インフラ整備や防災強化など百花繚乱、「地方創生」関連株を総点検 <株探トップ特集>

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コラム

―看板政策は実行フェーズへ、政策トピックごとに恩恵享受の銘柄をピックアップ―

 現内閣の看板政策である「地方創生」について、本格的な投資が進みつつある。2025年度当初予算において地方創生交付金は約2000億円と前年度当初比で倍増され、新しい地方経済・生活環境創生交付金(第2世代交付金)と名称を変えた。政策に関してはソフト、拠点整備、インフラ整備などを主眼に、デジタル実装型、地域防災緊急整備型、地域産業構造転換インフラ整備推進型などのさまざまなタイプが示されている。今回の株探トップ特集では、政策トピックごとに恩恵を享受できそうな銘柄をピックアップしていく。

●「生活環境の創生」など5つの柱

 内閣官房の新しい地方経済・生活環境創生会議において検討されている「地方創生2.0基本構想(案)」では、目指す姿として、「強い」経済、「豊かな」生活環境、「新しい日本・楽しい日本」が掲げられている。政策の柱としては、「生活環境の創生」「付加価値創出型の新しい地方経済の創生」「人や企業の地方分散」「新時代のインフラ整備とAI・デジタルなどの新技術の徹底活用」「広域リージョン連携」の5つが挙げられている。

 所管省庁は、国土交通省、農林水産省、環境省、経済産業省など多方面に及ぶ。政策内容の具体的な肉付けはこれからだろうが、複数の政策で インフラ整備が挙げられていることは注目に値する。

 第1の柱である「生活環境の創生」では、地域コミュニティーや日常生活に不可欠なサービスを維持するための拠点づくりとして、「地域協同プラットフォーム」の構築が掲げられている。スーパーマーケット、 ドラッグストア、コンビニエンスストアなど既存の民間施設を活用し、行政機能など複数のサービスを提供する拠点を整備するという計画だ。生活環境という観点では地方スーパーは衣食住の分野を網羅しているため、有力な拠点候補となるだろう。

 アークス <9948> [東証P]は、北海道地盤だが、青森と岩手でも地域でトップシェアのスーパーだ。アクシアル リテイリング <8255> [東証P]は、新潟や群馬などに店舗を展開。アルビス <7475> [東証P]は富山が地盤だが、三菱商事 <8058> [東証P]と資本・業務提携し、北陸3県から中京圏にも進出している。リテールパートナーズ <8167> [東証P]は、山口、大分、福岡などが営業圏。サンエー <2659> [東証P]は沖縄トップの流通企業で、外食にも事業展開している。いずれも地域で大きなシェアを持ち、サービス拠点となる資格を有している。

 セブン&アイ・ホールディングス <3382> [東証P]から米ベインキャピタル傘下に移ることとなったヨーク・ホールディングスはイトーヨーカ堂などを束ねている。イトーヨーカ堂が株式を保有している地方スーパーに関しては今後、資本構成が変わる可能性も意識されているようだ。北海道地盤のダイイチ <7643> [東証S]や岡山地盤の天満屋ストア <9846> [東証S]が該当する。

 「生活環境の創生」に関連する政策の中には、災害から地方を守るための防災力の強化も具体的な項目として挙げられている。地震や風水災が地域生活に与える影響が激甚化しており、防災・減災対策と老朽化したインフラの維持・更新は不可欠であろう。インフラ補修工事と防災工事、コンサルティングの専門会社として、ショーボンドホールディングス <1414> [東証P]や、ライト工業 <1926> [東証P]、日特建設 <1929> [東証P]、応用地質 <9755> [東証P]を挙げておく。

●「地方イノベーション創生構想」のカギを握る地銀

 次の柱である「付加価値創出型の新しい地方経済の創生」では、地域の特徴に応じた経済活性化策として「地方イノベーション創生構想」が掲げられている。具体的には、輸出・海外展開の支援を通じて中堅・中小企業の付加価値を高め、スタートアップを創出するというものだ。

 その意味では、多くの地方銀行が参入している地域商社の可能性に注目したい。銀行の兼業は長らく制限されていたが、数度にわたる銀行法改正によって地域商社や投資会社の設立が可能になった。現時点では、連結収益・利益に占める兼業部門の比率は微々たるものだが、金利のある世界になって銀行の収益力が向上している環境下で、プラスアルファの材料として考慮する余地はあるだろう。

 地域商社の最も多い事例は、ECモールを構築し、域外の顧客を開拓することだが、輸出・海外展開の事例もいくつか出ている。銀行にとっては、海外現地法人・駐在員事務所とのネットワーク、貿易金融のノウハウなどが活用でき、場合によっては融資や出資も可能であるため、本業とのシナジーが見込めることもポイントだ。

 先進的な地域商社の例としては、ほくほくフィナンシャルグループ <8377> [東証P]傘下の北海道銀行が主体となって設立した北海道総合商事がある。隣接するロシアとの貿易は凍結状態となったが、欧州やアジアへの販路創出で実績を上げつつある。また、大分銀行 <8392> [東証P]が設立を支援したOita Madeは、ショップやECサイトの運営とともに、県産品の輸出や観光客誘致も手掛けている。

 プロクレアホールディングス <7384> [東証P]傘下の青森みちのく銀行がIT分野に強みを持つオプティム <3694> [東証P]とともに設立したオプティムアグリ・みちのくは、AIやIoT、 ドローンなどの技術を活用したスマート農業を支援している。九州フィナンシャルグループ <7180> [東証P]傘下の鹿児島銀行が主体となって設立した春一番は、農業ICTを活用し、実際に農産物の生産・卸売りを手掛けている。ふくおかフィナンシャルグループ <8354> [東証P]傘下の十八親和銀行は地域総合商社に加え、スマートシティや小売売電、IT人材育成にも展開している。

 小粒ながら、地域のポテンシャルを生かした「新結合」で付加価値を生み出しつつある企業もある。バルニバービ <3418> [東証G]は、「食で人の流れを変え地域を活性化する企業」を理念に掲げ、レストラン運営と不動産ビルドアップを両輪として事業展開している。レストランでは、バッドロケーションでの店舗展開、行政・公共機関や大学などと連携した特徴のある店舗展開を進めている。淡路島や出雲市では、レストランを核に宿泊施設や不動産開発を進めており、今後10年で7カ所以上のエリア開発を計画している。

 雨風太陽 <5616> [東証G]は、「都市と地方をかきまぜる」をミッションに、非営利組織から営利企業へ転換した背景を持つ。同社の代表取締役社長は、新しい地方経済・生活環境創生会議の有識者メンバーに選ばれている。利益創出の源泉として、食品販売、旅行予約、地方婚活支援などの個人向けプラットフォーム運営、自治体向けサービスを展開している。スマートフォンで完結する産直プラットフォーム「ポケットマルシェ」の成長と自治体向けサービスの積み上げによって、25年12月期には黒字転換を見込んでいる。

●ワット・ビット連携で注目を集める電気工事会社

 「新時代のインフラ整備とAI・デジタルなどの新技術の徹底活用」と銘打つ政策の柱では、「ワット・ビット連携」とAI・デジタル活用が注目される。ワット・ビット連携とは、電力と通信の効果的な連携を指し、脱炭素電力が豊富な地域特性などを考慮し、データセンターやGX・DXなどの産業立地を推進する構想だ。そのようなインフラを整備するには、電気工事会社と通信工事会社が担い手となる。

 電気工事会社は、電力会社系が有力であり、通信工事も兼営している場合が多く、ワット・ビット連携の恩恵を最も受けるだろう。北海道電力 <9509> [東証P]子会社の北海電工 <1832> [札証]、東北電力 <9506> [東証P]グループのユアテック <1934> [東証P]、北陸電力 <9505> [東証P]子会社の北陸電気工事 <1930> [東証P]、中国電力 <9504> [東証P]関連会社の中電工 <1941> [東証P]、四国電力 <9507> [東証P]関連会社の四電工 <1939> [東証P]、九州電力 <9508> [東証P]関連会社の九電工 <1959> [東証P]などが該当する。中でも九電工は、太陽光発電が盛んであることに加え、半導体産業の立地が進んでいることから、工事獲得のポテンシャルは大きいと考えられる。

 通信工事会社では、コムシスホールディングス <1721> [東証P]、エクシオグループ <1951> [東証P]、ミライト・ワン <1417> [東証P]が代表格だ。地方自治体DX関連では、大手システムインテグレーターが受け皿となるが、地方自治体向けシステムに強みを持つ会社として、TKC <9746> [東証P]、アイネス <9742> [東証P]を挙げておく。

 デジタルライフラインの整備として挙げられているドローン航路の整備にも注目が集まる。全国の一級河川や送電網上空を航路に活用する計画で、高速道路上の自動運転サービスと比べて実現性は高いと見られる。ACSL <6232> [東証G]は、防衛や防災向けの小型空撮機が主力だが、日本郵政 <6178> [東証P]傘下の日本郵便と資本・業務提携を結び、物流分野での実証実験を加速している。ドローンを活用したソリューションを提供する関連企業としては、点検や教育に展開するブルーイノベーション <5597> [東証G]、測量や運航管理に展開するTerra Drone <278A> [東証G]、Liberaware <218A> [東証G]などがある。今後の規制緩和の動向を注視したい。

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