ついに真価を発揮し始めたAI最強銘柄<今中能夫の米国株ハイテク・ウォーズ>
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◆カネ余りでマグニフィセント・セブンに資金が集中 米国主要企業の2025年4-6月期決算が出そろった。この1カ月の流れを総括すると、コアCPI(食品、エネルギーを除く米消費者物価指数)やPPI(生産者物価指数)などの指標面からも、懸念されたインフレはそれほど進行しておらず、FRB(米連邦準備制度理事会)による9月利下げ開始が確実視されるなど、マーケットにとっては良好な状態が続いている。S&P500種指数やナスダック総合指数が過去最高値を更新し、SOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)も高値更新に迫るなど、米国株市場の株高は続いている。 今後の米国経済、特にインフレに関する不確実性は収まっていない。しかし、米国の投資マネーは潤沢だ。いま、今年の前半には下火になっていたAI(人工知能)関連企業に対する再評価の流れが起きているが、これも"カネ余り"の投資マネーが、「目先、異常なし」ということで引き続き、ハイテク超大型株に資金を集中させているからだろう。 マグニフィセント・セブンの中では、上場来高値を更新し続けるエヌビディア、マイクロソフト 、メタ・プラットフォームズの3社に加え、PER(株価収益率)20倍水準と割安感のあるアルファベット やAI関連の過剰投資の不安が少ないアップル も足もとで株価を切り上げている。アマゾン・ドット・コム は保守的なガイダンスが嫌気され、決算発表後の株価が急落したが、やはりすぐに切り返している。EV(電気自動車)の販売鈍化が伝えられるテスラ だけが唯一の例外だ。 いずれにしても多くの投資家たちは、ビッグテックを中心に、周辺分野にも物色対象を拡大していくという、従来通りのAI相場に沿った投資行動を続けている。だが、今回の一連の決算と、その後の株式市場の反応を見て気付いた点がひとつある。これまでの流れでは、ビッグテックに続く物色対象になっていたはずのセールスフォース やサービスナウ といった、AIを組み込んだ業務別アプリケーションソフトをカスタマイズして企業向けにサービスを展開している企業の株価が下落しているのだ。 なぜ、こうした現象が起こるのか。その解を探ると、明らかにひとつの企業の存在が浮かび上がる。年初来、株価が2倍以上に上昇し、熾烈な生成AI開発競争を繰り広げるビッグテック各社以上に、株式市場での評価を高めているパランティア・テクノロジーズ だ。今回はビッグテックから視線を外し、同社を含めて中長期的に投資妙味を感じる企業を厳選して紹介したい。 ◆NATO、米宇宙軍……大型軍事契約が続くパランティア まずパランティアの25年4-6月期の決算を見ていきたい。売上高は前年同期比48%増の10億300万ドル、営業利益は同156%増の2億6900万ドル、最終利益も同144%増の3億2600万ドルと市場予想を上回る好決算となった。特に営業利益率が前年度の15%台から一気に26%台に跳ね上がっていることが市場に好感された。 同社はこのコラムでも度々取り上げてきたが、AIによるビッグデータ分析を応用した軍事用意思決定支援システムの開発によって、業績を急拡大させている。筆者が知る限り、上場している軍事用AIの専門企業としては世界で唯一の存在だ。米政府が現在の主要顧客で、米軍の戦闘用意思決定システムに同社のシステムが採用されている。米陸軍のいくつかの方面軍や一部の旅団、さらに合衆国宇宙軍からも受注が入っているという。同軍は、有名なNASA(米航空宇宙局)とは関係がなく、宇宙空間の軍事利用を進める中国やロシアに対抗して2019年に設立された新しい軍事組織だ。軍事衛星による監視活動などを行っていて、今後も活動規模が拡大することが見込まれている。 これらを含めた米政府向けの売上高が今期に入ってから大幅に伸びていることに加え、注目すべきなのは4月にNATO(北大西洋条約機構)と契約したことだ。今回のウクライナ紛争で明らかになったことだが、欧州諸国はこれまで軍事技術を米国に依存していて、特にAIを使った最先端システムの導入は、欧州各国とも遅れている。そこに同社のシステムが導入されていくわけだ。今のところ受注額の規模は明らかになっていないが、来期以降、同社の業績に表れてくると思われる。 足もとで株価が調整しているのは、米ロ首脳会談によって、ウクライナでの停戦の可能性が浮上してきたことへの反応だろう。だが、首脳会談の結果を見ても、そう簡単には停戦は実現しないだろうし、いずれにせよ、欧州各国が軍事力強化を図っていく流れはしばらく続く。もちろん、米国も最先端技術に対する投資は続けていくはずだ。同社の政府向け事業は1年前の24年4-6月期の3億7100万ドルから5億5300万ドルへと大幅に増加しているが、今後、さらに成長スピードを加速させる可能性が高い。 ◆「生成AIは不完全」、決算会見で見せたパランティアの自信 軍事用途の政府向け事業が拡大する一方、もうひとつの同社の事業セグメントである民間企業を対象とした商業向け事業も急拡大している。いま、同社に対する株式市場の評価はうなぎ登りで、PERは500倍以上という驚異的な水準になっている。もちろん、過熱しているのではないかという見方もあることは確かだが、実は同社が評価されているのは、この民間企業向けの成長期待も加味されているからなのだ。 民間企業向け事業セグメントの売上高も、今年に入ってから成長が加速し、今四半期は4億5100万ドルと前年同期比47%増と高い伸びを見せている。これは、昨年までは言ってみれば"お試し"で同社のシステムを採用していた企業が、本格的に導入し始めたことが要因ではないかと思われる。 というのも、米国企業の間では、軍の技術に対する評価は日本企業とは比べ物にならないほど高い。民間企業からすれば、軍の採用が拡大しているということは、同社の品質基準が保証されているのと同義だろう。 今回の決算発表で非常に興味深かったのは、同社の経営幹部の「大規模言語モデルをもとにした生成AIは不完全であり、単独では十分に価値を発揮することができない」という趣旨の発言だった。いま、多くの人が「AIイコール生成AI」という認識を持っている。ハイテク大手が巨額の設備投資を続けているのも、大規模言語モデルのスケールを拡大して生成AIの性能向上を目指すもので、それに対するネガティブな意見は、株式市場やIT業界の関係者の間ではタブー視されている。 そんな中、AI関連企業の中で、なぜ、同社が唯一、こうしたスタンスの発言ができたのか。これが、大きなポイントとなるのだ。ご存じのように生成AIでは、AIが誤って事実と異なる回答をしてしまうハルシネーションの問題が解決されていない。だが、瞬時の判断ミスが人命に関わる戦闘現場では、ハルシネーションなどは決して許されるものではない。こうした現場で採用されているということは、同社が軍に提供している独自開発のAIシステム「パランティアAIP」に、生成AIのような不完全さがないことを証明していると見ていい。個別業務に特化したカスタマイズAIの、最も顕著な大成功例とも言えるだろう。 そして、最高品質のAIのカスタマイズ力を求めるのは、軍隊でも民間企業でも変わらない。したがって、品質基準が最も高い軍隊向けのシステムで着実に実績を積み上げていく同社に、民間企業が注目するのは必然なのだ。これまでのところ、同社は民間企業向けのサービスについては、それほど目立ったプロモーション活動を展開しておらず、口コミによって評判が広がっている。だが、口コミだけでこれだけ売上高が拡大しているということは、それだけ同社システムの品質の高さを証明しているのではないだろうか。現時点では民間企業向けの事業は、1社あたりの顧客単価が政府向けに比べれば低いが、今後、本格的に企業が同社システムを採用するならば、顧客単価も大きく伸びていくだろう。つまり民間企業向けの事業は、政府向け事業以上の伸びしろがあるということなのだ。 これが、同社に対する株式市場の高い評価の要因だ。先述したように、セールスフォースやサービスナウなど、AIを組み込んだ業務別アプリケーション各社の株価が下がっているのは、パランティアのポテンシャルの高さから、相対的に割を食ってしまっているのではないかと思われる。さらに今後は、企業経営の根幹でもあるERP(統合基幹業務システム)にも進出する可能性がある。そうなるとオラクル やSAP など、現時点で市場の評価が高い企業にも影響を及ぼすかもしれない。こうした状況を勘案すると、現在の株価は決して割高ではなく、中長期的にはまだまだ上値余地があると見ていいのではないだろうか。 ◆株高継続見込みも、キャッシュポジションは厚くせよ いまやAI相場の本命へと躍り出たパランティアだが、それとともに、今後の投資対象として有望だと思える企業も挙げてみたい。ネットフリックス とスポティファイ・テクノロジー というエンターテインメント世界最大手企業2社で、両社に注目するのは、今後の成長期待に加えて、リスクヘッジの意味合いもある。 いまのところ、相場はうまく流れているが、やはりトランプ政権による本質的な不確実性は完全に消滅したわけではない。したがって米国景気の今後は予測しづらいのだが、エンタメ分野は、基本的には景気に敏感ではない。そして、不況に強いエンタメ産業にあって、両社に共通するのは、同業他社と比べたコンテンツの品質の高さだ。 ネットフリックスは競合が「アマゾン・プライム」や「ディズニー・プラス」だが、映像配信の専業でもあり先駆者でもある同社は、映画やテレビ番組で大ヒット作品を数多く制作・配信し、視聴者数も視聴時間も右肩上がりで伸びている。自社制作でヒット作品を生み出せば、その分、営業利益率は向上していくため、今後の見通しも明るい。 スポティファイは音楽配信では独走している。強いて挙げれば競合は「アップルミュージック」や「アマゾンミュージック」などだが、このうちアマゾンは巨額のAI投資が足かせとなって音楽配信事業の投資は抑制している模様であり、「アップルミュージック」とは市場シェアに差があるため、スポティファイが音楽配信でトップの状態はしばらく変わらないだろう。今期(2025年12月期)の利益率が低下しているが、これは欧州企業の同社が、ユーロ高の影響を受けたためで、来期以降はそれも解消されると思われる。 以上を踏まえ、最後に年後半へ向けて皆さんに伝えたいことがある。それは、今回挙げた3社に投資するのはいいとして、すべてを米国株に集中させるのではなく、日本企業にも分散投資をしておいたほうがいいということだ。日本企業では、金融部門のスピンオフにより今後、ゲームや音楽、アニメ、映画といったエンタメ部門に経営資源を集中していくソニーグループ <6758>が面白いと思うが、他にもハイテク成長株から高配当株までさまざまな有望企業が存在する。 さらに言えば、万が一の事態に備えて、キャッシュポジションを積み増しておくべきではないだろうか。現在の相場の流れから考えれば、米国株市場は、このまま年末まで株高の流れが続くかもしれない。だが、万が一、クラッシュが発生した場合には、キャッシュポジションを高めていれば、格好の買い場となる可能性もあるからだ。 【著者】 今中能夫(いまなか・やすお) 楽天証券経済研究所チーフアナリスト 1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998~2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。 株探ニュース