日経平均が史上最高値を更新、青空圏突入し「乱気流」アラート点灯中 <株探トップ特集>

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コラム

―米利下げ期待・関税の不透明感後退でユーフォリア、半導体関連の一角には出遅れ感も―

 日経平均株価が最高値を更新した。米国の利下げ期待が広がるなか、相互関税での新税率の適用を受けて企業業績への影響を巡る不透明感が後退し、売り方の買い戻しを誘う形で上昇に弾みがついた格好だ。短期的な急騰により青空圏に突入した日本株は需給面では真空地帯に差し掛かり、相場の乱高下に警戒が必要な局面となっている。

●コールが示す上値のメド

 3連休明けとなる12日、日経平均は前営業日比897円69銭高の4万2718円17銭で終え 、昨年7月11日につけた最高値を更新した。5営業日間の上昇幅は2400円超。取引時間中の高値は4万2999円71銭と、4万3000円まであと29銭となる水準まで値を上げた。

 株高の原動力の一つに挙がるのが、米国での利下げ観測である。CMEフェドウォッチによると、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内に0.25%幅で2回以上の利下げを実施する確率は足もとで約86%。1カ月前の約70%から上昇した。3回以上に関しては約43%(1カ月前は約27%)となっている 。トランプ米大統領によるFRBへの利下げ圧力が高まるなか、8日付で退任したクグラー理事の後任には、大統領経済諮問委員会のミラン委員長が就任する。パウエル議長の後任人事を巡る報道も相次いでおり、中央銀行の首脳陣がトランプ氏の意向を汲む人物に置き換わり、FRBが利下げに傾斜するシナリオが現実味を帯びるようになった。

 トランプ関税による景況感の悪化が懸念される一方で、日本の上場企業による4~6月期決算では、米国関税に関して一定の前提を置いて業績予想を見直す動きが相次ぎ、株式市場において関税の負の影響はある程度は織り込まれる形となった。米国企業の4~6月期決算は全体では増益基調を維持し、更に今後は「トランプ減税」の恩恵を受ける企業が現れるとみられている。米国景気が底堅さを見せるなかで中央銀行が利下げに踏み切れば、マネーの向かう先はリスク性資産、すなわち株式となる。日本株もその恩恵に与ることとなるだろう。

 9月限の日経平均コール・オプション(買う権利)をみると、日経平均の現在値よりも上の価格帯で建玉が最も積み上がっているのは、権利行使価格4万3000円。その次が4万4000円、そして4万5000円と続く。原資産の日経平均が4万3000円を上回った場合、コールの売り手が損失を抑制するために株価指数先物の買いに動く可能性があり、その際は日経平均は一段と水準を切り上げる形となりそうだ。

●昨年夏は急落劇、今年は?

 とはいえ日経平均のPER(株価収益率、加重平均ベース)をみると、前週末8日の段階で17倍を超える水準にあり、15~16倍を中心としていた過去の水準と比較してバリュエーション面でかなり割高な水準に位置している。「17倍台が許容されるには企業の業績予想が上方修正されるとの期待がないと厳しいものがあり、短期的には調整リスクが高い」(三木証券・商品部投資情報課次長の北澤淳氏)との声がある。

 昨年の7月11日に日経平均は最高値更新後、8月5日までの1カ月足らずの期間で、終値ベースで1万0765円の急落劇を投資家にみせつけた。日銀が利上げに動いた一方で、米国景気の先行き懸念が広がり、8月5日の1日の下げ幅は4451円と過去最大を記録した。この先経済指標などを引き金として市場の米利下げ観測が急速に後退した場合、センチメントが一気に冷え込むリスクもゼロではない。

 半面、株式需給の観点では信用買い残や裁定買い残が大きく積み上がっているわけではなく、資本効率の向上に向けた自社株買いも日本株の下支え要因となっている。真空地帯に差し掛かるなか、下方向だけでなく「アップサイド・リスク」にも目配りをしなければならない局面では、今まで以上に機敏な投資行動が求められることとなる。

●防衛・データセンター関連の物色は続くか

 過去最大の下げ幅を記録した昨年8月5日からおよそ1年経ち、日経平均は過去最高値を奪還するに至ったが、この間は一本調子という訳ではなく、4万円を手前に幾度も跳ね返され、相互関税ショックに見舞われた今年4月7日に3万1136円まで深押しした。

 過去1年間での個別銘柄の騰落率をみると、プライム市場の上昇率では後払い決済サービスの拡大期待が膨らんでいるネットプロテクションズホールディングス <7383> [東証P]がトップ。インターネットのドメイン事業やクラウド・レンタルサーバー事業などを展開するGMOインターネット <4784> [東証P]が続き、3位にAIデータセンター 向け需要拡大が追い風となっている電線メーカーのフジクラ <5803> [東証P]が入った。

 2倍以上の上昇となった銘柄をみると、防衛予算の増加による業績押し上げ効果が注目されるIHI <7013> [東証P]や川崎重工業 <7012> [東証P]、三菱重工業 <7011> [東証P]といった重工大手が名を連ねている。三井E&S <7003> [東証P]や古野電気 <6814> [東証P]といった造船関連や、「スシロー」を展開するFOOD & LIFE COMPANIES <3563> [東証P]、不動産向けDXのミガロホールディングス <5535> [東証P]、楽天銀行 <5838> [東証P]など内需系銘柄も目立つ。スタンダードやグロース市場を加えると、「アサイー」商品のフルッタフルッタ <2586> [東証G]が上昇率トップとなり、このほか暗号資産への投資活動を行うメタプラネット <3350> [東証S]やコンヴァノ <6574> [東証G]が上位に躍り出ている。

 上昇率上位銘柄には半導体関連株の姿がみられない。レーザーテック <6920> [東証P]に至っては過去1年間で42%安と逆行安。東京エレクトロン <8035> [東証P]や信越化学工業 <4063> [東証P]、SUMCO <3436> [東証P]、タツモ <6266> [東証P]もこの1年で株価水準を切り下げている。エヌビディアが新値追いとなる一方で、日本の半導体株のパフォーマンスの低さが際立っている。

 EUV(極端紫外線)露光技術に代表されるような先端分野での装置需要に対して弱気な見方も足もとでは広がっている。「積層技術関連など後工程の分野での需要の伸びにミートする銘柄は注目されることとなるが、それ以外のところではスマートフォンの市場が拡大するシナリオが描けないなかでは慎重なスタンスにならざるを得ない」(立花証券企業調査部参与の鎌田重俊氏)との声が出ている。

 それだけに、過熱感が台頭した全体相場が短期的な調整に見舞われた後、反転攻勢を見越して先んじて物色される対象としては、引き続き防衛やAIデータセンター、更にデータセンター周辺として電力設備に関連する銘柄とみる向きは多い。加えて、日本政府による財政出動の期待感もくすぶっており、「上下水道を含めて建設関連株への注目度の高い状態が続きそうだ」(立花証券の鎌田氏)と期待されている。

 建設セクターでは大成建設 <1801> [東証P]が東洋建設 <1890> [東証P]の完全子会社化に向けたTOB(株式公開買い付け)を発表し、再編の潮流が広がるとの思惑も出ている。建設は6月日銀短観でも良好な景況感が示されていたが、大企業の業況判断DIで建設をしのぐ高水準となったのが不動産である。オフィス賃料の上昇が続くなど事業環境は良好な状態となっており、日銀の利上げ観測が広がった際には押し目待ちの買い需要を集める可能性がある。

 不動産事業を抱える企業が多い鉄道株ではJR東日本 <9020> [東証P]が国土交通省に運賃の改定が認可された。「資本効率の改善に取り組む鉄道会社も増えており、なかには来期にかけて増益の確度が高い銘柄もある」(三木証券の北澤氏)。内需株の一角に対する物色意欲も継続が見込まれる半面、半導体関連や外需株に対する投資家の慎重姿勢が解消に向かうには、なお時間が掛かるとの見方が優勢となっている。

株探ニュース

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