日経平均株価5万円の条件、カギは「財政出動期待」と「消費動向」 <株探トップ特集>
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―「押しの倍返し」は実現するか、この先の相場展望と注目すべき有望株を探る― 20日の東京株式市場で、日経平均株価の騰勢は一服し、下げ幅は一時800円を超えた。米相互関税ショックの4月を底に、4カ月あまりで史上最高値を更新するまでに至ったが、短期的な過熱感が強まるなかで、この日は値がさのソフトバンクグループ <9984> [東証P]が大幅安となり日経平均を押し下げた。それでも株式市場における先高観は根強い状態にあり、プライム市場の値上がり銘柄数は全体の44%に上った。テクニカル的に日経平均は、今年4月7日のザラ場安値3万0792円を底として、2024年12月27日のザラ場の高値4万0398円からの下落幅分の2倍の上昇となる「押しの倍返し」で、5万0003円まで値上がりしても不思議ではない。今回の株探トップ特集では、日経平均5万円乗せの条件について考えてみたい。 ●揺れ動く米利下げ期待 4カ月半に及ぶ上昇相場の原動力になった材料を整理すると、相互関税ショックの急落からのリバウンド、日米関税問題の決着、米利下げ期待、そして財政や減税の期待などが挙げられる。このうち、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ期待の水準については、一定ではなく、折に触れて揺れ動いてきた。 マーケットの政策金利変更の確率を示すCMEのFEDウォッチツールでは、25年の年初の時点では、年末までに0.25%の利下げが期待されていた。4月の関税問題で利下げ期待は膨らみ、一時は年末までに1%利下げを織り込んだ。その後、リスク回避地合いが落ち着くにつれて利下げ期待は後退し、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)直後は再び年末までに0.25%利下げ予想に戻る。ところが、その直後に発表された米雇用統計では過去分が大きく下方修正されたことから景気悪化リスクが台頭し、年末までに実施される9月と10月、12月のFOMCで都合0.75%の利下げを織り込む事態になった。 FOMCでは24年末に利下げして以来、全く利下げを実施していない。そこで利下げを要求するトランプ米大統領は、ミラン大統領経済諮問委員会(CEA)委員長をFRB理事に指名した。退任するクーグラー理事の後任として任期は26年1月までであるものの、ミランCEA委員長は24年11月に発表した政策論文「A User’s Guide to Restructuring the Global Trading System(世界貿易システム再構築のためのユーザーズガイド)」で相互関税政策を提案した人物であり、「関税に起因するインフレの兆候は一切見られない」として利下げに前向きである。理事指名承認の時期について、9月のFOMCまでに承認されるかどうかは上院次第であるが、今回の指名でマーケットの利下げ期待は膨らんだ。 ベッセント米財務長官に至っては、中立金利の水準を現状より1.5~1.75%下だとし、9月のFOMCでは0.5%利下げが望ましいという考えを示した。財務長官はFOMCのメンバーではないが、その影響力の大きさからマーケットの利下げ期待は更に膨らんだ。こうした利下げ期待は米株式市場を押し上げる要因になり、米株高は日本株高にも波及すると予想される。 またベッセント氏は米国債利回りが日本やドイツといった外国の金利動向の影響を受けていると指摘し、日本銀行の政策に対しても政策が「後手に回っており、利上げするだろう」と発言した。FRBの利下げや日銀の利上げはドル安・円高要因であるため、日本株の売り材料になり得る。しかし関税問題の決着に際して、日本は米国のエネルギーや半導体製造、造船といった戦略的産業に5500億ドル(約81兆円)を投資すると約束した。これが実行される際には大量の円売りドル買い需要が発生することから、当面の円高リスクは杞憂と考える。 ●国内では財政出動の期待も 国内に目を転じると、先の参議院選挙で与党は過半数割れという結果になったことで、野党が求める財政出動は避けられないとの見方がマーケットでは強まっている。国会のスケジュールでは秋の臨時国会で、新たな給付や消費税などの減税といった具体的な議論を煮詰めることになる。その前に自民党が総裁選を前倒しし、“石破おろし”が現実になったところで、過半数割れの状況では野党が提言する政策に与党は近寄らざるを得ないだろう。「年収の壁」の引き上げに加え、旧暫定税率の廃止によるガソリン価格の下落など年内実施が確実視されている政策は、国内消費を活性化させるに違いない。これらは日本独自の材料として注目される。 8月19日時点で日経平均の予想PER(株価収益率)は17.90倍と24年の上限を上回っている。実績PER(16.78倍)から算出される実績EPS(1株利益)と予想EPSを比較すれば、今期は6%程度の減益見通しである。それでもPERが高値圏ということは、マーケットが今期の減益見通しを信用していないか、既に来期を期待しているため、だと考えられる。国内上場企業の4~6月期業績は前年同期比1割程度の最終減益だったというが、今期EPSが7%程度の増益に転じれば、PER18倍近辺で日経平均は5万円になる。 ●外需系で工作機械、内需系で消費と住宅関連に注目 財政出動の期待が広がる足もとの環境で物色対象を選別すると、外需系であれば 工作機械や 半導体製造装置メーカーなど、内需系であれば消費や住宅などといった業種に注目が集まりそうである。先ほども触れたように、日本は米国の戦略的産業に投資することになっている。これらの原料や労働力は米国での調達となるとみられるが、工作機械や半導体製造装置など、日本製でなければならない設備もあり得るだろう。 もっとも、半導体製造装置の分野で、日本は世界シェアが高い特殊装置を製造しているが、トランプ大統領が半導体関税を巡り「200%や300%になるかもしれない」との考えを明らかにしている。となると注目は工作機械ということになるが、造船用となると大型の複合加工機やマシニングセンタなどを提供するDMG森精機 <6141> [東証P]や大型の工作機械を得意とするオークマ <6103> [東証P]に注目したい。 DMG森精機は、25年12月期第2四半期累計(1~6月)の連結最終損益が20億6000万円の黒字(前年同期は2300万円の赤字)に浮上。200億円の黒字とする通期の最終損益予想を変えていないが、会社側はその達成確度についてかなり高いとみているもようだ。オークマも26年3月期の連結業績予想は第1四半期(4~6月)の決算発表時に据え置いている。ともに今後の業績回復に伴って、株価も反転攻勢を強めることが期待される。 消費関連からは、美容機器ブランドの「ReFa」やトレーニング用品ブランド「SIXPAD」など健康美容関連の企画開発・販売のMTG <7806> [東証G]をマークしたい。女性の更なる社会進出や収入増から同社製品の需要は一段と高まると想定される。25年9月期第3四半期累計(24年10月~25年6月)の連結経常利益は前年同期比4.9倍の93億8600万円に急拡大し、通期計画の96億円に対する進捗率は97.8%に達した。 消費という文脈でコメ関連銘柄となるが、ヤマタネ <9305> [東証P]も見逃せない。26年3月期第1四半期(4~6月)は2ケタ増収・大幅増益で、決算発表とともに通期連結業績予想も上方修正した。コメの需給逼迫に伴い販売単価が上昇したことから、食品カンパニー部門が大きく寄与している。 住宅は可処分所得の拡大を目的とする財政出動期待と金利上昇に伴う駆け込み需要拡大が期待される業種と言える。そのなかでは、矢作建設工業 <1870> [東証P]とLAホールディングス <2986> [東証G]に注目する。中部地区で大手の矢作建は民間建築中心にシフトしており、26年3月期第1四半期(4~6月)は2ケタ増収・大幅増益となった。通期の連結売上高・各利益は過去最高を計画する。新築・中古マンション再生販売のLAホールデは、25年12月期第2四半期累計(1~6月)の連結経常利益が前年同期比2.9倍で着地するなど絶好調であった。これを受けて株価は急騰しているが、それでも予想配当利回りは4%以上あり、年末に向けて高配当利回り銘柄としても注目である。 株探ニュース