米ドル信認低下で世界は急変、日米金利上昇局面で選好すべき銘柄群 <株探トップ特集>
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―トランプ政権発足で揺らぐドル1強体制、日本の超長期金利上昇一服もなお緊張感― 債券市場に不穏な空気が漂い始めている。トランプ関税による世界景気の減速シナリオが横たわるなかで、質への逃避(flight to quality)的な買いが米国債に膨らむことはなく、むしろ米国債に対する信認低下を背景に米国金利は高止まりした状況が続いている。日本国内においても金利の先高観が台頭しつつある。このような投資環境において、この先に選好すべき銘柄群を改めて整理したい。 ●米国債格下げの余波 1971年のニクソン・ショック以降に築かれた「ドル基軸体制」。米国はその代償として、貿易赤字と安全保障という2つの負担を強いられることになり、これに耐えられなくなってきているようだ。米国の負担を他国にも分散するのが関税引き上げの狙いと読み解ける。しかし、これによって米ドルや米国債への信認に疑念が生じるようになった。 今年5月16日、主要格付け会社のムーディーズ・レーティングスが、米政府の財政赤字などを根拠にして、米国債の格付けを最上位のAAAに相当するAaaから1ノッチ(段階)引き下げた。同社は2023年11月から米国債の見通しをネガティブ(弱含み)としていた。他の主要格付け会社であるS&Pグローバル・レーティングは11年8月に、フィッチ・レーティングスは23年8月に、同様の格下げを行っていた。ムーディーズの格下げに著しい違和感はない。 もっとも、S&Pグローバルとフィッチが格下げを行ったのはともに8月で、米政府の債務上限引き上げを巡り、米議会で与野党の対立が激しくなりやすい時期であった。これを踏まえると、ムーディーズの格下げは、3カ月ほど早いタイミングとなる。ベッセント米財務長官は5月の段階で、米政府の債務不履行を回避する特別措置が8月に期限切れになるとの見解を示しており、これが格下げのタイミングに影響した可能性も否定できない。 ムーディーズの格下げを受けて米長期金利には一時的に上昇圧力が掛かったが、すぐに落ち着きを取り戻した。大手格付け会社のなかで、AAAからの格下げを行ったのはムーディーズが最後であったため、冷静に受け止める向きが多かったようだ。とはいえ、トランプ減税法案の審議が続くなかで米国の財政不安が解消されたわけではなく、米長期金利の動向に関しても、予断を許さない状況が続いている。 ●信認低下の米ドルと、正常化へ向かう日本の金融政策 米金利の上昇は日米金利差を拡大させる要因であるため、為替市場においてドル高材料となるはずだ。だが4月に金融市場では、米金利上昇(米国債の価格下落)と株安、ドル安が同時に進む「トリプル安」に見舞われる局面があった。米国債と同様に、ドルに対する信認も低下し、米金利上昇とドル安が同時に起こることとなった。 為替の方向性を見極めるうえで、日本の金利上昇による円高要因も考慮する必要性が高まっている。かつてドル円はほぼ米金利に連動していたが、日本の10年国債利回り(長期金利)が1%を超えるようになってきたことから、日本の金利も注目を浴びるようになり、特に今年は日本の金利が上がれば円高傾向を示すようになってきた。 国内金利上昇の一因として挙げられるのが、まずは物価である。全国の先行指標となる東京都区部の消費者物価指数の5月分(中旬速報値、同月30日発表)は、値動きの激しい生鮮食品を除く総合指数(コアCPI)が、前年同月比3.6%上昇と3カ月連続で前の月の伸びを上回った。物価の上昇は日銀の利上げ観測を強める要因となる。 日銀の金融政策に関して言えば、26年4月以降の国債の買い入れ減額方針について検討が進むなかで、20年債や30年債をはじめとする超長期債は買い手不在の状況となり、需給懸念から金利に強い上昇圧力が掛かることとなった。トランプ米政権による関税政策の負の影響を抑えようと、政権与党が財政拡張的な姿勢を強めるとの思惑もくすぶっている。超長期金利の上昇は足もとでは一服しているものの、円債市場では火種が残ったままの状況と言えるだろう。 ●円高と金利上昇で歪む東京株式市場 確かにドルが基軸通貨でなくなる可能性は以前より高まっており、欧州や中国が基軸通貨の利権を狙って動きを見せてきた。相変わらず通貨交換の際には、取引量が圧倒的に多いドルを間に入れる取引が必要であるため、米政府が突然、基軸通貨利権を手放すような事態にならない限り、利権の移転があるとしても相当に時間を要するだろう。とはいえ米金利は8月の債務上限引き上げ問題がピークを迎えるまで上昇を続ける可能性が高い。 日銀は6月16~17日に開く金融政策決定会合において、来年度以降も国債買い入れ額の減少を継続する方針を固めるとみられているほか、年内にも追加利上げを実施するとの見方は根強い。それまでは折に触れて金利上昇はクローズアップされると考える。こうした日米の金利上昇は日米株にとって悪材料である。企業の資金調達コストを増加させるほか、配当割引モデルにおいて株価の理論価格は将来の配当を現在価値で割り引いた合計であり、その割引率は市中金利に連動しているからである。 円高も輸出依存型の経済構造を持つ日本の株式市場にはネガティブな材料と言える。そのため日経平均株価の戻りは限定的であるが、一方で東証株価指数(TOPIX)は年初来高値に迫りつつある。値がさハイテク株の影響が大きい日経平均は円高に足を引っ張られやすい半面、時価総額の大きい金融セクターの影響を受けるTOPIXは金利上昇を追い風にしやすい。銀行は保有国債の含み損の懸念もあるが、それは中小行の話である。メガバンクは金利上昇を懸念して国債の保有を減少させており、金利上昇はダイレクトに利益拡大につながりそうだ。そのため円高・金利上昇という局面で物色対象は三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> [東証P]や三井住友フィナンシャルグループ <8316> [東証P]、みずほフィナンシャルグループ <8411> [東証P]といった メガバンクということになる。 ●メガバンクだけではない物色候補 しかし、かような投資環境において物色対象はメガバンクだけではない。例えば独立系の信用保証最大手である全国保証 <7164> [東証P]は、住宅ローン向けが柱である。金利上昇に伴い、変動金利型住宅ローンの借り換え相談増加が予見される。26年3月期の経常利益は前期に続き過去最高益を更新し、実質増配を計画。株価は3000円大台替え後、4月に急落するも再び上昇トレンドに戻っている。 円高局面では紙パルプ、化学など、原材料を海外から輸入する素材関連のほか、為替の影響を受けにくい小売りやサービスなどの内需関連銘柄などに投資家の関心が向かうこととなる。このなかでも、王子ホールディングス <3861> [東証P]系で、国内外で紙・板紙・パルプなどの卸売業を手掛けるKPPグループホールディングス <9274> [東証P]に注目したい。26年3月期は最終利益が前期比微増の80億円、年間配当予想は同2円増配の36円を計画。PBR(株価純資産倍率)は1倍を大きく下回るが、配当利回りは5%を超える。足もとの株価は年初来高値圏で推移している。 化学では積水化学工業 <4204> [東証P]グループで道路資材首位の積水樹脂 <4212> [東証P]が投資妙味を感じさせる。26年3月期の経常利益は前期比23.0%増の67億円と回復の見通し。年間配当は同2円増の72円に増配する計画だ。27年3月期を最終年度とする中期経営計画ではPBR1倍の早期実現に向け、剰余金の配当と自己株式の取得を合わせた総還元性向については100%以上の維持を目指す方針を示している。昨年4月から低下傾向を続けてきた株価は、ようやく底入れの兆しを見せている。 ●好業績銘柄集まるDX関連も見逃せず 為替の変動の影響を受けにくく、好況が期待できる分野として DXに関連したサービス業種がある。日本製鉄 <5401> [東証P]系のシステム構築会社である日鉄ソリューションズ <2327> [東証P]は、人手不足による生産性向上のための設備投資需要の恩恵を受ける銘柄だ。25年3月期の期末受注残高は前の期比11%増と業況は堅調。26年3月期の最終利益は前期比7.9%増の292億円と、5期連続で過去最高益更新を予想する。親子上場関連というテーマを併せ持つ同社に対しては、シンガポールに拠点を置く3Dインベストメント・パートナーズが2月の時点で9.40%を保有。目的として「純投資及び状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為を行うこと」と変更報告書に記載している。 生産性向上関連からDX支援と情報システムに注力する都築電気 <8157> [東証P]も見逃せない。25年3月期の経常利益は減益予想から一転して増益で着地。26年3月期の経常利益は前期比2.3%増の67億5000万円と4期連続で過去最高益を更新する見通しとなった。「ウィンドウズ10」のサポート終了に伴う特需も業績の追い風となると期待される同社の株価は決算発表後に乱高下したものの、その後は順調な回復トレンドに戻っている。 外部環境の影響を受けにくい小売小型株では、スマートフォンなどモバイル機器関連アクセサリーを企画販売するHamee <3134> [東証S]をマークしたい。目先はスマホケースにおける「ポケモン」効果を取り込んでいるほか、生成AIの実践オンライン講座も提供。25年4月期第3四半期累計(24年5月~25年1月)の経常利益は前年同期比40.8%増の20億2800万円に拡大し、通期計画に対する進捗率は約99%に上った。6月13日の決算発表を前に株価は年初来高値の更新が続く。 このほか、証券会社や保険会社に向けたクラウド基幹システムを提供するFinatextホールディングス <4419> [東証G]の26年3月期は最終利益が8割増で連続最高益更新を計画。独立系のシステム受託開発会社で金融機関向けに強みを持つSRAホールディングス <3817> [東証P]は、金利上昇が追い風となる都市銀行などからのシステム開発需要の拡大に期待が膨らむ。幅広い業種で人的資本経営を強化する潮流が加速するなかで、「タレントパレット」を中心に人事関連のソリューションを展開するプラスアルファ・コンサルティング <4071> [東証P]は25年9月期最終利益が26%増と最高益の更新を継続する見通しで、株価も戻り歩調を鮮明にしている。 高金利局面に強い金融や内需系、配当や資本効率改善に前向きな銘柄が再評価される展開は、年後半の相場の一つの基調になる可能性が高い。地政学リスクや政策不確実性が重なるなかにあって、個別企業の収益力と財務戦略に注目する姿勢は、ボラティリティ(予想変動率)が高まるたびに注目されるであろう。 株探ニュース