブランウィン氏は、同じくノーベル賞の登竜門とされる今年の慶応医学賞の受賞者である。水と油を混ぜた時に起きるような、濃度が異なる水溶液を混ぜた際の「液-液相分離」が細胞内で起きていることを突き止めて生物学の常識を覆した科学者だ。アルツハイマー病やALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経変性疾患は、液-液相分離する相分離タンパク質の関与が指摘されている。ALSなどに関連する銘柄群が注視されることとなるだろう。

 仏コレージュ・ド・フランス教授のジャン・マリー・タラスコン氏は「エネルギーの蓄積・変換技術」に関する功績でクラリベイトから表彰を受けた。同氏は世界的な蓄電池研究者として知られる。研究分野はリチウムイオン電池にとどまらず、ナトリウムイオン電池や全固体電池技術など多岐にわたる。次世代自動車向けで本命視されている 全固体電池に関連する銘柄として、ジーエス・ユアサ コーポレーション <6674> [東証P]や日本特殊陶業 <5334> [東証P]、中外炉工業 <1964> [東証P]、三櫻工業 <6584> [東証P]などがマークされそうだ。

 このほか化学部門では、中国科学院・大連化学物理研究所の張涛氏が単原子触媒の開発と応用における先駆的貢献を理由に、中国人として初めてクラリベイト引用栄誉賞の表彰を受けた。加えて、今年の慶応医学賞には米エール大学で最高位の教授となるスターリング教授の岩崎明子氏が、新型コロナウイルスに対するヒト免疫応答の解明で受賞した。将来のワクチンや治療法の開発に直結する成果を生み出したとされている。素材やワクチンに関連する銘柄群で動意づくものがあるか注目したいところである。

●再生医療やペロブスカイト、CNTなどで日本人受賞なるか

 従前からノーベル賞の受賞候補となってきた日本人研究者と関連銘柄も、目配りが必要となる。前年のクラリベイト引用栄誉賞には、生理学・医学では順天堂大学で教授を務めた神経生理学者の彦坂興秀氏、化学部門に信州大学特別栄誉教授の堂免一成氏が選ばれた。彦坂氏は「大脳基底核」の神経回路に関する研究に貢献しており、脳機能イメージング装置を手掛ける島津製作所 <7701> [東証P]や脳波計を製品群に持つ日本光電 <6849> [東証P]、東京大学医学部などとの脳波に関する研究成果を生かした商品開発実績を持つSolvvy <7320> [東証G]が関連銘柄となる。堂免氏は光触媒と人工光合成に関連する研究で実績を残した。国内での人工光合成に関するプロジェクト「ARPChem」に参画する企業群には、JX金属 <5016> [東証P]やデクセリアルズ <4980> [東証P]、フルヤ金属 <7826> [東証P]などがある。

 昨年の慶応医学賞を受賞した京都大学教授の斎藤通紀氏は、マウスのiPS細胞から精子と卵子、受精卵を試験管内で作り、マウスの個体を育てることに成功した科学者である。ノーベル賞受賞時には、クオリプス <4894> [東証G]やケイファーマ <4896> [東証G]、セルシード <7776> [東証G]といった 再生医療関連株の上昇に期待が膨らむ。

 がん抑制遺伝子の研究で功績を残した医薬基盤・健康・栄養研究所理事長の中村祐輔氏はオンコセラピー・サイエンス <4564> [東証G]の創業に携わった。薬物送達システム(DDS)に関連する「ナノマシン」の研究で評価されている川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター長の片岡一則氏が創業したNANO MRNA <4571> [東証G]などもマークされることとなるだろう。

 「カーボンナノチューブ(CNT)」の研究で知られるのが名城大学の飯島澄男終身教授で、CNT関連株としてGSIクレオス <8101> [東証P]や日本ゼオン <4205> [東証P]、高圧ガス工業 <4097> [東証P]などの反応が注目される。鉄系超伝導体を発見した東京科学大学栄誉教授の細野秀雄氏に関わるところは、住友電気工業 <5802> [東証P]などの電線株とみられている。ネオジム磁石の発明者で名城大学特任教授の佐川眞人氏は大同特殊鋼 <5471> [東証P]の顧問を務めている。桐蔭横浜大学特任教授の宮坂力氏が受賞した際にはペロブスカイト太陽電池関連として積水化学工業 <4204> [東証P]や伊勢化学工業 <4107> [東証S]、K&Oエナジーグループ <1663> [東証P]が物色人気化しそうだ。

 このほか、村上春樹氏をはじめ日本人作家がノーベル文学賞を受賞した場合、三洋堂ホールディングス <3058> [東証S]や丸善CHIホールディングス <3159> [東証S]など書店株に物色の矛先が向かうことが予想される。経済学ではこれまで日本人の受賞はなかったが、金融危機の理論を確立したことで評価が高いプリンストン大学の清滝信宏教授は、旧池田銀行(現池田泉州ホールディングス <8714> [東証P])の創業家の生まれである。

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