大規模再開発で飛躍へ、堅実な成長企業の宝庫「名古屋」関連株に照準 <株探トップ特集>
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―リニア工事進む名古屋駅で新プロジェクト始動、難局乗り越える有望株を追え― リニア中央新幹線の開業を見据え、JR東海 <9022> [東証P]が本社機能を構える名古屋駅周辺での再開発が加速している。東京や大阪、京都に比べると愛知県は魅力的な観光コンテンツが乏しく、更にモノづくり企業の集積地ゆえ、トランプ関税による経済へのダメージが懸念されてはいる。しかしながら質実剛健を美徳とする地域性ゆえ、ある程度の不況に十分耐えうる堅実な経営を行う企業が多いことでも知られている。不確実性が高まる昨今、難局を乗り越えて成長を続けるためのポテンシャルを持つ名古屋関連銘柄をピックアップしていく。 ●名鉄が大規模再開発計画発表 地図をみると東海道新幹線の名古屋駅は東西ではなく南北に走っている。新幹線と並行して東側の地下には名古屋鉄道 <9048> [東証P]の名鉄名古屋駅と、近鉄グループホールディングス <9041> [東証P]傘下の近畿日本鉄道の近鉄名古屋駅がある。名鉄は三河地方や中部国際空港のある知多半島エリアと岐阜市をつなぎ、近鉄名古屋線は三重県方面から名古屋市内への通勤・通学客を運ぶ。名駅通りに面した歩道に君臨する「ナナちゃん人形」は、JR名古屋駅の金時計とともに、今でも地元の待ち合わせスポットとなっている。 中部地方最大の私鉄である名鉄は今年3月、名古屋駅地区の大規模な再開発計画を発表した。5月26日には、計画の詳細を開示している。南北400メートルにわたって連なる6つのビル群を刷新し、オフィスや商業施設、ホテルが入居する2つのビルに建て直すという、大掛かりなプロジェクトであり、ビルの延床面積は約52万平方メートル(地上31階、地下2階)で、高さは約170メートルに上る。このほか、鉄道ファンに過密ダイヤで知られる名鉄名古屋駅を複々線化する方針も示した。2026年度から解体作業を始め、1期工事は33年度、2期工事は40年代前半に完成する予定という。 名駅再開発ビルの建設による中部5県(愛知・岐阜・三重・静岡・長野)への経済波及効果は、工事期間において合計で約1兆2000億円、関連消費を含めた波及効果に関しては年間2800億円(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの試算)と見込まれている。長らく地元での文化の情報発信機能を支えた名鉄百貨店本店と、近鉄百貨店 <8244> [東証S]の「近鉄パッセ」は閉店となるものの、地元の目線は未来に向かっている。 計画地区の北側では、リニア中央新幹線の名古屋駅の建設工事が進む。完成時期の最短目標は27年から後ずれする見通しとなったとはいえ、リニア開業後は東京・品川と名古屋が40分で結ばれることになる。首都圏からのアクセス性の向上と地元経済に及ぼすインパクトに期待が膨らむなかで、再開発が進むのは名古屋駅地区だけではない。同駅から地下鉄東山線で2駅東に移動した名古屋最大の繁華街・栄の中心部においては、超高層ビル「ザ・ランドマーク名古屋栄」が26年3月に完成、同年夏に開業予定だ。また、市内各地においては大型アリーナ施設の建設構想が相次いで立ち上がっている。 ●借金嫌い・アピール下手の土地柄 ところで中部経済を語るうえで欠かせないのが「名古屋金利」の存在である。借金を嫌う土地柄ゆえ、金融機関の企業向け貸出金利の平均が全国よりも低くなる現象を指す。実際に中部地方には財務体質が強固な企業が散見され、不況への耐性力を持つことで知られる。中部経済をけん引するトヨタ自動車 <7203> [東証P]が創業期を除いて赤字となったのは、リーマン・ショックのあった09年3月期のみである。 トヨタは三河地方の豊田市に本社を構えているものの、名古屋オフィスのある超高層ビルのミッドランドスクエアは名鉄名古屋駅の目と鼻の先だ。三河地方にはデンソー <6902> [東証P]やアイシン <7259> [東証P]といったトヨタ系サプライヤーが集まることで有名だが、尾張・名古屋よりも堅実を良しとする土地柄とされている。財務基盤が盤石な三河企業として、電動工具最大手のマキタ <6586> [東証P]を挙げる声は多い。 モノづくりの領域において中部地方は歴史的に窯業の要素技術を蓄積してきた地域でもある。森村グループと呼ばれる陶磁器祖業の企業群として、ノリタケ <5331> [東証P]や日本特殊陶業 <5334> [東証P]、日本ガイシ <5333> [東証P]は次世代電池向け材料で更なる成長を目指す名古屋の名門企業だ。ミシンから産業機器、業務用通信カラオケなどに事業を多角化したブラザー工業 <6448> [東証P]、ガス器具最大手で無借金経営のリンナイ <5947> [東証P]、世界最大級の特殊鋼専業メーカーで航空機関連など幅広い分野で材料を供給する大同特殊鋼 <5471> [東証P]、祖業は「きしめん」の製麺機で今では中高級領域の工作機械で競争力を発揮するオークマ <6103> [東証P]など、個性豊かなモノづくり企業が立地している。 非製造業でもユニークな企業を多く輩出しており、リユースのコメ兵ホールディングス <2780> [東証S]や、「セカンドストリート」のゲオホールディングス <2681> [東証P]、トマト加工品のカゴメ <2811> [東証P]は名古屋に本拠を構えている。これらのような知名度の高い企業以外にも優良企業はいくつもある。東京や大阪と比べて名古屋は「アピール下手」とされており、株式市場においても割安に放置された有望な名古屋銘柄が多いのが実情だ。 ●名駅再開発で矢作建と中部鋼鈑をマーク 名鉄の再開発計画に関連する銘柄としてまず候補に挙がるのが、矢作建設工業 <1870> [東証P]である。名鉄の持ち分法適用関連会社として鉄道工事を担ってきた実績から、受注面での中期的なプラス効果が期待できるだろう。建設業界全般に人手不足の問題が顕在化するなかにあって、26年3月期の売上高と最終利益はともに2ケタ増で過去最高更新を計画。倉庫など物流関連施設向けが堅調に推移しており、株価は1990年以来の高値圏浮上が視界に入っている。配当利回りはそれでも5%を超える水準だ。 中部鋼鈑 <5461> [東証P]は電炉 中堅の厚板専業メーカー。鉄スクラップの一大供給地である名古屋圏において、名古屋駅周辺など再開発を機に建造物の解体工事が進めば、スクラップの供給量が一段と増加する。電炉メーカーにとって原材料となるスクラップ相場に下落圧力が掛かることとなれば、販売価格とのスプレッドが拡大し、利益を押し上げる要因となっていく。同社は製鋼工場での水蒸気爆発事故が発生した前期に大幅な減収減益を余儀なくされたが、今年3月末に工場の操業再開にこぎつけた。名古屋駅周辺の再開発自体、同社にとって構造物の梁や柱、建機向けの厚板需要の拡大といった恩恵を受けることになる。PBR(株価純資産倍率)は0.7倍台。配当利回りは5%近辺にある。 ●好業績・高配当利回りの名古屋関連銘柄も 建設業界の施工管理者派遣で急成長しているコプロ・ホールディングス <7059> [東証P]の本社は名古屋駅前の大名古屋ビルヂングにある。26年3月期はトップラインが前期と比べ2割を超える伸びで、3期連続の過去最高益更新を計画。全国に営業網を構築している同社は、国土強靱化に向けたインフラ刷新工事とともに、リニア関連工事の推進による人材需要の拡大を長期にわたり満喫しそうだ。5月15日に中期経営計画の最終年度である27年3月期の業績目標を上方修正し、株価は上場来高値圏に一気に浮上したものの、配当利回りは4%近辺となお高水準だ。 サンゲツ <8130> [東証P]はインテリア商社最大手として壁紙や床材などを供給。名古屋城近くに本社を置く。仕入先の工場火災により一部商品の受注を停止した前期は減益となったが、関連する商品については今期中に段階的に販売再開を予定している。昨年12月の値上げ効果が今期はフルに寄与する見通しで、北米向けの受注確保の影響も見込み利益回復を計画。株価は昨年2月の上場来高値3655円で頭打ちとなったものの、配当利回りは5%台に上り、直近では下値の堅い展開が続いている。 日本空調サービス <4658> [東証P]は東名高速道路の名古屋インター近く、ジブリパーク周辺エリアに本社がある。工場やオフィスビルのメンテナンスや設備工事を手掛け、日本全国にサービス網を拡充。中国や東南アジアでも事業を展開する。医療機関やクリーンルームなどシビアな空気環境が要求される設備で競争力を持つ同社に対しては、データセンターの整備拡大の恩恵を受ける銘柄としても注目が集まっている。26年3月期は前期に続き最高益更新を計画。配当利回りは4%台だ。株価は全体相場が急落した4月7日以降、一本調子の戻り局面に入り、年初来高値に接近しつつある。 このほか名古屋市内に本社を置く銘柄のうち、水道・ガスメーター大手の愛知時計電機 <7723> [東証P]とインターホン大手のアイホン <6718> [東証P]はPBRが1倍を下回り、配当利回りは愛時計が4%台でアイホンが5%近辺。ともに今期は増益予想となっている。名証単独上場の岡谷鋼機 <7485> [名証P]は1669年創業の鉄鋼・機械商社。中部経済の発展を支え続けてきた企業でもあり、事業の拡大とともに株式の流動性向上にも期待したい。大手喫茶店チェーンのコメダホールディングス <3543> [東証P]や、首都圏の店舗でも「味噌煮込みうどん」を提供するサガミホールディングス <9900> [東証P]、「ひつまぶし」を提供する「うな匠」や大衆酒場「昔の矢場とん」といったブランドで店舗展開をするジェイグループホールディングス <3063> [東証G]は、「名古屋めし」関連銘柄としても注目されている。 株探ニュース