日米欧が供給網の再構築へ、経済安保の本丸「レアアース関連」を追う <株探トップ特集>

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コラム

―米中貿易協議で浮き彫りとなった脆弱性、中国依存度低下に向けた潮流は加速中―

 米中貿易協議において中国は「レアアース(希土類)」をカードに巧みな交渉を繰り広げている。米国は中国に対し強硬策をとろうにも、自動車や電子機器など幅広い分野で利用されるレアアースで中国が高いシェアを持っている限り、譲歩せざるを得ない状況となっている。カナダで開催中の主要7カ国(G7)首脳会議においても、レアアースの供給網の強靱化に向けて協調する動きがみられ、経済安全保障の本丸とも言えるレアアース関連株への注目度が高まりつつある。

●輸出規制で「スイフト」は生産一時停止

 レアアースはレアメタル(希少金属)の一種であり、17種類の元素が該当する。モーター用磁石に利用されるネオジムやジスプロシウム、光ファイバーに添加されるエルビウムやツリウム、超伝導体に用いられるイットリウム、PET(陽電子放出断層撮影)検査で使われるルテチウムなどだ。

 米地質研究所(USGS)の調査資料によると、2024年のレアアースの世界の生産量に占める中国の割合は約69%。世界の埋蔵量のうちの約49%が中国国内に存在する。また、IEA(国際エネルギー機関)によると、23年の採掘したレアアースの精錬における中国のシェアは92%に上る。レアアースは採掘時はもちろん、精錬工程においても自然環境に大きな負荷を掛けることで知られている。スマートフォンや自動車の電動化といった技術革新は、中国国内の自然環境の犠牲の上に成り立っているといっても過言ではない。

 米国が世界各国を相手に、相互関税の一部発動に一方的に踏み切った4月、中国はその報復措置として、ジスプロシウムなど7種類のレアアースの輸出を制限した。真っ先に痛手を被ったのが、電気自動車(EV)のモーター部品にレアアースを使用する自動車メーカーである。スズキ <7269> [東証P]の小型車「スイフト」や米フォード・モーターのスポーツ多目的車(SUV)「エクスプローラー」は、レアアースの調達難を背景に、一時的に生産停止に追い込まれることとなった。

 ロンドンで6月に行われた閣僚級の米中貿易協議を受け、トランプ米大統領は「必要なレアアースは中国から供給されるだろう」と表明した。ところがその後の報道では、米軍の戦闘機やミサイルシステムのサプライヤーに必要なレアアースについて、中国は輸出許可を約束していないと伝わっている。これに先立ち、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、中国によるレアアースの輸出再開は6カ月の期限付き措置になる見通しだと報じており、情報はやや錯綜気味となっている。

●中国依存度低下へ「工程表」と伝わる

 レアアースの調達不安は産業界に多大な悪影響をもたらしかねない。日本政府は22年に経済安全保障推進法を制定し、重要物資の確保に向けた法的枠組みを整備するとともに、レアアースに関して、30年時点で国内の永久磁石に必要な需要量の確保を目指すほか、重要鉱物のサプライチェーンの多様化・強靱化を図る方針を示している。これに関連してエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と双日 <2768> [東証P]は23年3月、共同で設立した日豪レアアースを通じ、オーストラリアのレアアース最大手ライナス社に追加出資するとともに、マウント・ウェルド鉱山に由来するジスプロシウムやテルビウムについて最大65%を日本に供給する契約を結んだと発表した。

 カナダで開催中のG7サミットでは、トランプ大統領が「ロシアをG8から除外したのは誤りだった」と述べた後、中東情勢への対応に向けて残りの日程を残したまま帰路につくなど、首脳同士の結束力をアピールするには物足りなさが意識される展開となった。半面、レアアースの供給体制の強化に関しては危機感が共有され、具体策を構築しようとする動きも表れた。

 供給網の多様化・強靱化の部分では大手商社が力を発揮することとなるとみられるが、素材各社も重要な役割を担うこととなるだろう。例えば住友金属鉱山 <5713> [東証P]はフィリピンにおいてニッケル・コバルト混合硫化物の製造工程でのスカンジウムの回収を18年に開始した。三菱マテリアル <5711> [東証P]は金属事業カンパニーの中期的な戦略として、レアアースやレアメタルのリサイクル事業の創出を掲げている。

 JX金属 <5016> [東証P]は今年6月9日、オーストラリアのミネラルサンド鉱床開発プロジェクトの参画に向けた契約締結を発表。同鉱床を所有する豪社の調査の結果、レアメタルやレアアースを含む多様な鉱物を長期間、確保できる有望な鉱山となる可能性が明らかになったという。また、三井金属 <5706> [東証P]は今年4月に、電子材料などに向けたレアアースの総合メーカーである日本イットリウムを吸収合併している。

●新工場建設のアサカ理研が急騰

 株式市場においてレアアース関連とされる銘柄群には、廃棄された電子機器から貴金属やレアメタルを取り出す「都市鉱山」に絡んだ事業を展開する企業が多い。アサカ理研 <5724> [東証S]は5日、日米関税交渉を巡り、レアアースの供給網で連携を打ち出すと報じられた際に一時ストップ高に買われるなど、強い株価反応を示した。同社が回収する金属におけるレアメタルの占める規模はまだ業績に大きな影響を及ぼすレベルではなく、金や銅市況の上昇のほうが足もとの収益を押し上げる構図にある。しかしながら、EVのリチウムイオン電池からレアメタルを回収し、同電池の材料として再生させる事業の開始を5月30日に発表して間もないタイミングだったこともあり、有望視されることとなった。

 同社は26年10月に稼働開始予定のいわき工場で約95億円の設備投資を実施し、トヨタ自動車 <7203> [東証P]とパナソニック ホールディングス <6752> [東証P]の電池合弁会社を主要取引先として28年4月に電池材料の再生事業を始める。日本原子力研究開発機構とともに、光学ガラス廃材内のレアアースを低コストで効率よく高純度で回収することに成功した実績を持つ企業でもあり、レアメタルに加えてレアアースの回収にも一翼を担うこととなるとの思惑が広がりつつある。

 松田産業 <7456> [東証P]も品目別では金や白金族、銀が主体となっているが、太平洋セメント <5233> [東証P]と同社グループの敦賀セメントとともに20年8月、リチウムイオン電池のリサイクル事業を開始したと発表。ニッケルやコバルトといったレアメタル濃縮物の高効率回収を実現した。レアアースに関する新たな事業展開に期待が膨らむ松田産業の株価は直近では上値を重くしているが、これまで200日移動平均線に差し掛かった局面では押し目買いに支えられている。

 エンビプロ・ホールディングス <5698> [東証P]は昨年6月、レアアース磁石のリサイクルに関するMOU(基本合意書)を英社と締結したと発表。英社が保有する水素脆化廃磁石リサイクル技術は環境負荷が極めて低く、効率性が高いのが特長で、日本政府により特定重要物資に指定されている永久磁石の有効活用を促す構え。25年6月期は経常減益予想だが、1~3月期の経常利益は9割増。株価は500円を下回る水準でPBRは1倍割れの状況だ。

 都市鉱山関連株にはほかにも、フルヤ金属 <7826> [東証P]やAREホールディングス <5857> [東証P]、リネットジャパングループ <3556> [東証G]、イボキン <5699> [東証S]、TREホールディングス <9247> [東証P]などがある。もっとも、有望な資源供給元となるEVに関しては国内外で販売が頭打ちとなるリスクがあり、流通台数自体もそれほど増加しているわけではない。レアアースに絡んだ一部の都市鉱山関連株の反応については思惑先行の感もあるものの、「実際に設備投資に動く企業があるということは、利益成長のメドがあるということ」(業界関係者)との声もある。供給網の強靱化の流れが各社のエクイティ・ストーリーをどのように変えるのか、引き続き注目されることとなりそうだ。

●「南鳥島」関連も要マーク

 もうひとつ有望視されるのが、海洋資源関連である。日本政府は「海洋開発等重点戦略」のなかで、南鳥島沖のレアアース泥を活用し、国内での供給網構築につなげるべく、レアアースの国内生産体制を28年度以降に整える目標を示している。レアアース泥は水深6000メートルの海底に存在しているとされる。資源量を豊富に抱えると期待される南鳥島周辺での掘削活動に対し、政府によるコミットメントの度合いは、従来に増して高いものとなると見込まれる。

 三井海洋開発 <6269> [東証P]は浮体式海洋石油生産貯蔵積出設備(FPSO)で受注を積み上げており、25年12月期は連続最高益更新を計画する。株価は新値街道を快走中だが、南鳥島沖でのレアアース採掘による中期的な収益貢献に期待が膨らむ。環境・建設コンサルティングを展開するいであ <9768> [東証S]は国土強靱化関連とみなされて株価は年初来で15%上昇。海洋調査事業の拡大を中期的な重要戦略に掲げており、レアアースなどの開発計画に関する環境モニタリングの需要を捕捉する姿勢を示している。

 海底ボーリングマシンをはじめ海底資源探査機材を製品群に持つ日油 <4403> [東証P]や、深海用環境モニタリング探査機や海底調査に用いる耐圧ガラス球を製品群として持つ岡本硝子 <7746> [東証S]、海底で採掘した鉱石からレアメタルを製錬するための技術開発に参画するマイクロ波化学 <9227> [東証G]も、国策による新たな需要を事業拡大につなげられるか注目される。大平洋金属 <5541> [東証P]の26年3月期は4期連続の赤字予想だが、今年2月に海底から採取した多金属ノジュールから世界で初めて商業規模の高品質のニッケル、銅、コバルト合金と珪酸マンガンを製造する試験に成功したと発表した。アクティビストとして知られ、村上世彰氏の長女である野村絢氏は同社株を昨年11月時点で約8.8%保有している。

 このほか化学メーカーの日本化学産業 <4094> [東証S]は、EVの使用済み二次電池からニッケルやコバルト、リチウムなどを分離・精製するための実証用パイロットプラントを来年4月に稼働させる予定だ。レアアースの輸入を手掛けるアルコニックス <3036> [東証P]も関連銘柄と位置付けられている。

株探ニュース

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