「生体認証」に熱視線、不正アクセス防止強化で出陣の刻 <株探トップ特集>
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―スケールアップする活用シーン、多要素認証の拡充で成長ロード快走へ― ここ「生体認証」への関心が急速に高まっている。証券口座の乗っ取り事件に端を発し、証券各社はログイン時における「多要素認証(MFA)」の設定必須化を推進している。更に、今月15日には日本証券業協会が、「インターネット取引における不正アクセス等防止に向けたガイドライン」の改正案を公表。生体認証も含む「パスキー」などでの認証を必須化する改正案を取りまとめた。本人確認を更に強化することを念頭に置くが、すでにこうした生体認証は勤怠管理や施設への入場をはじめさまざまなシーンで活用されており、ビジネスとして大きく成長が見込まれている。ネット社会の進展で本人確認の重要性が一層拡大するなか、生体認証分野で商機を捉えるソリューション企業に注目した。 ●一段のセキュリティー強化 盗み取られたログインIDやパスワードでの不正アクセス・不正取引の被害が急増している。証券業界も口座の乗っ取り事件が多発したことで、各社は多要素認証の採用をここ数カ月で一気に進めた。これは一定の効果があったようで、金融庁が7日に公表した6月の被害状況は、不正取引件数が最高だった2932件(4月)から、783件まで減少。被害金額も大きく減少している。 ただ、不正アクセス・不正取引犯との闘いは、いたちごっこの様相が強い。こうしたことから日証協は、一段のセキュリティー強化を図るべく、ログイン・取引・出金時において、フィッシングに耐性のある多要素認証(パスキーによる認証やPKI[公開鍵基盤]をベースとした認証)の実装及び必須化について、ガイドラインの改正案を公表した。そもそも多要素認証とは、いわゆる認証の3要素といわれる「知識情報」「所持情報」「生体情報」のうち、2つ以上を組み合わせて認証することを指すが、不正取引が巧妙化するなか、これまで採用がいま一つ進んでいなかった生体情報の重要性が増しており、活用が進む可能性がある。投資家にとっても注目度が高いだけに、関心を持って注視していきたい。 いま生体認証は銀行をはじめとする金融分野での本人確認にとどまらず、幅広いシーンで活用されており、活躍領域を大幅に広げている。社会的要請を背景にして、成長ロードを走る 顔認証をはじめとする生体認証関連株への注目度は確実に高まっている。 ●エレメンツ、矢継ぎ早に提供発表 証券各社が対策を迫られるなか、6月6日付の日本経済新聞朝刊で、ELEMENTS <5246> [東証G]は生体認証を活用し「証券会社向けに口座乗っ取り対策のサービスを始めた」と報じられ急動意。同社はオンライン本人確認サービス「LIQUID eKYC」をはじめ、生体認証や画像認識サービスを展開している。この報道を受け急速人気化し、それまで1000円近辺で推移していた株価は6月13日には1471円まで買われ年初来高値圏をまい進した。同社は今月14日、25年11月期連結業績予想の修正を発表。営業損益を2億2500万円の赤字~3億2500万円の赤字(前期5700万円の黒字)としたこともあり、株価は調整し前週末には往って来いの状況だった。とはいえ、今月15日には子会社Liquidが、国内最大級の競輪情報サイト「netkeirin」にオンライン本人確認サービス「LIQUID eKYC」の提供を発表。同日には、NTTドコモ(東京都千代田区)の「ahamo」契約時のオンライン本人確認向けに同サービスを提供することも発表した。17日にもDMM.com(東京都港区)が運営するDMM競輪の利用者本人確認に同サービスを提供したとしており、時流を捉えたサービスで攻勢を強めるだけに目が離せない存在といえる。なお、きょうLiquidは、KDDI <9433> [東証P]にマイナンバーカードや運転免許証などのICチップ読み取りによる本人確認をオフラインで実施できるプランを提供すると発表。これを受けて、株価は急伸している。 ●グローリーは顔認証でも存在感 貨幣処理機大手のグローリー <6457> [東証P]はカジノ関連の一角として知られるが、数多くのセキュリティー機器を手掛けるなか顔認証分野にも注力している。同社の顔認証は、空港や商業施設をはじめ1000カ所を超えるさまざまな場所で活用されている。4月からは日本中央競馬会(JRA)の6競馬場で、一部指定席エリアにおける通行管理業務(顔認証による自動検札)を受託し運用を開始するなど活躍の場を広げている。同社の26年3月期連結営業利益は、前期比38.9%減の215億円と減益を計画。ただし、これは新紙幣発行に伴う製品の更新や改造作業が増加した前期からの反動によるところが大きいだけに、投資家サイドにも織り込み済みで株価上昇の足かせとはならず、新値街道を快走している。10月13日には大阪・関西万博も幕を閉じ、夢洲での関心はカジノを含むIR事業に移ることになる。 ●ヒューマンTは認証強化システムに活躍期待 ヒューマンテクノロジーズ <5621> [東証G]は、クラウドコンピューティングを基盤とした業務システムと、成長著しい生体認証技術を融合したサービスを展開。勤怠管理クラウドサービス「KING OF TIME(キングオブタイム)」を提供するが、課金IDの増加が顕著で収益拡大に貢献。同社が展開する次世代の認証強化システム「DigitalPersona(デジタルペルソナ)」は、顔・指紋などの「生体認証」と、ワンタイムパスワードなどの「所持認証」、パスワードなどの「記憶認証」を組み合わせた二要素認証・多要素認証を、Active Directoryで設定・管理でき、数多くの分野で採用されている。26年3月期は、連結営業利益段階で前期比38.1%増の12億8500万円と大幅な伸びを続ける見通しだ。株価は最高値圏でもみ合う展開で一段高期待も。 ●幅広いニーズを捉えるトリプルアイ トリプルアイズ <5026> [東証G]は、自社開発の画像認識プラットフォーム「AIZE(アイズ)」を中心にAIソリューションサービスを展開。AIプロダクトでは、顔認証ログインアルコールチェックサービス「AIZE Breath」の大手物流会社への導入がスタートし、ユーザー企業が拡大しているほか、AI顔認証を活用し幅広いニーズを捉えている。同社は15日の取引時間中に、25年8月期の連結業績予想について営業損益を1億1100万円の黒字から8300万円の赤字(前期3800万円の黒字)へ下方修正したことで急落。その後も上値の重い展開が続くが、22日にはグループのゼロフィールドが、米国で3拠点目となるデータセンターをアーカンソー州に新設すると発表。これにより、ビットコインマイニングインフラの米国展開を加速させるとしており、今後の展開から目が離せない。 ●セキュア、トップクラスのシェアを誇る セキュア <4264> [東証G]は入退室管理や監視カメラシステムを提供するが、これらにAI顔認証を組み合わせることで、トップクラスのシェアを誇る。今年3月末時点で、顔認証関連ソリューションの累計導入件数が1万件を突破。入退室管理システムは、オフィス需要に加えデータセンターや工場、更に万引き防止やカスハラ対策、介護施設など幅広いシーンで活用されニーズを捉えている。3月には、低価格化を実現し中小規模事業者向けに顔認証ソリューションを発売するなど、シェア拡大に向けて余念がない。5月13日に発表した25年12月期第1四半期(1~3月)の連結営業利益は、前年同期比39.5%減の1億5200万円となった。入退室管理システムでは、大型案件剥落の影響もあったが想定の範囲内での着地としており、通常案件は当初の計画通りに順調に進捗しているという。25年12月期通期は、前期比30.8%増の4億円と従来予想を据え置いている。 ●ドリムアーツ、HOUSEIなどにも注目 ドリーム・アーツ <4811> [東証G]は17日から、同社の大企業向け業務デジタル化クラウド「SmartDB(スマートデービー)」で、デジタル庁が提供する「デジタル認証アプリ」を活用したマイナンバーカードによる本人確認への対応を開始した。同社では、マイナンバーカードについて、生体認証と組み合わせた安全かつ確実な本人確認手段として普及が加速するとしており、これを見据えたもの。株価は、4月7日に年初来安値1886円をつけた後は上昇一途。今月25日には、3935円まで買われ年初来高値を更新。昨年1月30日につけた、上場来高値3960円を視野に入れている。 そのほかでは、AI顔認証技術を活用した「無人店舗ソリューション」などを展開するHOUSEI <5035> [東証G]にも注目。昨年4月からスマート無人営業を開始した三洋堂ホールディングス <3058> [東証S]傘下の三洋堂書店での導入は19店舗となるなど、ここ顔認証によるさまざまなソリューションの提供で攻勢をかけている。また、生成AI分野にも注力しており目が離せない。エレクトロニクス商社の高千穂交易 <2676> [東証P]は、顔認証システムなどの画像認識などリテールソリューションの拡大を図っている。生体認証を活用した勤怠管理連携ソリューションをはじめ、幅広い分野でリプレイス需要の取り込みにも懸命だ。 株探ニュース