獅子奮迅の「防災DX」関連株、国土強靱化を追い風に上昇気流に乗る <株探トップ特集>

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コラム

―国策に売りなし体現、官民連携の強化で急拡大するビジネスチャンス―

 石破茂首相が退陣を表明したことで、候補者はもちろんのこと自民党に所属する国会議員などそれぞれの思惑を乗せて自民党総裁選がスタートした。高市早苗前経済安保相と小泉進次郎農相との一騎打ちとの見方もあるが、新総裁に誰が選出されるのか下馬評通りにいかないのが総裁選であるだけに、国会議員の勝ち馬探しにも力が入る。こうしたなか、石破首相の置き土産ともなった2026年度設置を目指す防災庁の行方が気にかかるが、ひとつだけ確信を持って言えるのが、災害の多いこの国において誰がトップの座を射止めようと 国土強靱化は待ったなしということだ。そして、防災DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進こそが、その支柱となる。進化する「防災DX」関連株のいまを追った。

●事業規模は20兆円

 株式市場では、「国土強靱化」関連株が折に触れて投資家の注目を浴びてきた。国家による巨額資金の投入を背景に、関連銘柄の業績が好調なことが株価上昇の理由にほかならず、まさに国策に売りなしを体現している。今年6月には「第1次国土強靱化実施中期計画」が策定され、事業規模は26年度から30年度までの5年間で20兆円強程度をメドとしており、国土の強靱化に関連する銘柄にはこれが強烈な追い風となる。

 関連銘柄は大手ゼネコンをはじめとする建設株などを中核にして投資家の視線が熱いが、同中期計画では、「デジタル等新技術の活用による国土強靱化施策の高度化」も掲げられており、防災DX関連株への関心も極めて高い。デジタルなど新技術の活用では、おおむね3000億円が充てられる見込みで、人工知能(AI)や ドローンなど最先端のデジタル技術の活用により、インフラの管理・運用の高度化や住民避難の体制強化を図る構えだ。

●政策期待+トランプ関税と距離置く

 防災DXのすそ野は広い。政府はAIやドローンだけではなく、マイナンバーや成長著しい衛星分野などの最先端テクノロジーを組み合わせることで、国土強靱化に向けた施策を飛躍的に進化させる方針だ。防災DX化に向けて官民連携も進んでいる。22年12月には、デジタル庁の声がけで「防災DX官民共創協議会」が発足。同協議会には、今年8月29日時点で116の地方公共団体と436の民間事業者が参画しており、南海トラフ地震や首都直下型地震など巨大災害への懸念が深まるなか、防災DXへの更なる投資拡大が予想される。総裁選を経て新たなリーダーの誕生で、防災をテーマにした政策期待もいっそう高まる可能性があるうえ、テーマとしての国土強靱化や防災は、いわゆるトランプ関税とは距離を置いている点も投資家に安心感をもたらしている。

 激甚化・頻発化する自然災害だけではなく、高度経済成長時代に一気に整備されたインフラの老朽化による災害への対応にも関心が急速に高まっている。今年1月、埼玉県八潮市の県道で発生した陥没事故の余波は大きく、復旧には最終的に300億円規模の費用がかかるとも伝わっている。下水管の破損が原因とされ、予防保全の観点からドローンを活用した点検作業や、最先端のソリューションによる地盤調査に加え路面下空洞探査サービスを展開する銘柄に投資家の視線が向かったことは記憶に新しい。IoTソリューションを活用した防災・減災に対する新たな取り組みが加速している。

●応用地質、防・減災事業が好調

 昨年8月8日に「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されたことで、日本列島に大きな衝撃が走った。同月15日には特別な注意の呼びかけは終了したが、当時の株式市場では応用地質 <9755> [東証P]、地盤ネットホールディングス <6072> [東証G]、SAAFホールディングス <1447> [東証G]をはじめとする地質・地盤調査や改良に絡む銘柄に物色の矛先が向かった。

 このなか応用地質は、地質調査業大手で建設コンサルにも注力するが、道路陥没事故などを踏まえたインフラ老朽化対策業務、自然災害に備えた防災・減災関連事業が堅調に推移。加えて、地盤モニタリング関連での大型機器案件の獲得など業績も好調だ。また、土砂災害・河川災害分野では、最新のAI、IoT、地盤3次元化技術などを組み合わせた防災DXソリューションの開発力が際立っており、投資家の注目度も高い。8月12日に発表した25年12月期第2四半期累計(1~6月)の連結営業利益は、前年同期比14.6%増の26億8000万円に伸長。通期計画45億円に対する進捗率は約60%と順調だ。株価は、8月12日に3330円まで買われ年初来高値を更新した後は急速に調整局面に移行。現在は3000円を挟み頑強展開をみせており、調整一巡からの反転攻勢に期待も。

●事業領域広げる能美防災

 総合防災機器大手の能美防災 <6744> [東証P]は、防災意識の高まりを受けて、ここ急速に活躍領域を広げている。8月には、IHI <7013> [東証P]傘下の明星電気の全株式を取得し(株式譲渡実行日は26年2月2日)子会社化することを発表。能美防災の事業領域は防火防災設備といった屋内中心だったが、明星電気のグループ入りでこれに計測器、人工衛星に搭載される観測機など、屋外を中心とする防災へと領域を拡大することで、新たな成長ステージへの飛躍を目指す。26年3月期の連結営業利益は、前期比5.2%増の165億円を計画し連続過去最高利益更新を見込む。株価は、8月8日に4235円まで買われ上場来高値を更新。その後は調整し上値の重い展開が続くが、75日移動平均線を踏ん張りどころに切り返しへ転じるか注目が集まる。

●ビプロジーは「災害ネット」に期待

 情報システム大手のBIPROGY <8056> [東証P]は、高度な技術力を活用し“クロノロジー(時系列)型”の災害情報共有システム「災害ネット」を手掛ける。災害ネットは、メモ、ホワイトボードなどに散在する情報を、「ホワイトボードにそのまま書き込む」感覚でデータ化し、災害対応活動を部署や場所を超えて共有できるシステム。拠点や工場、店舗などが被災状況を入力しアンケート形式で回答、それを集計し一覧表示する機能を持つ。自然災害が激甚化するなか、企業のBCP(事業継続計画)はもはや必須といえ、混乱を極める災害時に早期復旧を目指し重要な役割を担いそうだ。同社の26年3月期連結営業利益は、前期比9.0%増の426億円と5期連続での過去最高利益更新を計画している。株価は、8月13日につけた最高値6594円奪回からの一段高に向かう可能性もある。

●水害監視でニーズ捉える太陽誘電

 セラミックコンデンサーの世界的大手の太陽誘電 <6976> [東証P]は、光学技術を水害監視に応用展開した河川モニタリングシステムなど災害ソリューションにも取り組む。同ソリューションは、総合的な水害のモニタリングを行うことで浸水状況を速やかに把握。早い段階でのアクションは被害軽減につながるため、自治体や企業などのニーズを捉えている。また、インフラ老朽化が社会課題となるなか、橋梁監視ソリューションを提案している点も見逃せない。業績は為替差損益の影響などにより26年3月期第1四半期(4~6月)の連結経常利益が前年同期比96.9%減となったが、営業利益は同19.4%増の31億4200万円を確保。通期予想では、営業利益段階で前期比53.0%増の160億円、経常利益では同42.6%増の150億円を据え置いている。株価は新値街道をまい進しており、更なる上値追いに期待が膨らむ。

●頭角現わすIMV

 IMV <7760> [東証S]は振動試験・受託振動試験・振動計測を手掛けるが、地震監視装置の世界的メーカーとしても知られる。23年に販売を開始したスリーエス地震計「SW-5033」が、「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靱化大賞)2025」で優秀賞を受賞。また、インドネシアへの地震モニタリングシステム導入を目指しJICA Bizビジネス化実証事業に採択されるなど高い評価を受けており、防災関連の一角として頭角を現しそうだ。業績も好調で、25年9月期連結業績予想の営業利益は、前期比5.5%増の19億5000万円と2期連続の過去最高益更新を見込む。8月8日に発表した第3四半期累計(24年10月~25年6月)の連結営業利益は、前年同期比22.3%増の16億1800万円に伸び、通期計画に対する進捗率は83%に達している。株価は、今月4日につけた直近安値1684円を底に切り返しに転じており、まずは年初来高値2044円奪回を目指す。

●日水コンはリアルタイム浸水予測システム

 上下水道を中心に建設コンサルを手掛ける日水コン <261A> [東証S]だが、浸水の危険性をいち早く察知し通知・周知する防災情報システムであるリアルタイム浸水予測システム「Blitz FLOOD」を展開。今年6月には、同社がクボタ <6326> [東証P]子会社のクボタ環境エンジニアリングと開発中の、豪雨時における都市部水害対策に向けたリアルタイム浸水予測及び雨水ポンプ場の運転を支援する「水害対策ワンストップソリューション(都市下水予測)」が、福岡市が公募した「福岡市実証実験フルサポート事業」に採択されたと発表しており、活躍の舞台を広げている。25年12月期第2四半期累計(1~6月)の連結営業利益は前年同期比13.8%増の19億4800万円で着地。通期計画の23億円に対する進捗率は85%に達しており、株価は上昇一服も好業績を背景に注目は怠れない。

●構造計画HD、アジア航測にも注目

 このほかでは、構造計画研究所ホールディングス <208A> [東証S]、アジア航測 <9233> [東証S]にも注目。構造計画HDは傘下の構造計画研究所が、15時間先までの河川水位を確率的に予測するリアルタイム洪水予測システム「RiverCast」を手掛けており、全国各地で運用されている。また、さまざまなシミュレーションを活用しBCP策定を支援するなど同社の活躍領域は広い。株価は、急勾配の5日移動平均線をサポートラインとした上昇波を形成しており、現在は最高値圏で一服場面にある。

 アジア航測は航空測量大手だが、独自技術を存分に生かすことで「3次元浸水ハザードマップ」をはじめとした数多くの防災ソリューションを手掛けている。新規事業展開として、コア技術の空間情報技術とAI、ロボットの組み合わせで、人に代わり施設・インフラなどの監視・管理業務を行う「センシングロボットSIer」に向けた取り組みを開始している点もポイントだ。

株探ニュース

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