トヨタなど取り組みに本腰、次世代電池本命「全固体電池」に注目再び <株探トップ特集>

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コラム

―既に未来の技術ではなく現実化のステージに突入、新たな関連有力株も浮上―

 2040年の人間社会、そこには長距離移動が当たり前になり、バッテリーの不安も発火の恐れも低減した電気自動車(EV)の姿が溢れている可能性がある。そんな未来の乗り物やデジタル機器を支える技術の一つが「全固体電池」である。次世代電池の本命として語られることが多いだけに、まだまだ先の未来の技術と思われがちだが、実は現実化の時が近づきつつある。株式市場でも全固体電池に再び投資マネーの関心が向かいそうだ。

●リスクも内包するリチウムイオン電池

 充電ができる二次電池として今や当たり前のものとなった リチウムイオン電池だが、歴史を振り返れば、ソニーグループ <6758> [東証P]が1991年、世界で初めて同電池を上市したことに端を発している。それまでの乾電池や電気の直接供給に頼る暮らしから、30年程度で社会に劇的に普及した。ただ、これまでは意識的、無意識的にせよ、生活の利便性向上に重点が置かれてきたものの、徐々にリチウムイオン電池の「リスク」にも目が向けられるようになってきた。

 最近の事例では7月上旬に、神奈川県の郵便局で28台の配達用のオートバイが駐車場の中で焼損した事故があった。充電中のバッテリー(リチウムイオン電池)が発火源とみられているが、電動機器が社会に大量に増加したことで、利便性も増した反面、こうした思わぬ事故の危険もまた相対的に増しているのだ。

●性能面で優れる全固体電池の開発競争進む

 危険に対する社会的な認識も増す裏側で、次世代電池の一つとして全固体電池の開発が進められている。その特長で代表的なものを挙げると、「爆発・発火のしにくさ」「長寿命」「充電速度の向上」「エネルギー密度の高さ」などがある。従来のリチウムイオン電池の欠点をおおむね克服できる可能性が高いとみられている。日本、特に株式市場では自動車メーカーの動向と共に語られることが多かったが、例えばトヨタ自動車 <7203> [東証P]は「27年から28年に市販車への搭載開始」を目標として掲げている。6月12日に開催された同社の株主総会、そこでちょうど株主からも全固体電池に関する質疑があったようだが、中嶋副社長は「全固体電池を次の未来を切り開く大きな要素として届けたい」という趣旨の発言を行ったことが伝えられている。

 また、米国では、メリーランド大学からスピンオフした電池技術開発企業であるアイオン・ストレージ・システムズが足もとで、試験を行っている潜在顧客に、電池セルを出荷したとウォール・ストリート・ジャーナルが伝えている。裏側での企業間の開発競争なども踏まえると、我々が想像している以上に、普及の時期は近い。

●トヨタなど中心に傾注する企業が相次ぐ

 第1段階としてリチウムイオン電池の普及が社会にもたらしたのが「モバイルな社会」だとすれば、全固体電池によって「モバイルかつ安心な社会」への質的転換が図られることになる。限りある資源を最大限、長期間、そして安全に活用するためにも必須となる全固体電池に関連する銘柄は、これまでにも自動車メーカーなどを絡め折に触れ株式市場で有力テーマとして投資家の視線を集めてきた。

 トヨタは27年以降に導入予定の次世代EVなどへ搭載する全固体電池の開発を出光興産 <5019> [東証P]と進めており、経済産業省から「蓄電池に係る供給確保計画」として認定されている。ホンダ <7267> [東証P]は栃木県さくら市に430億円を投じ、全固体電池の実証ラインを建設しており、航続距離をリチウムイオン電池の2倍に伸ばすことを目標としている。また、TDK <6762> [東証P]は従来の約100倍ものエネルギー密度を持つ、新しい全固体電池の材料開発に成功しており、ウェアラブルデバイス用バッテリーや既存のコイン電池を代替する製品の実現を目指している。また、マクセル <6810> [東証P]は23年に全固体電池の量産品の出荷を開始している。このほか、全固体電池の開発に加え、関連技術や設備、電解質など素材を手掛けている企業を6銘柄紹介する。

●全固体電池関連で活躍期待のニューフェース6選

◆三井金属 <5706> [東証P]~全固体電池開発活性化に伴う固体電解質サンプル供給安定化および品質向上に向けて、固体電解質の生産能力の増強投資を25年中に予定している。同社の固体電解質は複数の企業において開発標準材料として位置づけられており、生産能力を上回る需要が見込まれている。量産試験棟の生産能力向上のほか、27年には初期量産工場の稼働も計画。

◆日本電気硝子 <5214> [東証P]~マイナス40度~プラス200度という二次電池では世界一広い温度域で動作可能な耐熱仕様の全固体ナトリウムイオン二次電池を開発している。この特徴を最大限に生かすガラス封着技術を用いた耐熱パッケージも開発。信頼性の高い技術の一つとして自動車や家電、通信などさまざまな分野で実績があるが、今回初めて電池のパッケージに応用した。

◆クオルテック <9165> [東証G]~自動車業界を主要顧客に、半導体、電子部品の不良解析・信頼性試験の受託および新技術の開発を手掛ける。全固体電池分野で先駆的な測定技術を追求しており、電気回路や電子部品の電気的な特性を評価するためのインピーダンス測定において、従来の測定精度を大幅に上回る100メガヘルツの高周波数帯域まで対応できる測定システムを実現した。

◆アルバック <6728> [東証P]~バッテリー構成部材の薄型化・高純度化を可能とする真空蒸着技術により純度と平滑性が高いリチウム金属箔の製造技術を確立し、全固体電池に代表される次世代電池の負極用としての応用開発に移行している。

◆中外炉工業 <1964> [東証P]~熱処理、環境保全分野向けに工業炉主体の産業機械や環境設備などを手掛けるほか、次世代電池用精密塗工装置も扱う。足もとでは全固体電池向け熱処理設備の受注が伸びている。電極材料や固体電解質の製造装置など全固体電池向けの製造装置のラインアップを拡充し、26年をメドに本格販売を目指している。

◆ニッポン高度紙工業 <3891> [東証S]~アルミ電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、電池用のセパレータを手掛けるグローバルニッチトップ企業であり、少量・多品種に対応できる生産体制と製品開発力が強み。全固体電池の量産化を特殊素材でサポートしており、固体電解質層のシート化および薄型化を可能とする、全固体電池用支持体を提案している。

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