脱エヌビディアと国際分散投資が成功のカギ<今中能夫の米国株ハイテク・ウォーズ>

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コラム

◆人気はあるが政策はでたらめなトランプの政権運営

 トランプ関税に端を発したこの数カ月の一連の騒動を見てつくづく感じるのは、トランプ大統領というのは不思議な人物だということだ。改めてこれまでの同大統領の発言を紐解いてみると、実は彼の現状認識には正しい部分もある。例えばメディアを騒がせているハーバード大学への外国人留学生枠の縮小なども、背景には、かつて存在したマイノリティ優遇枠を悪用し、本来なら入学基準を満たさないような学生まで受け入れられてしまっている現実に対する、貧困層を中心とした保守派の白人の不満がある。

 だが、言うまでもなくトランプ大統領自身は裕福な家庭の出身の億万長者だ。つまり貧困層の思いなど理解できるはずもない境遇で育ってきている。この点は貧しい家庭で育った叩き上げのルビオ国務長官やバンス副大統領とは全く違う。そうでありながら、貧しい白人たちが抱いている不満をはっきりと口にできてしまうという、極めて珍しいタイプの政治家で、だからこそ人気があるのだ。

 ところが、その彼が打ち出す政策はまったくでたらめだった。何と言っても4月以降、トランプ大統領の推し進める自国第一主義によって、アメリカの国際的な影響力が低下してしまっている。対GDP(国内総生産)比で第二次大戦時に匹敵するほどに膨れ上がった巨額の財政赤字を削減しなければならないのは事実だが、強引な追加関税政策の結果、明らかになったのは自信を深める中国の経済力の強さだったし、同じく強引に進めた米国際開発局(USAID)の解体によって、今回のイスラエルとイランの軍事衝突に代表されるように国際政治が混とんとしてしまっている。

 支離滅裂な政権運営が続く中、なぜか米国株市場は上昇基調を取り戻している。こうした状況を受け、世間では「TACOトレード」という言葉がにわかに浸透してきているが、株高の背景には、アメリカ人の特性もある。そもそも一般的なアメリカ人は、国際分散投資などしない。通貨はドルで言語は英語、投資をするなら対象は米国株。中国やインド、もちろん日本株なども眼中にない。米国株にしか興味がない投資家にとっては、トランプ関税が大暴落を引き起こしたタイミングが格好の買い場となったわけだ。そこで儲けた利益によって、さらに米国株への投資を積極化しているというのが現状だ。

◆ビッグテックに代わる投資先は軍需、エンタメ、セキュリティなどに分散

 トランプ政権の迷走ぶりについてはさておき、エヌビディア、ブロードコムの四半期決算で出そろったハイテク各社の現状について述べてみたい。まずエヌビディアについては、市場予想を上回る好決算となったが、その後のマーケットの反応を見る限り、多くの人が期待しているほどには株価が上昇していない。続くブロードコムも大手IT3社向けの特注型AI(人工知能)半導体が好調だったが、エヌビディア同様に株価の動きに目立ったところはない。この両社の決算とマーケットの反応を見て思うのは、当面はAI半導体関連を買い増すべきではないのではないかということだ。

 ではどのような企業を投資対象にすべきなのか。まず挙げられるのは、NATO(北大西洋条約機構)との大型契約締結が報じられたパランティア・テクノロジーズだ。アメリカがNATOへの関与を縮小したことによって、欧州では弱体化していた軍備再建のために各国が軍事費の支出を増やし、ドイツのラインメタル、イギリスのBAEシステムズといった軍需関連企業の株価が急上昇している。だが欧州各国は長年にわたって軍需産業の育成を怠ってきたため、欧州の軍需関連企業はこれまでほとんどAI投資をしてこなかったし、軍需関連のAI企業もほとんど育っていなかった。

 したがってこれから急速に軍事力を高めようと思えば、米国企業トップのパランティアのサービスを利用するのが最善策となる。同社は年初来、株価が90%近く上昇し、PER(株価収益率)も600倍台と割高感があるかもしれない。だが、AIを活用した軍事機関の意思決定支援システムで先行している同社の優位性はしばらく続くと思われる。

 次に挙げられるのは、エンターテインメントの分野でAIを活用しているスポティファイ・テクノロジーとネットフリックスだ。スポティファイは1年前の310ドル前後の水準から700ドル超の水準へと2倍化し、ネットフリックスも680ドル前後から1200ドル超へと、あと少しで2倍化する水準に株価が上昇している。

 スポティファイは音楽配信では世界でダントツの成長力を有している。競合にはアマゾン・ドット・コムの「アマゾンミュージック」やアップルの「アップルミュージック」などがあるが、足もとでアマゾンが音楽配信分野への投資を手控えるなど、広範な事業領域を持つ両社と専業のスポティファイを比較すると、力の入れ方に差がある。実際、ユーザーの視点で考えても、スポティファイのほうが良いサービスを展開しているという評価が定着している。

 一方、動画配信で同様のポジションにいるのがネットフリックスだ。競合にはウォルト・ディズニーの「ディズニープラス」やアマゾンの「プライムビデオ」などがあるが、積極的な自社制作の展開でヒット作を連発するなど、世界的に会員増が続き、他社を圧倒している。エンターテインメント分野ではソニーグループ <6758> の成長性にも改めて注目したい。同社は10月に金融部門をスピンオフ(分離・独立)する予定だが、投資家の視点に立てば、待ちに待った決定だったと言える。そもそもメーカーの経営者がある程度の規模に成長した金融機関の経営者を兼ねることには無理があったのだ。

 同社のエンターテインメント部門では、主力のゲーム事業が堅調で、ストライキの影響で低迷が続いた映画事業も26年3月期は復調が期待できる。さらに世界最大級と言われるアニメ配信サービス、「クランチロール」を傘下に収めた音楽・アニメ部門も有望だ。これら、世界的にも競争力のあるエンターテインメント企業3社は、長い目で見て重要な投資対象と言えるだろう。

◆セキュリティと半導体製造装置セクターにも投資妙味が

 次に挙げたいのはセキュリティ大手のクラウドストライク・ホールディングスだ。同社は昨年7月にシステムトラブルを起こして業績が低迷し、いまでも赤字決算が続いている。だが、次世代型セキュリティ・システムへの転換が進み、ようやく黒字化のめどが立ってきた。株価は昨年8月につけた約200ドルの底値から急速に復調し、いまでは480ドル超へと2倍化している。同社に株式市場が注目するのは、大規模なストックオプションの実施で人材獲得競争を優位に進めている点だ。というのもセキュリティ分野は、ハイテク産業の中でも特に人材が不足している分野で、各社が技術者の奪い合いを続けている。そんな中で平時の営業利益の金額にも匹敵すると言われる同社のストックオプションの方針は、将来の競争力を高めると好意的に受け止められているのだ。

 さらに投資妙味で言えば、日本の半導体製造装置メーカーにも目を向けたい。背景にあるのは中国のハイテク産業の復活だ。日本ではあまり実感が持てないかもしれないが、「ディープシーク」登場の世界的な余波は依然として収まっていない。日本ではいまでも、生成AIと言えばまず「チャットGPT」が浮かぶが、これは欧州や日本、韓国、台湾などアメリカの影響力が大きい国での話だ。

 先日、ある技術セミナーでイスラエル人の講師が、当然のように生成AIは「ディープシーク」を使っていると話していた。対話型生成AIでは「チャットGPT」だけでなく「ディープシーク」も有力な選択肢になっているということなのだろう。中国のハイテク企業の中核である華為技術(ファーウェイ)は深センに巨大な半導体工場を建設中で、スマートフォンのチップセットやAI半導体を生産すると報じられているが、このまま進めば中国の半導体産業はさらに盛り上がる。2010年代以降、中国株は長期低迷が続いたが、ようやく底を打ったと言っていいのではないか。

 そこで恩恵を受けるのが、日本の半導体製造装置メーカーだ。特にアドバンテスト <6857> は現時点のPERが40倍台と割高だが、エヌビディア製AI半導体のテストに使われるSoC(システム・オン・チップ)テスターの多くが同社製だと言われており、今のところ対中半導体製造装置輸出規制の対象外だ。これまでのアメリカ製AI半導体のテスト需要に加え、今も堅調に推移している中国向けの需要が今後拡大する可能性が高い。

 ディスコ <6146> の中国向け製品にも伸びしろがある。AI半導体に欠かせないHBM(広帯域メモリー)の最先端品は、現段階ではSKハイニックス、サムスン電子、マイクロン・テクノロジーといった大手DRAMメーカーのみが生産している。そんな中、昨年から中国の新興DRAMメーカー、CXMTが「HBM2」の生産を開始したと報道されている。「HBM2」は現在、主流の「HBM3E」の3世代前の製品であり、この動きが先端HBMの生産に欠かせないディスコの高性能グラインダの需要に反映されるのはまだ先だろうが、長期的な視点で見れば市場拡大が見込めるだろう。

 これら2社は半導体製造の後工程を担う企業だが、ここに来て前工程に強みを持つ企業にも光明が差し始めたのではないかと感じる。国内最大手の東京エレクトロン <8035> とEUV(極端紫外線)フォトマスク欠陥検査装置の独占企業、レーザーテック <6920> だ。現時点でのAI半導体製造のメインストリームが後工程にあることもあって、両社は株価が大きく調整していた。だが、いよいよ26年後半には台湾積体電路製造(TSMC)が1.6ナノメートル(nm)の最先端半導体の製造を開始する。AI半導体の分野でもマーベル・テクノロジーがいち早く、特注型AI半導体に付ける2nmSRAM(スタティックRAM。キャッシュメモリによく使われるRAM)の製造に乗り出すと報じられている。PERが20倍前後の割安水準にある両社は、そろそろ格好の押し目、買い場を迎えていると言っていいのではないだろうか。

◆求められるのは、守りではなく攻めの国際分散投資

 では、勢いに乗る中国のハイテク銘柄に投資するためにはどうすればよいのか。前回のコラムでも述べたが、個別銘柄の情報が少ない中国企業に投資するには、代表的なハイテク銘柄を組み込んだインデックス型ETF(上場投資信託)への投資が有効だ。香港上場の中国ETFでは、「グローバルX MSCI 中国 ETF」が、組み入れ銘柄数が最も多く、各業種の代表的な企業、560銘柄を組み入れている。

 中国ハイテクの双璧、ファーウェイとディープシークがともに未上場企業であることもあり、半導体とAIやソフトウェアの各分野で起こっている巨大な変化を外から確認するのはなかなか難しい。「ディープシーク」登場後、中国のハイテク経済は大きな変化が始まったと思われるが、560もの銘柄を組み入れていれば、中国の変化をカバーすることができるだろう。

 さらに東証上場銘柄でも、新しい中国ETFが出てきた。6月24日に上場した「グローバルX チャイナテック ETF」 <380A> はハンセン・テック・インデックスに連動するETFだ。このインデックスの構成銘柄数は30社で、小米(シャオミ)、騰訊控股(テンセント)、阿里巴巴集団(アリババ・グループ)、JDドット・コム、網易(ネットイーズ)など中国を代表するハイテク企業が並んでいる。「グローバルX MSCI 中国 ETF」で中国全体に大きく網をかけ、同時に「グローバルX チャイナテック ETF」でハイテクに絞ったポジションを持ち、「ディープシーク」登場後の新しい中国経済発展の成果を獲得する。このような投資の考え方があっても良いのではないか。

 このほか、米国市場に上場する中国ETFでは、「iシェアーズ中国大型株ETF」、「ウィズダムツリー中国株(除く国有)企業ファンド」など、香港上場では、「グローバルX・チャイナ・クラウドコンピューティングETF」、「グローバルX MSCI 中国 ETF」、「ハンセン・チャイナ・エンタープライズ・インデックスETF」、「iシェアーズ・コア MSCI チャイナETF」といったETFがある。幅広い銘柄を組み込んだバランス型とテーマ別・業種別のETFだが、今後、より時代に即したテーマ型やセクター別の中国ETFが出てくると思われるので、そちらにも期待したい。

 今回は米国株以外にも対象を広げて投資戦略を考えてみた。なぜなら、トランプ政権による自国第一主義によって内向きに閉じつつあるアメリカの現状を見るにつけ、これまでのようなビッグテックへの長期投資一辺倒の投資スタンスから一歩距離を取り、視野を広げて国際分散投資を進めるべき局面を迎えているのではないかと感じるからだ。分散投資というと、リスクヘッジの手段という捉え方が一般的だがそうではない。より収益機会を拡大するための積極的な分散投資だ。

 簡単なことではないかもしれない。だが今後は、ビッグテックなど特定の企業だけに投資対象を絞っていては、昨年までのようなパフォーマンスを上げることは難しいだろう。だからこそ、より高い成長ポテンシャルのある中国や欧州株にまで視野を広げ、まずはインデックス・ファンドやETFに資産を分散させ、相場の流れに応じて短期投資のスタンスも使い分けながら臨機応変に動いていく。今後のハイテク株への投資は、そうした機動的な投資スタンスを持つことが求められるのではないだろうか。


【著者】
今中能夫(いまなか・やすお)
楽天証券経済研究所チーフアナリスト

1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998~2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。

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