再び上昇気流に乗るかエヌビディア、唯一のリスクは地政学<大山季之の米国株マーケット・ビュー>

投稿:

コラム

◆好決算のエヌビディア、株価が軟調なのはなぜか

 久々に大きな注目を集めたエヌビディアの2026年1月期第2四半期(5-7月)決算。ある程度の好業績は予想されていたとは言え、高まる期待とともに、その期待に届かなかった時にマーケットがネガティブに反応するのではないかと、世界中がかたずをのんで見守っていたが、ふたを開けてみれば、期待を裏切らない決算内容で、文字通り「無事、通過した」と言えるのではないか。

 確かにその後のマーケットの反応を見れば、決算発表後の時間外取引で3-5%下落し、各メディアも成長率の鈍化を伝えている。とは言え、昨年までの前年同期比で100%を超えるような成長率が異常だったのだ。これほどの事業規模に成長した同社が前年同期比で50%を超える増収増益率を続けていることを評価すべきであって、実際、ビッグテック各社の中でも、同社の成長率は抜きん出ている。しかも、中国向けAI(人工知能)半導体「H20」の輸出規制解除によって上乗せ期待もあった対中ビジネスの売り上げを計上せずに、この数字を出してきたのだから、やはり同社のAI半導体に対する需要は引き続き高水準で拡大していることが分かる。

 決算発表後に株価が調整していたのは、ひとえに米中対立が同社に及ぼすリスクへの懸念を払しょくできなかったからだ。ジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)は今年に入って、ワシントンと北京を舞台に、両国政府に対するロビー活動を続けてきた。なぜなら、フアンCEOが語るように、AIの発展スピードが速い中国には、両国の規制が解消されれば同社のAI半導体にとって、500億ドルにも及ぶ新たな市場が生まれるからだ。決算発表前に同社の株価は過去最高値を更新し、180ドル超へと上昇していたが、これは機関投資家たちが巨大な中国市場開拓の可能性を織り込んでいたこともある。言ってみれば、対中ビジネスの本格化を見越した"優良コールオプション"のようなものだった。

 決算内容は良かった。マイクロソフト、アルファベット、アマゾン・ドット・コム、メタ・プラットフォームズなど、同社の主要顧客であるハイパースケーラーのAI半導体の需要も旺盛で、次四半期のガイダンス(業績予測)も悪くない。ただ、500億ドルの確実な需要があるはずの中国向けビジネス再開への道筋が見えていない。結局は地政学リスクという、同社の自助努力では及ばない要因がネックになり、阿里巴巴集団(アリババ・グループ)の新たなAI半導体開発の報道も相まって、軟調な株価の推移となっているのではないだろうか。

◆AI半導体需要は拡大も、米中対立のはざまに揺れるエヌビディア

 足もとの株価動向はともかくとして、注目すべきなのは今回の決算発表によって大きく変化したウォール街の同社への評価だ。決算発表直後から大手投資銀行が同社の目標株価を次々に発表していったが、JPモルガン・チェースが170ドルから215ドルへ、シティグループが190ドルから210ドルへ、モルガン・スタンレーが206ドルから210ドルへと引き上げ、ゴールドマン・サックス・グループも「Buy(買い)」のレーティングで再評価をするなど、ほとんどの大手行が投資判断を引き上げていったのだ。

 エヌビディアは現在、81人のウォール街のアナリストによってカバレッジされている。日本では国際的な知名度が高いソニーグループ <6758> でも30人程度のアナリストカバレッジだから、いかに同社に世界の投資家の視線が注がれているかが分かる。これだけの視線が注がれていれば、同社の決算は実質上"丸裸"と言っていい。そんなアナリストたちのうち、決算発表後の段階で「買い」のレーティングを付けたのが73人、「中立」が7人、「売り」はわずか1人のみ。81人の目標株価の平均も、決算前の195ドルから209ドルへと引き上げられた。

 ではアナリストたちは同社の決算のどこを見て、目標株価を決めているのかというと、それは売上総利益(粗利)率の推移に尽きる。同社は数年ごとに最先端技術を詰め込んだAI半導体の新製品を発表している。製品投入後は一時的に粗利益率が下がるが、その製品が売れれば量産効果が表れて粗利益率が上昇する。つまり粗利益率の上昇は、同社のAI半導体の販売状況を示す明確な指針となるのだ。

 今回の決算で明らかになったことは、同社の最先端AI半導体「ブラックウェル」の需要が拡大し、量産にも成功しているということだ。しかも同社の半導体は各社の需要を満たしきれておらず、取り合いになっているために価格競争にも陥っていない。アナリストたちはその点を評価し、同社の投資判断に反映させている。そして、同社の近年の株価推移を見てみると、まず、アナリストたちが目標株価を切り上げると、次の決算までに株価が上昇し、目標株価に追いつく、というサイクルを繰り返してきた。そのサイクルで考えれば、同社の株価は200ドル以上の水準へと切り上がる可能性が高い。

 これらの動きで分かることは、AI半導体市場の拡大はまだ途上にあり、AI投資の流れは、"不可逆"なものになっているという事実だ。そして言うまでもなく、米国でも中国でも不足している最先端のAI半導体の需要を満たすことができるのは現時点ではエヌビディアだけだ。奇しくも、8月27日に英フィナンシャル・タイムズ紙は、中国企業が2026年にAI半導体の製造を3倍にするという計画を報じたが、これは中国におけるAI半導体の供給不足を証明しているようなもの。つまり同社にとっての唯一のリスクは、米中対立の激化によって、成長著しい中国市場へのアクセスが失われてしまうかもしれないということだけなのだ。

 ところで前回のコラムでも述べたが、今年に入ってから、大手機関投資家たちがエヌビディアをはじめとしたハイテク企業をアンダーウェイトして一定の成果を上げている。この状況は今でも続いていて、例えばエヌビディアのS&P500種指数に占める時価総額の割合は7-8%なのに対して、4-6月期に大手機関投資家たちは3%まで構成比率を落としている。この背景には、史上最高値を更新し、株高が続いているというイメージがある米国株だが、S&P500もナスダック総合指数も年初来のパフォーマンスは10%程度に過ぎず、15%前後のドイツ株価指数(DAX)や20%を超える香港ハンセン指数と比べると見劣りするという事実がある。大手ハイテク企業の構成比率が高い米国株の主要指数に合わせて運用していたら、十分なパフォーマンスを上げることができなかったわけで、その意味では今年前半の大手機関投資家たちの判断は間違っていなかったのだ。

 とは言え、同社のAI半導体の潜在成長力を見せつけられた今となっては、多くの投資家が買いのタイミングを探しているはずだ。したがって彼らはおそらく、次の大きな押し目を待って、資金を投入する可能性が高い。そして、こうした投資家たちの資金がエヌビディアをはじめとした米国ハイテク株に戻ってくれば、さらなる株高へとつながっていく。そんな希望を感じた同社決算とその後のマーケットの動きだった。

◆民主党支持者にもトランプ容認派が増加している?

 エヌビディア決算という大きなイベントを無事に通過した今、秋以降の米国株の投資戦略を考えるうえでは、やはり、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策を含めた米国経済の動向に焦点が移ることになる。今週末の雇用統計を皮切りに、CPI(米消費者物価指数)の発表 、FOMC(米連邦公開市場委員会)と重要なイベントが続いていく。

 クック理事の解任要求など、相変わらずトランプ大統領がFRBへの介入を続けていることがリスクであるのは確かだ。利下げによって短期金利は下がるだろうが、中央銀行への政府の過度な介入が続けば、米国自体への信認が低下し、長期金利は上昇していく。実際、すでにその兆候は現れていて、足もとで長短金利のスプレッド(金利差)は拡大している。

 一方、トランプ大統領の支持率を見ると45%台であり、50%を超えていた就任直後からは低下し、低位横ばい状態が続いている。だが興味深いのは足もとで、トランプ氏を全否定してきた民主党支持者の中でトランプ政権を肯定する人の割合が増えていることだ。米ミシガン大学が集計している支持政党別の消費者態度調査によると、共和党支持者が80ポイント以上という高い評価なのは予想通りだが、注目すべきなのは、民主党支持者の動きで、4月時点の調査では30ポイント前半だったのが、6月以降は40ポイント前後まで上昇している。同様に、直近の経済情勢、消費者予測調査においても民主党支持者のトランプ政権に対する評価が軒並み改善している。 両党の支持者間に圧倒的なポイントの差があるのは、米国の分断の象徴とも言えるが、それでも民主党支持者の中に、トランプ政策を容認する者が徐々に増えているのだ。

 この要因を考えると、なんだかんだ言いながらも、トランプ政権下で株高が続いているということに集約できるのではないだろうか。結局は経済運営、もっと分かりやすく言えば、株式マーケットの動向が政権の命運を握る。これは米国だけではなく、日本を含めた政治の基本だ。トランプ大統領もそのことは重々承知のはずで、今後、世間を騒がす発言をしたとしても、最終的には株式マーケットに大きな変調をもたらすような政策は採らないはずだ。

 そして、FRBの利下げが再開され、市場予想通りに金融緩和が進めば、26年には政策金利が3%前後という水準になる。米国は再び金融緩和状態に移行するわけだ。地政学リスクは残るものの、総じて米国経済は堅調で、株式マーケットの視界も良好。当初、不安視されていたリセッションのリスクは後退し、ソフトランディングのシナリオが現実味を帯びてきている。

 ただし、年末に向け、個別銘柄を選別する際には、米国の消費者意識の変化を捉えることがポイントとなるだろう。今回の小売り企業各社の決算を見ていくと、景気後退まではいかないが、インフレを見越したトレードダウン(低価格消費志向)の動きが鮮明になってきていることは確かだからだ。ウォルマートの決算発表でも、会社側から「消費者が、より賢い消費行動を取るようになってきている」という発言があった。

 具体的な銘柄を挙げるなら、ウォルマートやコストコ・ホールセールといった大手企業に加え、ダラー・ジェネラル、ダラー・ツリーのディスカウンター2社、さらに低価格の衣料品店を展開するTJX、米東海岸を中心にブランド商品の余剰品などをそろえた大型倉庫型の店舗を展開するオリーズ・バーゲン・アウトレット・ホールディングスなどは堅実な投資対象となるだろう。

◆次なるテンバガー米国株候補はこうして探せ

 ここまではエヌビディア決算と年後半の米国株投資について述べてきたが、今回は最後に、より視野を広げて、数年後に資産を大きく増やす可能性がある銘柄の探し方についても少々、言及してみたい。エヌビディアをはじめとしたビッグテックは投資対象として誰もが思いつくが、時価総額が1兆ドルを超えるような企業にこれから投資して、例えば資産を10倍にしようと考えるのは無理がある。日本株でも言えることだが、リスクを承知の上で、大きな株価上昇を狙うとすれば、やはり対象は中小型株になるはずだ。

 だからと言って5000を超える米国株の中から、そうした銘柄を探し出すのは容易ではない。そこで参考になるのが、米国のファンド運用会社が運用する、中小型株を対象としたアクティブ・ファンドだ。私が所属する松井証券も、こうしたファンドをいくつか取り扱っているが、それらのファンドの上位組み入れ銘柄のうち、事業拡大が期待できそうな企業をいくつかピックアップしてみた。あくまでも仮定の話だが、25%増益を10年続ければ、複利効果によってEPS(1株当たり利益)は10倍以上になり、株価も10倍化するという計算になる。増益を続けることは、複利効果を得る意味で非常に大きい。今回は増益を続けるポテンシャルに注目した。

 まず挙げたいのはアクソン・エンタープライズという企業で、もとはスタンガンなどの護身用具で知られていたが、近年では警察や民間向けのSaaS(インターネット経由のクラウドサービス)を強化し、サブスク収入が増加している。日本の企業で例えれば、セコム <9735> やALSOK <2331> のようなビジネスモデルを、最先端の防護用品を用いて展開していると言ったほうが分かりやすいかもしれない。株価は直近5年間ですでに10倍化しているが、市場の将来性を考えれば、まだまだ成長を見込める有望株だ。

 セキュリティ関連では2019年に上場したクラウドフレアも面白い。最終赤字が続いているが、大量の不正アクセスへの防御や、リモートワークの定着によってリスクが高まる社内ネットワークの監視システムに定評があり、売上高は年々増加し、赤字幅も縮小している。さらにパイプラインなどのインフラを中心とした公共事業のメンテナンスを手掛けるマステック、エナジードリンクの開発・販売を行うセルシウス・ホールディングスなどは、同業他社の買収によって足もとで業績を急拡大していて、面白い存在だと感じる。

 上記の条件で銘柄を探してみて、改めて感じるのは、各ファンドで銘柄の重複がないということだ。中小型株というハイリスクな銘柄を対象にしながら、それぞれのファンドが独自に銘柄を選定していることが分かる。ちなみに先述したオリーズ・バーゲン・アウトレットも、この方法で発掘した銘柄だ。米国株への投資というと、どうしてもビッグテックなどの超大型株や指数連動型のファンドが主流となるが、机上の空論であることは承知の上で、こうした"お宝探し"をすることも、米国株投資の楽しみ方の一つではないだろうか。


【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。

株探ニュース

オンラインで簡単。
まずは無料で口座開設

松井証券ならオンラインで申し込みが完結します。
署名・捺印・書類の郵送は不要です。