農政大転換で脚光、成長産業へ評価急上昇中の「農業関連」銘柄に刮目 <株探トップ特集>
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―令和のコメ騒動を経て国は増産へ舵、政策効果による設備投資機運の高まりに期待― 「令和のコメ騒動」とも言われた コメ不足は、政府の備蓄米放出によって一服することとなった。今年8月に、石破総理大臣は、生産量不足が価格高騰を招いたとして、コメ増産に舵を切る方針を表明。耕作放棄地の拡大を食い止め、輸出の抜本的拡大を目指す考えを示した。農林族議員や一部業界からは懸念の声が出ているが、従来の農業政策が大きな転換点にあることは間違いない。国際的にみて農業は成長産業であることも踏まえ、投資家に「実り」をもたらしうる農業関連銘柄に注目してみたい。 ●コメ増産によって設備投資が拡大、農業機械に機会 農林水産省の「令和6年度 食料・農業・農村白書」によると、わが国のカロリーベース総合食料自給率は、1965年度の73%から2023年度には38%へと低下した。「高付加価値・高単価」の商品作物にシフトする農家の存在もあって、生産額ベースの総合食料自給率は同期間に86%から61%への低下にとどまっているとはいえ、食料安全保障の観点からも自給率の改善に迫られているのが現状だ。政府の総合食料自給率目標は30年度にカロリーベースで45%、生産額ベースで69%となっている。 国内では24年に食料・農業・農村基本法が大幅に改正され、61年に制定された農業基本法は廃止された。改正法に基づく新たな食料・農業・農村基本計画では、水田支援から作物ごとの生産性向上支援へのシフトに加え、コメ輸出の拡大、法人も含めた担い手確保、農地の集積・集約化、生産性向上、スマート農業の推進、資材の安定確保などの施策に取り組む方針が示されている。 国際的・世界的に見た場合、食料・農業は成長産業である。発展途上国の人口増加と所得水準向上により、食料需要は増加しているからだ。国内だけではなく、輸出を視野に入れた増産への路線転換は時宜にかなっている。食料生産拡大が政策的に推進されるなら他の産業と同様に農業でも設備投資の拡大が期待でき、人手不足・後継者不足の環境下でのスマート化推進を含め、農業資材関連企業の事業環境は一変する可能性が高い。 また、日本の農業の問題点として小規模兼業農家が多く、大規模化・機械化が進まないことが挙げられてきたが、政策要因とは別に、後継者難によって徐々に農地集約は進みつつある。海外と比べると依然として小規模ではあるものの、機械化やスマート化を進める素地は整いつつあると言えるだろう。自動走行トラクター、収量・品質センサー付きコンバイン、自動運転田植え機などでは実証実験も進捗し、今後は本格的な社会実装が期待されている。スマート農業実証プロジェクトからも大幅な作業時間短縮・省人化の効果が出ており、農業の生産性向上が期待されている。 ●クボタ・井関農の商機拡大に期待 国内の 農業機械市場はトラクター、コンバイン、田植え機などが主要品目であり、総合メーカーとして大手4社がシェアを握っている。農業機械で国内首位のクボタ <6326> [東証P]、ヤンマーホールディングス傘下のヤンマーアグリ、農業機械専業の井関農機 <6310> [東証P]、三菱重工業 <7011> [東証P]系の日印合弁会社である三菱マヒンドラ農機である。 クボタは祖業の鋳鉄管から水・環境事業、農業機械、建設機械に事業展開。北米建機とアジア農機が成長ドライバーだが、国内トップの農機も注目されるほか、昨今話題の上下水道インフラ更新の恩恵も期待でき、折に触れて物色される可能性がある。井関農はコンバインと田植え機に強みを持ち、農業用施設・資材も展開。収益性改善と資産効率化を進め27年12月期にはROE(自己資本利益率)8%以上、DOE(株主資本配当率)2%以上、PBR(株価純資産倍率)1倍以上を目標としている。成長エンジンとしては海外事業が想定されているものの、国内需要が拡大すれば上乗せ要因となろう。 中堅どころでは、やまびこ <6250> [東証P]が刈払機や草刈り機、チェンソーに加え、農業用管理機械や一般産業用機械などを製品群とし、小型屋外作業機械で国内首位。薬剤を散布する防除機などを手掛ける丸山製作所 <6316> [東証S]や、肥料散布機のほか牧草刈取機など畜産関連機器を供給するタカキタ <6325> [東証S]も関連銘柄に加わる。 ●片倉コープなど肥料関連もマーク 農業資材の大宗は農業機械、 肥料、 農薬の3部門が占めており、JAグループの取扱商品としても重要な商材になっている。特に肥料や農薬は、農業生産高に比例する部分が大きく、減反と生産抑制が続いていた環境では収益面で厳しい状況にあった。今後、生産高が拡大に転じるのなら、事業機会は広がると見るべきだろう。主な化学肥料の原料である尿素、りん酸アンモニウム、塩化カリウムは、ほぼ全量を輸入に頼っている。家畜排せつ物由来堆肥や下水汚泥など国内資源の活用も進められているものの、世界的に資源が偏在しているため、原料輸入には依存せざるを得ない面がある。肥料業界は小規模事業者が多数存在しており、価格競争が激しい。輸入原料市況の動向に業績が左右される傾向もある。 片倉コープアグリ <4031> [東証S]は、肥料では国内最大手で、全国農業協同組合連合会(全農)と丸紅 <8002> [東証P]が大株主に名を連ねている。8月末に発表した中長期成長戦略では今後6年間を「構造改革期間」と位置づけ、国内生産拠点を15工場から27年度までに9工場に集約するほか、品目最適化によって肥料事業の収益性向上を図る方針を明らかにした。化学品事業の成長・拡大と不動産事業の安定収益を加え、31年3月期にはROE6%以上、35年3月期には同8%以上を目標としている。政策保有株式の売却など資産効率向上とともに、配当性向50%を基本とするなど株主還元も積極化する。 多木化学 <4025> [東証P]は1885年に国内初の人造肥料を製造開始。肥料から化学品、不動産へと事業展開してきた。28年12月期を最終年度とする中期経営計画では、アグリと水処理薬剤の強化、ライフサイエンスや機能性材料の成長を見込んでいる。ROE目標6%以上はすでに達成しており、さらなる上乗せを視野に入れている。 OATアグリオ <4979> [東証S]は、防除技術と施肥灌水技術をもとに、肥料と農薬の中間的なカテゴリーであるバイオスティミュラント(生物刺激剤)に注力している。非生物的ストレスを制御し、収量・品質の向上を目指す資材であり、今後の成長が見込まれている。有機水耕栽培やスマート農業への展開力もあり、農業関連では珍しい高ROEの成長株として注目したい。 ●日産化やサカタタネなどにも好機到来 農薬の国内大手としては、住友化学 <4005> [東証P]、三井化学 <4183> [東証P]など総合化学メーカーが挙げられるが、ここではあえて日産化学 <4021> [東証P]をマークしてみる。収益性の高さに定評がある同社は農薬の国内販売シェアは首位を維持し、ディスプレイや半導体など機能性材料とともに稼ぎ頭となっている。同社の農業化学品事業の特徴は、医薬品業界に匹敵するような製品パイプラインの管理・計画にあり、自社開発の大型製品で足りない部分を他社からの導入品で補うなどポートフォリオ拡充が進められている。28年3月期までの中期経営計画では、ROE18%以上、配当性向55%以上、自己株取得を含む総還元性向75%以上を掲げている。 クミアイ化学工業 <4996> [東証P]は全農系の農薬専業大手で、海外売上高比率が60%を超える。殺虫剤、殺菌剤、除草剤、微生物農薬の研究開発を進め、主力製品の拡販と新薬の創生に取り組み、スマート農業ベンチャーにも出資する。日本農薬 <4997> [東証P]は農薬製造の老舗で、北米、欧州、ブラジル、インドなど世界の主要な農業生産地に自社拠点を展開。海外売上高比率は70%を超える。研究開発では新薬開発のカギを握る薬剤の原体から開発している点に特徴があり、バイオスティミュラントも強化している。PBR1倍割れ解消策として、ROE8%以上、配当性向40%を掲げている。 種苗業界にも目配りしておきたい。サカタのタネ <1377> [東証P]は野菜と花の種苗でグローバル展開しており、売上高の80%弱を海外が占める。種子の生産・販売ともに世界4極体制を構築し、農業資材や造園緑化にも事業領域を広げる。オリジナル品種による高い競争力を背景に、高収益体制の構築を目指した新長期経営計画を来年7月に発表予定だ。 カネコ種苗 <1376> [東証S]は家庭菜園向けなど事業領域の拡大に努めつつ、養液栽培やバイオスティミュラント製品も強化している。今期からスタートした新中期経営計画では、3年間の売上高平均成長率3%を目標に、収益性と資産効率の向上を図る。ベルグアース <1383> [東証S]は接ぎ木した野菜苗を開発・生産し、トマト、キュウリなどの苗が主力。全国に自社農場を持ち、生産体制拡充と生産品目拡大を目指している。ウイルス病を抑制する植物ワクチンの研究と実用化に注力しており、ワクチン接種苗の販売も広がりつつある。 株探ニュース