武者陵司「石破氏の下でも史上最高値更新」

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コラム

―悲観論者はなぜ間違えるのか―

●出遅れ日本株、急速にキャッチアップ

 8月12日、日経平均株価が1年1カ月ぶりに最高値を更新した。昨年8月5日の植田ショック後の過去最大の暴落、今年4月8日のトランプの相互関税発表ショックの暴落により3万0700円前後(夜間取引)でダブルボトムをつけてからの鋭角上昇が始まっているとみられる。相互関税暴落からの回復過程では日本株が大きく遅れた。ドイツDAXが5月8日に、米国S&P500 は6月27日に史上最高値を更新しており、日経平均株価はドイツに3カ月、米国に1カ月半遅れた。また、年初来ではDAXが21%、韓国KOSPIが33%、米国S&P500が10%の大幅上昇となっており、日本は引き離されていた。

 日本株の需給は年初から良好であった。前年比3~5割増ペースで増加する自社株買いブームや、昨年8月から本年4月までの8カ月間に12兆円もの日本株売却を行い日本株ウェートを過度に引き下げた外国人の買い戻し、NISA(少額投資非課税制度)や年金など国内投資家の買いなどが確信されていた。また、トランプ関税で減益になる恐れがあるとはいえ、バリュエーションは割安であった。

 ならば、なぜ日本株がこれほど出遅れたのか。ひとえに景気不振にある。IMF(国際通貨基金)の7月経済見通しで2024年、2025年、2026年の経済成長率(実質 GDP[国内総生産]伸び率)を比較すると、米国2.8%→1.9%→2.0%、ユーロ圏0.9%→1.0%→1.2%に対して、日本は0.2%→0.7%→0.5%と大きく引き離されている。日本の物価上昇率が2025年3.3%、2026年2.1%と欧米を上回る水準まで上昇したため、実質成長率が押し下げられるという要素はある。しかし、なぜ日本だけが実質成長率がこれほど抑圧されるのか。

●日本の不振は税金の取り過ぎにある

 答えは、税金の取り過ぎにある。2012年以降の「社会保障と税の一体改革」により社会保険料の引き上げや消費税増税などが打ち出され、デフレの下でも税の取りっぱぐれがない制度が仕組まれた。しかし、想定外のインフレになり、税収が著しく増え、経済のバランスが大きく崩れたのである。2021年以降、税収は当初予算を7~10兆円上回ることが常態化している。税収上振れ額はGDPに対して1.2~1.6%に相当する。

これを財政再建ということで政府内に留保すれば、著しい民需の押し下げ圧力となる。実際、OECD(経済協力開発機構:6月経済見通し付属データ)の一般政府財政収支対GDPをG7で比較すると、最も経済成長率が低い日本の財政赤字縮小が際立っていることが分かる。日本の「財政赤字/GDP」は2022年4.2%、2023年2.3%、2024年2.05%、2025年1.6%とG7最小の赤字を続けることになる。仮にインフレによる税の増収分がまるまる家計に還元されるとすれば、日本は米国並みの高成長が可能ということになる。

●高市=玉木連携が日本経済と株価にベスト

 では、財政再建路線を転換させ、取り過ぎた税金を国民に還元する政策は打ち出されるのだろうか。最近の政局を見ると、その可能性が強まっている。

 今回の参院選挙は、①昨年の衆院選挙に続く自公の少数与党転落、②改革派保守3党(国民民主、参政、日本保守)の躍進、③積極財政を主張する政党への支持という歴史的特徴を備えている。

 出口調査に基づく年代別比例区投票先(共同通信社)を見ると、自公支持率は10~30代16%、40代20%、50代26%であるのに対して、改革派保守3党合計の支持率は10~30代50%強、40代38%、50代31%と、すべての現役世代において自公与党を上回っている。高齢世代の与党支持が大きいため、比例区総得票数では自公1801万票、改革派保守3党合計1802万票と拮抗しているものの、民心は明らかに旋回しているのである。

 石破首相はまずは選挙結果の総括が必要だとして、退陣を拒絶しているが、8月8日の自民党両院議員総会で次期総裁を選出する動きがほぼ確かになった。次期総裁は、国民(特に働く現役世代)が取り過ぎた税金の還元を求めている以上、積極財政による成長路線を選択するはずである。また、少数与党である以上、野党と協力する必要がある。財政健全化・リベラルの立憲民主党か、積極財政を主張する改革派保守3党かの選択になるだろう。

 自民党は石破財政健全化路線を捨て、政策軸を保守・積極財政路線に転換する可能性が高い。そう考えれば、自民党の救世主となる新総裁は高市氏が最適という結論になる。高市新総裁が国民民主党、参政党、日本維新の会、日本保守党などの協力を得て政権運営を遂行していく可能性が高い。高市氏はトランプ大統領、ベッセント財務長官が深く敬愛する安倍氏が推した次期リーダーであり、米国とのマッチングが期待できる。またベッセント氏は「日本は貯蓄率が高く、米国は消費率が高い。そのため日本は消費をさらに増やし、米国は生産を伸ばしていくことになる」(8月11日付日本経済新聞「『日米合意は黄金の産業同盟』ベッセント米財務長官、一問一答」)と述べ、日本の消費振興に期待を示した。

●アベノミクス相場の再来か、植田・石破ショックの再現か

 石破退陣、積極財政を遂行する執行部の樹立が見えてきたことこそ、出遅れていた日本株が突如として高値更新をした理由と考えられる。市場の期待が裏切られれば株価は、昨年の植田ショック、石破ショックの二の舞いになろう。期待が実現すればアベノミクス相場の再来が期待できる。年内5万円、2027年までには6万円が視野に入ってくるのではないだろうか。

●財政再建派の学問的良心を問う

 それにしても、この期に及んで財政再建を主張する専門家に学問的良心があるのだろうか。8月8日付の日本経済新聞は、井堀利宏氏(政策研究大学院大学客員教授)の「参院選後の政権の課題、危機的な財政状況を直視せよ」との論文を掲載し、日本の債務残高が世界最悪、ギリシャよりも悪いという図表を掲載している。

 しかし、OECDの直近の経済見通しでは、日本の財政はG7でも良好であることを示すデータが満載である(詳説は次回に譲る)。

●悲観論者の根底的誤謬

 今回も多くの投資家が市場の力強さを読み違えた。その誤りの根底には、日本は財政危機に瀕しており、財政出動は金利上昇や通貨暴落となって金融危機を招来する、という的外れの懸念がある。財政に余裕資金があるのにこれを使ってはいけないとすれば、民間貯蓄を政府が吸い上げて退蔵するのだから、景気が悪くなるのは当たり前である。

 そのような人々は、日本の少子高齢化や、いつまでたっても進まない改革、いつまでたっても他国並みに生産性が高まらないことなどを理由に、成長期待を持つべきではないと言う。当然、投資戦略は後ろ向きになる。そろそろ財政危機信仰から抜け出すべきだろう。

(2025年8月13日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン385号」を転載)

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