大屋根リングが復活の起爆剤に、「林業ルネサンス」で光輝く銘柄群 <株探トップ特集>
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―実は拡大続く国内生産量、木造ビルを支える技術革新と新素材が拓く未来に刮目― 大阪・関西万博の会場を一周する大屋根リングに対し、わが国の木材加工と木造建築の技術に大きな称賛が寄せられているようだ。地球環境保護の面からも脱炭素化の面からも 林業の復興が必要とされているが、国内の生産量は拡大が見込まれていることはあまり知られていない。林業の「ルネサンス期」にキラリと輝く銘柄群にスポットライトを当てていく。 ●制約条件は解消へ 林野庁が6月に公表した「令和6年度 森林・林業白書」によると、わが国の木材自給率は、足もとで上昇している。1950年代の90%超から長らく低下を続けたものの、2002年の18.8%で底を打ち、23年には43.0%にまで回復した。輸入材との競争に敗れていた国産の製材用材、合板用材、そしてパルプ・チップ用材では数量もシェアも上昇している。国際的な森林保護の流れから海外輸入材の価格水準が切りあがり、国内間伐材の利用と技術革新も進んだ。木質バイオマス発電 の燃料材としての需要拡大も寄与している。 自給率の底となった02年と23年との比較では、木材総需要量が8976万立方メートルから8004万立方メートルへと減少した一方、国内材は1692万立方メートルから3444万立方メートルへと倍増した。実は、林業生産は過去20年間で拡大しており、今後も拡大が見込まれている。 日本の森林面積は約2500万ヘクタールであり、国土面積のほぼ3分の2を占める。森林の約4割が人工林だが、戦後から高度成長期にかけて造林されたものが多く、本格的な利活用期を迎えている。相対的に早く生育するスギの苗木が好んで植えられたこともあり、スギ花粉症が国民的疾病となっているのは周知の通りだ。森林面積は世界有数の広さだとしても、海外と比較して地理的環境は良好とは言えない。森林は主として急峻な山地に広がっている。林道の整備も遅れており、機械化・自動化が進みにくく、「植林~育成~伐採~搬出」の過程で人力に依存せざるを得ない状況に置かれていた。地理的条件は、高度成長期以降に日本の林業が衰退した理由でもある。 ただしその制約条件については、技術革新によって解消に向かい始めている。加えて、安価だった海外材の価格が上昇したこともあり、コスト競争力の問題も後退しつつある。 ●木造ビル建設も相次ぐ 木材自給率の高まりに歩調を合わせる形で、近年では中高層建築における木造化(木材と鉄骨材のハイブリッド構造)も広がりを見せている。従来、木造建築は低層の住宅などに限られていたが、規制緩和や技術革新によって中高層ビルへの採用が急速に広がり拡大しつつある状況だ。 18年には、住友林業 <1911> [東証P]が高さ350メートル・地上70階の木造超高層建築開発構想「W350」計画を公表。当時は驚きをもって受け止められたが、41年の創業350周年に合わせた計画の実現性は高いとみていいだろう。大手ゼネコンによる木造ビルの建設事例も増えている。木造ビルは現状ではコスト面での課題を抱えるが、コンクリートと比べて重量が軽く、工期が短縮できるなどのポテンシャルを併せ持つ。部材の規格化と大量生産が可能になれば、コスト低減にも寄与する可能性がある。 世界最大の木造建築物である大屋根リングの施工会社は、工区ごとに大林組 <1802> [東証P]、清水建設 <1803> [東証P]、竹中工務店(大阪市中央区)が筆頭となっている。他に、JR西日本 <9021> [東証P]グループの大鉄工業、東急建設 <1720> [東証P]、高松コンストラクショングループ <1762> [東証P]系の青木あすなろ建設、南海辰村建設 <1850> [東証S]なども名を連ねている。 中高層ビルの木造建築では、前記の竹中工務店と大林組が豊富な実績を誇っている。大成建設 <1801> [東証P]や鹿島 <1812> [東証P]のほか、熊谷組 <1861> [東証P]なども実績がある。施主としては、三井不動産 <8801> [東証P]が東京・日本橋地区で複数のプロジェクトを手掛けており、三菱地所 <8802> [東証P]は合弁で集成材工場を設立するなど周辺分野にも事業展開している。 ●木材専門商社などに成長期待 木造建築物が普及すれば、建材としての木材需要も拡大が見込まれるため、木材商社の業績にもプラスとなろう。木材の取扱数量では総合商社系も上位に登場するが、ウッドショック後の株価調整も進んでいることから、木材専門商社に目を向けたい。JKホールディングス <9896> [東証S]はM&Aによって事業を拡大しており、建材加工・製造の分野でも大手の一角を占める。ナイス <8089> [東証S]は国内に森林を保有するほか、構造用集成材工場を持ち、住宅供給など川上から川下まで事業展開している。ウッドワン <7898> [東証S]は自社でバイオマス発電所を運営し、ニュージーランドで造林も手掛けている。 国内の林業においては長年、労働生産性の低さなどが課題として挙げられてきたとあって、AIやICT、ロボットなどの活用によるイノベーションも不可欠となっている。衛星・航空・地上レーザーやドローンなどを活用したデータの蓄積とともにAIの実装も進むとみられている。記憶と経験に頼った従来型林業から「スマート林業」へと進化する未来が待ち構えていると言える。 林業機械については、建設機械をベースとしたものが多いため、大手建機メーカーとその系列会社が幅広く展開している。コマツ <6301> [東証P]や日立建機 <6305> [東証P]、住友重機械工業 <6302> [東証P]、神戸製鋼所 <5406> [東証P]などが林業機械を持つものの、連結業績へのインパクトは小さなものにとどまる。それなりのインパクトが期待できる小型株には、木材用グラップルやローラー式プロセッサーなど数多くの林業機械を製品群に持つオカダアイヨン <6294> [東証P]の名が挙がる。破砕・解体用機械や環境機械が主力ではあるが、林業機械会社を買収し、省人化・自動化に寄与する新製品投入とアフターサービス拡充に努めている点を評価したい。チェンソーや刈払い機などのやまびこ <6250> [東証P]、丸山製作所 <6316> [東証S]も関連銘柄に加わる。 ●新素材・排出量取引など周辺領域も要マーク 林業とリンクする素材開発からも視線を外すことはできない。なかでも紙おむつや筆記用インク、 運動靴、化粧品などに幅広く利用されるセルロースナノファイバー(CNF)は、木材の主成分の一つであるセルロースを化学的・機械的に処理してナノサイズまで解きほぐした繊維状物質で、軽量ながら高強度であるのが特長だ。セルロースのほか、リグニンも木材の主要成分となっている。スギのチップにポリエチレングリコールを混ぜて加熱するなどの工程を経て得られる改質リグニンは、さまざまな材料と複合化させることにより化石資源由来プラスチック材料の代替が可能となる。 CNFでは王子ホールディングス <3861> [東証P]や日本製紙 <3863> [東証P]、大王製紙 <3880> [東証P]、中越パルプ工業 <3877> [東証P]など紙・パルプ関連企業とともに、東亞合成 <4045> [東証P]やダイセル <4202> [東証P]、第一工業製薬 <4461> [東証P]などがプレーヤーとなる。改質リグニンでは、実証実験段階ながら世界唯一のプラントを運営しているリグノマテリア(東京都千代田区)に出資するエムビーエス <1401> [東証G]に目配りしておきたい。 このほか林業と切っても切れない関係にあるのが、「カーボンプライシング」である。炭素に値付けをし、企業のCO2削減を促す制度だ。企業のCO2排出量に枠を設け、排出枠の過不足を企業間で取引する排出量取引制度については26年度から本格的に導入されることが決まっている。実排出量が割り当てられた枠を超えた企業は、枠が余っている他社から排出枠を購入するか、負担金を支払うことになる。政府案によると、CO2排出量が10万トン以上の、製鉄、石油、自動車、化学など約300~400社が対象になる見込みだ。 植林やクリーンエネルギー導入などによって余剰排出枠(クレジット)を創出することが可能になれば、当該企業には追加的な収益が期待できる。王子HDや日本紙、三井物産<8031> [東証P]、住友林などが森林保有面積の大きい企業として知られている。また、特種東海製紙 <3708> [東証P]は、製紙業界では中堅ながら、静岡・大井川上流に広大な井川社有林を持ち、その活用を中期経営計画でも掲げている。太陽光、風力、地熱、バイオマスなどの発電事業を営んでいる再生エネルギー関連として、レノバ <9519> [東証P]やイーレックス <9517> [東証P]、エフオン <9514> [東証S]もマークをしておきたい。 株探ニュース