不動産にAIの大波、「攻め」の局面でPER上昇なるか LIFULL伊東社長に聞く<トップインタビュー>

投稿:

コラム

─海外リストラ完了し収益は改善、国内事業に資源集中し新たな高みへ─

 不動産ポータルサイト「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」を展開するLIFULL <2120> [東証P]は海外事業のリストラを完了し、国内事業に経営資源を集中させる方針を明らかにしている。営業赤字となった前期から一転、25年9月期の最終利益は過去最高益での着地を見込むものの、国内市場はリクルートホールディングス <6098> [東証P]系の「SUUMO」など大手がしのぎを削っており、激しい戦いが待ち構えている。株価200円台という市場の評価をどのように受け止め、企業価値をいかにして高めていくのか。中期経営計画の策定を進めるLIFULLの伊東祐司社長に、戦略の概要について聞いた。(聞き手・末藤潤也、長田善行)

●グループ内連携で事業拡大余地

──収益が悪化した海外子会社を1月に非連結化しました。国内事業を一段と成長させる方向性を明確にしていますが、どのように他社との競争に打ち勝つ考えですか?

 ライフルホームズには、賃貸や新築・中古マンション、戸建て、注文住宅、売却、投資などさまざまなメニューがあります。優位性を持つセグメントに集中して投資をし、着実にライフルホームズを伸ばしていきたいと考えています。子会社で投資用不動産を扱う「健美家」や、介護施設や有料老人ホームの検索サイトを展開する「LIFULL senior(ライフルシニア)」も投資を実行して伸ばすことができると考えています。これらの既存のビジネスに加えて、AIの普及による「大転換期」の到来に伴うチャンスを自社の成長につなげようと思っています。

──健美家を買収して5年になります。シナジーの発揮が成長には欠かせません。

 健美家がLIFULLグループになったことが、当社の顧客である不動産業者に十分知られているかというと、まだそうではない現実があります。一方で、不動産業界では、例えば賃貸メインで展開していた会社が投資家向けの販売を検討し始めるなど、ビジネスポートフォリオの多角化を考えている事業者が増えています。ライフルホームズに広告を出稿している会員数は約3万3000店ですが、健美家の会員数の規模はまだ小さい。つまりこの3万3000店が健美家の会員候補と言えます。ここは他社にはない強みを発揮できる分野であり、営業の連携により事業を伸ばせる余地が大きいと考えています。

──国内では高齢化が加速しており、都市部ではシニアレジデンスが至るところで建設されるようになりました。この領域ではどのように攻めていきますか?

 シニアレジデンスに対するディベロッパーの注目度が高まり、今後も関連物件が増えていくことが予想されていますので、元気なシニア層の選択肢にシニアレジデンスが加わるようになっていくと思います。介護関連はこれまで子会社のライフルシニアに経営を任せていたところがありましたが、グループ内での連携によって非常に大きく成長させることができると考えています。具体的にはLIFULLの強みであるマーケティング力を生かして、シニアレジデンス向けに送客をすることに加え、マンションの売却や家の相続など、さまざまな高齢者の悩みに寄り添ってサービスを提供することが可能になります。家を起点として、幅広い年代のユーザーとのタッチポイントを持ち、多種多様な提案ができるというのが、当社の強みになっていくはずです。

●データの蓄積がAI時代の武器に

──直近ではAIに関するニュースリリースの発信が目立っています。AIを軸として顧客の課題解決を図ろうとする姿勢が見受けられます。

 業界全体の人手不足に対する課題感は大きいため、AIによる効率化ニーズは非常に高まっていると感じています。広告を通じた集客の支援だけではなく、顧客の不動産会社が人件費を掛けていた部分に対して、AIの活用を促して効率化に寄与することができれば、各社の収益性は伸びていくはずですし、当社としても事業領域を拡大することが可能になります。LIFULLは不動産業界の転職サービスも展開していますが、人材関連のソリューションは非常にニーズが高い状況です。「LIFULL FaM(ライフルファム)」という事業では在宅ワーカーのネットワークを形成して、不動産会社の一部業務で可能なものを請け負ってきました。業務を請け負って自社で運営することで自社にノウハウが蓄積され、それをまたサービス開発に生かしていく好循環が生まれます。

──競合企業もAIに関連したサービスに注力していくと思います。

 これはスピード勝負になります。社長として1000人程度の人員規模はスピード感を持って差配できる面があります。不動産領域に特化したエンジニア約200人態勢で、AIに関する知見も蓄えてきました。意思決定と開発の速さを武器に既存事業でAIを活用しつつ、虎視眈々と新規事業の立ち上げと拡大も狙っています。

 不動産とAIは非常に相性がいいと受け止めています。不動産業界は仲介業者やディベロッパーなどプレイヤーが多岐にわたり、さまざまな情報がやり取りされていますが、AIはその人に合った情報を整理して提供できるという利点があります。ポータルサイトの運営で培ったデータ量は、AI時代での戦いを優位に進めることにつながるはずです。

──新規事業はAIに関連するものになるのでしょうか?

 AIファーストで考えています。すでに発表しているものでは、「AIホームズくん」のベータ版のサービスがあります。これまでのポータルサイトは、ユーザーがエリアや間取りなど条件を絞り込んでから不動産会社に問い合わせをするというもので、1997年の開始以降、やっていることの本質は変わっていません。AIホームズくんは、「賃貸でも中古マンションでもいいから、こんな学区でこういう物件だったら内見をしたいんだけど」というように、会話に近い感覚的な探し方ができるサービスです。情報収集の方法はユーザーのリテラシーの普及に伴って、いずれパラダイムシフトが起きると考えています。この数年のうちに、検索という言葉が死語になり、AIに聞くことが当たり前になっていくのだと思います。私が2006年に新卒で入社した後、営業で外回りをしていた時、不動産会社に「これからは家をネットで探す時代が来ます」と訴えていましたが、当時は「伊東さん、そんな時代はこないよ」と言われたものです。しかしその2~3年後には、ネットでの物件情報の収集が当たり前となりました。時代の変化というのは、想像よりも早く訪れるものです。

●PER20倍程度を意識

──株主構成をみると、楽天グループ <4755> [東証P]が17.7%を保有しています。

 楽天グループとは、楽天不動産のコンテンツにおけるデータ連携だけでなく、マクロ環境の変化に応じて情報交換も行っています。(楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が代表理事を務める)新経済連盟で、(LIFULL創業者で会長の)井上(高志氏)は理事を務めていますので、規制改革やテクノロジーの推進などに関する領域で引き続き連携をしていく考えです。

──マクロ環境に関して言えば、日銀の早期利上げ観測が台頭しつつあります。

 この20~30年の間でもさまざまなマクロ環境の変化はありましたが、そこまで大きな影響を当社として受けたということはありませんでした。ライフルホームズには賃貸や新築、中古、売却、投資などといった多様なセグメントがあります。都市部のマンション価格が高騰した場合は郊外の不動産や賃貸の需要が高まります。人が動くというニーズがある以上、トレンドにあわせてライフルホームズ内のポートフォリオのなかで対応できると思っています。

──25年9月期第3四半期累計(24年10月~25年6月)の決算は2ケタの営業増益で最終損益の黒字化を果たしました。期末配当を7円33銭とする方針を示したことも相まって、8月13日の発表後に株価は大幅高となりましたが、それでも200円台にとどまっています。

 LIFULLとして期待している株価水準はもっと上ですし、足もとの株価について割安だと考えている投資家も実際は多いのではないでしょうか。海外事業のリストラなど対処すべき課題の存在ゆえ、株価に対する意識は不十分であったと感じています。配当性向も25%から30%へ引き上げ、配当額としては過去最高の予定です。ある意味で一つのメッセージは出せましたが、今後も株主還元については継続的に検討していきたいと思っています。ネット関連の広告事業を展開する上場企業のPER(株価収益率)は20倍程度が平均ではないかと考えています。LIFULLの株式(PER6.5倍、9月18日時点)に関しても、その水準まで評価されるように事業を行っていきます。

──LIFULLのロゴマークは四つのLで四角形を形成したものです。一人ひとりにフォーカスするという意味が込められていると伺いました。

 このロゴはL字フォーカスと言って、あらゆる「LIFE」に焦点をあてる企業の姿勢を示すシンボルです。一人ひとりにフォーカスし個人が抱える課題から、その先にある社会課題まで事業を通じて解決する想いが込められています。過去20~30年間の膨大なデータの蓄積をもとに、ユーザーの一人ひとりに最適化された提案がAIを通じて提供できるようになる。そんな時代の到来に私自身、ワクワクしています。国内でライフルホームズ事業の成長投資はもちろんのこと、関連事業への投資も強化していく方針です。AIの活用により、新たな競争が始まると考えています。今後のLIFULLグループの成長にぜひご期待ください。

◇伊東祐司(いとう・ゆうじ)
 大学卒業後、2006年株式会社ネクスト(現LIFULL)に新卒で入社。HOME'S(現LIFULL HOME'S)の営業職を務めたのち、営業部長を経て15年に最年少の32歳で執行役員。19年LIFULL HOME'S事業本部長、20年取締役執行役員、23年代表取締役社長執行役員(現任)。

株探ニュース

オンラインで簡単。
まずは無料で口座開設

松井証券ならオンラインで申し込みが完結します。
署名・捺印・書類の郵送は不要です。