桂畑誠治氏【日経平均急騰で一時最高値、ここからの読み筋】 <相場観特集>
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―石破首相退陣で新政権への期待、米経済減速への警戒感は― 8日の東京株式市場は主力株をはじめ広範囲に投資資金が流れ込み、日経平均株価は一時800円を超える上昇を示し、8月18日につけた史上最高値を上回って推移する場面があった。その後は伸び悩み、終値では届かず青空圏への突入はお預けとなったものの、TOPIXの方は高値圏で踏みとどまり最高値更新を果たしている。石破茂首相の退陣表明で自民党総裁選が近く行われる運びとなったが、新政権に対する期待感から株式市場は今後一段と上値を追う形となるのかどうか。他方、米国では8月の雇用統計発表を受けてややセンチメントが冷やされた状況だが、日本株への影響はどうか。今回は、米経済の動向にも詳しい第一生命経済研究所の桂畑誠治氏に今後の株式市場の展望について意見を聞いた。 ●「日経平均は4万円台前半のボックス圏で推移」 桂畑誠治氏(第一生命経済研究所 主任エコノミスト) 週明けの東京市場は大きく買い優勢に傾いたが、これは石破首相の退陣表明に伴い、次期総裁のもとで打ち出される経済政策などへの期待感が投資資金を誘導したものだ。マーケットが期待する高市早苗前経済安全保障担当相の総裁選での勝利が実現するかどうかは、推薦人の確保などで苦労しそうであり、なかなか容易ではない面もあるようだ。もっとも、誰が新総裁となっても、財政主導による経済政策の方向が読める状況にあり、これは株式市場にとって追い風となることは確かであろう。ただ、日米金融政策の方向性の違いから、中期的に外国為替市場では円高方向となることが予想され、これがハイテクや自動車などの輸出セクターに重荷となるケースも考えられる。 他方、前週末5日の米国株市場では取引開始前に発表された8月の米雇用統計の内容がコンセンサスを下回ったことが米景気減速への警戒感となり、NYダウなど主要株価指数が反落した。非農業部門の雇用者数が7万5000人増のコンセンサスに対し、2万2000人増と下振れただけでなく、6月分について1万4000人増から1万3000人減に下方修正された。雇用者数が減少したのは2020年の12月以来ということで警戒視されたほか、失業率についてもこれまで長く続いていた4.1~4.2%の水準から悪化して、8月は4.3%となり、こちらは21年10月以来の水準となったことが警戒されている。 しかし、失業率は職探しを再開した人の増加で押し上げられており、現時点で過剰な懸念は必要ない。また、今週発表の消費者物価や生産者物価の上昇率が予想を上振れる可能性はあるが、長期の期待インフレ率が安定していることから今月のFOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げはほぼ確実視され、年内行われるあと2回(10月と12月)の会合でも連続利下げの可能性が意識される。そのため下値リスクは限定的なものにとどまりそうだ。 東京市場では日経平均が足もとでやや過熱気味に買われているが、米株市場が頑強な値動きを維持すれば、今後上昇一服局面はあっても深押しは回避されそうだ。9月中間期末を跨(また)ぐ形となる向こう1ヵ月のレンジとしては、4万円台前半のもみ合いを想定している。下値は8月8日の寄り値水準である4万1200円台をメドとし、上値については最高値圏を走る展開で予想しにくい面はあるものの、4万4000円台半ばまで浮上する余地があると考えている。物色対象としては、財政出動の思惑を背景に建設セクターや小売関連などの内需株に相対的な優勢性がある。 (聞き手・中村潤一) <プロフィール>(かつらはた・せいじ) 第一生命経済研究所 経済調査部・主任エコノミスト。担当は、米国経済・金融市場・海外経済総括。1992年、日本総合研究所入社。95年、日本経済研究センターに出向。99年、丸三証券入社。日本、米国、欧州、新興国の経済・金融市場などの分析を担当。2001年から現職。この間、欧州、新興国経済などの担当を兼務。 株探ニュース