東証改革で続く日本株の地殻変動、評価拡大中のバリュー厳選8銘柄 <株探トップ特集>
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―AIブームでリスクオン相場再来、資本効率向上の波も止まるを知らず― 米株式市場が再び高揚感に包まれている。9月に入りS&P500種株価指数とナスダック総合株価指数は過去最高値圏に浮上し、NYダウについては4万6000ドル台と未踏の域に突入した。けん引役はAI関連銘柄であり、強欲ともいえる市場の米利下げ観測もリスクオン相場を後押ししている。ただし7月以降の東京市場においてはバリュー株指数の好パフォーマンスが目覚ましく、東証による市場改革の効果が持続的に日本株の押し上げに寄与している。資本効率の向上に向けた企業の取り組みは不可逆的といえる状況下にあって、投資妙味のある銘柄を厳選していく。 ●バリュー株復権の2つの軸 オラクルやブロードコム が発表した好決算を契機に、半導体やクラウドを中心とするAI投資のテーマが再燃しつつある。米国株の上昇を映す形で強含み、日経平均株価も過去最高値の更新を続け、18日終値はフシ目の4万5000円を上回った。 米連邦準備制度理事会(FRB)は16~17日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)において市場の予想通り0.25%の利下げを決めた。FOMC参加者の政策金利見通しは、年内であと2回の利下げの可能性が示されている。10月以降の米利下げ継続への期待感が広がるなかにあって、18日の東京市場ではアドバンテスト <6857> [東証P]が上場来高値を更新したほか、ディスコ <6146> [東証P]など半導体関連は軒並み高となり、AI関連株への投資意欲の根強さをみせつける格好となった。 その一方で、物色の裾野が広がりつつある点も無視はできない。東証株価指数(TOPIX)のスタイル別動向をみると、バリュー指数は6月末の水準から約16%上昇。グロース指数の上昇率(約6%)を大きく上回っている。プライム市場・スタンダード市場のPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業数も減少に向かっており、株主資本効率を意識した「バリュエーション訂正」が進行している。かつて「割安のまま放置」されていた銘柄群に資金が向かい始めたことは、市場の地殻変動を映している。 バリュー株物色の背景には大きく2つの要因がある。1つは、日本銀行による利上げ観測だ。全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数、コアCPI)は2024年12月から8カ月連続の3%台を記録しており、金融政策の「正常化」への圧力は高まっている。9月18~19日の金融政策決定会合では現状維持の公算が大きいとみられるが、年内利上げ観測は根強い。10年国債利回りは上昇基調を維持しており、相対的に割高なグロース株のバリュエーションを抑制する一方、PBR1倍割れの出遅れ銘柄やバリュー銘柄には投資妙味が増している。 2つ目は、東京証券取引所のガバナンス改革である。東証は今年7月から全上場企業にIR体制整備を義務づけ、全く整備されていない場合は、「公表措置等の実効性確保措置の対象となる場合がある」とした。更に、コーポレートガバナンス報告書にIR体制の記載を求めるなど、資本市場との対話姿勢を強く迫っている。東証が23年にプライム市場とスタンダード市場の上場企業に要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」のなかで、PBR1倍超の達成を具体的に掲げた時から、バリュー株は単なる「割安放置銘柄」ではなく、「改革圧力を背景に是正が進む投資対象」へと性格を変えつつあったが、投資家の多くはこうした改革が不可逆的に日本企業のなかで進行していくと考えている。 ●バリュエーション訂正の潮流は継続へ 石破茂首相の辞任表明を受け、自民党総裁選が行われる運びとなり、次期総裁候補による積極財政政策への期待が高まった。財政出動は企業収益を下支えするとの見方が広がる一方で、国債増発による金利上昇リスクや円相場への影響は看過できない。日本株の上昇基調の裏側には「財政期待」と「金融不安」が交錯している構図も透けてみえる。 現在の相場を冷静に見れば過熱感は否めない。日経平均のPER(株価収益率)は18倍を上回り、歴史を振り返れば割高圏に位置している。それでもなお、上場企業の多くがROE(自己資本利益率)8%超かつPBR1倍超を未達成のままである。ガバナンス改革の強制力が働く過程において投資家による「改革未達企業」への注目度は依然として高く、バリュエーション訂正の流れは今後も続くとみられる。なかでもバリュー株の水準訂正は、ガバナンス改革や金融政策の転換が相互作用することで持続性を持ちうるといえる。 市場関係者は米国株の利下げ期待とAI熱狂という甘美な物語に浸っている。しかし、投資家に求められるのは期待や熱狂に流されることではなく、冷静にバリュエーションと制度改革の帰結を見極める視点である。市場が次に描く物語は、AIの夢だけではなく、資本効率を迫られる日本企業の現実と、それに応える市場の構造転換であろう。これらを踏まえ、バリュー株が集まる業種を中心に有望株をピックアップする。 ●東リやトヨカネツに注目 タイルカーペット分野で国内トップのインテリア総合メーカー、東リ <7971> [東証S]は7月30日に26年3月期の業績・配当予想を上方修正し、営業利益は減益予想から一転、微増益の見通し。中期経営計画では配当性向50%、またはDOE(株主資本配当率)3.5%を目安とし、ROE8%超かつPBR1倍超に向けて歩みを続けている。これを受けて株価水準は500円手前から600円手前に居所を変えた。 タンク工事業界最大手のトーヨーカネツ <6369> [東証P]は、空港、配送センターの物流システムが主力になってきた。26年3月期第1四半期(4~6月)の経常利益は前年同期比18.0%減の11億8600万円に減ったが、上期計画を超過しており、今後は通期見通しの上方修正が期待される。新中期経営計画では配当方針を配当性向50%以上から、DOE4.0%以上に変更し、減配リスクは低下。株価は順調に右肩上がりである。 エンジン部品のピストンリングの製造最大手リケンNPR <6209> [東証P]は26年3月期第1四半期(4~6月)の経常利益が前年同期比11.4%増の43億6300万円に伸び、通期計画(114億円)に対する進捗率は約38%に上った。原価低減活動の効果や比較的高採算な熱エンジニアリング事業の伸長などが奏功し営業利益率が上昇。中期経営計画では配当性向40%以上、総還元性向70%以上を掲げる。 顔料外販の大日精化工業 <4116> [東証P]は、26年3月期第1四半期(4~6月)経常利益が前年同期比31.2%増の27億4500万円に拡大。自動車向けコンパウンド・着色剤は前期の地震影響などがなくなり、国内向けは堅調に推移したほか、液晶ディスプレイ向け顔料やコーティング剤も好調に推移したという。総還元性向は50%以上とする方針で、特別配当を除き年間配当100円を下限とする。株高が進んだもののPBRは現状0.5倍台と一段の改善余地がある。 ●セ硝子や旭ダイヤも要マーク 板ガラス国内3位のセントラル硝子 <4044> [東証P]は、主力事業を洗浄剤など化成品、ファインケミカル事業に転換した。26年3月期第1四半期(4~6月)経常利益は前年同期比57.5%減の17億8100万円に大きく落ち込んだが、上期計画(25億円)に対する進捗率は71%に達した。中期経営計画では28年3月期にROE8.7%(25年3月期は4.9%)を目指すほか、年間配当の下限を170円としている。自社株買いなどの還元策で一段のROEの改善に動くと期待したい。 ダイヤモンド工具最大手の旭ダイヤモンド工業 <6140> [東証P]は8月8日に26年3月期第2四半期累計(4~9月)の業績予想を上方修正し、中間期の最終利益は減益予想から一転して増益の見通しとなった。利益率が改善しつつあり、通期業績予想の上方修正に期待が膨らむ。発行済株式総数(自己株式を除く)の3.23%、取得総額12億円を上限とする自社株買いも実施。株価は7月から上昇基調にある。 塗工機・化工機を手掛けるヒラノテクシード <6245> [東証S]は、8月12日に26年3月期第2四半期累計(4~9月)の業績予想を見直し、減益幅が当初の見込みよりも縮小する見通しを示した。4~6月期において一部案件の受注額の見直しによって利益の下振れが緩和されたという。配当政策についてはDOE3.5%、または配当性向60%のいずれか高い金額を配当の目安にしている。 ビート糖最大手の日本甜菜製糖 <2108> [東証P]は政策保有株式の見直しによる投資有価証券売却益の計上見通しを理由に、8月8日に26年3月期の最終利益予想を従来の8億円から18億5000万円(前期比31.6%減)に引き上げた。発行済株式総数(自己株式を除く)の4.02%、取得総額10億円を上限とする自社株買いも発表している。新たな中期経営計画では、安定的にROE5%以上の達成を目指す方針を示しているが、東証の目線は8%以上であることを踏まえると、更なる目標値の引き上げも見込めそうだ。 株探ニュース