AI相場は視界良好、いまこそ物色すべき12銘柄<大山季之の米国株マーケット・ビュー>

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コラム

◆トランプ関税の霧が晴れ、自信を取り戻した米国企業のトップたち

 先週末に発表された7月の米雇用統計で、就労者数の直近3カ月の平均がコロナ禍後の最低水準となり、米国株マーケットにとっては久々にネガティブなサプライズをもたらした。これによって当日のS&P500種指数は1.5%超、ナスダック総合指数は2%を超える下落率となった。現時点では株価も落ち着いているが、問題なのは過去のデータが大幅に下方修正されたことだ。「政治操作だ!」と激怒したトランプ大統領によって労働統計局長が更迭される事態に発展し、トランプ大統領のパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長に対する圧力もますます強まるだろうが、今後の焦点は8月下旬のジャクソンホール会議で金融政策がどのように議論されるかだろう。奇しくも今年の会議のテーマは「転換期の労働市場」であり、非常にタイムリーだと感じている。

 ところで、こうした足もとの動きはともかくとして、今回は米国株マーケットがどのような状態なのかをもう少し長いスパンで捉え、年後半へ向けて投資のアイデアを考えてみたい。この1カ月間のマーケットを俯瞰して感じるのは、4月以降、視界を覆っていた霧が晴れたのではないかということだ。最大の懸念事項だったトランプ関税は、日米合意を皮切りに各国とも続々と合意に達し、相互関税率もおおむね市場の期待に応える水準に収れんされつつある。トランプ関税のリスクが解消されるとともに、企業の業績見通しも好転している。シティグループが発表しているリビジョンインデックスによると、5月以降はアナリストによる上方修正が下方修正を大きく上回る状態が続き、上場企業経営者の自信を示す企業経営コンフィデンスでも、1年先の業績見通しを強気に見る経営者が急増しているという。

 トランプ関税による不確実性の低下と企業業績の改善。こうしたミクロとマクロの状況が好転したことで、この1カ月、主要株価指数はボラティリティ(株価変動率)が上昇せずに、史上最高値を更新してきた。投資家の不安心理を表すVIX指数も20を切る水準で安定して推移した。こうしたボラの小さい安定した上昇相場は、長期投資家にとっては絶好の投資機会となる。安定した上昇相場で長期投資家が安心して株式市場に資金を投じ、それによってさらなる株価の上昇がもたらされるという好循環が続いたのが、7月の米国株高の要因だ。

◆メタ好決算で明確になったAI再評価、有望IPO銘柄にも注目

 そんな流れとともに始まった米国企業の2025年4-6月期決算発表だが、この中でいよいよ鮮明になってきたのはAI(人工知能)再評価の動きだ。一連の決算を通して、一時は過剰投資が危惧されていたハイテク各社によるAI向けの大型投資が、投資に見合う収益を生みだすことができると立証されたのだ。

 筆頭は先週、サプライズとも言える好決算を発表し、翌日の株価が11%超と急騰したメタ・プラットフォームズだ。同社はAI効果により主力の広告事業が絶好調で、さらに能力増強のために来期に向けて投資を加速させるという。加えて市場予想を上回る株主還元策も発表したのだから、満点回答と言っていい。同じく企業向けソフトウェアやクラウドサービス部門が市場予想を上回る伸びを見せ、史上2社目の“時価総額4兆ドルクラブ”入りを果たしたマイクロソフトや、いち早くAI半導体の旺盛な需要を証明した台湾積体電路製造(TSMC)とともに、AI再評価の流れを決定づけた決算内容だったと言えよう。

 さらにAI再評価の流れは、投資銀行の動きにも大きな影響を及ぼし、大型IPO(新規株式公開)やM&A(合併・買収)などの案件も活発に動き出している。IPOでは、今年最大の案件と言われたフィグマが7月31日にニューヨーク証券取引所に上場。売り出し価格33ドルのところ初日で115.5ドルと3.5倍にまで上昇し、マーケットを驚愕させた。上場初日の株価上昇率は、米国企業として過去最大だったという。

 同社は2012年に創業したスタートアップで、世界各国のデザイナー向けにプロダクト用のプラットフォーム事業を展開。AIを搭載したプラットフォームの評価が高く、現在、アクティブユーザー数は月間1300万人に上る。24年12月期は赤字決算だったが、今後の成長が確実視されている優良企業だ。一時はアドビによる買収も計画されたが、英当局などの規制によって断念し、満を持しての株式公開だった。今回の上場で同社の時価総額は一夜にして560億ドルとなったが、こうした企業が極めて順調に上場することができたのも、現在のAI再評価の動きと無縁ではないだろう。

 もう一つ、AI関連のIPO銘柄で挙げたいのは、25年3月にナスダックに上場したコアウィーブだ。同社はAIに特化したクラウドサービスを手掛ける企業で、出資を受けているエヌビディア製GPU(画像処理半導体)を搭載したサーバーの提供力に定評がある。足もとで株価は調整しているが、AI再評価が進み、物色対象が拡大していけば、まず、投資対象候補として挙げられるのではないか。

 AI投資拡大を見越すなら、ガスタービン発電に強みを持ち、AIデータセンターに不可欠な電力需要を担うGEベルノバも外せない。スピンオフ成功企業の代表格でもある同社はすでに年初来の株価が2倍化するなどマーケットの高い評価を受けている。だが、2029年から30年にかけての大型受注案件の商談も進めるなど、中長期的な事業成長の青写真が描けている同社には、まだまだ上値余地はあるはずだ。

◆AI相場、M7の勝ち組はエヌビディア、メタ、マイクロソフトの3社

 ところで、4月の“トランプ関税ショック”を底に順調に上昇してきた米国株だが、先週末の“雇用統計ショック”でも報じられたとおり、そもそも、いまの水準は割高なのではないかという意見もある。さらにマグニフィセント・セブン(M7)をはじめとした一部の大型株に資金が偏重し過ぎているのではないかという指摘も出てきている。年後半へ向けての投資戦略を考える際、その点はどう捉えていけばいいのであろうか。

 確かにS&P500種指数の市場予想PER(株価収益率)は24倍近くに達している。4月時点では20倍を切っていたのだから、割高ではないとは言えない水準だ。だがマクロ的には、ハイイールド債のスプレッドは適度な範囲で収まっていて、ブルームバーグが集計している米国株を除くグローバル株価指数との乖離率もそれほど拡大しておらず、株価が過熱しているという兆候はない。PERは今回の決算が出そろい、上方修正が続いてEPS(1株当たり純利益)が上がれば正当化されていくのではないだろうか。

 問題は資金の偏重をどう考えるかだ。S&P500構成銘柄に占めるM7の割合は、24年年末から25年年初にかけて上昇し、一時は32%超を占めるようになった。その後、トランプ関税が発動された4月にかけて徐々に比率が下がり、27%台まで低下したが5月から再び上昇に転じ、足もとでは再び30%を超える水準にまで達しつつある。今回のメタやマイクロソフトの好決算により、その流れに拍車がかかるかもしれない。このまま、M7の構成比率が上がっていくのか、それとも4月までと同様、物色対象が拡大していくのかは、意見が分かれるところだ。

 総じて言えば、今回のAI再評価によって、これまで同様にAIの周辺分野に物色対象が拡大する流れが続くことは間違いないだろう。半導体やデータセンターといったAIの起点となるセクターから、ソフトウェアやネットメディア、原発や電力、電線といったエネルギー・セクターなどに物色対象が拡大していく動きだ。だがそんな中でいま、明らかになってきたのが、AIの起点と目されていたM7の中でも勝ち組と負け組が明確に分かれてきていることだ。エヌビディア、マイクロソフト、メタとそれ以外、という構図だ。

 イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)の動向に左右されるテスラや、依然としてiPhone頼りのアップルはともかくとして、アルファベットやアマゾン・ドット・コムは積極的なAI投資を続け、業績も悪くない。だが、メタやマイクロソフトと比べるとマーケットの評価は高くない。アルファベットはAIへの注力が同社の主力事業である検索事業を侵食するという構造的な矛盾を抱え、アマゾンはクラウドサービス世界首位のシェアを持ち、稼ぎ頭であるはずのAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)の伸びが、ライバルに比べて低いことが物足りないと受け取られているようだ。企業としての事業構造の違いによって、AIの恩恵に差が出ることはやむを得ないところだろう。

 翻って8月27日(現地時間)に決算発表を迎えるエヌビディアは、これまでの各社決算を通して旺盛なAIへの設備投資が続いていることが明らかになっているために、好決算が期待できそうだ。しかも、ジェンスン・フアンCEOのトランプ政権への懐柔により実現した中国向けAI半導体「H20」輸出再開の売り上げ増も見込める。一度は「H20」の売り上げ分の減損処理をしていたのだから、営業利益率も大幅な向上が期待できる。これまでの同社の株価の推移を辿ると、営業利益率が市場予想を大幅に上回るごとに株価の水準を切り上げてきたわけだが、その再現もないとは言えない。同社の決算としても、久々に大きな注目を集めるのではないだろうか。

◆AI主力企業+金融、小売りセクターへ 物色対象の拡大に期待

 さらにAI関連以外にも物色対象を拡大するなら、今後、トランプ政権によって進められることが確実な規制緩和を見越した金融セクターや、トランプ関税によるインフレ進行と米消費者のダウントレード(低価格志向)を見越した小売りセクターに着目すべきだろう。金融セクターは総じて近い将来の規制緩和に期待ができるが、中でも大手で唯一、PBR1倍割れの水準で放置されているシティグループに割安感を感じる。小売りセクターなら、ディスカウントストア大手のダラー・ジェネラルやダラーツリーに、倉庫型の会員制店舗を運営し、スーパーマーケットより安い価格で商品を提供しているBJsホールセール・クラブ・ホールディングスも加えたい。

 ダウントレードがトレンドになると仮定すれば、もう1社、個人的に興味深いと思っている企業がある。メキシコ料理のファストフード店を展開しているチポトレ・メキシカン・グリルだ。同社は近年の事業成長を実現したCEOが他社に引き抜かれ、直近の決算内容が振るわなかったこともあり、足もとの株価が調整している。だが、アメリカ人なら知らない人はいない有名ファストフード・チェーンで、アプリなどを使った顧客の囲い込みに定評があり、ダウントレード下での成長を予測することは難しくない。そう考えれば、いまの株価水準は、格好の押し目となっている可能性がある。

 いずれにせよ、雇用統計の下方修正が冷や水を浴びせたとはいえ、各種統計データを見てみると、いまのところ米消費は堅調で、景気低迷の兆しは表れていない。米運輸保安局搭乗データによる航空旅客数は右肩上がりの状況が続き、オンラインディナー数(米オープン・テーブル調べ)、ブロードウェイ観客数(インターネット・ブロードウェイ・データベース調べ)など、余暇関連の各種データも良好な状態が続いている。労働者数の増加率は鈍化していても、こと消費に関しては陰りが見えないのが米国経済の実情なのだ。

 株式マーケットの視点に立っても、トランプ関税のリスク後退とAI再評価により、視界を覆っていた霧は晴れた。ここに利下げ、規制緩和、大型減税が始動していく。つまり、年末へ向けて、米国株のさらなる上昇というシナリオは崩れていない。唯一のリスクは、FRBの利下げが遅れ、景気の鈍化に対して後手に回ってしまうという事態だったが、幸か不幸か、今回の“雇用統計ショック”によってFRBへの圧力が強まり、9月からの利下げ開始が有力視されるようになっている。言うまでもなく、早期利下げは、株式市場にとってはポジティブな材料でもある。

 こうした大きな流れを踏まえたうえで、最後に、年後半へ向けて具体的な個別銘柄への投資戦略をまとめてみたい。まずポートフォリオの柱にAI本命企業を配することは理にかなっているはずだ。エヌビディア、マイクロソフト、メタ、TSMCなどはいずれも高値を更新しているが、これらの企業は“順張り”でいい。AI関連のIPO銘柄2社も、物色拡大の受け皿となる可能性が高い。これに加え、エネルギー関連の本命であるGEベルノバ、割安金融銘柄のシティ、ダウントレード関連の4社を、現時点でのポートフォリオの有力候補として挙げておきたい。


【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。

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