義務化を控え対応本格化へ!「新リース会計基準」で商機捉える銘柄群 <株探トップ特集>
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―会計システムや業務プロセスの見直し急務、固定資産管理システムなどに特需か― 新リース会計基準が2027年4月1日に義務づけられるのを控えて、その対応が徐々に本格化しつつある。日本のリース会計基準が国際会計基準(IFRS)などと同じ基準になることで、海外の投資家や企業から見て日本企業の財務の透明性が高まり、日本企業への投資の活発化が期待される一方、対応への準備に多くの労力とコストが必要となることも懸念される。一部では1990年代後半からのいわゆる「会計ビッグバン」に例える向きもあるなど、大きな転換点となることが予想されるだけに、これを商機とする企業も多く、関連企業には要注目だ。 ●新リース会計基準とは リース会計基準とは、ファイナンスリースやオペレーティングリースといったリース取引の種類や、リース取引を財務諸表にどのように記録・報告するかを定めたルールのこと。日本の会計基準は、長らくIFRSと異なる独自のルールを採用してきたが、グローバル化が進展するにつれ、これまでにも国際的な基準に近づける見直しが進められてきた。 新リース会計基準はこの流れの一環として定められたもので、企業会計基準委員会(ASBJ)が24年9月に公表した企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」を合わせて、「新リース会計基準」としている。 ●新リース会計基準で何が変わる? 新リース会計基準では、リースの一般的な定義に加えて、リースの識別に関する定めが新たに設けられるほか、リース取引の区分廃止やオンバランス処理の原則化が求められるようになった。法的にリース契約の形態ではなくても、リースの定義を満たす場合は、契約書の名称に関わらずリースと判定され、リースの会計処理が適用されることになる。 また、これまで「ファイナンスリース」「オペレーティングリース」と分かれていたリース取引の区分が廃止され、原則として全てのリース取引について使用権資産及びリース負債を計上することになる。当然、自己資本比率やROA(総資産利益率)といった財務指標に大きな影響を受けることが予想され、経理処理も煩雑になることが懸念されている。 ●新リース会計基準の対応状況 大きな変更点だけでも実務上の負担増大が予想される新リース会計基準だが、その準備となると、契約書上は「リース」という名称ではないものの、「資産の使用権」と「対価の支払い」が含まれると実質的にリースとみなされる「隠れリース」の洗い出しから始めなければならない。27年4月の義務づけまで約1年半に迫ったこの時期でも、準備を始めるのは遅いといわれる所以だ。 その一方、フリー <4478> [東証G]が今年5月に国内の上場会社及び会社法上の大会社の会計担当者1059人を対象に行った新リース会計基準の対応状況に関する調査によると、対応状況についての問いに対して、「わからない」と答えたのは48.5%で、「対応準備を開始予定である」が23.8%、「すでに対応を開始している」が15.5%、「現時点では対応準備を開始していない」が12.2%となった。半数近くが自社の対応状況を把握できていないことが判明しており、こうした企業では今後、急ピッチで新リース会計基準への準備が進められることになろう。 ●新リース会計基準が商機となる銘柄 新リース会計基準への対応は、 会計システムや業務プロセスの見直しが必要であり、特に固定資産管理や契約のデジタル化は必須とされる。これらを中心に、新リース会計基準で商機拡大が期待できる企業をピックアップしてみた。 プロシップ <3763> [東証P]は、関連銘柄の代表格といえる。固定資産管理に特化したソリューション「ProPlus」シリーズが主力で、同シリーズは5400社以上の企業グループに採用されている。また、24年12月には新リース会計基準に対応したSaaS「ProPlus+」をリリースしている。影響額を試算するサービスや準備支援も展開し、専門性を生かしたソリューションで市場をリードしている。 マネーフォワード <3994> [東証P]は、個人向け家計簿アプリ「マネーフォワード ME」と、法人向けバックオフィスSaaS「マネーフォワード クラウド」が主力。今年6月には、「マネーフォワード クラウド契約」において、新リース会計基準の対応に向けた「AIリース判定機能」を25年内に提供すると発表した。契約書から新基準の適用対象となるリース契約を自動で判定する機能で、リース判定後の契約情報を、年内に提供予定の新プロダクト「マネーフォワード クラウドリース会計」に連携することで、契約書の特定から会計業務まで一連の業務をスムーズにするとしている。 Sansan <4443> [東証P]は、名刺管理サービスの「Sansan」や、請求書管理サービスの「Bill One」などが主力。24年12月には、契約データベースの「Contract One」が新機能「拡張項目のAI自動入力」を実装。AIが契約書から新リース会計基準の対応に必要な項目を自動抽出し一元管理することで、企業のリース契約の識別・収集作業を支援している。 前出のフリーは、中小企業向けに帳簿や決算書作成・請求業務に対応しあらゆる経理業務を一元管理できる「freee会計」や、給与明細や年末調整、入社手続きから勤怠管理まで対応する「freee人事労務」などを提供。今年3月には、「freee会計」が26年3月末までに新リース会計基準に完全対応すると発表した。また、「freeeサイン」で契約書の一元管理にも対応する。更に、固定資産をクラウド上で管理できる「freee固定資産」を26年春に提供開始する予定で、これらにより新リース会計基準に対応する。 オービックビジネスコンサルタント <4733> [東証P]は、中堅・中小企業向け基幹業務システム「奉行シリーズ」を展開している。今年4月には、「固定資産奉行V ERPクラウド」で、リースのオンバランス化によって生じる財務諸表への影響額のシミュレーションをはじめ、リース契約の見直しにかかる再計算、日々のリース会計処理の業務プロセスを最適化する6つの新機能の提供を開始。また、8月にはリースの識別をAIでサポートする「奉行AIエージェント 新リース会計識別クラウド」を発売し、契約書の洗い出しから会計処理までを支援している。 ファーストアカウンティング <5588> [東証G]は、会計分野に特化したAIソリューションを提供している。今年8月には、新リース会計基準に対応する「経理AIエージェント 新リース会計基準対応版」を発表。経理AIエージェントのフレームワーク上に、新たなエージェントとして追加されるもので、一般のAI-OCRではうまくデータ化できなかったような複雑な契約書も正確にデータ化。AIが、新リース会計基準に対応した判断ロジックで適切に自動判断を進め、経理業務に特化した複数のエージェントが連携して電子署名や仕訳連携まで一括で対応する。 このほか、26年秋に「PCA固定資産」の新リース会計基準対応版をリリースする予定のピー・シー・エー <9629> [東証P]、上場企業グループに向けて「新リース会計基準の影響額試算ツール」を提供するTKC <9746> [東証P]、資産管理及び減価償却システムにおいて、順次「新リース会計基準」への対応を進めるミロク情報サービス <9928> [東証P]などにも注目したい。 株探ニュース