新設と更新需要で敷設ラッシュ再び、光海底ケーブル関連の出番到来 <株探トップ特集>

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コラム

―IT大手が投資活発化、クラウドサービスの拡大なども追い風―

 総務省は5月23日、「DX・イノベーション加速化プラン2030」を発表した。人口減少社会においてイノベーションを創出し、経済成長を実現するには、AIの活用をはじめとする社会DXの加速化が不可欠であると指摘。光電融合技術を活用したオール光ネットワークを中核とする新たなデジタルインフラの実現と、デジタルインフラの中核となる技術・システムの競争力を強化し海外展開を進めることが必要であるとし、これを受けて6月中に「デジタルインフラ整備計画2030」「デジタル海外展開総合戦略2030」が公表される予定だ。

 注目は、重点分野として データセンターや量子暗号通信、サイバーセキュリティー、非地上系ネットワーク(NTN)などとともに海底ケーブルが盛り込まれる点だ。シェア35%の数値目標も掲げられ、今後、 光海底ケーブルの新設が進むとみられる。また、ITバブル期に敷設したものの更新寿命も見込まれており、関連銘柄に注目したい。

●ケーブルの寿命は25年

 光海底ケーブルとは、海を隔てた場所間での通信を行うために海底に敷設または埋設された通信用の伝送路のこと。1990年代半ばまでは大陸間の国際通信路は衛星通信と光海底ケーブルが競い合い、通信量をほぼ半分ずつ分け合っていたが、衛星通信に比べて伝播時間が短い、拡張性が高いといった特徴から、90年代後半から2000年代初頭のITバブル期に、インターネットの急速な普及に伴い敷設ラッシュが到来。現在では日本における国際通信の約99%は光海底ケーブルが担っている。

 光海底ケーブルの寿命は一般的に25年といわれており、ITバブル期に敷設されたものは更新の必要性に迫られている。現在利用されている光海底ケーブルの約4割は、今後10年以内に技術的に陳腐化するかサービスの終了を迎える予定となっており、今後更新需要の増大が予想されている。

●国が敷設・保守能力強化を後押し

 一方、新たな光海底ケーブルの構築も進められている。世界的にクラウドサービスの需要増加や5G商用サービスの開始などにより通信需要が増加していることが背景にある。

 今年に入っても、メタ・プラットフォームズは2月、世界最長の光海底ケーブルプロジェクト「Project Waterworth」を発表した。米国、インド、ブラジル、南アフリカを含む5つの大陸を結び、総延長5万キロメートルを超える予定だ。また、ソフトバンク <9434> [東証P]は3月に日本、台湾、韓国及び米国を結ぶ光海底ケーブル「E2A」を建設すると発表した。

 現在、光海底ケーブルはフランスのアルカテル・サブマリン・ネットワークス、米サブコム、NEC <6701> [東証P]の3社が世界シェアの約9割を占めているといわれている。ただ、更新需要の増大や大規模な新設プロジェクトによるメリットを受けるのは大手ばかりではない。電線大手はもちろんのこと、関連部品を手掛けるメーカーも多い。総務省では、敷設船の購入やケーブルの生産能力の強化を支援して、自国での敷設・保守能力を高める方針であることから、こうした企業のビジネスチャンスも増えそうだ。

●光海底ケーブルの関連銘柄

 関連銘柄の代表格はやはりNECだ。ケーブル製造から資金調達スキームまで一括請負できる体制を提案することで差別化を図っており、光海底ケーブルで使用する中継装置や分岐装置だけではなく、地震・津波観測装置なども製造する。敷設に関しても英国企業と26年5月まで光海底ケーブル敷設船の長期チャーター契約を結び敷設や保守にあたっている。

 日本電信電話 <9432> [東証P]とKDDI <9433> [東証P]はともにグループ会社(エヌ・ティ・ティ・ワールドエンジニアリングマリン、KDDIケーブルシップ)がROV(遠隔操作型の無人潜水機)を搭載した光海底ケーブル敷設船を有しており、光海底ケーブルの敷設・保守を行っている。両社を含めた通信大手4社は、災害時の応急対策で連携する協定を結んでいるが、その一環として災害時には両社が保有する光海底ケーブル敷設船を船上基地局として共同運用する計画だ。

 古河電気工業 <5801> [東証P]、住友電気工業 <5802> [東証P]、フジクラ <5803> [東証P]など 電線大手も注目したい。古河電は、電力用海底ケーブルに強いが、通信用の光海底ケーブルも展開しており、22年にはKDDIやNECなどと共同でマルチコアファイバーによる光海底ケーブルの大容量化を実現する基盤技術を開発したことでも知られている。この開発には住友電も参加しているが、同社は低伝送損失を武器に海底ケーブル向け光ファイバーで高シェアを有している。

 湖北工業 <6524> [東証S]は、光増幅器などに用いられる光アイソレータや光フィルタなどの海底ケーブル用受動光デバイスで世界シェアはトップクラス。素子作りから精密組立まで一貫生産しているのが強みで、これらを含む光部品・デバイス事業の売上高は24年12月期で全体の5割弱を占めている。足もとでは海底ケーブル投資の活況を受けて、新規プロジェクト向けの引き合いも活発としており、業績牽引役として期待できる。

 アンリツ <6754> [東証P]は、光海底ケーブルの敷設・保守に関する測定ソリューションを展開している。足もとではグリーンデータセンターや生成AI専用のデータセンターの構築加速と並んで、光海底ケーブルの敷設増加による需要が増加しているとしており、通信計測事業の収益に貢献している。

 精工技研 <6834> [東証S]は光コネクタや光コネクタを製造する際に不可欠な光コネクタ研磨機、測定装置などを提供しており、これらを含む光製品部門の売上高は25年3月期で全体の5割強を占めている。足もとでは光コネクタが伸長。それに伴い製造機器や装置も伸びており、業績を牽引している。

 santec Holdings <6777> [東証S]は、光海底ケーブル向けに光通信用部品・光測定器などを手掛けている。足もとではデータセンターなどに向けて光測定器の販売が好調。これを受けて生産能力の増強などに取り組んでいる。

 このほか、マニラと香港・シンガポールを結ぶ国際光海底ケーブルの使用権の一部をオーストラリア最大手の通信事業者から取得し、フィリピンでキャリアズキャリア(他の電気通信事業者に回線を貸し出す事業者)事業を行うアイ・ピー・エス <4390> [東証P]なども関連銘柄として注目したい。

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